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15話
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はるかかつて、黎明の時。
未だ陰陽師と人々の生活が密接に結びついていた頃、平安時代初期の話。
当時の陰陽世界には規格外とでもいうべき一人の陰陽師が存在していた。
その人物は世にもまれな美人であり、空玉子色に好天気のずいはあらはれた唯の一目見るだけでめでだい吉報をもたらすしるしとされていたような人物であった。
そんな幾つもの伝説を女子であるが、その一番は何よりもその実力であろう。他の追随を許さぬ絶対の力をその子は有していたのだ。
そんな存在が生まれ、陰陽世界へと産声を上げるのと連動するかのようにマガノのおいても一つの特異点が生まれていた。
大獄丸。
マガノの一角に突如として姿を現した一柱の鬼であり、それが齎した災厄はあまりにも大きかった。
鬼を率いて進む大獄丸は山を打ち破って突き進み、街を飲み込み、陰陽師の全てを喰らって日本を蝕んでいた。
その力も、その勢いも、過去類はないものであった。
同時代に現れた二つの特異点。
最強の陰陽師たる女子と最強のマガツキたる大獄丸。
それらがぶつかるのは自然とも言えるあろう。
最強と最強。
そのぶつかりは三日三晩続いたとされている。
天は裂け、山は降り、海は荒れた。
暗き世界における果て無き激闘、その果てに女子は己では倒し切ることの出来なかった大獄丸を、暫定的な処置として封印という手段を取った。
己の身を人柱として発動させた封印術はあの強力かつ無慈悲な暴君を完全に過去のものとし、完璧に封じ込めてみせた。
大獄丸という統領を失って統制を失った鬼の性質を持ったマガツキたちの多くを陰陽師は討つことにも成功している。
非常に厳しい戦いであった。
だが、その最終的な勝者は人類側でいると言えたのだから。
多くの街に被害が溢れ、政府も混乱状態に陥ったが、それでも当時マガツキの中で最も強い勢力であった鬼どもをほぼ壊滅させたのだ。
その意味は大きく、世界の壁を曖昧にするという魔がマガツキ全体の大望は大いに後進したと言って良い。
既に鬼は一歩引いたのだ。
そして、それよりは鬼の脅威は収まると共に狐と狸の性質を持ったマガツキたちの最盛期が訪れるようになった。
長くの間、鬼は眠ることとなるのだ。
そんな時代の中で、留意しなければならないのはその封印は永遠ではないことだ。
さて、それでは語らねばならないのは女子が発動させた封印術についてであろう。
その封印術は己の精神力を柱としており、その精神が摩耗していく可能性は十二分にあり得る。
万人の味方として常に立っていたその高潔な精神も汚染され、そのまま崩壊していく可能性も大いにあるであろう。
再度告げ、幾度も後世へと私は念押そう。
留意しなければならないのはその封印は永遠ではない。
留意せよ、大獄丸は終わらぬ。
その───。
◆◆◆◆
「あれ? 最後のところ読めない……」
その───、一番大事そうな最後の最後のところは掠れて文字が見えないようにされてしまっており、先を読むことが出来なくなっていた。
「い、いや……そんなことより最後のところの内容怖すぎない? 全力で脅しに来ているじゃん」
最後のところが読めないことに不満を覚えていた僕の隣で瑞稀が震えたその体で
確かに、既に殺されているとされている大獄丸が実は封印されただけであり、その封印が解けるようなことを示唆するような内容が書かれていればゾッとせざるを得ないだろう。
だが、それでもこの本が話していることが全て真実である確証があるわけでは決していない。
「とはいってもこの本は幾つもある文献の一つ。しかも、多くの文献で既に過去のこととして語られている一件を現在のものであると書いている変わりもので、これうを真実と、するのはぁ……」
でも、なぜだろうか?
この本に書かれている内容が全て真実であるという風に確信してしまっている自分がどこかに存在していた。いや、それどころか───。
「……ッ!?」
僕が内心で、少しだけ自分を失ってしまうかのような、そんな奇妙な感覚を覚えながら考え事をしていたところ、急に二人の目の前に何か、強力な力を感じる。
「な、何ッ!?」
隣にいる瑞稀が混乱している中で、僕はその感じる気配が何であるかを敏感に感じ取ることが出来ていた。
ここ最近、いつも感じるようなものであったではないか。
「マガツキッ!? ここは現世だぞっ!?」
マガノに閉じ込められ、決して外の世界へと出てくることが出来ないはずのマガノ。
その一つが急に現世の方へと出現し、僕たちの前へと立ったことに僕は驚愕の声を漏らす。なんで、なんでこんなところにマガツキがいるのだ。
マガツキの生息域はマガノだけであり、ここから出てくることは出来ないはず……出来ないはずじゃなかったのか!?
「危ないっ!?」
混乱しながらも汐梨さんとの長き戦いの中で訓練された僕の身体は迅速に動き、瑞稀を狙って伸ばされたマガノの攻撃を僕は自分の腕を伸ばすことで跳ねのける。
「お、お兄ちゃん?」
そこからの僕の行動は早かった。
自分とは違って未だに戦うことの出来ない瑞稀を後ろへと突き飛ばして目の前にいるマガツキから強引に距離を取らせ、そのマガツキの前に僕が立つ。
『げふっ……にん、げぇん』
僕が基本的に倒せるマガツキの等級である上級。
そこから頭一つ抜け、殻を被った超級クラスの強さを感じるマガツキ。
かつては人の身でありながらも、外法などによってマガツキへと堕ちた存在たる人鬼と呼ばれる怪物。
目の前にいる人鬼から感じられる知性は希薄であり、確固たる人としての知性を有してこその人鬼とされる中で、目の前にいるこいつはそこまでの強者というわけではなさそうだが……それでも僕が楽に勝てる相手ではないだろう。
「陰陽上級、隔離結界」
僕はこの場にある重要な文献たちが傷つけられないようにするため、現世との壁を形成するための結界を張り巡らせながら目の前にいる人鬼とどう戦うか、頭を悩ませるのであった。
未だ陰陽師と人々の生活が密接に結びついていた頃、平安時代初期の話。
当時の陰陽世界には規格外とでもいうべき一人の陰陽師が存在していた。
その人物は世にもまれな美人であり、空玉子色に好天気のずいはあらはれた唯の一目見るだけでめでだい吉報をもたらすしるしとされていたような人物であった。
そんな幾つもの伝説を女子であるが、その一番は何よりもその実力であろう。他の追随を許さぬ絶対の力をその子は有していたのだ。
そんな存在が生まれ、陰陽世界へと産声を上げるのと連動するかのようにマガノのおいても一つの特異点が生まれていた。
大獄丸。
マガノの一角に突如として姿を現した一柱の鬼であり、それが齎した災厄はあまりにも大きかった。
鬼を率いて進む大獄丸は山を打ち破って突き進み、街を飲み込み、陰陽師の全てを喰らって日本を蝕んでいた。
その力も、その勢いも、過去類はないものであった。
同時代に現れた二つの特異点。
最強の陰陽師たる女子と最強のマガツキたる大獄丸。
それらがぶつかるのは自然とも言えるあろう。
最強と最強。
そのぶつかりは三日三晩続いたとされている。
天は裂け、山は降り、海は荒れた。
暗き世界における果て無き激闘、その果てに女子は己では倒し切ることの出来なかった大獄丸を、暫定的な処置として封印という手段を取った。
己の身を人柱として発動させた封印術はあの強力かつ無慈悲な暴君を完全に過去のものとし、完璧に封じ込めてみせた。
大獄丸という統領を失って統制を失った鬼の性質を持ったマガツキたちの多くを陰陽師は討つことにも成功している。
非常に厳しい戦いであった。
だが、その最終的な勝者は人類側でいると言えたのだから。
多くの街に被害が溢れ、政府も混乱状態に陥ったが、それでも当時マガツキの中で最も強い勢力であった鬼どもをほぼ壊滅させたのだ。
その意味は大きく、世界の壁を曖昧にするという魔がマガツキ全体の大望は大いに後進したと言って良い。
既に鬼は一歩引いたのだ。
そして、それよりは鬼の脅威は収まると共に狐と狸の性質を持ったマガツキたちの最盛期が訪れるようになった。
長くの間、鬼は眠ることとなるのだ。
そんな時代の中で、留意しなければならないのはその封印は永遠ではないことだ。
さて、それでは語らねばならないのは女子が発動させた封印術についてであろう。
その封印術は己の精神力を柱としており、その精神が摩耗していく可能性は十二分にあり得る。
万人の味方として常に立っていたその高潔な精神も汚染され、そのまま崩壊していく可能性も大いにあるであろう。
再度告げ、幾度も後世へと私は念押そう。
留意しなければならないのはその封印は永遠ではない。
留意せよ、大獄丸は終わらぬ。
その───。
◆◆◆◆
「あれ? 最後のところ読めない……」
その───、一番大事そうな最後の最後のところは掠れて文字が見えないようにされてしまっており、先を読むことが出来なくなっていた。
「い、いや……そんなことより最後のところの内容怖すぎない? 全力で脅しに来ているじゃん」
最後のところが読めないことに不満を覚えていた僕の隣で瑞稀が震えたその体で
確かに、既に殺されているとされている大獄丸が実は封印されただけであり、その封印が解けるようなことを示唆するような内容が書かれていればゾッとせざるを得ないだろう。
だが、それでもこの本が話していることが全て真実である確証があるわけでは決していない。
「とはいってもこの本は幾つもある文献の一つ。しかも、多くの文献で既に過去のこととして語られている一件を現在のものであると書いている変わりもので、これうを真実と、するのはぁ……」
でも、なぜだろうか?
この本に書かれている内容が全て真実であるという風に確信してしまっている自分がどこかに存在していた。いや、それどころか───。
「……ッ!?」
僕が内心で、少しだけ自分を失ってしまうかのような、そんな奇妙な感覚を覚えながら考え事をしていたところ、急に二人の目の前に何か、強力な力を感じる。
「な、何ッ!?」
隣にいる瑞稀が混乱している中で、僕はその感じる気配が何であるかを敏感に感じ取ることが出来ていた。
ここ最近、いつも感じるようなものであったではないか。
「マガツキッ!? ここは現世だぞっ!?」
マガノに閉じ込められ、決して外の世界へと出てくることが出来ないはずのマガノ。
その一つが急に現世の方へと出現し、僕たちの前へと立ったことに僕は驚愕の声を漏らす。なんで、なんでこんなところにマガツキがいるのだ。
マガツキの生息域はマガノだけであり、ここから出てくることは出来ないはず……出来ないはずじゃなかったのか!?
「危ないっ!?」
混乱しながらも汐梨さんとの長き戦いの中で訓練された僕の身体は迅速に動き、瑞稀を狙って伸ばされたマガノの攻撃を僕は自分の腕を伸ばすことで跳ねのける。
「お、お兄ちゃん?」
そこからの僕の行動は早かった。
自分とは違って未だに戦うことの出来ない瑞稀を後ろへと突き飛ばして目の前にいるマガツキから強引に距離を取らせ、そのマガツキの前に僕が立つ。
『げふっ……にん、げぇん』
僕が基本的に倒せるマガツキの等級である上級。
そこから頭一つ抜け、殻を被った超級クラスの強さを感じるマガツキ。
かつては人の身でありながらも、外法などによってマガツキへと堕ちた存在たる人鬼と呼ばれる怪物。
目の前にいる人鬼から感じられる知性は希薄であり、確固たる人としての知性を有してこその人鬼とされる中で、目の前にいるこいつはそこまでの強者というわけではなさそうだが……それでも僕が楽に勝てる相手ではないだろう。
「陰陽上級、隔離結界」
僕はこの場にある重要な文献たちが傷つけられないようにするため、現世との壁を形成するための結界を張り巡らせながら目の前にいる人鬼とどう戦うか、頭を悩ませるのであった。
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