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転
19話
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書庫にあった本を触れてしまったことから本格的に始まった僕の陰陽師としての物語。
慣れぬマガノでの戦いに、スパルタな汐梨さんとの戦い。
そして、己もその妹の命を失うことも覚悟した強力な人鬼との戦い。
雪月家へと来てからの僕の戦いは激闘の日々であった。
それでも確実に僕は成長し、充実した日々を送っていたと言える。
「───」
だが、そんな平和な日常を打ち破るかのように、雪音家の全員で暖かい食事を摂っている中で。
僕と瑞稀は雪音家の当主である涼さんから衝撃の話を聞かされていた。
「……えっ? 鳴海家が僕たちを取り戻そうとしている?」
僕は呆然と言葉を返し、困惑の声を上げる。
「嫌だよ、嫌だ! 嫌だ、嫌だ! 私は戻りたくないよ!? そんなの!」
「……っ」
僕の隣に座っている瑞稀が悲壮な声を上げている横で呆然とただ、息だけを漏らす。
また、戻る……あの冷たい日々に。
「安心してくれ、そこまで面倒な話ではない。大した諍いもなく沈められるさ。だか、それにも少しばかり時間がかかり、二人がここにいられるのも少し不都合なんだ」
「そう! だから、しばらくの間、私と行動を共にしてもらうことになるわ。大阪から離れて少し先のところに」
「そう、なの……?」
「えぇ、そうよ……だから安心してちょうだい。必ず守ってあげるから……だから、大翔も安心して」
「えっ、あ……はい」
少し硬直してしまっていた僕は沙月さんから声をかけられたタイミングでようやく自分取り戻す。
「ご迷惑、おかけします」
そして、出てきた僕の言葉はそれであった。
「大丈夫よ、これくらいなんてこともないこら」
「あぁ、そうだ。家族を守るのは当たり前ののことだ」
「……っ、あり、がとうございます」
ここは、どれだけ温かいのだろうか。僕は肩を震わせながら声を漏らす。
「ほら! 湿っぽい話は終わりだよ! さっさと食べちゃうよ! 冷めちゃうからね」
僕がそんなことを考える間に、希海さんが食卓の中で元気な声を上げる。
「確かに、そうだな……すまない。食事の前に話すことでもなかったね」
その希海さんの言葉を聞いて涼さんが苦笑しながら言葉を話す。
「ほら、食べようか。頂きます」
「い、いただきます」
「いただきます!」
「いただきます」
涼さんの言葉を受けて、僕と瑞稀、沙月さんが手を合わせて食前の挨拶を口にし、希海さんの作る美味しい料理へと手を付け始める。
「それでも、しばらくはみんなにちょっとした苦労をしてもらうことにもなるかもなぁ……」
食事中の中、涼さんがふと思い出したかのようにぼそりを言葉を漏らすのだった。
◆◆◆◆◆
昨日の話があってからの動きは非常に迅速だった。
すぐさま大阪から離れ、雪音家が持っているという人気のない山の別荘へとやってきていた。
昨日、涼さんが話していた少しの苦労とは引っ越しのことだったのだ。
「ふふん、どう? なかなかにいいところでしょ? 人はいないけど、その他ならいっぱいあるのよ……まぁ、ここは私が管理している古寺がないことが悲しいんだけど」
別荘の前に立つ沙月さんが意気揚々と言葉を告げる。
「そうだね! すっごく広い! こんな広い屋敷になんて始めてくる!」
そして、そんな沙月さんの言葉にうなづいて、瑞稀が完成の声を上げる。
「……家事とか、大変そう」
そんな横で僕はどうしてもつまらない事が気になってしまっていた。
この広い屋敷の中で暮らすのは僕と瑞稀と沙月さんの三人だけ、それでこの広さの屋敷を維持するのは大変そうだった……陰陽術で状態維持は行われているようであったが、それでも僕たちが暮らすとなると色々大変なことも多いだろう。
「お兄ちゃん! 良いんだよ! そんな細かいことを考えなくとも!」
だが、そんな僕の言葉を瑞稀は一蹴する。
「えぇ、そうね。困ってから考えればいいのよ。そういうのは。それまで適当でも大丈夫よ……きっとね、多分、おそらく」
そして、それに沙月さんも続く。
「……えぇ」
僕はどんどん確実性を失っていく沙月さんの言葉に困惑の声を漏らす。
……。
…………まぁ、それでも時にはこういう勢いでやっていくのも面白い、よね?
「さぁ! 入りましょ!」
「そうだね」
「えぇ、いらっしゃい」
僕は二人とともに屋敷の中へと入るのだった。
■■■■■
屋敷の中もしっかり外の立派な姿とともに綺麗かつ厳かな見た目を保っていた。
「ここでしばらく暮らしていくことになるのね!」
高そうな別荘の中を見て瑞稀が歓喜の声を上げる。
「……?」
そんな中で僕はどこか、屋敷の中に強烈な違和感と謎の居心地の良さを感じていた。
「ん? どうしたの、大翔」
そんな僕の様子を見て不思議そうな表情を浮かべている沙月さんがこちらと真っ直ぐに視線を合わせてきながら疑問の声を上げる。
「うっ……」
真っ直ぐとこちらの方に視線を送ってくる沙月さんに照れくさいものを感じながら、僕は口を開く。
「何ともないから大丈夫です」
「そう? それなら良かったけど」
僕の言葉に沙月さんが笑顔でうなづいた後に視線を外す。
「さっ! それじゃあ、二人の部屋に案内するから、そこに置いてある自分たちの荷物を綺麗に整理しておいて!」
既に僕と瑞稀の荷物はこっちの屋敷の方へと深夜のうちに移されている。
「はーい」
「はい」
僕と瑞稀は沙月さんの言葉に頷くのだった。
慣れぬマガノでの戦いに、スパルタな汐梨さんとの戦い。
そして、己もその妹の命を失うことも覚悟した強力な人鬼との戦い。
雪月家へと来てからの僕の戦いは激闘の日々であった。
それでも確実に僕は成長し、充実した日々を送っていたと言える。
「───」
だが、そんな平和な日常を打ち破るかのように、雪音家の全員で暖かい食事を摂っている中で。
僕と瑞稀は雪音家の当主である涼さんから衝撃の話を聞かされていた。
「……えっ? 鳴海家が僕たちを取り戻そうとしている?」
僕は呆然と言葉を返し、困惑の声を上げる。
「嫌だよ、嫌だ! 嫌だ、嫌だ! 私は戻りたくないよ!? そんなの!」
「……っ」
僕の隣に座っている瑞稀が悲壮な声を上げている横で呆然とただ、息だけを漏らす。
また、戻る……あの冷たい日々に。
「安心してくれ、そこまで面倒な話ではない。大した諍いもなく沈められるさ。だか、それにも少しばかり時間がかかり、二人がここにいられるのも少し不都合なんだ」
「そう! だから、しばらくの間、私と行動を共にしてもらうことになるわ。大阪から離れて少し先のところに」
「そう、なの……?」
「えぇ、そうよ……だから安心してちょうだい。必ず守ってあげるから……だから、大翔も安心して」
「えっ、あ……はい」
少し硬直してしまっていた僕は沙月さんから声をかけられたタイミングでようやく自分取り戻す。
「ご迷惑、おかけします」
そして、出てきた僕の言葉はそれであった。
「大丈夫よ、これくらいなんてこともないこら」
「あぁ、そうだ。家族を守るのは当たり前ののことだ」
「……っ、あり、がとうございます」
ここは、どれだけ温かいのだろうか。僕は肩を震わせながら声を漏らす。
「ほら! 湿っぽい話は終わりだよ! さっさと食べちゃうよ! 冷めちゃうからね」
僕がそんなことを考える間に、希海さんが食卓の中で元気な声を上げる。
「確かに、そうだな……すまない。食事の前に話すことでもなかったね」
その希海さんの言葉を聞いて涼さんが苦笑しながら言葉を話す。
「ほら、食べようか。頂きます」
「い、いただきます」
「いただきます!」
「いただきます」
涼さんの言葉を受けて、僕と瑞稀、沙月さんが手を合わせて食前の挨拶を口にし、希海さんの作る美味しい料理へと手を付け始める。
「それでも、しばらくはみんなにちょっとした苦労をしてもらうことにもなるかもなぁ……」
食事中の中、涼さんがふと思い出したかのようにぼそりを言葉を漏らすのだった。
◆◆◆◆◆
昨日の話があってからの動きは非常に迅速だった。
すぐさま大阪から離れ、雪音家が持っているという人気のない山の別荘へとやってきていた。
昨日、涼さんが話していた少しの苦労とは引っ越しのことだったのだ。
「ふふん、どう? なかなかにいいところでしょ? 人はいないけど、その他ならいっぱいあるのよ……まぁ、ここは私が管理している古寺がないことが悲しいんだけど」
別荘の前に立つ沙月さんが意気揚々と言葉を告げる。
「そうだね! すっごく広い! こんな広い屋敷になんて始めてくる!」
そして、そんな沙月さんの言葉にうなづいて、瑞稀が完成の声を上げる。
「……家事とか、大変そう」
そんな横で僕はどうしてもつまらない事が気になってしまっていた。
この広い屋敷の中で暮らすのは僕と瑞稀と沙月さんの三人だけ、それでこの広さの屋敷を維持するのは大変そうだった……陰陽術で状態維持は行われているようであったが、それでも僕たちが暮らすとなると色々大変なことも多いだろう。
「お兄ちゃん! 良いんだよ! そんな細かいことを考えなくとも!」
だが、そんな僕の言葉を瑞稀は一蹴する。
「えぇ、そうね。困ってから考えればいいのよ。そういうのは。それまで適当でも大丈夫よ……きっとね、多分、おそらく」
そして、それに沙月さんも続く。
「……えぇ」
僕はどんどん確実性を失っていく沙月さんの言葉に困惑の声を漏らす。
……。
…………まぁ、それでも時にはこういう勢いでやっていくのも面白い、よね?
「さぁ! 入りましょ!」
「そうだね」
「えぇ、いらっしゃい」
僕は二人とともに屋敷の中へと入るのだった。
■■■■■
屋敷の中もしっかり外の立派な姿とともに綺麗かつ厳かな見た目を保っていた。
「ここでしばらく暮らしていくことになるのね!」
高そうな別荘の中を見て瑞稀が歓喜の声を上げる。
「……?」
そんな中で僕はどこか、屋敷の中に強烈な違和感と謎の居心地の良さを感じていた。
「ん? どうしたの、大翔」
そんな僕の様子を見て不思議そうな表情を浮かべている沙月さんがこちらと真っ直ぐに視線を合わせてきながら疑問の声を上げる。
「うっ……」
真っ直ぐとこちらの方に視線を送ってくる沙月さんに照れくさいものを感じながら、僕は口を開く。
「何ともないから大丈夫です」
「そう? それなら良かったけど」
僕の言葉に沙月さんが笑顔でうなづいた後に視線を外す。
「さっ! それじゃあ、二人の部屋に案内するから、そこに置いてある自分たちの荷物を綺麗に整理しておいて!」
既に僕と瑞稀の荷物はこっちの屋敷の方へと深夜のうちに移されている。
「はーい」
「はい」
僕と瑞稀は沙月さんの言葉に頷くのだった。
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双子設定や成り上がりものが好きなので、あらすじを見て惹かれたので読ませていただきました。
ストーリー的には虐げられた良家の双子が、紆余曲折の末に2人で最高の陰陽師になる、という感じでしょうか?そんな結末を想像して面白そうだと思い一気に読ませていただいたのですが、今のところあまり双子がニコイチになっている場面がなく少し残念です。
あとマガツキ?は何となく妖怪や呪霊的なものだと分かるのですが、その辺りの説明がなく、何となく悪いモノに襲われたのかな?くらいしか分かりません。
あと陰陽師ものに悪魔?や魔力という単語が出てきて少し違和感を感じてますが、マガツキや陰の力・陽の力とは、存在や力の元が違ったりするんですか?
これからの話で解説が入るのでしょうか?疑問を解消してすっきりしたいので次の更新を楽しみにしています。
貴重な感想をありがとうございます。
設定を細かく考えずに始めてしまった。というのもありますが、今後上手く整理していきたいと考えています。
合作メンバー一同それぞれ頑張っていきますので、これからも読んでいただけると幸いです。
改めましてありがとうございます