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彼女と登校中……オレ転生しました
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◇◇◇現実世界 群馬◇◇◇
――「皆さんおはようございます。本日は各地で夏日となり、空も青く澄んでいます」
「この番組が終われば登校時間か……」
オレは悪愚魔学院高等部の3年生。名前は金森咲夜。17歳。まだ誕生日前で高校一位のモテ男。
とは言っても、好きでモテ男になったわけではない。天のランダムセレクトでモテているだけ。
黒い制服に青いネクタイ。髪は……まあ、寝癖より派手なボサボサ頭で、青みがかった黒髪。この寝癖は天然パーマだ。
親のいない自宅で身だしなみを整える。親がいないのは死んだのではなく、ただ早出出勤でいない。両親は共働きなのだ。
代わりにオレには彼女がいる。今日も彼女と登校するのだから当然のこと。
元々、女には興味が無い。むしろ女になりたい。なんせ小顔美人の女性顔。小さい頃は、よく近所から女と間違われてきた。
男で生まれたのは、神のイタズラやら運命だろう。興味が無いからランダムセレクトとしておく。
そもそも神など信じてはいない。自由に性別を選択できるのなら、それ以上嬉しいことは存在しないはず。
よってオレは、生まれ変わるなら女か男性顔の純正男子を希望。叶う可能性は低いが……。
――「それでは皆さん。今日も元気に行ってらっしゃい!」
テレビを消して席から立ち、一人戸締りを進める。カバンを近くに置くと、ソファに座って彼女の呼び出しを待つ。
テーブルから見て奥は廊下。右は玄関。左にはトイレがある。真正面はオレの部屋で高級感など皆無の一軒家。
『咲夜くーーん! 一緒に行こ! 早く来ないと置いてくよ!』
「未来待って!」
『ふふっ。ジョーダンだよーーー』
オレはカバンを鷲掴みにして、勢いよく扉を開ける。そこには、玄関前で壁を作るセーラー服の小柄な少女。
セーラー服の襟元には、黄色と緑のラインが入っている。そんな彼女は、オレが唯一好きになった同学年の焔未来だ。
「今日は暑いね」
「まだ春なのに夏日だってよ」
「地球温暖化のせいかな?」
「かもな。ってことは排気ガスか……。田舎臭いここじゃあ車が便利だからなぁ……」
「たしかに電車少ないもんね……。もっと交通網増えればいいのに……」
「事故ったら終わりだよ……。未来」
「自動車も電車も……。飛行機だったらもっと怖いよ」
「おお、恐ろしいこと言うな!」
彼女との会話はとても楽しい。なぜ好きになったか? それはオレを見てもキーキー言わないから。
彼女はオレを一人の男として見ている。
他の女子はウザいし声援も暑苦しく、イケメンアイドル扱い。実際オレはアイドルではない。ただの一般人だ。
「行こうか」
「うん!」
オレは未来の左側に立ち、歩調を合わせて歩道を歩く。家を出てすぐに車道。学校に近づくにつれてうるさいヒヨコが列を成す。
『咲夜先輩おはようございます!』
『今日の咲夜先輩もかっこいい! サインいいですか?』
『良かったら今日一緒にお昼食べたいです! お弁当二つ作ってきたので!』
『もう、ズールーいー。咲夜君は私のものよ?』
『ちーがーいーまーすー!』
『ちょっと見えないよぉー。アタイにも見せてなのぉー』
『絶対カメラに収めるんだから! セーンパーイ! こっち向いてくださーい!』
「咲夜くん今日も大盛況だね」
「そうだな……」
(ウザい、しつこい、順番守れ、いい加減消えろ……。サインなんか持ってねぇよ小賢しい……)
「咲夜くんなんか言った?」
「う、ううん。何も言ってない。大丈夫」
「それなら良かった」
全く良くない。うるさい人は嫌いだ。耳が痛くなる。加えて今日は、車のエンジン音が聞こえないくらいの声量。
迫る信号。点灯している色は赤。埋め尽くす女性陣の声は消えない。直後……。
――ズドーン! キィィィィン……。ガシャーーーン!!
「ちょ!? 玉突き事故!?」
「なんか怖いよ……」
「だだ、大丈夫だって!!」
突然の交通事故。信号待ちの車は衝突したトラックで炎上している。その後ろにもトラックが……。
――ドガシャーーーン! ボワンッ!
『かか、火事だアァーーー。こっちに来るぞ!!』
「んな!? 未来こっちに来い!」
「わ、わかった!!」
オレは未来の手を強く握りしめ、学校の方向とは逆方向に走る。玉突き事故は終わる気配がない。次から次へと被害が大きくなっていく。
ちらりと後ろを確認すると、うるさいヒヨコは跡形もなく消えていた。せめてオレ達だけでも生き残りたい。
――ドグワァン!
「車が跳ねた!? 路地裏にまわるぞ!!」
「了解!!」
宙を舞う車。玉突きの巻き添いになった反対車線の普通車だ。トラックはというと火をまとって接近中。
ビルの路地裏も焼け焦げた臭いが充満していて、握る手とは反対の手で口を抑えても意味がない。
「咲夜くん! あれ!」
未来が一瞬口から手を外し前方を指さす。それはパルクールで移動可能な燃える緑色のフェンスだった。
「そんな……。挟み撃ちかよ……」
◇◇◇並行世界 グンマー帝国◇◇◇
「サクラ?」
(サクラって誰だよ……)
「サクラ・ドロワット?」
(だからサクラって誰だよ……)
「サクラ・ドロワット起きなさい!」
「だからオレはサクラじゃねぇぇぇぇぇぇ!! 咲夜だ!! サ・ク・ヤ!!」
――ボインッ!
「ファ!?」
――ボイン! ボイン!
「嘘……だ……ろ?」
――ボインボイン。ぷにぷに……。ボヨン!
「きょっ! きょにゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううう?」
どう見ても胸が大きすぎる。男の身体じゃない。100パーセント。いや1000パーセント女性の身体だ。
髪の毛も長い。長い髪がウザい。邪魔。毛先がものすごいチクチクする。
ショートヘアにさせたい。髪色は黒髪。しかも白のメッシュ入り。
「サクラ・ドロワット。あなたにお願いがあるの」
「の前にアンタ誰?」
見るからにゴスロリみたいな服装。恐ろしいくらいの悪女顔で、優しい未来と区別できるくらい真逆だ。
そもそも日本人顔ではない。フランスか? まるでおとぎ話の意地悪女。名前は出てるけど言わないでおこう。
「忘れたの? 姉のライチよ。ライチ・ドロワット」
「いや、オレに姉ちゃんいな……」
「べちゃくちゃ言わないでアタシに従いなさい。サクラはそれだけしてればいいから。
今お父様のライム・ドロワットが狙われてるのよ。かの有名な女性賢者に……。
そこでよく出没する冒険者ギルドに張り込みして、殺してもらえないかしら?」
「オレが?」
「ええそうよ」
「いやお前がやれよ。オレにそんな権利ねぇし」
「ここは公爵家よ。長女のアタシにやれと言うのですか? アタシにはお父様をお護りする仕事があるわけ。どうせ暇よね?」
「一体どうなってんだよ……。うるせぇ女だなぁ……」
「まだ歯向かうのね。同時にサクラも女じゃない。その口調は合わないわ」
(んならどう話せってことなんだよ。クズ女。いやここはノーマルで行こう。その方がいい)
「じゃ、じゃあ。わかりました。お、お姉……様……」
「頼んだわよ?」
「任せてください。行ってきます」
(ほんとにこれでいいのか? やっぱ人殺しすんならナイフだよなぁ。今いるのがベッド。目の前にドレッサー。
左側には装飾付きの窓。ベッドの右隣には小型のチェスト。その先にはクローゼットと入口。まずはチェストの中をっと)
オレは慣れない胸付きの身体を捻り、チェストへ手を伸ばす。しかし胸が邪魔で届かなかった。
「引き出し開けるなら立てってことか……。仕方ねぇ……。動きづらいけどやるか……」
のっそりと立ち上がり、チェストの前で屈む。引き出しの数は4段。この中にナイフがあるのだろう。
「一番上は。髪飾りやクシをしまっている可能性が高いよな……。3段目はハンカチ類のはず。
そういえば、未来は3段目と4段目に折り紙やシュシュを……。ってことはここか?」
オレは2段目の取っ手に指を引っ掛ける。
――ズズズゥゥゥゥゥゥゥゥ……。
「きっとこの奥の方に……。う、腕が入らねぇ……。この……このドレス、袖厚すぎだろ!
も、もうちっと……奥に入りゃ……いいんだが……。おっ!? あったあった……」
引き出しから取り出したのは折りたたみ式のナイフ。試しに本物か確認するため、自分の手の甲を切り裂いた。
滲み出す赤い血。3段目の引き出しを開き手ぬぐいを取り出す。サッと拭き取ったら今度は一番上の引き出し。
「絆創膏あれば……。っと……。花柄か……。ま、いいや。サイズもちょうどいいし。ナイフは……折りたたんで袖の中に隠しとけば……」
拭き取ったばかりの手ぬぐいは、キレイな面にしてドレスの飾り風に。できるだけ隠蔽しておく。
人殺しなんかできっこない。けど動かなければ嫌なことが起きる。それも避けたいことの一つだ。
(あとはどうやって外に出るか……。この家の中を通れば危ないかもしれないな……。
そういやあの窓、枠を外せられるなら行けそうだな。いっちょやってみっか……。ん? いや待てよ?)
一度オレは窓の前で立ち止まる。そこに付いてたのは何やら脱出ボタン的な物。
本当にそれなのかはわからない。ただ単にそう見えただけだ。
けれども押してみたくなるのが人。一度気になってしまったら……。
「ポチッとな」
――ガタン。ガバッ! ヒューーーん……。
「……よっと!」
――ボヨンッ!
「だから胸邪魔なんだっつーの! けど、この抜け道使えるな……。覗いた感じじゃあ登れなさそうだが……。
マークだけはしておくか……。次は冒険者ギルドだな。公爵家ってなるとオレは令嬢だしギリギリ冒険者なれないか」
本当は冒険者がよかった。成れるのなら……。
成れるの……なら……。
――「皆さんおはようございます。本日は各地で夏日となり、空も青く澄んでいます」
「この番組が終われば登校時間か……」
オレは悪愚魔学院高等部の3年生。名前は金森咲夜。17歳。まだ誕生日前で高校一位のモテ男。
とは言っても、好きでモテ男になったわけではない。天のランダムセレクトでモテているだけ。
黒い制服に青いネクタイ。髪は……まあ、寝癖より派手なボサボサ頭で、青みがかった黒髪。この寝癖は天然パーマだ。
親のいない自宅で身だしなみを整える。親がいないのは死んだのではなく、ただ早出出勤でいない。両親は共働きなのだ。
代わりにオレには彼女がいる。今日も彼女と登校するのだから当然のこと。
元々、女には興味が無い。むしろ女になりたい。なんせ小顔美人の女性顔。小さい頃は、よく近所から女と間違われてきた。
男で生まれたのは、神のイタズラやら運命だろう。興味が無いからランダムセレクトとしておく。
そもそも神など信じてはいない。自由に性別を選択できるのなら、それ以上嬉しいことは存在しないはず。
よってオレは、生まれ変わるなら女か男性顔の純正男子を希望。叶う可能性は低いが……。
――「それでは皆さん。今日も元気に行ってらっしゃい!」
テレビを消して席から立ち、一人戸締りを進める。カバンを近くに置くと、ソファに座って彼女の呼び出しを待つ。
テーブルから見て奥は廊下。右は玄関。左にはトイレがある。真正面はオレの部屋で高級感など皆無の一軒家。
『咲夜くーーん! 一緒に行こ! 早く来ないと置いてくよ!』
「未来待って!」
『ふふっ。ジョーダンだよーーー』
オレはカバンを鷲掴みにして、勢いよく扉を開ける。そこには、玄関前で壁を作るセーラー服の小柄な少女。
セーラー服の襟元には、黄色と緑のラインが入っている。そんな彼女は、オレが唯一好きになった同学年の焔未来だ。
「今日は暑いね」
「まだ春なのに夏日だってよ」
「地球温暖化のせいかな?」
「かもな。ってことは排気ガスか……。田舎臭いここじゃあ車が便利だからなぁ……」
「たしかに電車少ないもんね……。もっと交通網増えればいいのに……」
「事故ったら終わりだよ……。未来」
「自動車も電車も……。飛行機だったらもっと怖いよ」
「おお、恐ろしいこと言うな!」
彼女との会話はとても楽しい。なぜ好きになったか? それはオレを見てもキーキー言わないから。
彼女はオレを一人の男として見ている。
他の女子はウザいし声援も暑苦しく、イケメンアイドル扱い。実際オレはアイドルではない。ただの一般人だ。
「行こうか」
「うん!」
オレは未来の左側に立ち、歩調を合わせて歩道を歩く。家を出てすぐに車道。学校に近づくにつれてうるさいヒヨコが列を成す。
『咲夜先輩おはようございます!』
『今日の咲夜先輩もかっこいい! サインいいですか?』
『良かったら今日一緒にお昼食べたいです! お弁当二つ作ってきたので!』
『もう、ズールーいー。咲夜君は私のものよ?』
『ちーがーいーまーすー!』
『ちょっと見えないよぉー。アタイにも見せてなのぉー』
『絶対カメラに収めるんだから! セーンパーイ! こっち向いてくださーい!』
「咲夜くん今日も大盛況だね」
「そうだな……」
(ウザい、しつこい、順番守れ、いい加減消えろ……。サインなんか持ってねぇよ小賢しい……)
「咲夜くんなんか言った?」
「う、ううん。何も言ってない。大丈夫」
「それなら良かった」
全く良くない。うるさい人は嫌いだ。耳が痛くなる。加えて今日は、車のエンジン音が聞こえないくらいの声量。
迫る信号。点灯している色は赤。埋め尽くす女性陣の声は消えない。直後……。
――ズドーン! キィィィィン……。ガシャーーーン!!
「ちょ!? 玉突き事故!?」
「なんか怖いよ……」
「だだ、大丈夫だって!!」
突然の交通事故。信号待ちの車は衝突したトラックで炎上している。その後ろにもトラックが……。
――ドガシャーーーン! ボワンッ!
『かか、火事だアァーーー。こっちに来るぞ!!』
「んな!? 未来こっちに来い!」
「わ、わかった!!」
オレは未来の手を強く握りしめ、学校の方向とは逆方向に走る。玉突き事故は終わる気配がない。次から次へと被害が大きくなっていく。
ちらりと後ろを確認すると、うるさいヒヨコは跡形もなく消えていた。せめてオレ達だけでも生き残りたい。
――ドグワァン!
「車が跳ねた!? 路地裏にまわるぞ!!」
「了解!!」
宙を舞う車。玉突きの巻き添いになった反対車線の普通車だ。トラックはというと火をまとって接近中。
ビルの路地裏も焼け焦げた臭いが充満していて、握る手とは反対の手で口を抑えても意味がない。
「咲夜くん! あれ!」
未来が一瞬口から手を外し前方を指さす。それはパルクールで移動可能な燃える緑色のフェンスだった。
「そんな……。挟み撃ちかよ……」
◇◇◇並行世界 グンマー帝国◇◇◇
「サクラ?」
(サクラって誰だよ……)
「サクラ・ドロワット?」
(だからサクラって誰だよ……)
「サクラ・ドロワット起きなさい!」
「だからオレはサクラじゃねぇぇぇぇぇぇ!! 咲夜だ!! サ・ク・ヤ!!」
――ボインッ!
「ファ!?」
――ボイン! ボイン!
「嘘……だ……ろ?」
――ボインボイン。ぷにぷに……。ボヨン!
「きょっ! きょにゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううう?」
どう見ても胸が大きすぎる。男の身体じゃない。100パーセント。いや1000パーセント女性の身体だ。
髪の毛も長い。長い髪がウザい。邪魔。毛先がものすごいチクチクする。
ショートヘアにさせたい。髪色は黒髪。しかも白のメッシュ入り。
「サクラ・ドロワット。あなたにお願いがあるの」
「の前にアンタ誰?」
見るからにゴスロリみたいな服装。恐ろしいくらいの悪女顔で、優しい未来と区別できるくらい真逆だ。
そもそも日本人顔ではない。フランスか? まるでおとぎ話の意地悪女。名前は出てるけど言わないでおこう。
「忘れたの? 姉のライチよ。ライチ・ドロワット」
「いや、オレに姉ちゃんいな……」
「べちゃくちゃ言わないでアタシに従いなさい。サクラはそれだけしてればいいから。
今お父様のライム・ドロワットが狙われてるのよ。かの有名な女性賢者に……。
そこでよく出没する冒険者ギルドに張り込みして、殺してもらえないかしら?」
「オレが?」
「ええそうよ」
「いやお前がやれよ。オレにそんな権利ねぇし」
「ここは公爵家よ。長女のアタシにやれと言うのですか? アタシにはお父様をお護りする仕事があるわけ。どうせ暇よね?」
「一体どうなってんだよ……。うるせぇ女だなぁ……」
「まだ歯向かうのね。同時にサクラも女じゃない。その口調は合わないわ」
(んならどう話せってことなんだよ。クズ女。いやここはノーマルで行こう。その方がいい)
「じゃ、じゃあ。わかりました。お、お姉……様……」
「頼んだわよ?」
「任せてください。行ってきます」
(ほんとにこれでいいのか? やっぱ人殺しすんならナイフだよなぁ。今いるのがベッド。目の前にドレッサー。
左側には装飾付きの窓。ベッドの右隣には小型のチェスト。その先にはクローゼットと入口。まずはチェストの中をっと)
オレは慣れない胸付きの身体を捻り、チェストへ手を伸ばす。しかし胸が邪魔で届かなかった。
「引き出し開けるなら立てってことか……。仕方ねぇ……。動きづらいけどやるか……」
のっそりと立ち上がり、チェストの前で屈む。引き出しの数は4段。この中にナイフがあるのだろう。
「一番上は。髪飾りやクシをしまっている可能性が高いよな……。3段目はハンカチ類のはず。
そういえば、未来は3段目と4段目に折り紙やシュシュを……。ってことはここか?」
オレは2段目の取っ手に指を引っ掛ける。
――ズズズゥゥゥゥゥゥゥゥ……。
「きっとこの奥の方に……。う、腕が入らねぇ……。この……このドレス、袖厚すぎだろ!
も、もうちっと……奥に入りゃ……いいんだが……。おっ!? あったあった……」
引き出しから取り出したのは折りたたみ式のナイフ。試しに本物か確認するため、自分の手の甲を切り裂いた。
滲み出す赤い血。3段目の引き出しを開き手ぬぐいを取り出す。サッと拭き取ったら今度は一番上の引き出し。
「絆創膏あれば……。っと……。花柄か……。ま、いいや。サイズもちょうどいいし。ナイフは……折りたたんで袖の中に隠しとけば……」
拭き取ったばかりの手ぬぐいは、キレイな面にしてドレスの飾り風に。できるだけ隠蔽しておく。
人殺しなんかできっこない。けど動かなければ嫌なことが起きる。それも避けたいことの一つだ。
(あとはどうやって外に出るか……。この家の中を通れば危ないかもしれないな……。
そういやあの窓、枠を外せられるなら行けそうだな。いっちょやってみっか……。ん? いや待てよ?)
一度オレは窓の前で立ち止まる。そこに付いてたのは何やら脱出ボタン的な物。
本当にそれなのかはわからない。ただ単にそう見えただけだ。
けれども押してみたくなるのが人。一度気になってしまったら……。
「ポチッとな」
――ガタン。ガバッ! ヒューーーん……。
「……よっと!」
――ボヨンッ!
「だから胸邪魔なんだっつーの! けど、この抜け道使えるな……。覗いた感じじゃあ登れなさそうだが……。
マークだけはしておくか……。次は冒険者ギルドだな。公爵家ってなるとオレは令嬢だしギリギリ冒険者なれないか」
本当は冒険者がよかった。成れるのなら……。
成れるの……なら……。
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