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彼女と復旧……オレ村整備士になりました

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 ◇◇◇咲夜目線◇◇◇


「んーと。まずは村の整備からだな」
「そうだね。どの家も建付けが悪いし。立地もしっかり確認しないとだから」
「だよな……。ってか立地ってなんだ?」
「もう!! 商売も必要でしょ? 客が来やすい場所が良いし。ほら、働かざる者食うべからず!! 角材って残ってるよね?」
「拠点予定地に行けば無くはないが……」
「走って1本お願い!!」
「よし来た!! 任せろ!!」

 まさかオレが村長になるとは。いや、実際はオレだけではなく未来も一緒に。オレはこれがしたかった。
 みんなの役に立てる面白いこと。生徒会長の時と同じ気分だ。加えてセレーデ前村長からの後継ぎにもなっている。

 未来に角材を取って来るように言われ、助走数メートルの加速で樹海を駆ける。
 道中はアップダウンの多い場所。拠点に着くとすぐに角材を持ち、来た道を戻る。
 未来はこれで何をするのだろうか? オレには想像もつかなかった。

「未来持ってきたぞ!!」
「ありがとう!! ミカエルさんは追加で木を伐採してもらえるかな? 咲夜くんと一緒に」
「わかった」
「了解なのです!!」
「それで、レノンとガノンは二人で土運んできてほしいんだけど……」
「何に使うのかわからないけど、持ってくればいいの?」
「うん。お願いします」
「承知した……。レノン行こう」
「お兄ちゃん着いて行くね」

 オレはミカエルと行動。未来は角材の使い道を教えてくれなかった。それよりも木材集め。伐採スキルの出番だ。
 レノンとガノンも土を集めに出かけていった。オレはオレで再び樹海へ潜る。必要本数はざっと万本だろうか?
 そうなると植樹も考えないといけない。だけど植樹の仕方がわからなかった。それでも、木を切るのが先。

「ミカエル。水属性だったか?」
「そうですけど……」
「斬撃系の攻撃は……」
「問題ないです!! 試したい魔法もあるので持ってこいですよ?」
「なら良かった。なにかあった教えてくれ」
「了解なのです!! 咲夜さんもファイトです!!」

 こうして二手に別れての伐採作業。攻撃範囲の短いナイフで、どんどん切り倒していく。
 あっという間に4000本。さらに5000、6000と倒していく。木を切るだけでもめちゃくちゃ楽しい。一番安全なストレス発散法。

「けど、どれだけ切ればいいんだ? ん? あれはなんだ?」

 オレはこの前切り倒した切り株をみる。そこには、新しい芽が出ていた。最初見た時にはなかったはずの芽……。
 よく見れば、数日前に切った切り株全てに、複数本の芽が出ている。

『もう、咲夜くん遅いよ!!』
「未来!? あ、いや。あの芽が気になってさ……」
あの芽・・・?』

 少し遠いところから声をかけられ、オレは未来に切り株の芽を説明する。近寄って来る未来。彼女の手にはスコップがあった。

「もしかしてクヌギなんじゃないかな? 付け根のここを切り取って、土に植えれば……。こんな感じかなぁ?」
「これは一体?」
「植樹だよ。クヌギって、切り株にできた芽で増やせるんだって!!」
「未来。頼りになるよ」

 これで植樹は一件落着。クヌギがこのようにして増えるとは思わなかった。以降同じようにしていけば木材に困らない。
 ひたすら木を切り続け、気付けば樹海の半分以上が切り株になっていた。植樹の仕方を覚えても意味が無い。
 加えて、未来も手伝ってくれたおかげで、仕事も早く済む。伐採スキルは最強だ。職業無双が便利すぎる。

「だけど、このまま放っておけないな。完全に自然破壊だ……」
「大丈夫だよ。私の魔法でなんとかなるから」
「本当か?」
「なら証明してあげるけど?」
「気になるな……」
「行くよ!! タイムファスト!! ワイドエクストラ!!」

 するとその呪文に反応したのか、大量の切り株から芽が出てくる。オレは急いで、未来から教えて貰ったように土へ植える。
 そうこうしているうちに、みるみる成長していく木の芽。さすがに走り疲れが出始めたオレでも、着いていくのがやっとだ。
 数分休憩すれば問題ないが、休む暇もない。それでも、沢山動くのはオレが一番大好きなこと。

(未来が協力してくれてるんだ。休んでたまるか!!)

「ワイドスラッシュ!! ライト!!」

 ライトと言っても、優しいの方。ソフトタッチで、複数の苗木を切り株から分離させる。今度は根付く前に植える作業。
 未来の魔法で根付く速度が早い。後日聞いた話によると、苗木が出来上がるまでに2年から3年以上かかるそうだ。
 そして、未来の魔法はそれを上回る、1秒間に2年の経過付与。一番最初に植えた苗木は、すでに立派な樹木になっていた。

「マジでその魔法すげぇな!!」
「でしょでしょ!!」
「一瞬で木はでっかく成長しちまうし。これで木材不足は解消されるぜ……。ああ、大助かり大助かり……。あんがとな未来」
「どういたしまして。木材はこれだけあれば足りるから。今度は土の凹凸おうとつを無くす作業ね……」
「おうとつを無くす?」
「ほら、地面がガタガタだったり地盤が不安定だと建築しづらいでしょ?」
「ま、まあ……たしかにな……」

(そのための角材と土だったのか……)

 ようやく謎が解けた。オレは何度も樹海と村を行き来して、大量の丸太を運んでいく。往復4時間。運動量が現実世界の倍だ。
 早朝の走り込みよりも多い汗。重労働への関心が高まる。こんなに楽しいことはない。

「咲夜くんお疲れ様」
「こちらも今戻った。土はこれくらいで足りるか?」
「ガノンさん! こんなに沢山!! ありがとうございます!!」
「良かったな」

 同時刻に帰ってきたガノンとレノン。彼らは小高い山が出来上がるほどの土を、未来に提供していた。
 土地を平行にさせる作業。角材を地面に置き、隙間を土で埋める。オレは整地するためのトンボ作り。
 木の棒と板を支えの棒三本で組み合わせ、釘を打ち込み固定する。即席トンボの完成。

「未来!! こっちの準備はOKだ!!」
「ありがとう。ちょうど土埋め作業終わったから」
「配ればいいんだな」
「うん!!」

 の前に、トンボの板の形状を変える作業。内側の地面に当たる面に傾斜を作る。この傾斜に土が溜まって、しっかりならしてくれるだろう。
 オレは村のみんなにも協力してもらい、使い方をレクチャー。一斉に整地を開始する。大人数だから範囲も広い。

「咲夜兄ちゃん!!」
「見た目は女だけどな」
「それでも咲夜兄ちゃんだよ!!」
「ハハッ!! 君名前は?」
「メリア!! まだ8歳で弱いけど。おれ、大きくなったら冒険者になるんだぁ~」
「そうか。未来の冒険者……。ミライの……冒険……者……か……」
「兄ちゃん?」
「いや、なんでもねぇよ。反対側まで競走だメリア!!」
「負けないぞぉ!!」

「『よーーーーい!! ドンッ!!』」

 ――ズシャァァァァァァァァァァァ!!

 メリアはこの村唯一の年齢一桁。村の最年少だった。120センチの小さな身体。みんなこの少年を大事にしている希望の光。
 今度オレが後継者で決めるなら、きっとメリアを選ぶだろう。それだけの可能性を持っているから。

「ちょっとあなた達!!」
「み、未来!?」
「未来姉ちゃん!!」
「遊んでないでちゃんと仕事して!!」
「けど、半分はオレとメリアだぜ?」
「そ、そうだけど……。わかったわ。今回だけね?」
「だってよ。メリア」
「セーフ。だね!! おれ、もう一周してくる!!」
「無茶はすんなよ!!」
「はーーーーーい!!」

 やっぱり若いっていいなぁ……。オレとも小学校時代に戻りたい。あの時は頻繁に体調を崩していたけれど……。
 小学校時代は今のような体力は皆無だった。親に勧められた水泳教室。持久走で最下位だった屈辱を晴らしたくて始めた陸上。

 その素質を認められ、高校1年での駅伝参加。当時高校1年での参加はオレだけで、最終走者に選ばれた。
 惜しくも全体4位だったが、先輩から羨ましがられるほどの加速力で5人抜き。校内最年少エースまで到達していた。

「咲夜兄ちゃん!! 未来姉ちゃん!! ただいま!!」
「メリア!! 思ったよりも早かったな!!」
「どれくらい?」
「んーと、約10分くらいじゃないか? んも、オレの予想を超えやがって。今度特訓に付き合わせてやんよ!!」
「特訓? なになにぃ?」
「ちょっと咲夜くん……」
「別にいいだろ? こっからは体力消費が激しい作業なんだしよ」
「それでもだよ!! 勝手すぎ……」
「おれやってみたい!!」
「メリアくん!?」
「よし!! 決まりだな!! 明日から……」
「今からやりたい!!」

(おいおい、無茶言うなよ……。別に問題ねぇけど……)

 子供はみんな好奇心が強い。小さい時は友達が多かった。だけど全員バラバラ。病弱なオレは、何も良いことがない。
 未来がオレの宝物。もしかしたら、転校する前に会っていたかもしれない。なのに、何も思い出せない。

 小学校3年の春から4年夏までの記憶がない。気付いたら別の学校。いや、病院の院内校にいたのだから。
 もちろん、退院後も別の学校。そこで陸上と出会った。

「咲夜くん?」「咲夜兄ちゃん?」
「な、なんでもねぇよ。マジで……。今日からやりたいんだろ? 手伝ってやる」
「ありがと!! おれ頑張る!!」
「そんじゃ。軽く村周辺3周だ。準備運動忘れんなよ!!」
「もっちろん!! 兄ちゃんより速くなるもん!!」
「面白ぇ!! 行くぞ!!」


 ◇◇◇未来目線◇◇◇


「あ~あ。また行っちゃった。だけど、メリアくん。どうも咲夜くんに似ているんだよね……」
「未来さん?」
「み、ミカエル!? いつの間に……」
「ついさっき来ましたです!! 何かあったのですか?」
「い、いいえ。なんでもないわ。ちょっと、幼い時の咲夜くんを思い出しちゃって……」

『お、いいぞいいぞ!! その調子で着いて来い!!』
『……ぜぇ……ぜぇ……。に、兄ちゃん速いよ……。ま、まだまだ!!』
「下向くな!! 前を見るんだ!!」
「は、はい……!!」

 まるでコーチ。自己流挟んでるかもだけど、それでもしっかりえおメリアを見ている。瞳がとても輝いていた。
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