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勇者にポイ捨てされたけどレンジャーに拾われたので頑張ってみた 前編
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「はあ…まったく使えないじゃないか」
勇者アレンが深くため息をついた。
パーティーの空気が一気に重くなる。
冷たい視線に晒されているのは少女アスカ。
ダンジョンの奥深くでそれは起こった。
魔王に対抗するべく、過去の遺跡発掘を進めていた勇者アレン一行。
しかし、その探索はまったく進んでいなかった。
大陸でも有名な遺跡の一つであるチャーチスワットでの探索を開始して3日が経つ。
あらゆるところに罠が仕掛けられた巨大なダンジョンとして有名で、多くの冒険者を擁するスルーダの街のギルドでも、攻略何度はA+に指定されている難所だ。
しかし、古代に生み出された魔導武具が多く眠る場所として、ここ数年、チャレンジするチームは多い。
ギルドからは、遺跡の概観や探索が大きく進んだ場所を記した公式ガイドマップまで発行されており、人気の高さがうかがえる。
東の島国出身で、14歳にして早くも凄腕冒険者として頭角をあらわしたアレンは、強大な魔物を打ち倒すまでになり、いつしか東の勇者と呼ばれるようになった。
今回の探索も、アレンならば大きな成果をもたらすだろうと期待されている。
しかし、この3日間で得られた武器や防具はガラクタばかりだった。
アレンはアスカを見下すかのように目を細めて言う。
「アスカ、君はまだ冒険者として登録されて日が浅いね? やり手のフォーチュンテラーだと聞いて迎えてみれば、何も結果が出せていないじゃないか」
続いて、筋骨隆々のアタッカーの大男ゼダが大声で怒鳴った。
「宝の位置を占いで示す、それがお前の能力だろ!? それがなんだ、選ぶ道選ぶ道、全部ハズレじゃねえか! 役立たずに払う金はねえぞ!」
追い打ちをかけるように、同じくアタッカーの魔導士セルティナが舌打ち交じりに声を出した。
「ゼダの言う通りね。さっきの大広間の分岐点で、右に進めと言ったのはアナタよね? それで進んでみれば、何もないじゃない!! 本当に占ってるのよね!?」
実力派冒険者たちに凄まれ、アスカは2歩、3歩と後ずさるしかなかった。
「わ、わたしは、その…ちゃんと、閃いた方向に皆さんをご案内してきて…」
アスカの怯えた声色を聞いて、ゼダもセルティナも、余計に苛立ちが増す。
2人が再び声を荒げようとしたところで、アレンが制した。
「このダンジョンはトラップだらけだと聞いていたが、この3日、特に遭遇することもなかった。そして、魔導武具にもね。ただ遺跡をブラついただけだ。…勇者アレンにそんな冒険譚が許されると思うか? 何の変化も無い3日間。なんてバカバカしいんだ」
アレンは再び大きくため息をつき、アスカに向き直る。
「まったく、無駄な時間を過ごした。君にはがっかりだよアスカ。この場でクビだ」
「えっ!? そんな…!」
「僕も我慢の限界なんだ。でも怒鳴り声や暴力で君を傷つけたとしても何も変わらない。さあ、目の前から消えてくれ。半日もあれば入口まで戻れるだろう」
「けっ!アレンが優しくて助かったお前。俺様がリーダーなら、1人で探索させるところだぜ」
「せいぜい魔物との遭遇に気を付けることね。さよなら、役立たずなお嬢さん!」
「あ…」
待っての一言も喉から出てこない。3人のひたすらに冷たい視線にズタズタにされ、アスカはしばらくその場に立ち尽くすしかなかった。
松明が小さく爆ぜるパチパチという音だけが残り、あとは静寂と孤独が襲ってきた。
アスカは、生まれ育ったキビナの村で、誰かの失くしものを見つけるのが得意だった。
それは幼いころ、物心つく前からの能力だった。
『おそらく、この子は生まれついての魔力持ち…ソーサラーだろう』
村長さんにそう言われて、でも、両親や家族はアスカを決して特別扱いはしなかった。
魔力など必要ない、ただ穏やかに生きてくれればいいと育ててきたのだ。
しかし悲劇は突然訪れた。
村が魔物の集団に襲われて、畑もほとんどが焼き払われたのだ。
その日、アスカには嫌な予感があった。
何か悪いことが起こりそうな、漠然とした不安があった。
残念ながらその予感は的中してしまったが、村の人的損害は無かった。
アスカが村の皆を誘導していたのである。
かつて、友達とともに駆け回った裏山に、大事にしていたおもちゃを埋めたことを思い出し、その宝物を目印に移動したのだ。自身の能力を使って…。
こうして難を逃れたが、村の復興には時間がかかる。このままではみんなが生きていけない。
自分一人でも出稼ぎに行かなくては。
そう考えてスルーダの街のギルドに冒険者として登録した。
未知の遺跡が数多く残るこの地域で、宝探しのお手伝いが仕事になればと考えたのだ。
「せっかく仕事が見つかったと思ったのに…」
アスカは途方に暮れた。家族や村のみんなのことを思うと、自分の不甲斐なさに涙がこぼれる。
これからどうすればいいのだろう。
また、どこかのパーティーに加えてもらえるのだろうか。
不安、失望を脳内で延々とループさせながら力なく歩いていると、気が付けばダンジョンの入り口に戻っていた。
幸い、魔物には気づかれなかったらしい。
もっとも、ある程度の敵は勇者アレンたちが倒していた。
やはり実力者たちであることには変わりない。
そんな実力者たちの期待を裏切ってしまった…。
また泣けてくる。
そこからまた半日かけてなんとか街に戻ったアスカだったが、これからどうすればいいのか、本当にわからなかった。
街の仮宿に入り、ベッドに突っ伏したアスカは、ただ眠ることしかできなかった。
翌朝。
報告だけは済ませようと、アスカはギルドに向かった。
木製の重苦しい扉をよいしょ、と開ける。小柄なアスカにはなかなかの重量だ。
中に入ると、お世話になったギルドマスターのおじさんがカウンター越しに腰掛けていた。
アスカの顔を見て少々驚いた表情を浮かべる。
「よお、無事の帰還で何よりだ!…嬢ちゃん1人か?
たしかアレンたちのパーティーに着いて行ったよな? 勇者御一行は宿に帰ったのかい?」
「えっと、その…」
情けない話だけど、隠すわけにもいかない。
アスカはここまでの経緯をギルドマスターに説明した。
「はあ、そうか…」
ギルドマスターは落胆と困惑が入り混じった表情を浮かべ、ふう、とため息をついた。
「まあ、こうなっちまったんなら仕方ないさ。俺も悪かった、ハイレベルなパーティーに参加させちまった」
「マスターのせいじゃないです! 私が…ぜんぜん役立たずだから…」
肩を落とすアスカを見て、ギルドマスターは何か言葉をかけようとするが、良い言葉が見つからない。
「へえ、おもしろそうじゃん」
どんよりと流れる気まずい沈黙の空気を破ったのは、1人の男だ。
アスカが声のする方に振りむくと、そこにいたのは長身に褐色の肌、赤茶けた長髪の青年だった。
「よお、俺はジン。レンジャーをやってるんだ。俺とコンビを組まないか?」
「え? えっと」
「あー、レンジャーって言われてもあんま馴染みがないかな。交易路の開拓とかダンジョンまでのルート整備とか地図書いたり、ま、冒険前の下調べを職にしてる感じだよ」
「あ、そうなんですか…。いあ、えっと、そこじゃなくて! 私をコンビって、どういうことですか?」
「そのまんまだよ。コンビ組んで冒険に行こうぜってこと」
「ええっ!? あの、聞いてましたよね? 私、パーティーを外されちゃって」
「おお、聞いてたよ。フォーチュンテラーで、いま無所属フリーってことだろ? だから誘ってんだ。なあ、マスターいいだろ?」
カウンターでその様子を見守っていたギルドマスターにジンが笑顔で承認を求めた。
マスターは、嬢ちゃんがそれでいいならな、と前置きして契約書類を取り出す。
「ちゃんと報酬も払うからさ。この後、すぐに森の開拓調査に入らなきゃいけないんだよ。行こうぜ」
「あ、えと、その」
突然のことに戸惑うばかりのアスカだったが、仕事になるならありがたいと思い、ジンに着いていくことを決めた。
森は、街から東に1時間ほど歩いたところにあった。
「うわあ…」
森の入り口に立つ数々の巨木を見上げ、アスカは思わず声を上げた。
生まれ故郷ものどかな土地ではあるが、開けた平野部にあるためか、このような木々はほとんど目にしたことがない。
「よし、じゃあここからどっちに進めばいいか教えてくれよ」
「えっ!?」
「いや、そんなに驚かなくても」
アスカのリアクションにジンは苦笑するが、意図を説明することにする。
「心配しなくても、あんたができることをやってくれればいいんだ。あんたのその能力で、この森を東に抜けるのにいちばん安全なルートを探ってほしい」
「安全なルート…」
「そうだ。そこに金銀財宝はなくても、宝探しみたいだろ?」
「宝探し…そっか」
アスカが何かに気付く。
その様子を見てジンは軽く口角を上げると、アスカの意識を先導するように、少しゆっくりと腕を上げた。そして人差し指で森の深くを指し示す。
「アスカ、あんたの力を見せてくれ。宝はこの森を抜けた向こう側の景色。海辺に抜ける平野が待ってるはずだ」
「海辺…平野…」
ジンの言葉にぼんやりとイメージを湧かせながら、鬱蒼と茂る森を貫くように意識する。
やがて、眉間のあたりに光が差す感覚を覚え、アスカはその光を手繰り寄せるかのように両手を伸ばし、ふうっと息を吐いた。
次の瞬間、今度はアスカの両手がぼんやりと光り、木々の間を縫うように細い光を放った。
「ははっ、すげえ!」
その光景にジンは興奮を抑えられない。
アスカはふうっと息を吐いてから、ジンに向き直った。
「この光どおりにたどれば宝物…東側の出口にたどり着けます」
「よし!さすがフォーチュンテラー!」
ありがとよ、と軽くアスカの肩を叩いてジンはスタスタと歩き出す。
「あ、待ってくださいジンさん!」
何のためらいもなく森に入っていくジンの背中を見失わないように、アスカは必死に追いかけた。
ジンは腰布に装備していた鉈で草木をどんどんと伐採していく。
疲れを知らないのだろうか、そのスピードが落ちることはなかった。
数時間をかけて進んでいくと、やがて森が明るくなってきた。目指していた東側にたどりついたのだ。
「はあ、はあ、…ジンさん、もうすぐですね…!」
「………」
「あの、ジンさん?」
「え? あ、そうだな!もうすぐ森の端に出る。その先は平野のはずだ」
何か考え事をしていのだろうか。
シンの反応の鈍さが気になったが、アスカは歩き疲れてしまっていた。
もう喉がカラカラだ。常備していた食料も残り少ない。
人里、せめて小川でも見つかればいいのだが。
相変わらず鉈を振り回しながらスタスタと進むジンに引っ張られるように、アスカは何とか森を抜けだした。
そこは広々とした草原だった。
イメージしたのは開けた浜辺のはずだが、とにかく森を抜けたことには違いない。
時刻は夕暮れ近くになってきていたが、まだ日差しが残っている。
爽やかに吹き抜ける風が疲労を癒してくれた。
「はあ、はあ、たどり着けたあ…」
「いやーお疲れお疲れ!俺の予想よりもはるかに早く抜けられたよ! あんたが示してくれた道のおかげだな」
「いえ、私じゃなくてジンさんがすごいんだと思います…。鉈1本でこんなにどんどん進んできて」
お互いが労いの言葉をかけているその時だった。
ガサッという音がしたかと思うと、巨大な蛇が2人をめがけて飛びついてきた!
驚きで声も出せないまま、頭を抑えてしゃがみこむアスカ。
その横でジンは冷静に鉈を振り、蛇の頭部を的確に捉えた。
地面に叩きつけるようにして蛇を押さえたジンは、そのまま蛇の眉間に鉈を突き立て致命傷を与えた。
のたうち回る蛇が静かになるまで押さえつけ、絶命するのを待つ。その動きは迷いがなく鮮やかで、しかし淡々としていた。
「あっぶねー。あんた、ケガは無いか?」
「あ、ありがとうございますジンさん! すごい…。ジンさんこそ、平気ですか!?」
「俺は大丈夫、見ての通りだよ。コイツ、魔物化してきてるな…どこかで魔鉱石を食ったな」
魔鉱石はその名のとおり魔力を持った石であり、込められた魔力量によっては一欠片飲み込むだけでも魔力を持たせ、獲物を攻撃する本能を増幅することで野生動物を魔物化させると言われている。
蛇が完全に動かなくなってからジンは力を緩め、蛇の皮の一部を剝ぎ取った。少しは値段がついて売れるだろうという見込みだ。
「よし、これからギルドに戻ると森の中で日が暮れちまう。どこかに村はないかな…宿があればいいけど。納屋でも借りられるとろこが無いか探そう」
「そうですね、えーっと…あ! あっちの方が街道みたいです」
アスカはあたりを見回し、草地が途切れるあたりから街道が走っていることに気付いた。
2人は街道沿いに歩き、幸運にも宿を見つけ休むことができた。
勇者アレンが深くため息をついた。
パーティーの空気が一気に重くなる。
冷たい視線に晒されているのは少女アスカ。
ダンジョンの奥深くでそれは起こった。
魔王に対抗するべく、過去の遺跡発掘を進めていた勇者アレン一行。
しかし、その探索はまったく進んでいなかった。
大陸でも有名な遺跡の一つであるチャーチスワットでの探索を開始して3日が経つ。
あらゆるところに罠が仕掛けられた巨大なダンジョンとして有名で、多くの冒険者を擁するスルーダの街のギルドでも、攻略何度はA+に指定されている難所だ。
しかし、古代に生み出された魔導武具が多く眠る場所として、ここ数年、チャレンジするチームは多い。
ギルドからは、遺跡の概観や探索が大きく進んだ場所を記した公式ガイドマップまで発行されており、人気の高さがうかがえる。
東の島国出身で、14歳にして早くも凄腕冒険者として頭角をあらわしたアレンは、強大な魔物を打ち倒すまでになり、いつしか東の勇者と呼ばれるようになった。
今回の探索も、アレンならば大きな成果をもたらすだろうと期待されている。
しかし、この3日間で得られた武器や防具はガラクタばかりだった。
アレンはアスカを見下すかのように目を細めて言う。
「アスカ、君はまだ冒険者として登録されて日が浅いね? やり手のフォーチュンテラーだと聞いて迎えてみれば、何も結果が出せていないじゃないか」
続いて、筋骨隆々のアタッカーの大男ゼダが大声で怒鳴った。
「宝の位置を占いで示す、それがお前の能力だろ!? それがなんだ、選ぶ道選ぶ道、全部ハズレじゃねえか! 役立たずに払う金はねえぞ!」
追い打ちをかけるように、同じくアタッカーの魔導士セルティナが舌打ち交じりに声を出した。
「ゼダの言う通りね。さっきの大広間の分岐点で、右に進めと言ったのはアナタよね? それで進んでみれば、何もないじゃない!! 本当に占ってるのよね!?」
実力派冒険者たちに凄まれ、アスカは2歩、3歩と後ずさるしかなかった。
「わ、わたしは、その…ちゃんと、閃いた方向に皆さんをご案内してきて…」
アスカの怯えた声色を聞いて、ゼダもセルティナも、余計に苛立ちが増す。
2人が再び声を荒げようとしたところで、アレンが制した。
「このダンジョンはトラップだらけだと聞いていたが、この3日、特に遭遇することもなかった。そして、魔導武具にもね。ただ遺跡をブラついただけだ。…勇者アレンにそんな冒険譚が許されると思うか? 何の変化も無い3日間。なんてバカバカしいんだ」
アレンは再び大きくため息をつき、アスカに向き直る。
「まったく、無駄な時間を過ごした。君にはがっかりだよアスカ。この場でクビだ」
「えっ!? そんな…!」
「僕も我慢の限界なんだ。でも怒鳴り声や暴力で君を傷つけたとしても何も変わらない。さあ、目の前から消えてくれ。半日もあれば入口まで戻れるだろう」
「けっ!アレンが優しくて助かったお前。俺様がリーダーなら、1人で探索させるところだぜ」
「せいぜい魔物との遭遇に気を付けることね。さよなら、役立たずなお嬢さん!」
「あ…」
待っての一言も喉から出てこない。3人のひたすらに冷たい視線にズタズタにされ、アスカはしばらくその場に立ち尽くすしかなかった。
松明が小さく爆ぜるパチパチという音だけが残り、あとは静寂と孤独が襲ってきた。
アスカは、生まれ育ったキビナの村で、誰かの失くしものを見つけるのが得意だった。
それは幼いころ、物心つく前からの能力だった。
『おそらく、この子は生まれついての魔力持ち…ソーサラーだろう』
村長さんにそう言われて、でも、両親や家族はアスカを決して特別扱いはしなかった。
魔力など必要ない、ただ穏やかに生きてくれればいいと育ててきたのだ。
しかし悲劇は突然訪れた。
村が魔物の集団に襲われて、畑もほとんどが焼き払われたのだ。
その日、アスカには嫌な予感があった。
何か悪いことが起こりそうな、漠然とした不安があった。
残念ながらその予感は的中してしまったが、村の人的損害は無かった。
アスカが村の皆を誘導していたのである。
かつて、友達とともに駆け回った裏山に、大事にしていたおもちゃを埋めたことを思い出し、その宝物を目印に移動したのだ。自身の能力を使って…。
こうして難を逃れたが、村の復興には時間がかかる。このままではみんなが生きていけない。
自分一人でも出稼ぎに行かなくては。
そう考えてスルーダの街のギルドに冒険者として登録した。
未知の遺跡が数多く残るこの地域で、宝探しのお手伝いが仕事になればと考えたのだ。
「せっかく仕事が見つかったと思ったのに…」
アスカは途方に暮れた。家族や村のみんなのことを思うと、自分の不甲斐なさに涙がこぼれる。
これからどうすればいいのだろう。
また、どこかのパーティーに加えてもらえるのだろうか。
不安、失望を脳内で延々とループさせながら力なく歩いていると、気が付けばダンジョンの入り口に戻っていた。
幸い、魔物には気づかれなかったらしい。
もっとも、ある程度の敵は勇者アレンたちが倒していた。
やはり実力者たちであることには変わりない。
そんな実力者たちの期待を裏切ってしまった…。
また泣けてくる。
そこからまた半日かけてなんとか街に戻ったアスカだったが、これからどうすればいいのか、本当にわからなかった。
街の仮宿に入り、ベッドに突っ伏したアスカは、ただ眠ることしかできなかった。
翌朝。
報告だけは済ませようと、アスカはギルドに向かった。
木製の重苦しい扉をよいしょ、と開ける。小柄なアスカにはなかなかの重量だ。
中に入ると、お世話になったギルドマスターのおじさんがカウンター越しに腰掛けていた。
アスカの顔を見て少々驚いた表情を浮かべる。
「よお、無事の帰還で何よりだ!…嬢ちゃん1人か?
たしかアレンたちのパーティーに着いて行ったよな? 勇者御一行は宿に帰ったのかい?」
「えっと、その…」
情けない話だけど、隠すわけにもいかない。
アスカはここまでの経緯をギルドマスターに説明した。
「はあ、そうか…」
ギルドマスターは落胆と困惑が入り混じった表情を浮かべ、ふう、とため息をついた。
「まあ、こうなっちまったんなら仕方ないさ。俺も悪かった、ハイレベルなパーティーに参加させちまった」
「マスターのせいじゃないです! 私が…ぜんぜん役立たずだから…」
肩を落とすアスカを見て、ギルドマスターは何か言葉をかけようとするが、良い言葉が見つからない。
「へえ、おもしろそうじゃん」
どんよりと流れる気まずい沈黙の空気を破ったのは、1人の男だ。
アスカが声のする方に振りむくと、そこにいたのは長身に褐色の肌、赤茶けた長髪の青年だった。
「よお、俺はジン。レンジャーをやってるんだ。俺とコンビを組まないか?」
「え? えっと」
「あー、レンジャーって言われてもあんま馴染みがないかな。交易路の開拓とかダンジョンまでのルート整備とか地図書いたり、ま、冒険前の下調べを職にしてる感じだよ」
「あ、そうなんですか…。いあ、えっと、そこじゃなくて! 私をコンビって、どういうことですか?」
「そのまんまだよ。コンビ組んで冒険に行こうぜってこと」
「ええっ!? あの、聞いてましたよね? 私、パーティーを外されちゃって」
「おお、聞いてたよ。フォーチュンテラーで、いま無所属フリーってことだろ? だから誘ってんだ。なあ、マスターいいだろ?」
カウンターでその様子を見守っていたギルドマスターにジンが笑顔で承認を求めた。
マスターは、嬢ちゃんがそれでいいならな、と前置きして契約書類を取り出す。
「ちゃんと報酬も払うからさ。この後、すぐに森の開拓調査に入らなきゃいけないんだよ。行こうぜ」
「あ、えと、その」
突然のことに戸惑うばかりのアスカだったが、仕事になるならありがたいと思い、ジンに着いていくことを決めた。
森は、街から東に1時間ほど歩いたところにあった。
「うわあ…」
森の入り口に立つ数々の巨木を見上げ、アスカは思わず声を上げた。
生まれ故郷ものどかな土地ではあるが、開けた平野部にあるためか、このような木々はほとんど目にしたことがない。
「よし、じゃあここからどっちに進めばいいか教えてくれよ」
「えっ!?」
「いや、そんなに驚かなくても」
アスカのリアクションにジンは苦笑するが、意図を説明することにする。
「心配しなくても、あんたができることをやってくれればいいんだ。あんたのその能力で、この森を東に抜けるのにいちばん安全なルートを探ってほしい」
「安全なルート…」
「そうだ。そこに金銀財宝はなくても、宝探しみたいだろ?」
「宝探し…そっか」
アスカが何かに気付く。
その様子を見てジンは軽く口角を上げると、アスカの意識を先導するように、少しゆっくりと腕を上げた。そして人差し指で森の深くを指し示す。
「アスカ、あんたの力を見せてくれ。宝はこの森を抜けた向こう側の景色。海辺に抜ける平野が待ってるはずだ」
「海辺…平野…」
ジンの言葉にぼんやりとイメージを湧かせながら、鬱蒼と茂る森を貫くように意識する。
やがて、眉間のあたりに光が差す感覚を覚え、アスカはその光を手繰り寄せるかのように両手を伸ばし、ふうっと息を吐いた。
次の瞬間、今度はアスカの両手がぼんやりと光り、木々の間を縫うように細い光を放った。
「ははっ、すげえ!」
その光景にジンは興奮を抑えられない。
アスカはふうっと息を吐いてから、ジンに向き直った。
「この光どおりにたどれば宝物…東側の出口にたどり着けます」
「よし!さすがフォーチュンテラー!」
ありがとよ、と軽くアスカの肩を叩いてジンはスタスタと歩き出す。
「あ、待ってくださいジンさん!」
何のためらいもなく森に入っていくジンの背中を見失わないように、アスカは必死に追いかけた。
ジンは腰布に装備していた鉈で草木をどんどんと伐採していく。
疲れを知らないのだろうか、そのスピードが落ちることはなかった。
数時間をかけて進んでいくと、やがて森が明るくなってきた。目指していた東側にたどりついたのだ。
「はあ、はあ、…ジンさん、もうすぐですね…!」
「………」
「あの、ジンさん?」
「え? あ、そうだな!もうすぐ森の端に出る。その先は平野のはずだ」
何か考え事をしていのだろうか。
シンの反応の鈍さが気になったが、アスカは歩き疲れてしまっていた。
もう喉がカラカラだ。常備していた食料も残り少ない。
人里、せめて小川でも見つかればいいのだが。
相変わらず鉈を振り回しながらスタスタと進むジンに引っ張られるように、アスカは何とか森を抜けだした。
そこは広々とした草原だった。
イメージしたのは開けた浜辺のはずだが、とにかく森を抜けたことには違いない。
時刻は夕暮れ近くになってきていたが、まだ日差しが残っている。
爽やかに吹き抜ける風が疲労を癒してくれた。
「はあ、はあ、たどり着けたあ…」
「いやーお疲れお疲れ!俺の予想よりもはるかに早く抜けられたよ! あんたが示してくれた道のおかげだな」
「いえ、私じゃなくてジンさんがすごいんだと思います…。鉈1本でこんなにどんどん進んできて」
お互いが労いの言葉をかけているその時だった。
ガサッという音がしたかと思うと、巨大な蛇が2人をめがけて飛びついてきた!
驚きで声も出せないまま、頭を抑えてしゃがみこむアスカ。
その横でジンは冷静に鉈を振り、蛇の頭部を的確に捉えた。
地面に叩きつけるようにして蛇を押さえたジンは、そのまま蛇の眉間に鉈を突き立て致命傷を与えた。
のたうち回る蛇が静かになるまで押さえつけ、絶命するのを待つ。その動きは迷いがなく鮮やかで、しかし淡々としていた。
「あっぶねー。あんた、ケガは無いか?」
「あ、ありがとうございますジンさん! すごい…。ジンさんこそ、平気ですか!?」
「俺は大丈夫、見ての通りだよ。コイツ、魔物化してきてるな…どこかで魔鉱石を食ったな」
魔鉱石はその名のとおり魔力を持った石であり、込められた魔力量によっては一欠片飲み込むだけでも魔力を持たせ、獲物を攻撃する本能を増幅することで野生動物を魔物化させると言われている。
蛇が完全に動かなくなってからジンは力を緩め、蛇の皮の一部を剝ぎ取った。少しは値段がついて売れるだろうという見込みだ。
「よし、これからギルドに戻ると森の中で日が暮れちまう。どこかに村はないかな…宿があればいいけど。納屋でも借りられるとろこが無いか探そう」
「そうですね、えーっと…あ! あっちの方が街道みたいです」
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長年パーティーを支えてきた中年冒険者ガルドは、討伐失敗の責任と横領の濡れ衣を着せられ、仲間から一方的に追放される。弁明も復讐も選ばず、彼が向かったのは人里離れた辺境の小さな村だった。
荒れた空き家を借り、畑を耕し、村人を手伝いながら始めた静かな生活。しかしガルドは、自覚のないまま最強クラスの力を持っていた。魔物の動きを抑え、村の環境そのものを安定させるその存在は、次第に村にとって欠かせないものとなっていく。
一方、彼を追放した元パーティーは崩壊の道を辿り、真実も勝手に明るみに出ていく。だがガルドは振り返らない。求めるのは名誉でもざまぁでもなく、ただ穏やかな日々だけ。
これは、最強でありながら争わず、静かに居場所を見つけたおっさんの、のんびりスローライフ譚。
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