勇者にポイ捨てされたけどレンジャーに拾われたので頑張ってみた

梅雨野十

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勇者にポイ捨てされたけどレンジャーに拾われたので頑張ってみた 後編

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「くそっ、どうなってやがる! トラップに魔物、次から次へと……途切れやしねえ!」

巨漢の戦士ゼダが、迫りくるガーゴイルを斧で叩き伏せながら毒づいた。
その後ろでは、魔導士セルティナが青白い顔で杖を振るっている。

「わけわかんないわよ、このダンジョン! さっきから同じ場所を回ってる気がするわ!」

2人が一通り魔物を倒したところで、広間の奥から、最後の一体を一刀両断した勇者アレンが歩み寄ってきた。
彼は忌々しげに剣の血を振り払うと、近くの大きな岩にどかっと腰を下ろす。

「これがチャーチスワットの恐ろしさ、というわけか……」

アレンの端正な顔には、隠しようのない疲労が張り付いている。遺跡に足を踏み入れた時の余裕は無い。

「ギルドへの帰還予定時間はとうに過ぎた。食料も底をつきそうだ。……途中で役立たずを一人減らしておいたおかげで、多少の余裕ができたのが皮肉だな」

「でもアレン様! あんな無能を信じて進んだせいで、私たちはこんな迷路に閉じ込められたんですよ!?」

セルティナの叫びに、アレンは冷ややかに頷く。

「ああ。本来なら真っ直ぐ地下の核心部へ進む予定だった。彼女の指し示した『安全な道』を信じた結果がこの有様だ。フォーチュンテラーという職を否定はしないが、少なくともアスカの能力は使い物にならなかった。それが証明されただけのことだ」

「まったくだぜ、あの疫病神が……」

ゼダが吐き捨てた、その時だった。

「ずいぶん苦労してるみたいだなあ、勇者様一行は!」

静寂の奥から、場違いなほど軽快な声が響いた。
三人が弾かれたように顔を上げると、そこには赤茶けた髪を揺らす青年、ジンが立っていた。
そして、その隣にはパーティーにとって忘れられない顔がある。

「アスカ…!」

アレンが目を見開く。
つい3日前までどこか怯えた目をしていた少女が、真っすぐにこちらを見ている。
その表情は別人のようだ。

「何なんだテメェら! どこから湧いてきやがった!?」

「どこからって、そりゃ地上から来たに決まってんだろ。ほれ、そこの階段」

「階段だあ!? ふざけんな、そんなもんどこにもねえわ!!」

「いきなり現れて妄言だなんて、気味が悪いわねこの男…!!」

ジンを警戒する2人を制するようにアレンが立ち上がった。

「どうやって僕たちを見つけたんだ。この迷宮を逆行してくるなど不可能なはずだ」

アレンの問いに、ジンは肩をすくめて笑った。

「逆行? 違うな、俺たちは最短ルートを歩いてきただけさ。もちろん、そこの『最高のフォーチュンテラー様』のおかげでな」

「 バカ言ってんじゃねえぞ優男!!その女のデタラメな占いのせいで、俺たちは……」

「デタラメじゃねえよ」

ジンの目つきが、一瞬で冷徹なものに変わる。

「アスカ、あんたの本当の力を見せてやれ。……スキル、『クリアグロリア』だ」

ジンの言葉に促され、アスカがそっと目を閉じる。
すると、彼女の体から透き通るような純白の光が溢れ出した。

それは「探し物」を見つける光ではない。数多ある運命の分岐点から、最も犠牲が少なく、最も幸福に近い道だけを浮き彫りにする「因果の導光」だった。

「クリア?…待て。待て、どういうことだ」

アスカの様子にアレンは言葉を失い…同時に、あることに思い当たり青ざめる。
その様子を見てジンはニヤリと笑ってから告げた。

「勇者殿、もしかしてこの部屋に来るまで『何も起きない退屈な道』だとか思ってたんじゃないか?」

「待て…いや、まさか、そんな…」

「だがな、本来トラップだらけのこの遺跡で三日間も無傷だったのが、どれほどの奇跡か理解できなかったのか? 彼女が一緒のうちは無事で、パーティーから追い出したらどうせすぐ魔物やらトラップやらに襲われたんだろ?
まったく、せっかく俺がガイドマップに注意書きしておいたっつーのに」

「そんな……そんなバカなことは認めない! そんな能力、あるはずがない!」

軽くため息をついてから、ジンはアレンを睨みつけた。

「認めろ。お前らが無事に探索できてたのは運が良いからじゃない。遺跡の様相が変わったからでもない。彼女の力のおかげ…アスカが導いてくれたからだ。彼女はな、お前らのその丸出しの欲望が死に直結する道を選ばないよう、ずっと守ってたんだよ」

「だまれえええっっ!!」

プライドをズタズタにされたアレンが絶叫し、ジンに向かって剣を振り下ろす。
だが、ジンは一瞬で勇者たちの間をすり抜け、アレンの背後に立っていた。

突然の俊敏な動きにゼダもセルティナも呆気にとられ、アスカに至っては何が起こったのか理解できていないようだ。
しかしアレンは違った。

「ひゅー! 良い勘してんじゃん、勇者様」

ジンの喉元には、アレンの剣先が突きつけられていた。まるでジンの動きを予測していたかのような剣捌きだった。

「バカにするな、勘じゃない。視えているぞ…その手を離せコソ泥!!」

アレンの言葉通り、ジンの手には、いつの間にか抜き取っていたアレンとゼダの硬貨入れが握られていた。
ジンはそれを笑いながら放り投げた。
硬貨の金属的な音とともにキャッチしたアレンだが、ジンから視線を外さない。
荒いままの呼吸のリズムを整え、少しだけ目を細める。

「聞いたことがあるぞ、犯罪者紛いの冒険者だけをターゲットにした一匹狼の盗賊を。いつからか、盗みからは足を洗いレンジャーの仕事に就いたとか。…それが君だな、ジン・キャスベル」

「はっ、勇者殿に認知されてるとはね。光栄ですよ」

「御託はいい。…なんにせよ、君たちはレンジャーとして、僕たちを救助しにきてくれたのだろう?」

「さすが、勇者殿は冷静だ! おっしゃるとおりさ、俺たちはあんたらを助けにきた」

ジンが小さく笑う様子を見て、アレンはふうっと大きく息を吐くと、剣をおさめた。
小さくかぶりを振り、目を閉じてからつぶやく。

「だが、それは今じゃない」

「は?」

「救助を受けるのは今じゃないと言ったんだ。僕たちにはまだ仕事が残っている。遺跡の宝を見つけるという仕事がね」

「この期に及んで何言ってんだあんた」

呆れた表情のジンを、アレンは鋭く睨んだ。

「勇者アレンの冒険譚に失敗は許されない。僕は必ず宝を持ち帰る。セルティナ、魔力反応はまだあるか?」

「は、はい、アレン様! ええと…この奥、壁の向こうから感じます! もしかして、通路が隠されてるんじゃ…」

「任せろ、そこらの岩なら俺がまとめてぶっ壊してやる!」

壁に手を当てて通路を探り出したセルティナとゼダの様子を見て、ジンは目を細め、クッと小さく笑った。
その様子を知ってか知らずか、アレンはもう一度ジンと、そしてアスカを睨みつけた。

「僕らは僕らのやり方で必ずこの冒険を成功させる」

「はあ、まあ好きにしてくれよ。俺らは俺らで仕事するだけだ」

そこで会話が途切れ、アレンも二人に加わり壁を探る。

「くそ、どこだ…うん? なんだ、この岩、妙に温かい。もしかして…はは、なんだ、これじゃないか!ここがかぎだ!」

手ごたえを感じたアレンは力任せに壁の一部を押しのけた。
すると、奥からまばゆい黄金の光を片鱗がこぼれだしていた。

「あ、アレン様! そっちじゃないです!!」

たまらずアスカが叫ぶが、3人の耳には届かない。
アレンたちは意地になり、わずかに開かれた道を駆け出した。誰がアスカの言葉など聞くものか。正しいのは自分たちだ。
しばらく進むと、通路の先に眩いばかりの光を放つ武具が山積みにされていた。

「あった! 見ろ、やはりここにあるじゃないか!!」

「やったぜ大将! 伝説の魔導兵装だ!」

歓喜に沸き、三人がその武器に手を伸ばしたその瞬間、世界が反転した。
輝いていた武器が泥のように溶け、影からおびただしい数のゴーストが湧き出してきた。

「な、なんだ!? 武器が消えていく……まさか、幻!? 幻視魔法を受けていたのか!?」

「くそっ、攻撃が当たらない! 手応えがねえぞ!」

「火炎魔法! ……ダメ、効かないわ! もしかして、精神干渉系の呪い!?」

絶叫するアレンの脳裏に、かつてのアスカの言葉が蘇る。
『こっちの道は、嫌な予感がします。右へ行きましょう』
あの時も、また別の時も、彼女は避けてきたというのか。
一度もトラップに遭遇しなかったのは、彼女がすべてを事前に回避していたから。

「あの女の…スキル…認めん、認めんぞぉぉぉっ!!」

暗闇にアレンの悲鳴が虚しく響き渡った。
そのはずだった。

「……あーあ、ひどい悲鳴だこと」

その光景を、ジンは冷めた目で見つめていた。
ジントアスカの目の前には、壁にもたれかかりうわごとをつぶやく勇者一行の姿があった。
眠りに落ち、うわごとを繰り返している。
アレンが壁を探り出したと同時、強力な幻惑トラップが発動し、3人は幻に飲み込まれていた。

「ジンさん!早く助けましょう!!」

アスカが促すが、ジンは小さく首を振った。

「放っておいても大丈夫だろ。その『ゴーストトラップ』は、かかった奴の欲望が消えない限り解除されない。こいつらが己の欲深さを反省するまで眠り続けるさ」

「でも…」

「そんな顔すんなよ。そもそもコイツら、この部屋に入った時点で幻術にかかってたんじゃねえかな。階段に気付いてなかったし」

そう言って、ジンは二人が下りてきたルートを見やる。
勇者一行は決して能力が低い訳ではない。魔物との連戦やトラップの回避を続けつつ、確実に出口に近づいていたのだった。

「ま、さすがは勇者ご一行ってところかね。絶対成功させるだなんて欲を出さずにアスカとじっくり冒険してれば、いつかはデカい宝に届いたかもしれないのにな。どっちみちトラップにハマっちまったんだから、今俺らがこいつらを担いでギルドには戻るのは不可能さ。救難信号発信、っと」

ジンがリュックから魔鉱石を取り出し打ち鳴らすと、音色はどこまでも響いていった。この音が遺跡付近で見回りをつとめる他のレンジャーに伝わる仕組みだ。

「よし、んじゃ最後に…本当の『宝探し』をやりますか! あんた、頼めるかい?」

ジンの呼びかけにアスカは複雑な表情を浮かべたが、ジンの差し出した手を見て前を向き、そして、しっかりとうなずく。

「遺跡の、宝までの道を指し示します…私の力で…!」

アスカが放つ光の筋をジンは地図に書き込み、二人は迷いなく進んでいく。
ほどなくして二人は、いまだ誰も辿り着いたことのない一つの小さな部屋に到達した。
そこには幻ではない、眩い輝きを放つ剣や装飾具が置かれていた。

「よーしよし、睨んだ通りだ! 」

「すごい!すごいですよジンさん!! キラキラで、常に魔力を放っているような…すごく、力を感じます!」

「やったな、アスカ! お宝お宝、最高だぜー!」

すっかりご機嫌なジンとハイタッチを交わしつつ、盗賊時代のジンはこんな雰囲気だったのかもしれないとアスカは想像するのだった。


数日後。
ギルドに戻った二人が持ち帰った戦利品は、街中の話題をさらった。売却によって得た莫大な富を前に、アスカは目を丸くする。
そして、ジンはその半分を迷わずアスカに渡してくれと申し出た。

「そんな! こんな大金、受け取れません!」

「何言ってんだ、村を助けたいんだろ? だいたい、これはあんたの正当な報酬だ。堂々と受け取ってくれよ」

ジンの屈託のない笑顔に、アスカの目から涙がこぼれた。

「ありがとうございます、ジンさん!」

「礼を言うのは俺の方だよ。なあアスカ、また冒険に行こうぜ。俺の知識とあんたの目があれば、もっともっと世界中の宝が見つけられるさ」

「はいっ…! いつかきっと、旅に出ましょうね!」


半年後。
アスカの故郷、キビナの村は見違えるような復興を遂げていた。
アスカが持ち帰った資金を元手に、荒れ果てていた畑は開墾され、村を魔物から守るための用心棒も雇えるようになった。

「よいしょっと!」

アスカは畑仕事に精を出していた。
額の汗を拭い、新しく芽吹いた野菜の葉を眺める。わずか数日の大冒険を経て、自分こうした穏やかな生活に自分は戻ってきたのだ。
ふわりとした風が吹き、疲れを癒してくれる。
しかしその風は、新しい世界を連れてきた。

「よお」

声をかけられ振り向くと、そこには半年前と変わらない、不敵な笑みを浮かべたレンジャーが立っていた。

「ジンさん!!」

「迎えに来たぜ。次のダンジョンの目星がついたんだ」

「迎えに、って…ええっ!? そんな急に…」

そんなの無理ですと言いかけて、アスカはジンの優しい笑顔を見て言葉を飲み込んだ。
そして手のひらの汚れを払うと、満面の笑みでその手を取った。

「はい! 行きましょう、ジンさん!」

そうしてアスカはまた新しい一歩を踏み出した。
それは、新たな「宝探し」の物語が幕が開いた瞬間だった。
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