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第2章
104.神との闘い
しおりを挟む現れたのは、全身が白銀の風で包まれた、四足歩行の巨大な獣だった。背に広がる羽は、風をまとうたびに揺れ動き、瞳は輝くような金色に燃えていた。その姿に、リアは直感する。
「……風そのものを纏っているのか」
ルテラが剣を構え、前に出ようとするが──
「危ない、戻れ!」リアの声と同時に、巨獣が大きく羽ばたいた。次の瞬間、強烈な風が空間全体を吹き荒れ、ルテラの体が後方に弾き飛ばされる。
「くっ……!」ヒナ、アレス、ケニーが立ち上がろうとするが、天井が落ち、崩れた石材で入り口が塞がれる。
「……!閉じ込められた!?」アレスが叫ぶが、その声は重たい石の奥に消えていった。
神殿の大広間には、リア、シャリス、ルテラの三人だけが残された。しかも、目の前の巨獣の身体には、物理攻撃を受け付けない魔法のオーラが揺れていた。
「これは……物理無効か!」
シャリスが、すかさず支援魔法の陣を描き、リアに速度上昇と精神集中の加護を与える。ルテラは剣を両手で握りしめ、肉薄するが、斬撃が風の膜に弾かれてしまう。
「通らない……っ」
巨獣は風をまとい、爪で地面を裂きながらルテラへ飛びかかる。リアが咄嗟に炎の盾を放ち、ルテラを守った。
「ありがとう、リア様……!」
「シャリス、支援を。ルテラ、動きを引きつけろ。俺が攻撃する!」
「了解!」シャリスが次の補助魔法を準備し始める。リアは両手を掲げ、火球を連続で放つ。だが、巨獣は風をまとって飛翔し、炎を渦で打ち消した。
「……やはり正面からでは分が悪い」
その時、巨獣の目がシャリスへと向いた。
「シャリス、下がれ!」
「……っ!」
だが遅かった。巨獣の咆哮とともに放たれた風の弾丸が、シャリスを直撃する。魔法障壁が砕け、シャリスの身体が宙を舞い、石壁に激突して崩れ落ちた。
「シャリス!」
叫ぶリア。さらに、風の衝撃がルテラを襲い、彼女の身体も吹き飛ばされた。
「く……っ!」
地に伏す仲間たち。その姿を見て、リアの中に何かが──静かに、しかし確実に湧き上がっていく。
「……ティグノー。あなたは、王の器を見るというのなら──なぜ、仲間を巻き込む?」
『完全なる覚醒者が、いないとはな……つまらぬ』とティグノーの声が、上から響いた。
リアはゆっくりと立ち上がる。眼に炎が宿る。
「……なら、俺が見せてやる」
魔力が暴風のように溢れ出した。その瞬間、リアの意識に、再び前世の記憶が流れ込む。それは何かの情報媒体で見た粉と火器の危険性についてのものだった。
(……粉塵爆発。あれを……!)
リアはすぐさま部屋の隅にあった、長年放置された木箱へと走り、剣で一気に破壊する。古びた箱から、乾燥した紙、木くず、粉末状の灰が舞い上がる。さらに、何か粉状のものが入った袋を見つけ、それも切り裂き、獣に向かって投げる。
そして、リアは大きく息を吸い、手のひらに火球を集めた。
「……これでおわりだっ!」
その手を掲げ、空中に火球を投げる──
──ボンッッ!!!
鈍い爆音とともに、空間が白く染まった。爆風、熱、そして粉塵が反応し、大爆発が起きる。風の守りをも突き破る衝撃に包まれ、巨獣は呻き声をあげてのけぞった。炎と煙の中で、リアがゆっくりと歩み出る。その姿に、風のオーラが徐々に解けていく。
「……勝ったか」
渾身の火球が放たれ、巨獣の胸を撃ち抜いた。──次の瞬間、巨獣は一声、低く鳴き、青白い光とともに消滅した。
沈黙が広がる。やがて、空間に再びティグノーの声が響いた。
『……面白い……。覚醒には至っていない……が、なぜか“違う”。その知識……この時代にないものだ』
光が天井から差し、倒れたシャリス、ルテラに降り注ぐ。
「……これは……」リアが見上げると、ティグノーの姿は既に無く、光だけが残されていた。
回復魔法だった。傷ついた仲間が、静かに目を覚ます。
「……リア……」シャリスが呟き、ルテラも身体を起こす。
リアはふっと微笑んだ。
『風の神典を受け継ぐ者たちよ。最後の地にて我を解放せよ。テザ山脈の西、祠の頂にて……待つ』
その言葉とともに、光は消え、神殿は静けさを取り戻した。
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