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第一章 異世界到着!目指せ王都!
第十三話 マーリル、いろいろバレました
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いつも読んでいただきありがとうございます!更新時間を12時にしましたので、よろしくお願いします。
――――――――――
どんちゃん、どんちゃんと騒ぎ出した周りを見ながら、誰も此方を注視していないことを確認してからディストは口を開いた。
「マーリルつったな。魔力を感じることは出来るか?」
「魔力を感じるとは、自分の、ではないみたいですね」
「ああ」
魔法を顕現する時に自分の魔力を感じる必要がある。それを元にイメージを重ね、意志を持たせて――とはいえ無意識に近い。イメージが明確であればあるほど勝手に意志を持ってくれている感覚――から、魔法が発動する。その為自らの魔力を感じるのは魔法を使う上で初歩の初歩と言っていいだろう。
しかしディストが言いたい事はそういうことではない。この言い方から推測するに、
「他人の魔力、ですか?」
「そうだ」
真剣に頷いたディストはその鋭い双眸をマーリルに向けた。
「マーリルは冒険者じゃなかったんだよな?」
「はい」
「魔操師でもないのか?」
「ま、そうし?」
「そこからかぁ……」
真剣な表情をしていたディストだったのだが、マーリルが知らないと知ると顔を歪め項垂れた。何故だ。
マーリルは不思議そうにディストを見ていたのだが、それに気付いたのか気付かなかったのかはわからなかったが、ディストは話し始めた。
「おまえ誰に魔法なんてもん教えて貰ったんだよ」
「え、ああ……」
魔法と言うこともバレているらしい。マーリルが話せることはない。必然的に口を噤むしか出来なかった。
「まぁいいや。冒険者に登録するときに職種として大きく分類されるはずなんだが……知ってるか?」
「し、知らないです」
呆れたというよりは、訝しげな表情をしたディストはマーリルから視線を離さない。話しが進まないのと、こういう時の契約を思い出す。
「僕、少し特殊な生まれでして。スクラムのジョイル様に身元保証であるギルドカード作成をお願いしたんです」
スクラムの領主、ジョイルに丸投げした。ディストが何を怪しんでいるのかはわからないが、結構権力がある辺境侯に逆らうほどの人間が冒険者などしていないだろう願望があったからだ。
「ジョイ、ル……スクランズ様か」
「はい」
スクランズ領はサティア国の領土ながら治外法権が成り立つ場所だ。なんでもありとは言わないが、少しくらい不思議なことが合っても『スクランズだから』で済ませられることもあると聞いていた。マーリルは大いに利用しようと考えたのだ。
ディストがジョイルの事を様付けて呼んでいた事からやはりジョイルよりは権力を持っていないことを知る。よかった、と内心冷や汗を流しながらディストが再び口を開くことを待った。
「はぁ、わかった。……サイレンス」
「へ」
「普通に話してもいいぞ」
今まではあまり周りに聞かせられる話ではなかったので、にこやかにしながらも小声で話していた。いくらこちらに注視していないと言っても、聞き耳を立てられていないとも限らない。そこでディストは小声で魔術名を唱えた。
魔術の発動方法は主に三つに分けられる
詠唱、省略詠唱、無詠唱だ。詠唱は通常通り詠唱を行って魔術を使う方法で、省略詠唱は詠唱を省略して魔術名だけ唱え、無詠唱は詠唱をしないことだ。
例えば火の魔術である『ファイアボール』は、手の平サイズの火の玉を投げつけて攻撃する魔術である。詠唱を行って魔術を発動すると「我が手に集え、ファイアボール」となり、省略詠唱は詠唱を省略して魔術名「ファイアボール」だけ唱える。今のディストが行ったのはそれだ。
そして無詠唱だが、何も言葉にしない。それだけ聞くと魔法と何が違うのかと思われるが、一見違いはない。しかし大きく違うのは自由度がない、ということだ。
魔術はその名の通り『術』として確立している。そのためこれ!と決まっていればそれしか使うことが出来ないのだ。
無詠唱は詠唱等の補助が無い分魔力を多く消費するところまでは魔法と変わりない。しかし結果『手のひらサイズの火の玉』が出ることに変わりはないのだ。
しかし魔法は違う。同じくファイアボールを使おうとした場合、イメージを手のひらサイズに限定しなければ、頭の中で思い描いたサイズになるのだ。
今マーリルがファイアボールを使おうと想像する。それが人の頭サイズであればその大きさで顕現されるのだ。その時点ですでに魔術ではない。
魔力の込め具合で多少サイズは変わるものの、大きく外れることはない。
魔法は補助がない分自由度が高い。それが魔力に意志を持たせるということだ。
閑話休題。
「サイレンス。俺たちの周りに魔力を囲うことによって他の人間に声を漏らさない魔術だ」
「はぁ、なるほど」
本当に魔法や魔術は便利だと言わざるを得ない。
「本来冒険者登録をする時には職種をあらかじめ決めておくものなんだよ」
「はい」
「大きく分けて前衛職、後衛職、魔操師になるな」
前衛職は剣や斧・棍、格闘術等の前で戦う人、後衛職は回復、魔術師、弓士など前で戦う以外の人を言う。大雑把にわけていて途中で変えることも可能だ。これは主にパーティを組んだり、互助組合から職業やパーティを斡旋されたい人が使うものでそこまで重要ではない。
重要なのは魔操師のことである。
今この世界で一般的に食べられている『魔物』だが、一昔前まで魔物は食物としては成り立っていなかった。何故なら魔物が持つ魔力が人の体内に入ると『魔力酔い』という現象が起きてしまい、食べられるものではなかったからだ。
それにおおいに貢献したのがスクランズ侯爵家であった。
魔物が死ぬ時に魔物の魔力を操作することにより、魔物の体内にある魔力を一か所に集めることが可能だと発見した。それまでは他人の魔力は扱えないとする事が一般的だったため画期的な発想だったのだ。
(その考えた人日本人の匂いがする)
マーリルはどうでもいいことを考えていた。
「それから魔物の魔力を操作出来る者を『魔操師』と呼んで、魔術師とはわけて考えるようになったんだ」
「全ての人が魔力を操れるわけではないというわけですか?」
「そうだ。それも熟練度みたいなものがあって、魔操師だけはギルドランク以外にランクが存在する」
「へぇ」
他人の魔力は扱えない、という固定観念が昔からあったため、イメージが大事な魔術に大きな弊害を残すこととなった。どんなに他人の魔力を扱えるモノと思おうとしても出来る者と出来ない者にわかれてしまったのだ。そこで魔力を操作できるものを魔術師とはわけて『魔操師』とすることにより重宝するようになった。
魔物は魔操師が捕ってきたものでなければ食べることはできない。魔物自体に魔力が残っているからだ。その残り具合により、四段階にわけられる。
魔操師は『魔操師(技術者)』と認められると、ギルドランク以外に魔操師ランクAが貰える。そこからさらに分けられてA1、A2、A3、A4までありA4が一番ランクが高い。
(ますます日本人くさい!牛肉か!)
なぜここまで魔操師に拘っているかと言うと、魔力が操作された魔物は食物になるとともに『魔石』が取れるのだ。
魔石とは魔力の純粋な結晶の事を言う。人の営みには決して欠かせない、あちらの世界でいう電気のようなものだ。火を点けるのにも、水を出すのにも、明るくするのにも、時に魔術を使う時の補助として重宝されている。
それは魔物の体内の魔力の塊であり、魔操師のランクが高ければ余すことなくあつめ魔石に変えてくるのだ。
「大分話がそれてしまったが、要するに他人の魔力を操作出来るということは当然見ることが出来るということだ」
ディストはそう言った。
漸くここで本題に入ったらしい。もともとなぜマーリルがマジックボックスを使っていることがディストにバレてしまったかを聞いた結果なのだ。教えてくれるのはいいが、なんの話をしていたか忘れるところだった。
「ああ、ではディストさんはわた、僕の魔力の流れを見たということですね」
「そうなるな」
「魔力を見れる人は多いですか?」
「お前危機感皆無なくせに妙なところ鋭いな」
「ん?」
特に思ったことをそのまま口にしただけなのだが、ディストから変な評価を頂戴してしまった。
「まぁいいや。魔力を感じることが出来る者は多いが、見れる者は少ないな」
「ああなるほど」
「だからってあんな迂闊にマジックボックス使ってたらすぐにバレるぞ」
「どうしたら」
「自分で考えろ、て言いたいところだがここまで来たら教えてやるよ」
「すいません」
「マジックバックに偽装しておけばいいんだよ。ああいう魔道具は魔力を纏ってるから自分の魔力か、魔道具の魔力かなんてよく見ないとわかんねぇよ」
「おお!」
「これ、見えるか?」
「ん」
唐突にディストはマーリルに掌を見せた。何の変哲もない節くれだったごつい男の掌である。
しかしよく見れば見るほど掌の上に何かがある様に感じてくる。
「『見る』も使えるのか……いや、それは『観察』か……?」
「んん?」
マーリルにはどちらも聞きなれない単語である。
「お前……魔法を無意識で使っているのか?」
「え」
マーリルが意識して使った魔法は『マジックボックス』と『身体強化』である。他に何か使っただろうかと思っていた時だった。
「おい!マーリル!」
スタンガートには今日は好きにしろと言われている。暗くなる前に帰ればいいだろうと思っていたのだが、随分と長居していたらしい。
マーリルを呼ぶ怒号とも言えるような大声が聞こえてきた。
「あ」
言わずもがな、スタンガートである。世間知らずの危機感皆無のマーリルを迎えに来てくれたようだ。なんだかんだ面倒見の良い奴である。
「お前なぁ飯の前に帰ってこいよ」
「スタンガートさん、すいません」
「いや、ま、怒ってるわけじゃねぇよ」
あからさまにシュンとしたマーリルにたじろぐスタンガート。
「二人とも落ちつけ」
二人して何も言うことが出来ない状態に救いの手が現れた。
「あん?でぃ、ディスト?」
「おう!久しぶりだなスタン」
スタンガートはマーリルしか見えていなかったのか声を掛けられて驚愕した顔をした。
それに苦笑したディストは親しげにスタンガートを呼んだ。
「お知り合いですか?」
マーリルはどちらにも訪ねた。答えたのはスタンガートだ。
「お前こそ、って聞いてもしゃーねぇな。ディストはスクラムに住んでたんだ」
「へぇ」
「商会ってイオシュネだったんだな」
「はい」
先程までのディストとのやり取りが途中になってしまったことが気がかりではあったが、スタンガートが来た以上話を続けるつもりはないようだ。マーリルも気にはなったがディストが話を続ける気がないことに気付きお開きとなった。
余談だが、こちらに話しかける者が居てそれに答えた時に『サイレンス』は勝手に解除されるらしい。
「帰るぞ」とスタンガートに言われて手を引かれてしまった。子供のようなので是非ともやめて頂きたい。
「マーリル!」
「はい」
後ろから名前を呼ばれて反射的に返答した。ディストだ。
「常に発動し続ける身体強化は魔力切れをしたら目も当てられないから、使いどころは見極めような」
「え」
「じゃあな」
「あ、ありがとうございました」
スタンガートに聞こえないように囁かれた言葉はマーリルへの忠告なのだろう。魔力の流れを見ることが出来る者は身体強化もわかるらしい。驚愕に目を見開いたマーリルの顔を見てディストは不適に笑うと、ひらひらと手を降った。最後の最後にしてやられた気分である。
スタンガートとあとは帰るだけだ。ディストの言う通り一旦身体強化は解除した。不本意ながら間違ってはいないので。
「楽しかったか?」
「はい」
「そうか、良かった、な」
「……はい」
ディストとは有意義な話をする事が出来たとマーリルも思った。出来ればもう少し話をしてみたいくらいには。それに国に5人しかいないというSランク冒険者にも興味はある。
(また、会えるといいな)
そう思うくらいには今の時間が楽しかったのだ。
そんな安穏とした雰囲気を醸し出しながら歩いている時だった。
外はすでに暗く、しかし決して人通りがなかったわけではない。巨漢と連れだって歩いていることと、双子から貰った全ての邪気を祓うモノという名前のアクセサリーを身に付けていた事、そもそも危機感が酷く欠如しているマーリルには近付いてきた気配に気が付くことが出来なかった。
アボロスバスティにも弱点と呼ぶべきものがある。
そもこのアクセサリーはどういう効果を示すのか、それはその名の通り自分に向けられる悪意や害になるモノ――感情や魔術、物理的――の排除である。
自分に向いてさえいれば攻撃魔術――身に付けている者の魔力により軽減率が変わる――の軽減や、悪感情を持つもの――魔物や人間など――を近づけさせないこと、つまり結界の発動、すでに掛かっている自らに害を及ぼす魔術――精神に害を及ぼすものなど――を後から身につけることによっても解除する事が出来る。
しかし、自分に向いていなければ排除できないのがまず第一の弱点だ。
例えば今スタンガートとともに歩いており、スタンガートを狙った攻撃はネックレスでは防いでくれない。マーリルを狙ったものではないからだ。
第二にマーリルに悪意を向けていなかった場合だ。
そう今がまさにそれだった。
明らかに毛色の違う貴族の子弟然りとした子供を誘拐せんと暴漢が襲ってきた。しかしアボロスバスティは発動しない。
それは、マーリルに悪意を持って行動した者ではないからだ。
マーリルも後から聞いた話だ。
2人を襲ってきた実行犯は借金を返そうと悪に手を染めた。見目の良い子供を奴隷商に売ろうと画策していた人物に多額の金で雇われたのだ。しかしそれはマーリルが憎くて、マーリルを害そうとして近付いてきたとは判断されなかった。
その後に身の危険があった場合にはアボロスバスティは結界を張ったかもしれないが、今はその条件には当てはまらなかった。
飽くまで金持ちの子供を害そうとしたのは計画を立てた人物であり、実行犯は雇われただけのただの犯罪者だったのだ。
小心者なだけにマーリルを害するつもりが無かったことが、逆にアボロスバスティの結界を発動させなかったようだ。
ディストに言われて身体強化を解除していたこともその一因になってしまった。まだ魔法に慣れていないマーリルは咄嗟に身体強化を発動できなかったのだ。
マーリルはこの世界に来てたったの5日。はやくも事件に巻き込まれてしまったのである。
――――――――――
感想返信
なるべく矛盾が出ないようにと書いてますが、そうすると説明文みたいになっていないか心配になります。テンポ良く書けるといいなと思いながら日々精進です!読んでいただきありがとうございます!
漸く物語が動き出してきた気がします。これからマーリルは好きに動いていくんだろうなぁ(遠い目)
――――――――――
どんちゃん、どんちゃんと騒ぎ出した周りを見ながら、誰も此方を注視していないことを確認してからディストは口を開いた。
「マーリルつったな。魔力を感じることは出来るか?」
「魔力を感じるとは、自分の、ではないみたいですね」
「ああ」
魔法を顕現する時に自分の魔力を感じる必要がある。それを元にイメージを重ね、意志を持たせて――とはいえ無意識に近い。イメージが明確であればあるほど勝手に意志を持ってくれている感覚――から、魔法が発動する。その為自らの魔力を感じるのは魔法を使う上で初歩の初歩と言っていいだろう。
しかしディストが言いたい事はそういうことではない。この言い方から推測するに、
「他人の魔力、ですか?」
「そうだ」
真剣に頷いたディストはその鋭い双眸をマーリルに向けた。
「マーリルは冒険者じゃなかったんだよな?」
「はい」
「魔操師でもないのか?」
「ま、そうし?」
「そこからかぁ……」
真剣な表情をしていたディストだったのだが、マーリルが知らないと知ると顔を歪め項垂れた。何故だ。
マーリルは不思議そうにディストを見ていたのだが、それに気付いたのか気付かなかったのかはわからなかったが、ディストは話し始めた。
「おまえ誰に魔法なんてもん教えて貰ったんだよ」
「え、ああ……」
魔法と言うこともバレているらしい。マーリルが話せることはない。必然的に口を噤むしか出来なかった。
「まぁいいや。冒険者に登録するときに職種として大きく分類されるはずなんだが……知ってるか?」
「し、知らないです」
呆れたというよりは、訝しげな表情をしたディストはマーリルから視線を離さない。話しが進まないのと、こういう時の契約を思い出す。
「僕、少し特殊な生まれでして。スクラムのジョイル様に身元保証であるギルドカード作成をお願いしたんです」
スクラムの領主、ジョイルに丸投げした。ディストが何を怪しんでいるのかはわからないが、結構権力がある辺境侯に逆らうほどの人間が冒険者などしていないだろう願望があったからだ。
「ジョイ、ル……スクランズ様か」
「はい」
スクランズ領はサティア国の領土ながら治外法権が成り立つ場所だ。なんでもありとは言わないが、少しくらい不思議なことが合っても『スクランズだから』で済ませられることもあると聞いていた。マーリルは大いに利用しようと考えたのだ。
ディストがジョイルの事を様付けて呼んでいた事からやはりジョイルよりは権力を持っていないことを知る。よかった、と内心冷や汗を流しながらディストが再び口を開くことを待った。
「はぁ、わかった。……サイレンス」
「へ」
「普通に話してもいいぞ」
今まではあまり周りに聞かせられる話ではなかったので、にこやかにしながらも小声で話していた。いくらこちらに注視していないと言っても、聞き耳を立てられていないとも限らない。そこでディストは小声で魔術名を唱えた。
魔術の発動方法は主に三つに分けられる
詠唱、省略詠唱、無詠唱だ。詠唱は通常通り詠唱を行って魔術を使う方法で、省略詠唱は詠唱を省略して魔術名だけ唱え、無詠唱は詠唱をしないことだ。
例えば火の魔術である『ファイアボール』は、手の平サイズの火の玉を投げつけて攻撃する魔術である。詠唱を行って魔術を発動すると「我が手に集え、ファイアボール」となり、省略詠唱は詠唱を省略して魔術名「ファイアボール」だけ唱える。今のディストが行ったのはそれだ。
そして無詠唱だが、何も言葉にしない。それだけ聞くと魔法と何が違うのかと思われるが、一見違いはない。しかし大きく違うのは自由度がない、ということだ。
魔術はその名の通り『術』として確立している。そのためこれ!と決まっていればそれしか使うことが出来ないのだ。
無詠唱は詠唱等の補助が無い分魔力を多く消費するところまでは魔法と変わりない。しかし結果『手のひらサイズの火の玉』が出ることに変わりはないのだ。
しかし魔法は違う。同じくファイアボールを使おうとした場合、イメージを手のひらサイズに限定しなければ、頭の中で思い描いたサイズになるのだ。
今マーリルがファイアボールを使おうと想像する。それが人の頭サイズであればその大きさで顕現されるのだ。その時点ですでに魔術ではない。
魔力の込め具合で多少サイズは変わるものの、大きく外れることはない。
魔法は補助がない分自由度が高い。それが魔力に意志を持たせるということだ。
閑話休題。
「サイレンス。俺たちの周りに魔力を囲うことによって他の人間に声を漏らさない魔術だ」
「はぁ、なるほど」
本当に魔法や魔術は便利だと言わざるを得ない。
「本来冒険者登録をする時には職種をあらかじめ決めておくものなんだよ」
「はい」
「大きく分けて前衛職、後衛職、魔操師になるな」
前衛職は剣や斧・棍、格闘術等の前で戦う人、後衛職は回復、魔術師、弓士など前で戦う以外の人を言う。大雑把にわけていて途中で変えることも可能だ。これは主にパーティを組んだり、互助組合から職業やパーティを斡旋されたい人が使うものでそこまで重要ではない。
重要なのは魔操師のことである。
今この世界で一般的に食べられている『魔物』だが、一昔前まで魔物は食物としては成り立っていなかった。何故なら魔物が持つ魔力が人の体内に入ると『魔力酔い』という現象が起きてしまい、食べられるものではなかったからだ。
それにおおいに貢献したのがスクランズ侯爵家であった。
魔物が死ぬ時に魔物の魔力を操作することにより、魔物の体内にある魔力を一か所に集めることが可能だと発見した。それまでは他人の魔力は扱えないとする事が一般的だったため画期的な発想だったのだ。
(その考えた人日本人の匂いがする)
マーリルはどうでもいいことを考えていた。
「それから魔物の魔力を操作出来る者を『魔操師』と呼んで、魔術師とはわけて考えるようになったんだ」
「全ての人が魔力を操れるわけではないというわけですか?」
「そうだ。それも熟練度みたいなものがあって、魔操師だけはギルドランク以外にランクが存在する」
「へぇ」
他人の魔力は扱えない、という固定観念が昔からあったため、イメージが大事な魔術に大きな弊害を残すこととなった。どんなに他人の魔力を扱えるモノと思おうとしても出来る者と出来ない者にわかれてしまったのだ。そこで魔力を操作できるものを魔術師とはわけて『魔操師』とすることにより重宝するようになった。
魔物は魔操師が捕ってきたものでなければ食べることはできない。魔物自体に魔力が残っているからだ。その残り具合により、四段階にわけられる。
魔操師は『魔操師(技術者)』と認められると、ギルドランク以外に魔操師ランクAが貰える。そこからさらに分けられてA1、A2、A3、A4までありA4が一番ランクが高い。
(ますます日本人くさい!牛肉か!)
なぜここまで魔操師に拘っているかと言うと、魔力が操作された魔物は食物になるとともに『魔石』が取れるのだ。
魔石とは魔力の純粋な結晶の事を言う。人の営みには決して欠かせない、あちらの世界でいう電気のようなものだ。火を点けるのにも、水を出すのにも、明るくするのにも、時に魔術を使う時の補助として重宝されている。
それは魔物の体内の魔力の塊であり、魔操師のランクが高ければ余すことなくあつめ魔石に変えてくるのだ。
「大分話がそれてしまったが、要するに他人の魔力を操作出来るということは当然見ることが出来るということだ」
ディストはそう言った。
漸くここで本題に入ったらしい。もともとなぜマーリルがマジックボックスを使っていることがディストにバレてしまったかを聞いた結果なのだ。教えてくれるのはいいが、なんの話をしていたか忘れるところだった。
「ああ、ではディストさんはわた、僕の魔力の流れを見たということですね」
「そうなるな」
「魔力を見れる人は多いですか?」
「お前危機感皆無なくせに妙なところ鋭いな」
「ん?」
特に思ったことをそのまま口にしただけなのだが、ディストから変な評価を頂戴してしまった。
「まぁいいや。魔力を感じることが出来る者は多いが、見れる者は少ないな」
「ああなるほど」
「だからってあんな迂闊にマジックボックス使ってたらすぐにバレるぞ」
「どうしたら」
「自分で考えろ、て言いたいところだがここまで来たら教えてやるよ」
「すいません」
「マジックバックに偽装しておけばいいんだよ。ああいう魔道具は魔力を纏ってるから自分の魔力か、魔道具の魔力かなんてよく見ないとわかんねぇよ」
「おお!」
「これ、見えるか?」
「ん」
唐突にディストはマーリルに掌を見せた。何の変哲もない節くれだったごつい男の掌である。
しかしよく見れば見るほど掌の上に何かがある様に感じてくる。
「『見る』も使えるのか……いや、それは『観察』か……?」
「んん?」
マーリルにはどちらも聞きなれない単語である。
「お前……魔法を無意識で使っているのか?」
「え」
マーリルが意識して使った魔法は『マジックボックス』と『身体強化』である。他に何か使っただろうかと思っていた時だった。
「おい!マーリル!」
スタンガートには今日は好きにしろと言われている。暗くなる前に帰ればいいだろうと思っていたのだが、随分と長居していたらしい。
マーリルを呼ぶ怒号とも言えるような大声が聞こえてきた。
「あ」
言わずもがな、スタンガートである。世間知らずの危機感皆無のマーリルを迎えに来てくれたようだ。なんだかんだ面倒見の良い奴である。
「お前なぁ飯の前に帰ってこいよ」
「スタンガートさん、すいません」
「いや、ま、怒ってるわけじゃねぇよ」
あからさまにシュンとしたマーリルにたじろぐスタンガート。
「二人とも落ちつけ」
二人して何も言うことが出来ない状態に救いの手が現れた。
「あん?でぃ、ディスト?」
「おう!久しぶりだなスタン」
スタンガートはマーリルしか見えていなかったのか声を掛けられて驚愕した顔をした。
それに苦笑したディストは親しげにスタンガートを呼んだ。
「お知り合いですか?」
マーリルはどちらにも訪ねた。答えたのはスタンガートだ。
「お前こそ、って聞いてもしゃーねぇな。ディストはスクラムに住んでたんだ」
「へぇ」
「商会ってイオシュネだったんだな」
「はい」
先程までのディストとのやり取りが途中になってしまったことが気がかりではあったが、スタンガートが来た以上話を続けるつもりはないようだ。マーリルも気にはなったがディストが話を続ける気がないことに気付きお開きとなった。
余談だが、こちらに話しかける者が居てそれに答えた時に『サイレンス』は勝手に解除されるらしい。
「帰るぞ」とスタンガートに言われて手を引かれてしまった。子供のようなので是非ともやめて頂きたい。
「マーリル!」
「はい」
後ろから名前を呼ばれて反射的に返答した。ディストだ。
「常に発動し続ける身体強化は魔力切れをしたら目も当てられないから、使いどころは見極めような」
「え」
「じゃあな」
「あ、ありがとうございました」
スタンガートに聞こえないように囁かれた言葉はマーリルへの忠告なのだろう。魔力の流れを見ることが出来る者は身体強化もわかるらしい。驚愕に目を見開いたマーリルの顔を見てディストは不適に笑うと、ひらひらと手を降った。最後の最後にしてやられた気分である。
スタンガートとあとは帰るだけだ。ディストの言う通り一旦身体強化は解除した。不本意ながら間違ってはいないので。
「楽しかったか?」
「はい」
「そうか、良かった、な」
「……はい」
ディストとは有意義な話をする事が出来たとマーリルも思った。出来ればもう少し話をしてみたいくらいには。それに国に5人しかいないというSランク冒険者にも興味はある。
(また、会えるといいな)
そう思うくらいには今の時間が楽しかったのだ。
そんな安穏とした雰囲気を醸し出しながら歩いている時だった。
外はすでに暗く、しかし決して人通りがなかったわけではない。巨漢と連れだって歩いていることと、双子から貰った全ての邪気を祓うモノという名前のアクセサリーを身に付けていた事、そもそも危機感が酷く欠如しているマーリルには近付いてきた気配に気が付くことが出来なかった。
アボロスバスティにも弱点と呼ぶべきものがある。
そもこのアクセサリーはどういう効果を示すのか、それはその名の通り自分に向けられる悪意や害になるモノ――感情や魔術、物理的――の排除である。
自分に向いてさえいれば攻撃魔術――身に付けている者の魔力により軽減率が変わる――の軽減や、悪感情を持つもの――魔物や人間など――を近づけさせないこと、つまり結界の発動、すでに掛かっている自らに害を及ぼす魔術――精神に害を及ぼすものなど――を後から身につけることによっても解除する事が出来る。
しかし、自分に向いていなければ排除できないのがまず第一の弱点だ。
例えば今スタンガートとともに歩いており、スタンガートを狙った攻撃はネックレスでは防いでくれない。マーリルを狙ったものではないからだ。
第二にマーリルに悪意を向けていなかった場合だ。
そう今がまさにそれだった。
明らかに毛色の違う貴族の子弟然りとした子供を誘拐せんと暴漢が襲ってきた。しかしアボロスバスティは発動しない。
それは、マーリルに悪意を持って行動した者ではないからだ。
マーリルも後から聞いた話だ。
2人を襲ってきた実行犯は借金を返そうと悪に手を染めた。見目の良い子供を奴隷商に売ろうと画策していた人物に多額の金で雇われたのだ。しかしそれはマーリルが憎くて、マーリルを害そうとして近付いてきたとは判断されなかった。
その後に身の危険があった場合にはアボロスバスティは結界を張ったかもしれないが、今はその条件には当てはまらなかった。
飽くまで金持ちの子供を害そうとしたのは計画を立てた人物であり、実行犯は雇われただけのただの犯罪者だったのだ。
小心者なだけにマーリルを害するつもりが無かったことが、逆にアボロスバスティの結界を発動させなかったようだ。
ディストに言われて身体強化を解除していたこともその一因になってしまった。まだ魔法に慣れていないマーリルは咄嗟に身体強化を発動できなかったのだ。
マーリルはこの世界に来てたったの5日。はやくも事件に巻き込まれてしまったのである。
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感想返信
なるべく矛盾が出ないようにと書いてますが、そうすると説明文みたいになっていないか心配になります。テンポ良く書けるといいなと思いながら日々精進です!読んでいただきありがとうございます!
漸く物語が動き出してきた気がします。これからマーリルは好きに動いていくんだろうなぁ(遠い目)
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