双子の弟妹が異世界に渡ったようなので、自分も行くことにします

柊/アズマ

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第一章 異世界到着!目指せ王都!

第十五話 マーリル、更にバレました

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 マーリルがマジックボックスから取り出したのは一振りの日本刀だった。いくつか父が所持していたうちの一本で、殆どが売りに出されてしまったがなんとか残されていた一本だった。
 きちんと登録証つきの本物の刃物だ。

 マーリルはこの世界に来るときにこの日本刀を見付けた。強欲な親類たちに奪われなかったのは、真亜莉たち姉弟しかしらない道場の隠し部屋があったからだ。そこに手紙もあったわけだが、道場ごと壊されてしまえば発見されて奪われていただろう。

 父はこの一振りの刀を真亜莉に譲る旨と、譲渡の仕方などが簡素に書かれていた。


 父から譲られた日本刀は今マーリルの手の中に納まっている。真剣を触ったことは初めてだが、妙にしっくり来る気がした。

「おにいしゃま……どうするの?」

 チラチラと刀に視線をくれながらナイティルに問いかけられた。

 にぃ、と確実に10代の少女はしないだろう三日月の形に口角を上げてから、鉄の格子がついた頑丈な出入り口をマーリルは見据えた。

「君たちは離れていてね」
「う、うん」

 突如として雰囲気の変わったマーリルに何かを察した子供たちは、素早く距離を置いて壁際に寄った。

(今なら何でも出来る気がする)

 日本から持ち込んだ武器だが、魔力を纏うその武器はまさに『魔武器』と呼ぶべきものに変化していた。ゆっくりと鞘から抜き、その刀身を見据えると美術品の様に輝く妖しい刀身が現れた。

 ここは地下の窓一つない牢屋の中だ。何かに反射して光っているのではなく、刀身そのものが光を発しているようだ。静かに光が納まっていくのを見ながら、手に持ったままだった鞘だけをマジックボックスに収納すると、マーリルは一度表情を戻した。
 一度目を瞑り深呼吸をする。鼻で吸って口からゆっくりと吐きだす。表情と共に心も凪いで行くように感じた。

 次に目を開けた時にはまるでここを切ってくれとでも言っているように、鉄格子の一部がうっすらと光って見える道筋があった。


 無意識で使っている魔法は、どこまでも意志を持つ。
 魔術を無効化する鉄格子のを見付けた探索サーチは、マーリルにその意志を伝えるのだ。

「ふっ」

 詰めていた息を腹に力を入れたと同時に吐きだし、手の中にある日本刀を振るった。


 音はなかったのかもしれない。
 しかし確実に鉄の格子だけでなく、部屋の扉ともども切れた手応えはあった。

 次いでガシャンだとか、ガタンだとか大きな音を立てて部屋はひらけた。

「な、なんだ!」

 始めに異変に気が付いたのは見張りをしていた男だった。勿論扉の横にだらしなく座っていたところに、自分が居た場所の僅かに横にあった扉が切られたのだ。気が付かないはずがない。そして、それに対して対処の方法を知らなかったことが、この見張りの男の更なる不幸の始まりだった。

 扉が切られることなど異常事態と言ってもいい。そんな明らかに不自然な部屋の中に、あろうことか男は踏み込んでしまったのだ。それが他の仲間なりの応援を待っていれば男の未来は変わっていたのかもしれない。しかし驚き過ぎてそのまま中を覗き込んでしまったのだ。

 ゴッ、と鈍い音と激痛で自分の間違いに気付く。
 全ての間違いは甘い汁だけ吸おうと年端もいかない子供を誘拐したこと。また計画していた時点ですでに破綻していた事に気が付かなかったこと。男は意識を失う直前、その間違いに気が付いた。

  ――――――もう、遅い。


「お、にぃちゃま?」
「ん?」

 扉を切った後に情けない声を出してあろうことか覗きこんできた見張りの男。マーリルはなんのためらいも無く男の頭を叩き落した。刀の柄で。凄まじくも鈍い音がしたが、死んではいないだろう。

「これで縛っておいて」
「あ、はい」

 返事をしたのはミネだ。こんな時冷静でいられるのは実は女のほうかもしれない。男の子たちは惚け過ぎていて固まってしまっている。
 マジックボックスから取り出した縄をミネに渡したマーリルは、この部屋から出ないように子供たちに言いつけて部屋を出た。

 とは言え、部屋から離れるつもりはない。子供たちを人質に取られてしまえば本末転倒もいいところだ。

「おい!何があった!」
「なんだ!」

 ゾロゾロ怒号を撒き散らせながら男たちが姿を現す。その数5人ほど。

(この位ならやれるか?)

 慌てることなく冷静に自分と男たちの実力の差を想像するが、その必要はないことに気付く。

 先程から勝手・・に発動している探索は、がここに到着したことを教えてくれたからだ。
 直後、ドガンッ、ドゴッという「建物を壊す気か!」と言われてもおかしくない程の轟音が階上から鳴り響いた。


「マーリル!どこだ!?」

 聞こえて来たのは勿論Sランク冒険者のディストだ。
 一度会ったことのある人物の魔力が身体にインプットされるらしく、探索でディストがここの近くまで来ている事はわかっていた。

 特にディストのように身体強化を使い、魔力を身体に纏わせている場合は少しくらい遠くに居てもわかりやすいようだ。地下にある牢屋がある部屋を探しているのだろう声が階上から聞こえてきた。

 たぶんディストが大声で呼んでいるのが目の前にいる少年なのだと気が付いたのだろう。男たち5人は人質にでもしようとマーリルにじりじりと近づいてくる。

「ディストさん!こっちです!」

 自分だけならまだしもマーリルの後ろには子供たちがいる。ここを動くわけにはいかない。

 マーリルは男たちと相対する事にした。



 結果的に言えば敵にはならなかった。なぜなら完全にマーリルを害そうと近付いてきている男たちにアボロスバスティが発動。まずマーリルに近付く事が出来ない。その隙に身体強化した速さと膂力で男たちを無効化する事が出来たからだ。

「マーリル無事か!」
「はい、ディストさん」

 漸く辿り着いたディストは、元気な様子のマーリルに安堵の溜息を吐きだした。

「おまっ、本当に!」
「え?」

 次の瞬間ディストは鬼の形相に成り変わって近づいてきたため顔が引きつった。
 誘拐されてしまったのはマーリルのせいではない。完全に目の前で寝転がる――気絶させてロープで縛っている――男たちのせいである。

 身体強化を咄嗟に発動できなかったのは慣れていなかっただけで、どうしてあんな輩に捕まってしまったのかは疑問が残るが、「まぁ無事ならいいか」とマーリルは思う。
 それに牢屋にいた他の子供たちも助けることが出来たので、結果オーライでいいのではないかと思うのは、楽観的すぎだろうか。

 そんな表情が出ていたのかディストの三白眼が更に鋭くなる。

(いや怖いから)

「マー兄?」
「おにぃ、しゃま?」

 背後から声が聞こえてきた。

「みんなもう大丈夫だよ」

 クルリと後ろを向いて子供たちに笑い掛けてあげた。決してディストの顔が怖いわけではない。

「マーリル……」
「…………」

 呆れている様な声が背後から聞こえてきても振り向かない。振りむけない。

「てか、それなんだ?」
「ん?」

 それが何を示すのかはわからない。何故なら未だにディストに背中を向けている状況だからだ。
 しかし子供たちの四対の瞳がマーリルの持つ日本刀に向けられている事から、ディストが見ているのもたぶんそれなのだろうと思われた。

(やばっ)

 渡り人に縁ある人であれば『日本刀』を知っているかもしれない。ヴィアーナたちから渡り人だとバレないようにしろと言われていたのに、既にギクリとしたのは二度目である。一度目はスタンガートに料理を作った時だ。

(ああ、それにしても)

 とてつもなく眠い。
 攫われたのは夕飯前なので夕方だとすると、今は夜中と言う辺りだろうか。もしかしたら朝方も近いのかもしれない。子供たちも眠そうにしているが、緊張のためか頑張って起きている。

 その時階上からどやどやと人の気配がしてきたのは、どうやら援軍が来たみたいだ。安堵したディストの気配と、マーリルの探索にも害する気配はひっかからない。それに安心して、更に睡魔がマーリルを襲う。

(あ、もしかして魔力使い過ぎ?)

 更に探索を使うと眠気が増したことを考えると、外れてはいない気がした。

「みんな、もう大丈夫だからおうちに帰りなね」
「え、お兄しゃま?」

 子供たちのくりくりとした眼を見ると心苦しいものを感じるが、ここで女とバレるわけにはいかない。
 マーリルは一人一人の頭を順に撫でていく。癒される。

 ディストが居れば後は平気だろうと、任せることにした。押しつけたとかではない。


 このままここで眠りについてしまえばいくら少年然りとした見た目でも女だとバレてしまうだろう。そうするとスタンガートも旅には連れていってくれないかもしれないし、一人で旅をすることは止められている。
 少しばかり怪しくても、ここは戦略的撤退がベターだろう。

「ディストさん」
「あん?」

(だから怖いって!)

「後は任した!」
「は?」

 子供達に背を向けて、再びディストと相対したマーリルは、シュタ!と敬礼した瞬間、淡い光が輝いた。

「は?」

 今一度呟いたディストの声を最後に子供たちの前からも、ディストの前からもマーリルは、消えた。



「あ、成功」

 マーリルが飛んだ・・・のは一度だけ荷物を置きにきたスチマの街の宿だった。

 出来る気がしたのだ、『転移』が。
 ラノベでは当たり前に使われていた転移の魔法。行ったことがある場所にしか移動できないが、魔法を使うことが出来れば使うことが出来ると思われた。

 身体強化やマジックボックス、日本刀に魔力を流した時の感覚から自分が使えるモノ、使えないモノが感覚的にわかるらしい。

 ディストの目の前で眠るわけにはいかない。ではどうすればいいのか。目の前で寝なければいいのだ。そう極論にマーリルは達した。
 では何処で眠ればいいのか。迷惑を掛けた自覚は――不本意ながら――あるので、ならば安全な場所で眠ればいい。つまりそういうことである。

 未だ手に持ったままの日本刀をマジックボックスにしまうと、マーリルはベッドに身体を沈みこませた。

 肉体的な疲労ばかりではなく、精神的な疲労もあったらしくマーリルの意識はすぐに沈み込んだ。

 自分がしでかしたこと、してしまったことは一旦忘れることにした。
 嫌なことは忘れるのが一番である。


 マーリルは何も知らなかったのだ。

 双子ふたりから貰った『全ての邪気を祓うモノアボロスバスティ』は正しくレア中のレアアイテム。白金貨を積んでも手に入れることは難しい『魔道具』だということを。またその事実に貴族が気が付いてしまったことを。

 自然と振るった『日本刀』が光り輝いていたのは魔力を纏った『魔武器』になってしまったということを。

 『転移』は失われたと言われている『古代魔法ロストマジック』だということを。


 マーリルは何も知らなかったからこそ、安宿の部屋で熟睡できたのだ。

(悠莉……十莉……)

 久しぶりに幼子に触れて二人を思い出してしまった。早く二人に会いに行きたい。
 
 マーリルは久しぶりに幸せそうに笑う弟妹の夢を見た、気がした。




――――――――――
次回から閑話を4つほど挟みますので本編は進みません。
他視点からみるマーリルの暴走っぷりをご覧下さい。はじめの三つは続けて更新します!

いつも読んでいただきありがとうございます!
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