双子の弟妹が異世界に渡ったようなので、自分も行くことにします

柊/アズマ

文字の大きさ
47 / 57
第二章 到着した王都サンドイで

第十七話 マーリル、新たなカンジを発見しました

しおりを挟む
お久しぶりです。久しぶり(ええ、一年ぶりです)すぎて、マーリルと一緒にジャンピング土下座をしたいと思います。
一年経っていてもしおり数がそれほど減っていないことに驚愕とともに、嬉しさでいっぱいです。ありがとうございます。
他にも諸々ありますが、詳しくは活動報告をご覧下さい。
ここには今までのあらすじと本編を掲載します。ちなみに本日は2話更新しております。

●今までのあらすじ
主人公真亜莉まありの双子の弟妹が行方不明になって1年が経った頃不思議な手紙を受け取った。そこには弟妹たちが異世界トリップしてしまったことが書かれていた。真亜莉はそれを元に異世界に行くことを決意する。どうにか辿り着いた先で真亜莉が本来はこの世界の人間であること。『ウル』という王族が持つ力を有していること。そのウルを持つことにより死亡フラグが立ったことを知る。真亜莉は弟妹たちがいる『ストロバリヤ』という国を目指すとともに、死亡フラグを折る手段を知るためにマーリルという男(の子)冒険者になって王都を目指す。
危機感の足りないマーリルは、王都サンドイへいく途中に大小様々な事件に巻き込まれる。そこで出会ったのは『ディスト』と名乗る見た目厳つい、中身おかんな『混じり』と呼ばれる渡り人の血を持つ男であった。
ディストとともに漸く王都へついたと思えば『始祖種アヴァ・モント』と呼ばれる化け物の襲来と、今まで見たことのない『カンジ』が彫られた透明な魔物との遭遇であった。前線で戦っていたマーリルだったのだが、嫌な予感と再び見掛けた透明な魔物を追って王城へ向かった。しかし信用もない一冒険者であるマーリルがすんなりと入れるはずがない。焦ったマーリルは見知った(一度だけ会った)宰相であるクルマリオを発見し、クルマリオ目掛けて王城へ侵入するのだった。

(1/2)
ーーーーーーーーーーーーーーー




「たいっっっへん、申し訳ございませんでしたぁぁぁああああ!!!」

 脳内で予想していた通りマーリルはジャンピング土下座で口火を切った。勿論本心からの謝罪であり、混乱させてしまったことに申し訳なさを感じていたのも嘘ではない。

「宰相様!!大変なんです!」

 ただし、最初に話し始めることにより会話の主導権を握ろうとした下心があったことも否めない。ましてジャンピング土下座などこの世界の人は見たい事がないだろう奇抜さを狙って、呆気にとられている間にこちらの言い分を通そうとしたなんてことまで折り込み済みではあったが。

「貴方は、冒険者の……マーリル、でしたね?」
「そ、そうです!!そうなので、その、」
「はい」
「後ろの方たちに剣を下してもらってもいいで、すかぁぁあああ?」

 目の前に剣先を突き付けられたマーリルは、二度目の土下座を余儀なくされた。


「蟲の魔物が城内にいるですって!?」
「そそ、そうなんです!」

 会話の主導権を握るどころか、未だ剣先を突き付けられている状態のマーリルは宰相であるクルマリオの尋問――悲鳴交じりではあったが尋問で間違いではなかった――に吃りつつも肯定した。とにかく場内に魔物が、それも透明になって視認出来ない魔物が侵入していることを伝えた。

「ど、どこにいるかわかりますか?」
「魔法……使ってもいいですか?」

 相変わらず剣先を目の前にしながら――そんな状態に慣れつつある危機感皆無のマーリルではあるが――探索サーチしてもいいのかを確認する。

(え!?)

 詠唱も予備動作もなく魔法を使ったことに気が付いたものはここにどれだけいただろうか。クルマリオが瞠目したことで宰相は気が付いたことは明確だったが、マーリルはそんなことにも気が付かず今城内にいるだろう二体の魔物を探した。反応はすぐに見付ける事が出来た。しかし―――――

「たぶん、ナティの!ナイティル殿下のところに!」

 慌てていたので大分フレンドリーな言い方になってしまった。言い直すだけの冷静さは残っていたらしいマーリルは、それでも焦りを隠しきれず叫ぶ。

「なっ!」
「行きます!」
「え」

 あれほど使うなと言われていたことをまるっと忘れたマーリルは、宰相や騎士をおいてけぼりにさくっとナイティルのところへ飛んだ。勿論転移を使って。


「ナイティル!」

 一体はいた。今まさにナイティルに迫っていたブレ・・は、素早く手のひらの中に出したナイフで刺した。何かがぽろりと落ちた気がしたが、それに構っている暇はない。もう一体、いるはずだ。

「にぃ、しゃま?」
「マーリル、か?」

 クルディルも一緒にいたらしく、突如として現れたマーリルに驚きを隠せない二人の少年王子が目に入った。

「クルディル!魔眼を!あの、透明な蟲がいる!」
「何!?」

 焦りながらもクルディルが魔眼を発動した気配を感じながらマーリルもくまなく部屋を見渡す。

 豪奢な家具がゆったりと置かれ、テーブルセットには今しがたまで茶を飲んでいた跡がある。部屋の片隅には控えていたのだろうメイドが二人固まっており、バタバタとした足音が外から聞こえてきた。どうやらここはどちらかの王子の私室らしい。

「殿下!無事ですか!?」

 ドンドンと扉を叩く音と更に騒がしい音も追加されとうとう扉が外から破られる。

「っ!!」

 探索していた一体が悠然と、しかも透明で視認されていない魔物も扉から入ってきてしまった。

「どけっ!」

 咄嗟に取り出した刀を構えると、一見マーリルは扉から入ってきた騎士に斬りかかったように見える。それさえもマーリルにはどうでもよかった。団子蟲レウスと違いカブトムシ型の魔物は羽を広げナイティルに向かって飛んだからだ。

「誰も動くな!」

 クルディルが機転を利かせてくれなければ斬られていたのはマーリルの方だっただろう。クルディルの命令に一瞬動きを止めた騎士たちを横目にマーリルは刀を振り下ろした。


 城内に侵入した二体の蟲を倒すことに成功したマーリルは、またもぽろりと落ちた何かを見て初めて周りを見渡す余裕が出来た。

「…………」

 しん、としている空気はとても張り詰めていてとりあえず、そっと手の中の刀を消した。それからぐるりと部屋を見渡すと、騎士に連れられたクルマリオを発見し、「えへ」と笑いかけてから、

「城内に侵入した二体の魔物の殲滅完了しました!」

 足を揃えきりりとした表情を作り、額の横に手のひらを揃えて敬礼した。

 クルマリオの青筋を見たのは本日二度目である。二度目のジャンピング土下座をしたのは言うまでもない。



「それで、その魔物はどこに?」
「あの、この間会議にかけられた透明になる魔物って聞いてますか?」
「はい。『カンジ』が使われていたとか」
「そうです。その透明な魔物が二体ここに居ます」
「っ!」

 驚愕したクルマリオを見ながらマーリルは自らの足元を指差した。

「……わかりました。今騎士団を呼びます。誰か、呼んできなさい!」
「は!」

 僅かにでも冷静さを取り戻したクルマリオは、すかさず伴っていた兵士に指示を飛ばす。そこで他にいた兵士が何かを発見したらしくクルマリオを呼んだ。

「宰相様!これはどうしましょう」
「なんですか?」
「これ――――――」

 床に落ちていた何か・・を拾おうと触れた瞬間、

「え」
「――――っ!?」

 その兵士の足元に穴が開き、吸い込まれるように姿を消した。

「誰も触るな!」

 怒号とも呼べる声を出したのは、やはりクルマリオだった。

 今まで兵士が居た場所を見てみると真っ二つに割れた石ころが落ちていた。よくよく見なくても魔石だとわかるのは微かに魔力が漂っているからだ。正しくは残留魔力と言ってもいい。微かに残った魔力はすぐに空気中に混じり、四散した。

「そ、れ……」

 たぶん今兵士を穴に落としたのだろう魔石はさっき見たものなのだろう。

「マーリル、知っているのですか?」

 怪訝なクルマリオに正直に伝える。そうあれは――――

「魔物から落ちたものだと思います」
「魔物が?」
「はい。斬った瞬間落ちたかと、たしか……」

 魔力切れでただの石ころと化した石とは別にもう一つ落ちているはずだ。再び部屋の中を見渡すとキラキラと魔力が輝いている石を発見する。

「あれです」

 大きさは親指の爪よりも僅かに大きい程度。マーリルのように魔力が見える者でなければ見落としていたかもしれない大きさだ。

「誰か、」
「失礼する」

 再び指示を出そうとしたクルマリオの声を遮って現れたのは、総司令官のファンダルだった。後ろにはディストとともにいたSランクの冒険者が一人いる。

「いいところに。またあの蟲がいたそうです」
「は!」

 たぶん呼びにいった兵士から聞いているのだろう。あの会議室ではファンダルは蟲が見えないようだったから見える者を連れてきたらしい。早速マーリルの足元にいる二体の魔物を検分している。

「それと一つ、」

 先程の怪しい魔石についても話し始めた。絶対にさわらないこと、と言い含めてそちらも見ているようだ。

「こっちはもう魔力が残っていないようだ。一度の使いきりでしょう」
「触っても大丈夫でしょうか?」
「恐らくは。ただ確証がないので今は触らないほうがいい」
「わかりました」
「あちらは駄目ですね。完全に魔力が残っているので、発動すれば同じことが起こるでしょう」
「わかりました。研究員を呼んで調べさせます」

 クルマリオとファンダルの間で話が纏まったのか、二人はそのままの流れでマーリルのほうを見遣った。

「詳しく話を聞かせて頂けますね?」
「はい」

 マーリルに選択権はない。ただ知っていることも多くはないので、前線に出て魔物をぶっ倒した時から戦場近くで透明な魔物を見掛けたこと、そしてたぶん『カンジ』を施したらしき日本人――つまり渡り人が居たこと。異様な感じを受けて逃げてきたことを話す。ついでに王都周辺に数体居たことも。

「わかりました。魔力の見える騎士を派遣します」

 マーリルの話を信じてはくれたらしく直ぐに騎士を手配してくれるようだ。これでマーリルの役目も終わるだろう、と思っていたのだがクルマリオによって遮られる。

「貴方はこの魔石、どう見ますか?」
「え、えっとぉ」

 触るな危険、状態なため魔眼を発動して静かに魔石を見据える。

「……っあ、あー……」
「何か、見えたんですか?」
「もん、と」
「もん?」
「漢字で『門』と書いています」
「どういう意味ですか?」
「ゲートです。通行するための出入口、という意味です」
「――――っ!」
「一方通行の転移のようなものですかね。強制発動の、」

 驚愕したクルマリオと冷静なファンダルは、今は鳴りを潜めたただの石ころと化した魔石を見た。


 仮定を立証するように、穴の中に消えた兵士が見付かることはなかった。

しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛

タマ マコト
ファンタジー
喪女として誰にも選ばれない人生を終えた佐倉真凛は、異世界の伯爵家三女リーナとして転生する。 しかしそこでも彼女は、美しい姉妹に埋もれた「地味枠」の令嬢だった。 前世の経験から派手さを捨て、魔法地雷や罠といったトラップ魔法を選んだリーナは、目立たず確実に力を磨いていく。 魔法学園で騎士カイにその才能を見抜かれたことで、彼女の止まっていた人生は静かに動き出す。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...