双子の弟妹が異世界に渡ったようなので、自分も行くことにします

柊/アズマ

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第二章 到着した王都サンドイで

第二十一話 マーリル、対峙しました

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予約忘れです。すいません!
そして、少し短めです。
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 透明になっている魔物をセンルターたち魔術騎士団に任せたマーリルは、見たくなくとも視界に入り込む巨大な魔物――王色蠍スコーピオンキングをも無視して魔物に『カンジ』を彫っただろう渡り人を探し始めた。

  ―――彼は何者なのだろうか。始祖種と関係あるのだろうか。

 あの時感じた恐怖を振り払うように、考えても仕方ないことがマーリルの頭の中を回る。
 マーリルが感じた恐怖は、得体の知れないこともそうだが一番はその存在感の無さなのだろう。この世界にきて気配に敏感になったはずが、その存在が近付くまで全く気付かなかったのだ。本当に人間なのだろうか。

 そんなことをぐるぐると考えていると、一際ブレ・・て見える場所を発見した。怪しいというよりも、間違い無さそうな場所だった。マーリルは腹に力を込めて深呼吸すると、しっかりと手に刀が収まっていることを確認しその場へ向かった。

『残念。もう気付かれたか』

 その男は直ぐに見付かった。前回と逆で今回は男の方が背を向けており、どのような表情でそう言っているのかわからない。

『もう少し先伸ばしにしたかったのだが……が、ったほうか……』

 男は何事か呟き、ゆくっりと此方を振り返った。


 瞬間的に吹き出す殺気。

「え……」

 若そうな男だった。白髪が混じる黒髪で、焦げ茶色の目をしている。マーリルに見覚えはない。しかし、その双眸は見開き驚愕を顕にした次の瞬間、肌を刺すような威圧感と殺気がこちらへ向けられる。

「……おま、え……お前は!!」

 男のほうはマーリルを知っているのだろうか。この世界に来てまた二ヶ月程だ。知り合いなんて限られている。

(知り合い、なんて感じではないけど……)

 真っ向からの本気の殺意を誤魔化すように、マーリルは口の中で呟いた。

「いや待てよ、逆に考えると仮説が正しかったことが証明されるじゃないか」

 親の敵と言わんばかりに憎悪を向けていた男ったが、それとはうって代わり今度は嬉しそうな声をあげる。三日月のように口角を吊り上げるとにたりと笑った。

 そして男は、表情も、声色も、口調もバラバラに、次々と意味のわからないこと呟き始めた。

「いや殺してしまおう」「駄目です。まだ、此方は完成していない」「大丈夫だ、まだ猶予はある」「だが、目の前に」「後でも出来る」「今は優先事項を……」「悲願が……」「モウスグダ……モウスグダ……」

  ―――これは何だ。

 身体が勝手に震えてくる。マーリルに話しかけているのではない。男の殺意の全てをマーリルに向けて尚、男はマーリルに会話を求めていない。

「…………っ」

 まるで自分自身と会話しているかのように。

「モウスグダ」「完成したんですね」「漸く、ようやくぅ――――――様…………」

 男は呟く。

「な、に…………」

 マーリルの呟きを拾い、暫くして男の焦点が合った。

「ふはっはっはっはっは」

 突如として笑い声を上げた男は、それはそれは嬉しそうな満面の表情でマーリルを見た。

「逢いたかったよ。とても……とてもね」
「――――っ!」

  ――――グルル!

(誰だ。誰だ。この男は、誰だ!?)

 マーリルの頭の中で警鐘がなる。今まで黙って成り行きを見守っていたディアも警戒音を発した。

「まさか、嬢ちゃんだったとは……気付かなかったよ」
「だ、れ」

 漸く発した声は酷く掠れており、直ぐ傍で戦っている戦闘音の方が余程大きい位だ。しかし男はきちんと声を拾ったようで、律儀にもマーリルの質問に答えた。

「ああ、貴女は私のことは知りませんよ。まぁ、会ったことはありますが」
「どういう、」
「それはどうでもいいのですよ」
「――――っ」

 鋭い殺気がマーリルを貫く。黙って話を聞けという事なのだろう。

「貴女には感謝しております。私の仮説が証明された。それは同時に完成されたということだ」
「…………」
「ただ、」
「うっ…………」
「今すぐ殺してやりたいくらい、憎くもある」

 立っていられないほどの殺気に身体はガタガタと震えが止まらず、息がしづらい。

「招待状はもう出した。後は待つだけだ」
「え」

 男はそう言ってから、最近よく見る魔石を取り出した。

「招待状に気付くことを祈っています」

 輝く魔石は発動したことを示している。

 ここで逃してはいけない。そうは思うのに、マーリルの身体が動いてくれることはない。

「待っていますよ……『ストロバリヤ』で」
「――――っ!」

 男は素早く『ゲート』を発動し、ぽっかりと開いた穴へと飛び込んでしまった。


 あれは誰なのか。
 マーリルの何をそんなに憎悪させるのか。
 あの魔石は何なのか。
 その目的は。
 招待状とは。
 ストロバリヤに繋がっているのか。
 始祖種アヴァ・モントとの関係は。
 
 考えれば考えるほど何もかもがわからなくなる。
 マーリルは、この世界に来てからわからないことだらけだ。


 真亜莉まありは元はこの世界の人間であり、『ウル』というわけのわからない力を持っているらしい。それに加え、現代に生きるこの世界の人ではあまりいないような大きな魔心官――魔力を循環させ魔力を蓄えておく器官――を持っており、そんな魔力を与えたディアは変貌を遂げた。マーリルの残された時間だってあまり多いとは言えず、弟妹たちが無事でいるのか幸せでいるのかも確認出来ていない。
 それもこれも『ストロバリヤ』という国が閉鎖し人の出入りが自由に出来ないからだ。何故そんなことをしたのか問い詰めてやりたい、と考えても詮ないことを思う。

 今も始祖種なんて化け物が目の前に迫っており、命の危機に瀕している騎士たちや軍人、冒険者で溢れておりそこかしこで金属音が聞こえてくる。
 始祖種はお伽噺の中に存在する化け物らしい。大昔にヒトが犯した過ちの代償だと、負の遺産だと言う。誰だそんな罪を犯したやつは。ここに出てこい。懲らしめてやる。

 マーリルの思考は所謂現実逃避だ。考えても仕方がないことだとわかっていながら、責任転嫁しなければぐちゃぐちゃの気持ちがマーリルを覆ってしまいそうで恐かったのだ。
 日本など平和な国で生きていれば、殺したいほどの憎悪を向けられることなど早々あることではない。殺意も殺気も無縁と言ってもいい。だが、この世界は違う。生きるだけで過酷なこの世界では子供でさえも命のやり取りをする。勿論、相手は魔物だったり獰猛な動物相手が多いだろう。しかし、人を相手にすることも少なからずあるのだ。


  ―――クルル

「ディア……」

 思考の沼に嵌まりかけたマーリルを掬い上げたのはディアだ。マーリルを心配そうに肩口から見上げている。

「ごめん、もう大丈夫」

 本当は大丈夫などとは口が避けても言えない状態だ。自分に言い聞かせていなければまた呑まれてしまうだろう。

「大丈夫」

 よし、と思考を切り替えてマーリルはしっかりと刀を握りしめ直した。

「行こう」

 あそこへいけば、全てがわかるだろうか。真亜莉の大事な双子の弟妹たちがいるという『ストロバリヤ魔法大国』に。


 戦いは終わっていない。マーリルは再び透明な魔物を探すために、魔眼を発動させた。
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