詠み人知らず、言わずと知れて。

立花伊作

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届けたい想いがある

言葉は人を縛る。

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言葉は人を縛る。

それが善いものでも悪いものでも
変わらない。

「駄目だ」と言ったら駄目になる。

「出来る」と言ったら出来る。

人の言葉というのは、時に、
人を救うことだって出来るし、逆に、
人を殺すことだって出来るのだと思う。

「好きだ」と言ったら、
言った分だけその人を好きになるだろう。

「好きだ」と言われたら、
この人は自分のことが好きなのだと
舞い上がるのだろう。

舞い上がった鼓動の高鳴りを、時に人は、
恋の高鳴りと勘違いをする。

そこから恋が進展する者もいれば、
気の迷いだったのだと冷めてしまう者もいる。

僕は何時だって後者だった。

僕は恋はしない。
だが、
人間として愛されることに喜びを感じる。

両者の違いを簡潔に述べよと言われれば、
答えることはなかなか難しいものだが、
自分の中で確かに違うものであるという自覚、自論は持っている。

恋は、相手に全てさらけ出しても構わないと思えるものだろう。
もしくは、相手の全てを愛おしく思う気持ちだろう。

そんな気持ちになれたら、
どんなに楽しいものだろうかと思う。

が、僕にはそのような感情は
持ち合わせていなかっただけのこと。

羨ましい、とは思う。

恋をして、女の子は可愛くなる。

恋をして、男の子は逞しくなる。


好意を寄せた相手に、
振り向いて欲しいと願う気持ちは決して、
醜いものではない。

好意を寄せられて嫌な人はいないだろう。

誰だって、誰かからの愛を欲している。

自分を好きだと言ってくれる人がいる安心が欲しいのだろう。

それでも自分はその好意に甘えて、
相手に同じ意味での好意を返せないことに苦しむ。

罪悪感にも似たような気持ちを抱えて、
その人の隣に立ち続けるのだ。

そんな思いをするのが恐ろしくて、
好意を寄せてくれる人を酷い言葉で突き放してしまう。

告白を断る行為というのは、
自分が傷つきたくないという意思表示でもあるのではないかと思う。

自分を慕ってくれた人に、
本当の自分を知られて嫌われてしまうのが怖いのだ。

せっかく、この人は、
自分を好きだと言ってくれたのに、
好意を持ってくれたのに、
その気持ちが裏外される瞬間がとてつもなく怖いのだ。

自分に向けられる笑顔が、
軽蔑の視線に変わるのと同じように。


人の心というのは、
何時だって完璧ではない。

必ずどこかに闇を抱え、
あることをきっかけに裏返ることもある。

しかし、それを責めてしまっては元も子も無いのだ。

誰だってそうなのだから。

人の揺らぐ心を責める資格を、
貴方は持っていない。

もちろん、相手も持っていない。

分かっていても、
自分を守らなければ人は生きていけない。

ある一種の条件反射のような、懺悔。

相手を許すことのできなかった自分を呪い、また心変わりしてしまった相手をも憎む己の醜さを悔やむ。

涙を流せば救われるとは言わないが、
涙を流さなければ浄化される心も無いのだろう。

涙は己の闇を浄化する雨。

その雨がやんだ頃には、
貴方の笑顔も見られるのだろう。

言葉は己を縛る。

だが、己を解き放つことも出来るのだ。

「ごめん」「ありがとう」

それだけで、
心の呪縛を解くことだってきっとできる。

「好きになってくれてありがとう」

それだけで、
相手の想いがどれだけ美しいものになるのだろう。

「醜い」と言われてしまえば、
その心は醜くなってしまう。

「美しい」と言われれば、
その心は美しく残るだろう。

「気の迷いだ」と言われてしまえば、
その心は無かったことにされてしまう。

自分の中に確かに存在した心が無かったことにされることは、
こっぴどく振られるよりも辛いことだと思う。

私は一体何人の人に、
そのような思いをさせてしまったのだろう。

恋愛だけではない。

友情もまた同じ。

今でも後悔していること、
悔やんでいることはたくさんある。

しかし、それが無かったら今の私はいないのだと思うと、
申し訳無いことではあるが、
私を慕ってくれた人たちにお礼が言いたい。

「私を好きになってくれてありがとう」
と心の底から思っている。

どうかこの確かな思いを、
届けてはくれないか。

そして、その思いと同時にまた届けて欲しい思いがある。

「同じ好意を返せなくてごめんなさい。
  それでも僕は、貴方たちを愛している」と。
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