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32.次元の狭間
40.獣の心
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イーラの野性が叫んでいる。顔を全力で逸らせ、と。
しかし、理性が訴えかける。正体を確認しろ、と。
そして、知性は諭してくる。正体が分かった方がいいぞ、と。
イーラはここで多数決によって、理性知性を優先した。
血の中から飛来する鋭い眼光の正体を探ろうとする。
そこにいたのは白銀の悪魔。血液によって真っ赤となっているが、白銀の悪魔だ。その両手には二刀のナイフが装備されている。
野性も理性も知性も同じことを思っている。アレはヤバい。避けろ、イーラ! クソッ! 多数決の言うことなど聞かなければよかった。
薄緑色のナイフが閃き、それを追うように闇色のナイフが瞬振された。
イーラの首が三分の一ほど斬られる。その傷から、斬撃が首から頭と体の二手に分かれて走っていった。
イーラはスイッチを二つ切った。理性と知性のスイッチだ。獣の心を大きく打ち出したのだ。
人間相手であれば、獣に成り下がったという表現になるだろう。しかし、ことイーラに限ってはそうならない。獣に成り上がった。
イーラは、今でこそ理性と知性を手にし、理論と知恵に翻弄される存在であるが、もともとは獣であった。獣である期間の方が長かったイーラにとって、獣としての本能が、理性や知性よりもよっぽど優れているのだ。
つまり、人の時よりも獣の時の方が強いのだ。
アシドが戦いに参加する。
死角からの最速の突きを、イーラは見ずに獣的本能のみで躱した。そのままアシドの下に手を入れ、超低空からのアッパーにより、蒼髪の少年は空中に飛ばされてしまう。
右の爪でアシドを切り裂こうとするが、シキが飛び込む。然の魔剣と鉄鋼の爪がぶつかり、火花を散らした。
しかし、拮抗できたのは瞬きできない程の時間。それより後は然の魔剣の勝ち。鉄鋼の爪が簡単に、すべて切り取られた。
流れるように闇色のナイフが、金毛の剛腕を切りつける。しかし、斬撃は走らない。体表を覆う金毛が斬撃を防いだのだ。
闇の魔剣は脅威にならない。
イーラは然の魔剣にのみ注意を向ける。他は無視しても構わない。
レイドの大剣は無視してはいけない気がする。斬撃ではなく打撃の方面が脅威となりそうだ。
アストロの魔術とアシドの槍撃は無視して、シキを見つめる。
アストロは舌打ちして、アシドは唾を吐いた。
届かない。たかだか伝説の領域にしかいない小僧、小娘は神に手が届かない。
神話の域に到達しているシキが蹴りを入れる。イーラは無視しようとしたが、圧し潰される空気の悲鳴を聞き、急いで顔を逸らした。
殺神的な蹴りの後、時間差で然のナイフが振られる。蹴りから半歩詰めているため、ナイフの届く距離になってしまっている。
『グ!』
2㎝の傷を創ったが、逆に言えばそれで済ませた。
『ゴァ!!』
イーラが左腕を高速で動かす。鋼硬の爪でシキを切り裂こうとする。魔力を通した然の魔剣で受けた。
イーラの爪が切り取られる前に振り切った。一本の爪を犠牲にして、シキを弾き飛ばした。
そして、イーラはアシドとレイドを殴り飛ばした。
アレンは凡人だ。神と戦うなど、考えるだけで、いや、考えることも烏滸がましい。
アレンは戦いが始まってから、ずっと頭を抱えて蹲っている。一切参加できていない。
レイドは攻撃が届いていなくても。
アシドは攻撃が効いていなくても。
アストロはその存在が無視されていたとしても。
コストイラは全身の骨が折れていたとしても。
エンドローゼは髪の毛の半分を白く染めてしまったとしても。
シキはその命を散らす可能性があったとしても。
それでも神と戦おうとしている。
アレンは何もできない。何もできない。何もできない。結局、僕は愚図のままだ。
しかし、愚図には愚図の戦い方がある。唐突な行動にこそ、愚図の強みがある。
僕の今の今まで戦いに参加していないがゆえに、全員の意識から消えている。それに、戦い方を一切知られていないのは強みだ。
とはいえ、アレンの武器はなんだ? 戦い方を知られていないと言っても、戦い方自体がなければ意味がない。
もし、その質問をアレン自身にしたならば、そんなものあるわけない、と返すだろう。
アレンが常人よりも優れている点があるとするならば、怯えていることで手に入った亀の甲姿勢能力と、使いこなせていない魔眼だ。相手に不快感を与えるばかりの欠陥品だが、今はそれが有難い。
アレンが魔眼を使う。アレンの眼が怪しく光るのと同時に、イーラが気付いた。獣的な本能が、確実に刺激される。
そちらに目を向けると、気色悪い眼でこちらを視る男が映った。
誰だ? 知らん。
何者だ? 知らん。
何をしている? 知らん。
無視すればよいではないか? そうだな。
しかし、殺せ!
絶対に、確実に、真っ先に殺せ!
理性や知性の言葉に耳を貸すな。野性を信じろ。
奴を殺せ!
その周りにいる魔女や槍者のことなど轢き殺せ!
アレンへと遠慮なしの熱い視線を送るイーラに嫉妬し、三本ある尾のうちの一本を斬った。
イーラはそれでもスタートを切った。
未だに真っ直ぐ立つことができないアシドが、それでも強烈な一撃を加えた。しかし、止まらない。アシドは弾き飛ばされてしまった。
アレンは絶望する。ステータスが見えてしまっているからこそ、きちんと絶望してしまう。
ステータスの差を見てしまうと、よく分かってしまう。
勝てない。
アシドが錐揉みしながら飛んでいるのを見て、よく理解してしまった。
アストロは運命に抗う。しかし、魔法が間に合わない。イーラは足元に黒い靄が絡んでいるが、減退しても能力が高いままだ。ありったけの魔力を注ぎ、魔術を放つが、金毛に弾かれ、霧散してしまった。そして、アストロの体は打ち上げられてしまう。
アレンが後悔する。魔眼なんて使わなければよかった。アレンの輝く茶色の眼に涙が溢れてくる。
嫌悪を完全に殺そうと五指を開き、凶爪で引き裂こうとする。
アレンはただ一つの感想が出た。
あ、死んだ。
しかし、理性が訴えかける。正体を確認しろ、と。
そして、知性は諭してくる。正体が分かった方がいいぞ、と。
イーラはここで多数決によって、理性知性を優先した。
血の中から飛来する鋭い眼光の正体を探ろうとする。
そこにいたのは白銀の悪魔。血液によって真っ赤となっているが、白銀の悪魔だ。その両手には二刀のナイフが装備されている。
野性も理性も知性も同じことを思っている。アレはヤバい。避けろ、イーラ! クソッ! 多数決の言うことなど聞かなければよかった。
薄緑色のナイフが閃き、それを追うように闇色のナイフが瞬振された。
イーラの首が三分の一ほど斬られる。その傷から、斬撃が首から頭と体の二手に分かれて走っていった。
イーラはスイッチを二つ切った。理性と知性のスイッチだ。獣の心を大きく打ち出したのだ。
人間相手であれば、獣に成り下がったという表現になるだろう。しかし、ことイーラに限ってはそうならない。獣に成り上がった。
イーラは、今でこそ理性と知性を手にし、理論と知恵に翻弄される存在であるが、もともとは獣であった。獣である期間の方が長かったイーラにとって、獣としての本能が、理性や知性よりもよっぽど優れているのだ。
つまり、人の時よりも獣の時の方が強いのだ。
アシドが戦いに参加する。
死角からの最速の突きを、イーラは見ずに獣的本能のみで躱した。そのままアシドの下に手を入れ、超低空からのアッパーにより、蒼髪の少年は空中に飛ばされてしまう。
右の爪でアシドを切り裂こうとするが、シキが飛び込む。然の魔剣と鉄鋼の爪がぶつかり、火花を散らした。
しかし、拮抗できたのは瞬きできない程の時間。それより後は然の魔剣の勝ち。鉄鋼の爪が簡単に、すべて切り取られた。
流れるように闇色のナイフが、金毛の剛腕を切りつける。しかし、斬撃は走らない。体表を覆う金毛が斬撃を防いだのだ。
闇の魔剣は脅威にならない。
イーラは然の魔剣にのみ注意を向ける。他は無視しても構わない。
レイドの大剣は無視してはいけない気がする。斬撃ではなく打撃の方面が脅威となりそうだ。
アストロの魔術とアシドの槍撃は無視して、シキを見つめる。
アストロは舌打ちして、アシドは唾を吐いた。
届かない。たかだか伝説の領域にしかいない小僧、小娘は神に手が届かない。
神話の域に到達しているシキが蹴りを入れる。イーラは無視しようとしたが、圧し潰される空気の悲鳴を聞き、急いで顔を逸らした。
殺神的な蹴りの後、時間差で然のナイフが振られる。蹴りから半歩詰めているため、ナイフの届く距離になってしまっている。
『グ!』
2㎝の傷を創ったが、逆に言えばそれで済ませた。
『ゴァ!!』
イーラが左腕を高速で動かす。鋼硬の爪でシキを切り裂こうとする。魔力を通した然の魔剣で受けた。
イーラの爪が切り取られる前に振り切った。一本の爪を犠牲にして、シキを弾き飛ばした。
そして、イーラはアシドとレイドを殴り飛ばした。
アレンは凡人だ。神と戦うなど、考えるだけで、いや、考えることも烏滸がましい。
アレンは戦いが始まってから、ずっと頭を抱えて蹲っている。一切参加できていない。
レイドは攻撃が届いていなくても。
アシドは攻撃が効いていなくても。
アストロはその存在が無視されていたとしても。
コストイラは全身の骨が折れていたとしても。
エンドローゼは髪の毛の半分を白く染めてしまったとしても。
シキはその命を散らす可能性があったとしても。
それでも神と戦おうとしている。
アレンは何もできない。何もできない。何もできない。結局、僕は愚図のままだ。
しかし、愚図には愚図の戦い方がある。唐突な行動にこそ、愚図の強みがある。
僕の今の今まで戦いに参加していないがゆえに、全員の意識から消えている。それに、戦い方を一切知られていないのは強みだ。
とはいえ、アレンの武器はなんだ? 戦い方を知られていないと言っても、戦い方自体がなければ意味がない。
もし、その質問をアレン自身にしたならば、そんなものあるわけない、と返すだろう。
アレンが常人よりも優れている点があるとするならば、怯えていることで手に入った亀の甲姿勢能力と、使いこなせていない魔眼だ。相手に不快感を与えるばかりの欠陥品だが、今はそれが有難い。
アレンが魔眼を使う。アレンの眼が怪しく光るのと同時に、イーラが気付いた。獣的な本能が、確実に刺激される。
そちらに目を向けると、気色悪い眼でこちらを視る男が映った。
誰だ? 知らん。
何者だ? 知らん。
何をしている? 知らん。
無視すればよいではないか? そうだな。
しかし、殺せ!
絶対に、確実に、真っ先に殺せ!
理性や知性の言葉に耳を貸すな。野性を信じろ。
奴を殺せ!
その周りにいる魔女や槍者のことなど轢き殺せ!
アレンへと遠慮なしの熱い視線を送るイーラに嫉妬し、三本ある尾のうちの一本を斬った。
イーラはそれでもスタートを切った。
未だに真っ直ぐ立つことができないアシドが、それでも強烈な一撃を加えた。しかし、止まらない。アシドは弾き飛ばされてしまった。
アレンは絶望する。ステータスが見えてしまっているからこそ、きちんと絶望してしまう。
ステータスの差を見てしまうと、よく分かってしまう。
勝てない。
アシドが錐揉みしながら飛んでいるのを見て、よく理解してしまった。
アストロは運命に抗う。しかし、魔法が間に合わない。イーラは足元に黒い靄が絡んでいるが、減退しても能力が高いままだ。ありったけの魔力を注ぎ、魔術を放つが、金毛に弾かれ、霧散してしまった。そして、アストロの体は打ち上げられてしまう。
アレンが後悔する。魔眼なんて使わなければよかった。アレンの輝く茶色の眼に涙が溢れてくる。
嫌悪を完全に殺そうと五指を開き、凶爪で引き裂こうとする。
アレンはただ一つの感想が出た。
あ、死んだ。
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