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32‐5.愁苦辛勤
1.フォン
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「お前が月の魔王か!?」
『……は?』
それは月で生活を始めて700年が経とうとしていた頃である。
ディーノイに内緒で地上にやってきたのだ。それはもうお忍びで。
ディーノイが気付いて追ってくる一時間ほどを目いっぱい楽しもうとしていた。そこでやっていた祭りが目につき、かなり陽気に遊んでいた。屋台を巡り、頭の右側には元々持っていた狐のお面、左側には簡単な模様が描かれた赤いお面をつけている。右手にはよく分からぬ甘いお菓子が入った袋と水棲の小生物の入った袋が一つずつと、先端に飴のついた棒菓子三本が指に挟まっている。左手には先程買った焼団子のようなものの串がある。
この串、タレが甘辛く、実にフォン好みの味に仕上がっている。しかも団子は焼き過ぎず焼かな過ぎずでかなりもちもちしていて好き。おっと、口端にタレが。この拭い取った指が、これまた旨い。
そんな幸せに浸っている時だった、冒頭の台詞は。
祭りの喧騒の中、二人は静かに対峙する。周りはどうやら祭りの方に夢中らしく、こちらの異常事態に気付いていない。さらに、気付いた者も、魔王がこんな小さな子供ではないだろうと思い、祭りに戻っていった。
うわー、これ面倒な奴だ。私こういうの嫌なんだよなーと思いながら、あっちに場所を移そうと横道を差す。
女はそれを了承し、二人で横道に入り、人混みから離れる。
『で、突っかかってきたけど、何?』
「お前が月の魔王だな!?」
『いや、まぁ、そうだけど、何?』
「魔王は敵! 討伐対象!」
『え、何で?』
それは煽りでも何でもない純粋な疑問だった。
別に悪いことはちょっとしかしていないし、それは子供の悪戯で済む程度だった。それなのに、なぜ殺されなければならないのだ。
「そ、それは……」
女は言葉を詰まらせた。
「……なんか、そう言われたから」
言葉を詰まらせた挙句、出てきた言葉がそれだった。フォンは眉間に皺を寄せてしまう。そんな理由で殺されたくないんだけど。
フォンは焼団子を食べ終え、ただの木の串にすると、トッテムに向けた。
『もっと自分を大事にしなよ。私これでもチョー強いからメッチャ無謀だよ。自分の意志じゃなくって他人からの指示で私に対面しているっていうなら、私は言葉で戦わせてもらう。無駄な殺生は700年前にもう止めようと決めたからさ』
「なっ!?」
トッテムは頬を紅潮させ、身を仰け反らせた。
『見つけたぞ、フォン』
その時、フォンの後ろにいつの間にか現れた男が、フォンの肩に手を置いた。
その後の会話は覚えていないが、フォンがその男に連れて行かれたのはよく覚えている。その手を振るフォンの笑顔は特に。
これがフォンとトッテムの初邂逅となった。
『……は?』
それは月で生活を始めて700年が経とうとしていた頃である。
ディーノイに内緒で地上にやってきたのだ。それはもうお忍びで。
ディーノイが気付いて追ってくる一時間ほどを目いっぱい楽しもうとしていた。そこでやっていた祭りが目につき、かなり陽気に遊んでいた。屋台を巡り、頭の右側には元々持っていた狐のお面、左側には簡単な模様が描かれた赤いお面をつけている。右手にはよく分からぬ甘いお菓子が入った袋と水棲の小生物の入った袋が一つずつと、先端に飴のついた棒菓子三本が指に挟まっている。左手には先程買った焼団子のようなものの串がある。
この串、タレが甘辛く、実にフォン好みの味に仕上がっている。しかも団子は焼き過ぎず焼かな過ぎずでかなりもちもちしていて好き。おっと、口端にタレが。この拭い取った指が、これまた旨い。
そんな幸せに浸っている時だった、冒頭の台詞は。
祭りの喧騒の中、二人は静かに対峙する。周りはどうやら祭りの方に夢中らしく、こちらの異常事態に気付いていない。さらに、気付いた者も、魔王がこんな小さな子供ではないだろうと思い、祭りに戻っていった。
うわー、これ面倒な奴だ。私こういうの嫌なんだよなーと思いながら、あっちに場所を移そうと横道を差す。
女はそれを了承し、二人で横道に入り、人混みから離れる。
『で、突っかかってきたけど、何?』
「お前が月の魔王だな!?」
『いや、まぁ、そうだけど、何?』
「魔王は敵! 討伐対象!」
『え、何で?』
それは煽りでも何でもない純粋な疑問だった。
別に悪いことはちょっとしかしていないし、それは子供の悪戯で済む程度だった。それなのに、なぜ殺されなければならないのだ。
「そ、それは……」
女は言葉を詰まらせた。
「……なんか、そう言われたから」
言葉を詰まらせた挙句、出てきた言葉がそれだった。フォンは眉間に皺を寄せてしまう。そんな理由で殺されたくないんだけど。
フォンは焼団子を食べ終え、ただの木の串にすると、トッテムに向けた。
『もっと自分を大事にしなよ。私これでもチョー強いからメッチャ無謀だよ。自分の意志じゃなくって他人からの指示で私に対面しているっていうなら、私は言葉で戦わせてもらう。無駄な殺生は700年前にもう止めようと決めたからさ』
「なっ!?」
トッテムは頬を紅潮させ、身を仰け反らせた。
『見つけたぞ、フォン』
その時、フォンの後ろにいつの間にか現れた男が、フォンの肩に手を置いた。
その後の会話は覚えていないが、フォンがその男に連れて行かれたのはよく覚えている。その手を振るフォンの笑顔は特に。
これがフォンとトッテムの初邂逅となった。
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