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33.魔大陸
4.大いなる真似人
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もやもやとした気持ちのまま、歩み続ける。
魔大陸は魔素が濃い。その分だけ、獣の心は曇らされる。
魔素の感度が高いアストロとエンドローゼは、ボーッとしている。感度の低いアレンですら、その濃さが理解できてしまう。
「村だ」
コストイラが目を細め、先を見通す。
コストイラの落とした呟きの通り、視線の先には村の存在を示す篝火が焚かれていた。その前には村衛を行っているのであろう兵がいる。そして、巨大な蛇も。おそらく村衛兵の真似か遣い魔だろう。
村衛兵がいるということは、そこそこに知性のある者達が集まっているのだろうと予想をつけた。それはつまり、会話が通じるという判断だ。
それでも、全面的な信用はせず、慎重に村に近づく。
先に気付いたのは超大蛇だった。自慢のピット器官で、こちらを感じ取ったのだ。
『シュー』
超大蛇がこちらを警戒する。その警戒音によって、村衛兵もこちらに気付いた。
じっとこちらを見つめている。ある一定の距離に近づくまで、行動を起こさないつもりだろう。ならばちんたら歩いている暇はない。
先程よりも大股で村に向かう。
魔素は元々この世界にはないものだ。それがたかだか500年で適応できるはずがない。
魔素に含まれる毒素は、人体には馴染まない。そもそも1000年あっても30%の確率で馴染むという代物なのだ。
浴び、晒され続けると、獣の心が曇らされる。理性と知性を破壊されているため、正常な判断ができなくなってしまう。
会話ができる魔物が珍しいのはそれが理由である。
村衛兵は近づいてくる一行を前に、真正面から向かっていった。
コストイラは何か会話をするのだろうと思った。
しかし、村衛兵はそこで槍を突き出した。コストイラは咄嗟に躱し、刀の柄でかち上げる。
アシドが槍を突き出すが、村衛兵は槍の柄で受け止めた。点を点で受け止めるなど、かなりの実力者ということだ。
村衛兵は槍を弾き、距離を取った。
そこでヨルムンガンドが大口を開けて、襲い掛かってきた。シキはコストイラとアシドの襟を掴むと、後方へと投げ飛ばした。コストイラとアシドは体を丸めてゴロゴロと転がる。投げ飛ばした張本人は空中に留まり、ヨルムンガンドの腹の中へ入っていった。
「し、シキさん!?」
「大丈夫よ。アイツは殺しても死なないような娘よ」
少し納得してしまったが、その評価は果たして人間に対してしていい評価なのだろうか。
巨大蛇はシキを飲み込んだまま、地面に潜っていった。体がコストイラの前から消えた時、村衛兵は槍を繰り出していた。
コストイラは片膝を着いたまま、刀を振った。刃先が穂先にあたり、かち上げる。
晒された胸部にアストロが魔力をぶつけた。
村衛兵が踵で地面を砕きながら後ろに跳んだ。そのまま刀の範囲外まで逃げる。
刀の範囲外だからといっても、他の武器の範囲外というわけではない。
アシドがコストイラの体を飛び越えながら、槍を振るった。村衛兵の回避も防御も間に合わない。
アシドの槍が左腕にあたり、誰がどう見ても完全に折れた。骨が半ばから折れ曲がり、肌を突き破って、外に露出した。
しかし、村衛兵は左手を槍から離し、右腕一本で槍を振り下ろして反撃した。
アシドは咄嗟に槍で往なした。村衛兵はさらに後ろへと下がり、槍も当たらない位置へと行く。
村衛兵は折れている左手でも槍を持った。
こいつ、痛みがないのか?
走る。走る。走る。
走れる喜びがある。走れると言っても、陸上選手のような両手を振って、両腿を上げて、という走り方ではない。獣のような四足の走り方だ。それでも進める。進める広さがある。
この道は視界が紫色をしている。おそらく毒が濃すぎるのが原因だろう。
ヨルムンガンドに食べられた時、体の奥の方に送られていた。シキは今、頭の方へと向かって走っている。
ある程度の距離を走った時、ジャッと踏ん張った。喉内粘液と細かな柔毛に足を滑らせながら、腰裏のナイフを抜き、頭上を突き刺した。
飽和以上に毒の解けた血液と、飽和並みに毒の解けた組織液が、超大蛇の喉に溢れ出した。そこに闇のナイフも振るう。
闇の魔剣の効果により、血管がズタズタに引き裂かれた。向こう側が見えるようになっている。シキはナイフを天に向かって突き上げた。
超大蛇が痛みに身を捻らせる。
そのナイフが捉えたのは、蛇の内臓だった。
温かいという感想を持ちながら、シキは手を伸ばした。内臓にナイフを引っかけ、昇っていく。
温かな血の海を抜けた先は、アツアツな肉の海。
シキが辿り着いたのは、異常に発達した右肺。
平然と肺に風穴を開け、さらに登っていく。目指すのは脳だ。
クゥと小さく腹が鳴った。シキが腹を押さえる。脳のことを考えていたからだ。
ジュルと少し涎を垂らしながら、蛇の体を中から昇る。そして、遂に蛇の脳に辿り着いた。
「ムフー」
シキは待ったなしで脳にかぶりつき、歓喜の息を漏らした。そのまま繊維を噛み千切り、組織を食い破り、大きく口を動かし、咀嚼する。
美味しい。
シキは脳が好きだ。だって、美味しいから。父と修行していた期間、山籠もりを何度もさせられた。その際に食した野生動物の脳が非常に美味しかったのだ。
それ以来脳が好きだ。ブチブチモキュモキュと超巨大な脳を、幸せそうな顔で、半分以上食べたところで気付いた。
これ、皆で分け合いした方がいいのではなかろうか。
超大蛇はすでに事切れているため、他力本願で地上に出ることはできない。
「ムムム」
シキは脳漿と血液でベタベタになっている顎に触れながら、シキなりの知恵を絞る。よく分からないが、とりあえずまずは脳の周りの血管を斬っておくか。
「違う。痛みがないわけじゃねぇ。痛い時にそれを表に出すやり方を知らねぇんだ」
村衛兵は痛そうに腕を振るわせながらも、それを表に出さずにこちらを視ている。キョロキョロと目玉だけを動かし、辺りを見渡している。ヨルムンガンドを待っているのかもしれない。
だが、おそらく戻ってくることはないだろう。絶対的ではないが、やってくれると信じている。それほどまでに、アストロの中でのシキの評価は高い。
村衛兵は槍を突き出しては戻し、掲げては戻し、腰を捻っては戻す。おそらく、何をすればいいのか分からないのだろう。
「なるほど。こいつは獣の部類ね。自分で見た者を真似することで自分を見出している。むしろ、それしかできない存在と言ってもいいわ」
「真似人」
目がギョロギョロと動き始めた村衛兵が次の行動を決めた。
村衛兵は槍をぐるぐる回しながら、全力で駆けだした。
コストイラは通り抜けざまに首を斬り落とそうと、刀を握り直した。
その時、ポコン、と。いっそコミカルに地面から頭が生えた。
「ム?」
突如として現れたシキの頭に、村衛兵は足を引っかけた。勢いがありすぎたが、何とかして踏み止まった。
「お、ま」
タイミングを思いっきり外されたコストイラは刀を抜き、頑張って合わせて振り切った。
そして、真似人の首が落ちた。
魔大陸は魔素が濃い。その分だけ、獣の心は曇らされる。
魔素の感度が高いアストロとエンドローゼは、ボーッとしている。感度の低いアレンですら、その濃さが理解できてしまう。
「村だ」
コストイラが目を細め、先を見通す。
コストイラの落とした呟きの通り、視線の先には村の存在を示す篝火が焚かれていた。その前には村衛を行っているのであろう兵がいる。そして、巨大な蛇も。おそらく村衛兵の真似か遣い魔だろう。
村衛兵がいるということは、そこそこに知性のある者達が集まっているのだろうと予想をつけた。それはつまり、会話が通じるという判断だ。
それでも、全面的な信用はせず、慎重に村に近づく。
先に気付いたのは超大蛇だった。自慢のピット器官で、こちらを感じ取ったのだ。
『シュー』
超大蛇がこちらを警戒する。その警戒音によって、村衛兵もこちらに気付いた。
じっとこちらを見つめている。ある一定の距離に近づくまで、行動を起こさないつもりだろう。ならばちんたら歩いている暇はない。
先程よりも大股で村に向かう。
魔素は元々この世界にはないものだ。それがたかだか500年で適応できるはずがない。
魔素に含まれる毒素は、人体には馴染まない。そもそも1000年あっても30%の確率で馴染むという代物なのだ。
浴び、晒され続けると、獣の心が曇らされる。理性と知性を破壊されているため、正常な判断ができなくなってしまう。
会話ができる魔物が珍しいのはそれが理由である。
村衛兵は近づいてくる一行を前に、真正面から向かっていった。
コストイラは何か会話をするのだろうと思った。
しかし、村衛兵はそこで槍を突き出した。コストイラは咄嗟に躱し、刀の柄でかち上げる。
アシドが槍を突き出すが、村衛兵は槍の柄で受け止めた。点を点で受け止めるなど、かなりの実力者ということだ。
村衛兵は槍を弾き、距離を取った。
そこでヨルムンガンドが大口を開けて、襲い掛かってきた。シキはコストイラとアシドの襟を掴むと、後方へと投げ飛ばした。コストイラとアシドは体を丸めてゴロゴロと転がる。投げ飛ばした張本人は空中に留まり、ヨルムンガンドの腹の中へ入っていった。
「し、シキさん!?」
「大丈夫よ。アイツは殺しても死なないような娘よ」
少し納得してしまったが、その評価は果たして人間に対してしていい評価なのだろうか。
巨大蛇はシキを飲み込んだまま、地面に潜っていった。体がコストイラの前から消えた時、村衛兵は槍を繰り出していた。
コストイラは片膝を着いたまま、刀を振った。刃先が穂先にあたり、かち上げる。
晒された胸部にアストロが魔力をぶつけた。
村衛兵が踵で地面を砕きながら後ろに跳んだ。そのまま刀の範囲外まで逃げる。
刀の範囲外だからといっても、他の武器の範囲外というわけではない。
アシドがコストイラの体を飛び越えながら、槍を振るった。村衛兵の回避も防御も間に合わない。
アシドの槍が左腕にあたり、誰がどう見ても完全に折れた。骨が半ばから折れ曲がり、肌を突き破って、外に露出した。
しかし、村衛兵は左手を槍から離し、右腕一本で槍を振り下ろして反撃した。
アシドは咄嗟に槍で往なした。村衛兵はさらに後ろへと下がり、槍も当たらない位置へと行く。
村衛兵は折れている左手でも槍を持った。
こいつ、痛みがないのか?
走る。走る。走る。
走れる喜びがある。走れると言っても、陸上選手のような両手を振って、両腿を上げて、という走り方ではない。獣のような四足の走り方だ。それでも進める。進める広さがある。
この道は視界が紫色をしている。おそらく毒が濃すぎるのが原因だろう。
ヨルムンガンドに食べられた時、体の奥の方に送られていた。シキは今、頭の方へと向かって走っている。
ある程度の距離を走った時、ジャッと踏ん張った。喉内粘液と細かな柔毛に足を滑らせながら、腰裏のナイフを抜き、頭上を突き刺した。
飽和以上に毒の解けた血液と、飽和並みに毒の解けた組織液が、超大蛇の喉に溢れ出した。そこに闇のナイフも振るう。
闇の魔剣の効果により、血管がズタズタに引き裂かれた。向こう側が見えるようになっている。シキはナイフを天に向かって突き上げた。
超大蛇が痛みに身を捻らせる。
そのナイフが捉えたのは、蛇の内臓だった。
温かいという感想を持ちながら、シキは手を伸ばした。内臓にナイフを引っかけ、昇っていく。
温かな血の海を抜けた先は、アツアツな肉の海。
シキが辿り着いたのは、異常に発達した右肺。
平然と肺に風穴を開け、さらに登っていく。目指すのは脳だ。
クゥと小さく腹が鳴った。シキが腹を押さえる。脳のことを考えていたからだ。
ジュルと少し涎を垂らしながら、蛇の体を中から昇る。そして、遂に蛇の脳に辿り着いた。
「ムフー」
シキは待ったなしで脳にかぶりつき、歓喜の息を漏らした。そのまま繊維を噛み千切り、組織を食い破り、大きく口を動かし、咀嚼する。
美味しい。
シキは脳が好きだ。だって、美味しいから。父と修行していた期間、山籠もりを何度もさせられた。その際に食した野生動物の脳が非常に美味しかったのだ。
それ以来脳が好きだ。ブチブチモキュモキュと超巨大な脳を、幸せそうな顔で、半分以上食べたところで気付いた。
これ、皆で分け合いした方がいいのではなかろうか。
超大蛇はすでに事切れているため、他力本願で地上に出ることはできない。
「ムムム」
シキは脳漿と血液でベタベタになっている顎に触れながら、シキなりの知恵を絞る。よく分からないが、とりあえずまずは脳の周りの血管を斬っておくか。
「違う。痛みがないわけじゃねぇ。痛い時にそれを表に出すやり方を知らねぇんだ」
村衛兵は痛そうに腕を振るわせながらも、それを表に出さずにこちらを視ている。キョロキョロと目玉だけを動かし、辺りを見渡している。ヨルムンガンドを待っているのかもしれない。
だが、おそらく戻ってくることはないだろう。絶対的ではないが、やってくれると信じている。それほどまでに、アストロの中でのシキの評価は高い。
村衛兵は槍を突き出しては戻し、掲げては戻し、腰を捻っては戻す。おそらく、何をすればいいのか分からないのだろう。
「なるほど。こいつは獣の部類ね。自分で見た者を真似することで自分を見出している。むしろ、それしかできない存在と言ってもいいわ」
「真似人」
目がギョロギョロと動き始めた村衛兵が次の行動を決めた。
村衛兵は槍をぐるぐる回しながら、全力で駆けだした。
コストイラは通り抜けざまに首を斬り落とそうと、刀を握り直した。
その時、ポコン、と。いっそコミカルに地面から頭が生えた。
「ム?」
突如として現れたシキの頭に、村衛兵は足を引っかけた。勢いがありすぎたが、何とかして踏み止まった。
「お、ま」
タイミングを思いっきり外されたコストイラは刀を抜き、頑張って合わせて振り切った。
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