メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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33.魔大陸

6.貴方に逢いたくて

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「カーミラ……」
「何かしら?」

 神妙な顔をするコストイラに、カーミラが大人の余裕を体現した表情で見つめる。コストイラは口端をトントンと示す。

「肉汁」
「うっそ! まだついてる!?」
「締まんねぇな、ばあちゃん」

 コストイラに指摘され、慌てて口端をハンカチで拭う。コストイラが呆れたようにばあちゃん発言したのは忘れておらず、目にも止まらぬスピードで頬を掴まれた。

「ご、ごめんよ、お姉様」
「よろしい」

 軽口を言い合う様子が、かつて出会ったテシメ達と重なった。この女もコストイラの過去に関わる人物だ。
 しばらくの沈黙が流れる。

「……カ-ミラ」

 不自然に思ったコストイラが、眉を顰めながら、カーミラを見る。カーミラはゆったりとコストイラに近づいた。そして、その豊満な胸を押し付けるように抱き着いた。

「ちょっ、ちょっとカーミラ!?」

 驚いたコストイラだったが、その後の言葉が続かない。カーミラの顔は脂汗でいっぱいだ。しかも、肩で浅い息をしている。

「フフッ」

 カーミラは小さく笑った。それこそ、コストイラ以外には聞こえない程小さな声だ。その大きさのまま続ける。

「年は取りたくないものね……。ここ数年でだいぶ力を失ったわ……。今じゃ……、ちょっと力を使っただけでこの有様……。……もう眠くてしょうがないわ……」

 カーミラは少し自嘲気味に独白する。幼き頃、無敵に思えていた小母カーミラが、こんなにも弱っている姿を見せている。その衝撃は計り知れなかった。

「……どうしても行くのね、コストイラ」

 結局はこうなるのだ。やはり、親子だな。

「だったら、貴方に……、伝えておかないといけないことがあるわ」
「遺言なら聞かねぇぞ」

 軽口で精神の均衡を保とうとするコストイラに笑みを溢し、カーミラは伝言を再開する。

「アイケルスの持つ闇の力はね、元々はたった一人の人間、そしてあのの親友でもあった、貴女の母親のものだった」
「…………あ?」
「彼女は昔、人を愛してしまったがゆえに、人を喰えなくなり、その末に餓死状態にまで追い込まれてしまったわ。たとえ生きるためとはいえ、無理に人を喰らい続ければ、人を愛してしまった彼女は、自分の罪に押しつぶされて、最後には、自死を取ったでしょうね」

 重い。重すぎる。事情の仔細を一切知らぬアストロ達には、まったくと言っていい程処理できない。

「そんな彼女を救うため、貴女の母は最善の策を取った」
「最善? ……まさか」
「彼女を極限まで追い詰めて、自分自身を食べさせる策よ」

 事情の末端を知るコストイラも絶句しかできない。情報を追うので精一杯だ。

「アイケルスは闇によって形作られている精霊。闇を糧に闇を食べる精霊よ。貴方の母フラメテが使っていた斬開者キリヒラクモノは、自分の中に潜む底なしの心の闇を用いて身体能力を極限まで向上させる技だったわ。アイケルスにとってフラメテは、一生分のエネルギーともいえる最高の食材だった」
「……でも」

 コストイラは必死に言葉を絞り出す。

「でも、今」
「えぇ、すべてを食べ尽くすことを彼女は拒んでしまった。今、彼女は絶望の中にいるわ。ねぇ、コストイラ。あのを救ってあげて」

 コストイラはカーミラの頭に手を添え、天を仰いだ。

「任せろよ」






「急がなくちゃな」

 コストイラは懐内の仮面に触れながら、決意を固める。初恋の年上女性を救ってみせる。

『待ちなさい!』

 少し小高い丘の上から声が降ってきた。
 苛烈を凝縮させたような赤と、白熱を濃縮させたような白を混ぜたような色の髪をしたような少女が立っていた。





「ここに来れば逢えると思っていたんだけど、違ったようね」

 シロガネは頭を掻きながら、溜息を吐いた。
 今もクロエを探している。しかし、何も見つからない。

「何処にいるのやら」

 眼帯をつけた白髪の女は、包帯が巻いてある手首を掴んだ。

 ピクリと眉が動く。何かの気配がした。振り返ると、そこにはレイベルスがいた。

「はぁ」
「アッ!? オイオイオイオイ! 何だ、その溜息は!? いくら無敵のオレ様でも傷つくぜ?」

 嫌になるほどの大音声を撒き散らしながら、レイベルスはシロガネの肩をバンバン叩く。

「貴方と別に会いたくないなどとは思っていないからな」
本気マジで泣くぞ、オイ。つーか、探し人はクロエだろ? 知ってんぜ」
「ッ!? ホウギか!?」
「違ェよ」

 不遜に見下ろしてくるレイベルスに、シロガネは睨むことできない。

「あっちだぜ」

 レイベルスがある一点を指差す。そこには3m大の偉丈夫と、フラフラ歩く少女がいた。
 偉丈夫は異様な雰囲気を放っていた。シロガネは鬼の身であり、仙人でもありながら、畏怖の念を抱いた。こんなことできる者など、竜に名を連ねる者くらいだろう。

 そして、その隣は。

 隣に目を向けた途端、シロガネは己を呪った。

『あー?』

 シロガネは高速タックルが如く勢いで、少女に抱き着いた。その少女は尻餅を搗く。

『シロ、ガネ?』
「え、えぇ、えぇ、そうよ。シロガネよ」

 シロガネは大量の涙を流し始めてしまった。

は再び動き出した。体は死んでいるけど。残りのはそののために使いなさい」
「意外だな。オレはアンタの事も知っていたが、オレァアンタが情で動くヤツにゃ見えなかったんだがな」
「私にもいろいろあったのよ」

 ともなく、両者は笑い出した。





「何かしてほしいことある?」
『……わた、連れて……』
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