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33.魔大陸
55.無傷の異常者
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コウガイはショカンの横まで行き、顔を見ながら屈んだ。
「どうでしたか? 勇者を味わってみて」
『あれに戦いを挑もうとしたこと自体は、僕は間違っていなかったよ』
「そうですか」
ショカンは手を伸ばし、起き上がる助けを求める。コウガイはショカンの大きな手を握り、一気に立ち上がらせた。
ショカンは肩で息をしており、両膝に両手をついてしまった。
『僕は全力で抗っているが、もう駄目だ。僕は魔の者。魔力が消えてしまったこの世界では、生命力が著しく落ちている』
「私にできることは?」
『全力で戦ってくれ』
「承知」
愚かしく疑問符をつけることはしない。ショカンにはショカンの散り方があるのだ。
コウガイがオーラ全開で構える。ショカンはそのオーラに圧倒されながら、力なく構えた。
ショカンが一歩踏み出し、右拳を振るう。
全力。今のショカンが出せる本当の実力。
それは力がなく、今も相当の無理をしていることが分かった。
コウガイは左手でしっかりと受け止める。ショカンの右腕はもう外れない。コウガイは左腕を引くと、ショカンの体が動いてしまう。万全のショカンならばこうも簡単にいかなかっただろう。そこに寂しさを覚えながら、コウガイは全力で右拳を握った。
これをショカンに捧げる。
当たる直前、ショカンは自嘲気味に笑った。
『ありがとう』
コウガイは目を瞑り、ショカンの頭を砕いた。
魔力を失った。剣を失った。もっと前には生まれ故郷を、知り合いを、家族を喪った。俺にはあと何が残っている?
これ以上俺から、勇者は。
「何を奪う気だ!」
「すべて」
ニシエは面食らってしまう。まさか即答されるなんて。
「すべて奪うよ」
シキがニシエを真っ直ぐ見つめる。
「貴方が背負ったもの、貴方が抱えたもの、貴方が捨てられなかったもの。全部奪うよ。私が奪う。そして、貴方の重荷を取り払うよ。それが私の役目。それが私に課せられた使命。それが私への命令」
その人間のものとは思えないほど無機質で冷たく、それでいて超人的な眼差しに、身が震える。それでも戦わなければならない。その正義を示さねばならない。
ニシエが格闘の構えをする。それに付き合うように、シキも無手で構えた。
ニシエは焦る。その構えだけで焦る。どうすればいい。え、どうすればいいの? いや、ホントにどうすればいい!? あの拳闘士に俺の理論が正しいと思わせるためにはどうしたらいい!?
ジリ、と少しだけ、シキに近づく。
――反応しない。
届かないと分かっているような攻撃をかけてみる。
――反応しない。
わっと声を出してみる。
――反応しない。
もう何をしたらいいのか分からず、やけくそに走り出してみる。
――反応した。
やっと反応した。そう思った時には、勇者の姿が掻き消えていた。目で追えなかった。どこに行った?
前後左右を見るが、姿は見えない。目線を下に向ける。
そこに、いた。
両膝が曲げた状態から、すでに解放しており、徐々に伸びてきている。固められた拳が自分の顎に向かっている。
あ、駄目だ。動けない。終わった。
勇者の拳が顎を打ち抜く。
カキーンと歯がかち合い、幾本が抜けた。真上を向けさせられ、首が痛くなる。
勇者は落ちてきたニシエの頤に拳を振り抜いた。
ニシエの頭は振り子のように何度も揺らされた。分かりやすく脳が揺らされ、ニシエの瞳は裏へと消えた。
ニシエは体から力が抜け、膝を着いた。
「さよなら」
シキはちょうど自分の胸の位置に下りてきたニシエの頭目掛けて、回転蹴りを繰り出した。
ニシエの側頭部に踵が触れる。もうその直前の段階で頭蓋骨が歪み、凹み、既に破壊が始まっている。
足が一周し戻ってくる頃には、ニシエの頭は消え去っていた。
頭をなくした正座死体に、シキが礼するのを見て、レイヴェニアが顔を引きつらせる。
「アレ、天災じゃな」
「やっぱり? レイヴェニアもそう思う? 魔力で身体能力の向上をさせてるって思ったら、今、この状況であんな動きをするなんて」
「アレは神力を使てるな。無意識っぽいところを考えると、完璧に天才じゃな、あれ」
「オレだって、努力の末に身に着けたんだぞ」
止血され、一命を取り留めたアシドが気絶しているため、膝枕をしてあげているアストロが遠い目をする。左腕が治療されたが、動いてくれないのを寂しがりながら、コストイラは爪に火を灯しつつ、アストロにアピールしている。
「にしても」
レイヴェニアが勇者一行を見渡す。
「どうしたの?」
アシドの髪を柔らかく梳きながら、レイヴェニアを見る。
「いや、お主等、怪我、凄いの、勇者以外」
「何でぶつ切りなのよ。とはいえ、確かにそうね」
レイドは防具をなくし、左頬は歯が見えている。身体の節々に切り傷が白い痕として残っている。もう痛みはないだろうが、痛々しくて、見ていて気持ちのいいものではない。目立っていないものの、顔や体には雷を浴びた痕がある。
エンドローゼはフォンの加護があるからか、傷がない。しいて言うのならば、髪の毛や瞳から、ごっそりと色が抜け落ちてしまっている。あの美しかった淡い紫色が、いまや神秘的な白色になってしまった。
アストロは左腕をなくしてしまった。今は平然としているものの、大事に至ってしまったのは変わらない。
アシドは両足をなくしてしまった。もう、あの自慢の脚力を発揮することができなくなってしまった。今はレイヴェニアによって一命を取り留め、気絶しているが、目を覚ましたら正気でいられるだろうか。
コストイラも左腕の機能が消えてしまった。形として残っているものの、一切動いてくれない。左の頬も向けてしまっているため、怪我が左側に集中している。
アレンはもう具体的な部位を挙げればキリがない。簡単にすれば、両腕は不自由で、両耳はボロボロ、さらに両目とも潰れてしまっている。もうボロボロすぎて、よく生きているな、と思ってしまう。
シキは元々左腕にインサーニアに創られた裂傷があったはずなのに、いつの間にかなくなっている。綺麗な体だ。
「アレン」
「はい?」
「両目が見えなくて大変だろうけど、シキに支えてもらいなさい。喜んでやってくれるだろうから」
「うぅ? はい」
「まぁ、あれじゃな。帰るかの?」
「どうでしたか? 勇者を味わってみて」
『あれに戦いを挑もうとしたこと自体は、僕は間違っていなかったよ』
「そうですか」
ショカンは手を伸ばし、起き上がる助けを求める。コウガイはショカンの大きな手を握り、一気に立ち上がらせた。
ショカンは肩で息をしており、両膝に両手をついてしまった。
『僕は全力で抗っているが、もう駄目だ。僕は魔の者。魔力が消えてしまったこの世界では、生命力が著しく落ちている』
「私にできることは?」
『全力で戦ってくれ』
「承知」
愚かしく疑問符をつけることはしない。ショカンにはショカンの散り方があるのだ。
コウガイがオーラ全開で構える。ショカンはそのオーラに圧倒されながら、力なく構えた。
ショカンが一歩踏み出し、右拳を振るう。
全力。今のショカンが出せる本当の実力。
それは力がなく、今も相当の無理をしていることが分かった。
コウガイは左手でしっかりと受け止める。ショカンの右腕はもう外れない。コウガイは左腕を引くと、ショカンの体が動いてしまう。万全のショカンならばこうも簡単にいかなかっただろう。そこに寂しさを覚えながら、コウガイは全力で右拳を握った。
これをショカンに捧げる。
当たる直前、ショカンは自嘲気味に笑った。
『ありがとう』
コウガイは目を瞑り、ショカンの頭を砕いた。
魔力を失った。剣を失った。もっと前には生まれ故郷を、知り合いを、家族を喪った。俺にはあと何が残っている?
これ以上俺から、勇者は。
「何を奪う気だ!」
「すべて」
ニシエは面食らってしまう。まさか即答されるなんて。
「すべて奪うよ」
シキがニシエを真っ直ぐ見つめる。
「貴方が背負ったもの、貴方が抱えたもの、貴方が捨てられなかったもの。全部奪うよ。私が奪う。そして、貴方の重荷を取り払うよ。それが私の役目。それが私に課せられた使命。それが私への命令」
その人間のものとは思えないほど無機質で冷たく、それでいて超人的な眼差しに、身が震える。それでも戦わなければならない。その正義を示さねばならない。
ニシエが格闘の構えをする。それに付き合うように、シキも無手で構えた。
ニシエは焦る。その構えだけで焦る。どうすればいい。え、どうすればいいの? いや、ホントにどうすればいい!? あの拳闘士に俺の理論が正しいと思わせるためにはどうしたらいい!?
ジリ、と少しだけ、シキに近づく。
――反応しない。
届かないと分かっているような攻撃をかけてみる。
――反応しない。
わっと声を出してみる。
――反応しない。
もう何をしたらいいのか分からず、やけくそに走り出してみる。
――反応した。
やっと反応した。そう思った時には、勇者の姿が掻き消えていた。目で追えなかった。どこに行った?
前後左右を見るが、姿は見えない。目線を下に向ける。
そこに、いた。
両膝が曲げた状態から、すでに解放しており、徐々に伸びてきている。固められた拳が自分の顎に向かっている。
あ、駄目だ。動けない。終わった。
勇者の拳が顎を打ち抜く。
カキーンと歯がかち合い、幾本が抜けた。真上を向けさせられ、首が痛くなる。
勇者は落ちてきたニシエの頤に拳を振り抜いた。
ニシエの頭は振り子のように何度も揺らされた。分かりやすく脳が揺らされ、ニシエの瞳は裏へと消えた。
ニシエは体から力が抜け、膝を着いた。
「さよなら」
シキはちょうど自分の胸の位置に下りてきたニシエの頭目掛けて、回転蹴りを繰り出した。
ニシエの側頭部に踵が触れる。もうその直前の段階で頭蓋骨が歪み、凹み、既に破壊が始まっている。
足が一周し戻ってくる頃には、ニシエの頭は消え去っていた。
頭をなくした正座死体に、シキが礼するのを見て、レイヴェニアが顔を引きつらせる。
「アレ、天災じゃな」
「やっぱり? レイヴェニアもそう思う? 魔力で身体能力の向上をさせてるって思ったら、今、この状況であんな動きをするなんて」
「アレは神力を使てるな。無意識っぽいところを考えると、完璧に天才じゃな、あれ」
「オレだって、努力の末に身に着けたんだぞ」
止血され、一命を取り留めたアシドが気絶しているため、膝枕をしてあげているアストロが遠い目をする。左腕が治療されたが、動いてくれないのを寂しがりながら、コストイラは爪に火を灯しつつ、アストロにアピールしている。
「にしても」
レイヴェニアが勇者一行を見渡す。
「どうしたの?」
アシドの髪を柔らかく梳きながら、レイヴェニアを見る。
「いや、お主等、怪我、凄いの、勇者以外」
「何でぶつ切りなのよ。とはいえ、確かにそうね」
レイドは防具をなくし、左頬は歯が見えている。身体の節々に切り傷が白い痕として残っている。もう痛みはないだろうが、痛々しくて、見ていて気持ちのいいものではない。目立っていないものの、顔や体には雷を浴びた痕がある。
エンドローゼはフォンの加護があるからか、傷がない。しいて言うのならば、髪の毛や瞳から、ごっそりと色が抜け落ちてしまっている。あの美しかった淡い紫色が、いまや神秘的な白色になってしまった。
アストロは左腕をなくしてしまった。今は平然としているものの、大事に至ってしまったのは変わらない。
アシドは両足をなくしてしまった。もう、あの自慢の脚力を発揮することができなくなってしまった。今はレイヴェニアによって一命を取り留め、気絶しているが、目を覚ましたら正気でいられるだろうか。
コストイラも左腕の機能が消えてしまった。形として残っているものの、一切動いてくれない。左の頬も向けてしまっているため、怪我が左側に集中している。
アレンはもう具体的な部位を挙げればキリがない。簡単にすれば、両腕は不自由で、両耳はボロボロ、さらに両目とも潰れてしまっている。もうボロボロすぎて、よく生きているな、と思ってしまう。
シキは元々左腕にインサーニアに創られた裂傷があったはずなのに、いつの間にかなくなっている。綺麗な体だ。
「アレン」
「はい?」
「両目が見えなくて大変だろうけど、シキに支えてもらいなさい。喜んでやってくれるだろうから」
「うぅ? はい」
「まぁ、あれじゃな。帰るかの?」
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