メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

文字の大きさ
4 / 684
1.はじまりの郷

4.初めての依頼

しおりを挟む
 朝。



 なんて事はない日。



 いつもの日常が流れていく。そんな中、アレン達はギルドに来ていた。たくさんの羊皮紙が貼られた依頼掲示板の前でアレンは眉根を寄せていた。



「で、どれを受けんだ?」



 アレンが依頼書群とにらめっこしているところに、コストイラは欠伸を噛み締めながら聞いてくる。



 昨日のカフェで、戦いの後の話し合いにて、次の街に行くための路銀稼ぎを当面の目標にすることにした。話し合いの中で、アレンはチームワークに問題があることを確信していた。



「全員の実力がある程度わかるものが良いんですよね」



「ふーん。んじゃあ、これじゃね」



 コストイラはアレンの方を見ずに左頬を掻くと、適当に1枚の羊皮紙を手に取った。



 ギルド。



 冒険者達が必ずお世話になる施設だ。冒険者へのアドバイス、仕事の斡旋、持ち込まれる魔物の一部の換金、冒険者の初期訓練など様々な仕事を請け負っている。そんなギルドの仕事の1つに死亡率軽減がある。持ってくる依頼がどのレベルの冒険者にふさわしいか精査し、判断する。



「お願いします」



 赤毛の青年が依頼書を持ち込む。



「はい、かしこまりました」



 受付嬢は羊皮紙を受け取ると、奥に引っ込む。



「部長?この依頼なんですけど」



「うん?」



 部長は呼ばれたことで振り返り、羊皮紙の内容を確認し、持ってきた冒険者を見る。



「あいつか。無鉄砲な奴だがパートナーがいるようだし大丈夫だろう」



 羊皮紙にバンっとハンコを押した。







 アレン達は森の中に来ていた。



「今日は、兎狩りだ。張り切っていくぜ」



「空回んないでよ」



 コストイラのはしゃぎ様に、アストロは溜め息交じりに突っ込む。



 今回の依頼はコストイラの言う通り、兎狩り。アルミラージの討伐だ。アルミラージは額に一本の大きな角を生やした兎の魔物だ。その跳躍力と角の鋭さが危険視されている魔物だが、初心者でも倒せる程力は弱い。よく出現するので、いつでも依頼掲示板に掲示されている。



「お、早速いたな」



 草陰からガサガサとアルミラージが出てくる。



『キュイ?』



「一人一匹は倒せるように頑張ろうぜ」



 コストイラが刀を抜きながら発言する。刀が炎を帯び始める。アルミラージはその目を警戒に染め、突進してくる。コストイラは突進に合わせて刀を振り、角を叩く。角が砕け失速する兎に対し、刀を逆手に持ち換え、兎の脳天に刺す。



 コストイラは刀を収めながら振り返る。



「そんじゃ、いってみよう」







 アシドは槍の柄で肩を叩きながら歩く。



 叢から音が鳴る。アルミラージだ。すでに兎は突進してきている。しかし、アシドは狼狽えず何食わぬ顔で槍を振るう。水飛沫のような青いエフェクトを出しながら、もう1回転。



 アルミラージはアシドの目の前でピクピクと動いている。まだ生きており、殺せていないことを指していた。



「あいつは2発。オレは3発。まだだなァ」



 嘆息交じりに首を振り、アシドは槍をアルミラージの首を貫く。



 アルミラージの角は換金対象だ。さっきコストイラは1匹分砕いてしまったので換金額が減ってしまった。コストイラは調子に乗ってしまうが、アシドはしない。しっかりと角を回収する。







 アルミラージの角は硬い。コストイラが砕けたのはもともとあの個体の角が傷ついていただけだ。



 アルミラージの角は加工すれば騎士剣として使える。その硬さは日夜冒険者を悩ませ続けている。斬れない、絶てない、壊せない、砕けない。さらに楯を貫通してくる。



 レイドは微妙な顔をして困っていた。原因は勿論アルミラージだ。楯を貫通され、もう危うし、絶体絶命かと思ったが、このアルミラージは角が楯から抜けなくなったらしい。楯に刺さった状態でプラーンプラーンと揺れていた。



「さて、と」



 いつまでも呆けているわけにもいかないので、楯を木に立てかけ、大剣でアルミラージの首元を狙う。



「フン!!」



 一撃では倒せない。二撃目でアルミラージは断末魔を上げ、力が抜けていく。



「……さて、この刺さったままの首はどうしたものか」







 アストラは面倒臭げに息を漏らす。



「なんでこんなことを。コストイラめ、変な提案してくれちゃって」



 アストロは優等生だ。通っていた学舎でも他の追随を許さぬ程優秀で、信頼も厚かった。彼女は要領が良かった。



 兎は現在アストロの生み出した炎の塔に囚われていた。塔が消えるころには兎はこんがりと焼けており、美味しそうな状態になっていた。獣臭さがあるが。



「あーあ。ダルイ」



 獣臭さに耐え兼ね、指輪だらけの指で鼻を摘まむ。アストロは兎肉が苦手であり、匂いも好きになれない。一刻も早く立ち去りたいアストロは雑に角を回収する。







 シキは葉を揺らすことなく、枝の上に乗っていた。単純にアルミラージを上から探すためだ。しかし、その様は完璧なステルスであり、そこにいることは乗っかられている木にしか気づいていないのではと思わせるほどだ。



 現在、シキの目には2匹のアルミラージが映っている。一発で仕留めるために感覚を研ぎ澄ましていく。



 完璧な捕食者は一撃で仕留める。執拗に甚振ることもせず、油断はしない。



 父の教えだ。



 音は立てず、ナイフを抜き、音を立てずに前傾姿勢になっていく。そのまま自然に重力に身を委ね、アルミラージに致命傷を入れる。



 アルミラージは何が起こったのか分からないまま生を終えた。



 シキは角を切るのではなく、血抜きを始める。奇麗な状態であればアルミラージは肉も売れるのだ。







 エンドローゼは攻撃手段に乏しい。ただし、攻撃力は並程度にあるので決して弱いわけではない。しかし、攻撃魔術が1つしかなく、物理攻撃もひたすらに杖で殴るしかない。ただ、エンドローゼが殴れるわけではない。そんな訓練も受けたことないので、選択肢にあるかすら謎だ。



 さらに問題なのは、エンドローゼは判断が遅い。



 そのため、兎に攻撃が当たらない。



「…………そろそろ助けた方が」



「…………攻撃を任せんのは無理だな」



 アレンとコストイラは一筋の汗を流した。エンドローゼの攻撃は一切がアルミラージに当たらない。



『キュイ』



 アルミラージに遊ばれている。ハァと溜め息を吐き刀を抜こうとすると、兎は炎に包まれた。



「きゃあ!?」



「ええーーーえぇ!!?」



 コストイラとアレンがアストロを見る。



「何?」



「エンドローゼさんに当たったらどうするんですか?」



「でも助かったでしょう?」



 アストロは悪びれもせず、さも当然のことのように返す。



「万が一が」



「あるわけないでしょ」



 アストロが自信のあり余る顔で、豊かな胸に手を置く。



「だって、私よ?」



 アストロが去っていく。アレンは手を宙に泳がせたまま、口をもごもごさせる。



「アイツはあぁいう奴なんだよ。勘弁な」



 後ろからエンドローゼを連れたコストイラが、アレンの肩を叩く。



「後はお前か」







 アレンは樵だ。正式には樵ではないが、樵だと思っている。なので武器は斧かと言われたら違う。斧は樵の命であり、敵を殺す武器とは思っていない。むしろ斧に失礼とさえ思ってる。他人が使うのは何とも思わない。



 ゆえにアレンが使う武器は斧の次に使っていた弓矢だ。勇者の目となってから練習したが、止まっている的には8割、動いていたら2割程度しか当たらない。もしかしたらエンドローゼと同じくお荷物かもしれない。



 集中する。アルミラージの動きをよく見る。どっちに動く?右?左?



 アルミラージの筋肉が動く。左!



 少しだけ狙いを動かし先回りして撃つ。アルミラージの後ろ脚に矢が刺さる。動きが鈍ったところにもう一射。今度は腹に当たる。



 アレンは解体用のナイフを抜きながら、警戒を解かずに兎に近づく。アルミラージは抵抗できない。思いっきり首に刃を立てる。不安だからもう一回。



 矢が当たってよかった。



 内心バクバクである。



「めちゃ素人に見えたけど案外当てられるんだな」



「お上手」



 煽られているようにしか聞こえないが、素直に受け取っておこう。



 全員の攻撃性能を見たがチームワークがどうにかなる気がしてきた。まぁ結局は穴の埋めあいだが。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...