メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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1.はじまりの郷

16.剛腕の土人形

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 壁に罅をつけ、倒れ込むシキは、ピクリとも動かず、ただただ頭から血を流している。



「し、し、シキさん!?」



「エンドローゼッ!」



 皆の時が一瞬止まる中、最初に動こうとしたのはエンドローゼだった。しかし、レイドがエンドローゼの腕を摑み、動きを止めさせる。



「な、なんで!」



「今行ったらシキの元に辿り着く前に、エンドローゼがやられてしまう。あれを見ろ」



 最初、エンドローゼにはレイドの言っていることが理解できなかった。だが、レイドに促され見た光景によって、ようやく理解が追い付いた。



 他3人がシキを飛ばした犯人の姿を捉え、相対していた。



 紅く彩られた粘土で作られたような体のゴーレム。体のところどころは硬い殻で覆われていた。自身の顔と同じくらいの大きさの拳も、その殻で武装されている。



 マイトゴーレム。



 間違いなく、この洞窟最強の存在。















「こっちは引き受ける。早く行け」



「すまない」



「レイドは戻ってこいよ」



「了解した」



 レイドはエンドローゼとマイトゴーレムの間に入りながら、移動する。エンドローゼは、シキの元に辿り着く直前から回復を始める。



 マイトゴーレムの意識がそちらに削がれる。



 アレンは弓を射るが、その硬い体に刺さることはなく、あっさりと弾かれる。しかし、その一発で意識がこちらに戻ってきた。マイトゴーレムが動きだし、アレンに迫る。その動きは遅く、アレンよりも遅い。



 しかし。



 アシドが文字通りに横槍を入れるが、弾かれる。コストイラもその重戦車が如き進攻に割り込み、炎を纏いながら居合をぶつけるが、マイトゴーレムは止まらない。コストイラはその体に弾かれた。



 アレンに向かってくるマイトゴーレムから逃げながら対策を考える。



 皆器用ではないので、殻がないところを狙うということができない。狙ったところで当たってくれない。頼みのシキはダウン中。次に器用なアストロはここにはいない。3番手のアシドは通用しなかった。打つ手がない。いや、打つ手を生まなくては。



「ぐっ!!」



  マイトゴーレムばかりに気を取られていたせいで、足元が疎かになっていた。アレンは小石に躓き、よろめいてしまう。



 瞬間、炎を纏った拳が頭上を通り過ぎ、肝を冷やす。助かったと思ったのも束の間、脇腹に衝撃が走る。拳は二つあるのだ。



「っ!?がっっ!!っえっっ!?」



 地面を転がりながら、えづき、止まる頃には口内分泌液は口の端から次々と流れ出ている。口が自然と開き、閉じてくれない。



 マイトゴーレムは硬く拳を握り、アレンに近づく。



 肺が空気を求め、浅い息を繰り返すアレンは、マイトゴーレムの対処などできない。できることなど、せいぜいそこら辺に落ちている石を投げるくらいなものだろう。



 あとは拳が落とされるのを待つのみ。



 しかし、救世主は現れる。



 アレンの前に2メートル近い巨漢が現れ、マイトゴーレムの一撃を楯で防いだ。



「レイドさん」



「いけ」



 アレンは見た。マイトゴーレムの後ろに佇む蒼い勇者を。



 蒼い髪を逆立て、金の眼は光輝き、敵を見定めている。日焼けした肌を猫のようにしならせ、一歩歩むごとに足元からは水飛沫が出ている。



 アシドの薙いだ槍はマイトゴーレムの顔に当たる。マイトゴーレムは踏鞴を踏み、アレン達から離れる。



 勝った!



 誰もがそう思った。次の瞬間、腕は正常に動きアシドの肋骨を折りながら吹き飛ばす。



 遠距離攻撃をしたいが、アレンの弓矢は効かない。アストロはいない。



 決定打がない。



 アレンは思わず目を閉じる。



 ドシャァァーーーー。



 音を聞いてアレンは目を開ける。



 マイトゴーレムの体が崩れていた。



 マイトゴーレムに勝った。ナンデ?



 疑問が浮かび上がる。



 そこで、アレンの眼が飛び出さんばかりに開かれる。



 マイトゴーレムの核にナイフが刺さっている。



 アレンがバッとシキの方へ振り向くと、シキはエンドローゼにお礼を言っていた。



 彼女は復活して、ノータイムで正確に核を撃ち抜いたのだ。



 尊敬と礼が尽きない。















 マイトゴーレムの殻を数枚剥がし、ギルドへ持っていく。核はナイフを抜くと砕けてしまったので断念した。



「ふむ。この状態ですとこのぐらいの額ですかね」



 換金師に金額を提示され、アレンは驚く。しかし、顔には出さない。結構お金になるな、マイトゴーレム。



 お金が入った布袋を手にする。



「お、よぉ、お前ら」



「え?…………ヴァイドギルド長」



 金額に驚いているところに手を挙げながら、2メートル近い巨漢が軽快にアレン達に歩み寄ってくる。



「いやぁ、見つかってよかった」



 もう嫌な予感しかしない。ヴァイドの笑みはそう思わざるを得なかった。もしかしたら、何かの楽しい酒宴のお誘いかもしれない。



「実はお前らに指名依頼が入ってな。ほら」



 良い笑顔でヴァイドが依頼書を渡してくる。



「名前を見ろ」



「ヴァイド」



「やっぱテメェか」



「待て待て待て」



 ヴァイドは焦って制止を呼びかける。



「それなりに報酬があるぞ。オレのポケットマネーだ」



 金額を見ると2000リル。平均的な白瓏石が2個ぐらい買える。これまでの依頼の最高額がゴブリンパレードの時の1800リルだから、この金額は破格だろう。



 とはいえ、これはあれだ。



 予感は当たった。



 面倒事だ。
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