16 / 684
1.はじまりの郷
16.剛腕の土人形
しおりを挟む
壁に罅をつけ、倒れ込むシキは、ピクリとも動かず、ただただ頭から血を流している。
「し、し、シキさん!?」
「エンドローゼッ!」
皆の時が一瞬止まる中、最初に動こうとしたのはエンドローゼだった。しかし、レイドがエンドローゼの腕を摑み、動きを止めさせる。
「な、なんで!」
「今行ったらシキの元に辿り着く前に、エンドローゼがやられてしまう。あれを見ろ」
最初、エンドローゼにはレイドの言っていることが理解できなかった。だが、レイドに促され見た光景によって、ようやく理解が追い付いた。
他3人がシキを飛ばした犯人の姿を捉え、相対していた。
紅く彩られた粘土で作られたような体のゴーレム。体のところどころは硬い殻で覆われていた。自身の顔と同じくらいの大きさの拳も、その殻で武装されている。
マイトゴーレム。
間違いなく、この洞窟最強の存在。
「こっちは引き受ける。早く行け」
「すまない」
「レイドは戻ってこいよ」
「了解した」
レイドはエンドローゼとマイトゴーレムの間に入りながら、移動する。エンドローゼは、シキの元に辿り着く直前から回復を始める。
マイトゴーレムの意識がそちらに削がれる。
アレンは弓を射るが、その硬い体に刺さることはなく、あっさりと弾かれる。しかし、その一発で意識がこちらに戻ってきた。マイトゴーレムが動きだし、アレンに迫る。その動きは遅く、アレンよりも遅い。
しかし。
アシドが文字通りに横槍を入れるが、弾かれる。コストイラもその重戦車が如き進攻に割り込み、炎を纏いながら居合をぶつけるが、マイトゴーレムは止まらない。コストイラはその体に弾かれた。
アレンに向かってくるマイトゴーレムから逃げながら対策を考える。
皆器用ではないので、殻がないところを狙うということができない。狙ったところで当たってくれない。頼みのシキはダウン中。次に器用なアストロはここにはいない。3番手のアシドは通用しなかった。打つ手がない。いや、打つ手を生まなくては。
「ぐっ!!」
マイトゴーレムばかりに気を取られていたせいで、足元が疎かになっていた。アレンは小石に躓き、よろめいてしまう。
瞬間、炎を纏った拳が頭上を通り過ぎ、肝を冷やす。助かったと思ったのも束の間、脇腹に衝撃が走る。拳は二つあるのだ。
「っ!?がっっ!!っえっっ!?」
地面を転がりながら、えづき、止まる頃には口内分泌液は口の端から次々と流れ出ている。口が自然と開き、閉じてくれない。
マイトゴーレムは硬く拳を握り、アレンに近づく。
肺が空気を求め、浅い息を繰り返すアレンは、マイトゴーレムの対処などできない。できることなど、せいぜいそこら辺に落ちている石を投げるくらいなものだろう。
あとは拳が落とされるのを待つのみ。
しかし、救世主は現れる。
アレンの前に2メートル近い巨漢が現れ、マイトゴーレムの一撃を楯で防いだ。
「レイドさん」
「いけ」
アレンは見た。マイトゴーレムの後ろに佇む蒼い勇者を。
蒼い髪を逆立て、金の眼は光輝き、敵を見定めている。日焼けした肌を猫のようにしならせ、一歩歩むごとに足元からは水飛沫が出ている。
アシドの薙いだ槍はマイトゴーレムの顔に当たる。マイトゴーレムは踏鞴を踏み、アレン達から離れる。
勝った!
誰もがそう思った。次の瞬間、腕は正常に動きアシドの肋骨を折りながら吹き飛ばす。
遠距離攻撃をしたいが、アレンの弓矢は効かない。アストロはいない。
決定打がない。
アレンは思わず目を閉じる。
ドシャァァーーーー。
音を聞いてアレンは目を開ける。
マイトゴーレムの体が崩れていた。
マイトゴーレムに勝った。ナンデ?
疑問が浮かび上がる。
そこで、アレンの眼が飛び出さんばかりに開かれる。
マイトゴーレムの核にナイフが刺さっている。
アレンがバッとシキの方へ振り向くと、シキはエンドローゼにお礼を言っていた。
彼女は復活して、ノータイムで正確に核を撃ち抜いたのだ。
尊敬と礼が尽きない。
マイトゴーレムの殻を数枚剥がし、ギルドへ持っていく。核はナイフを抜くと砕けてしまったので断念した。
「ふむ。この状態ですとこのぐらいの額ですかね」
換金師に金額を提示され、アレンは驚く。しかし、顔には出さない。結構お金になるな、マイトゴーレム。
お金が入った布袋を手にする。
「お、よぉ、お前ら」
「え?…………ヴァイドギルド長」
金額に驚いているところに手を挙げながら、2メートル近い巨漢が軽快にアレン達に歩み寄ってくる。
「いやぁ、見つかってよかった」
もう嫌な予感しかしない。ヴァイドの笑みはそう思わざるを得なかった。もしかしたら、何かの楽しい酒宴のお誘いかもしれない。
「実はお前らに指名依頼が入ってな。ほら」
良い笑顔でヴァイドが依頼書を渡してくる。
「名前を見ろ」
「ヴァイド」
「やっぱテメェか」
「待て待て待て」
ヴァイドは焦って制止を呼びかける。
「それなりに報酬があるぞ。オレのポケットマネーだ」
金額を見ると2000リル。平均的な白瓏石が2個ぐらい買える。これまでの依頼の最高額がゴブリンパレードの時の1800リルだから、この金額は破格だろう。
とはいえ、これはあれだ。
予感は当たった。
面倒事だ。
「し、し、シキさん!?」
「エンドローゼッ!」
皆の時が一瞬止まる中、最初に動こうとしたのはエンドローゼだった。しかし、レイドがエンドローゼの腕を摑み、動きを止めさせる。
「な、なんで!」
「今行ったらシキの元に辿り着く前に、エンドローゼがやられてしまう。あれを見ろ」
最初、エンドローゼにはレイドの言っていることが理解できなかった。だが、レイドに促され見た光景によって、ようやく理解が追い付いた。
他3人がシキを飛ばした犯人の姿を捉え、相対していた。
紅く彩られた粘土で作られたような体のゴーレム。体のところどころは硬い殻で覆われていた。自身の顔と同じくらいの大きさの拳も、その殻で武装されている。
マイトゴーレム。
間違いなく、この洞窟最強の存在。
「こっちは引き受ける。早く行け」
「すまない」
「レイドは戻ってこいよ」
「了解した」
レイドはエンドローゼとマイトゴーレムの間に入りながら、移動する。エンドローゼは、シキの元に辿り着く直前から回復を始める。
マイトゴーレムの意識がそちらに削がれる。
アレンは弓を射るが、その硬い体に刺さることはなく、あっさりと弾かれる。しかし、その一発で意識がこちらに戻ってきた。マイトゴーレムが動きだし、アレンに迫る。その動きは遅く、アレンよりも遅い。
しかし。
アシドが文字通りに横槍を入れるが、弾かれる。コストイラもその重戦車が如き進攻に割り込み、炎を纏いながら居合をぶつけるが、マイトゴーレムは止まらない。コストイラはその体に弾かれた。
アレンに向かってくるマイトゴーレムから逃げながら対策を考える。
皆器用ではないので、殻がないところを狙うということができない。狙ったところで当たってくれない。頼みのシキはダウン中。次に器用なアストロはここにはいない。3番手のアシドは通用しなかった。打つ手がない。いや、打つ手を生まなくては。
「ぐっ!!」
マイトゴーレムばかりに気を取られていたせいで、足元が疎かになっていた。アレンは小石に躓き、よろめいてしまう。
瞬間、炎を纏った拳が頭上を通り過ぎ、肝を冷やす。助かったと思ったのも束の間、脇腹に衝撃が走る。拳は二つあるのだ。
「っ!?がっっ!!っえっっ!?」
地面を転がりながら、えづき、止まる頃には口内分泌液は口の端から次々と流れ出ている。口が自然と開き、閉じてくれない。
マイトゴーレムは硬く拳を握り、アレンに近づく。
肺が空気を求め、浅い息を繰り返すアレンは、マイトゴーレムの対処などできない。できることなど、せいぜいそこら辺に落ちている石を投げるくらいなものだろう。
あとは拳が落とされるのを待つのみ。
しかし、救世主は現れる。
アレンの前に2メートル近い巨漢が現れ、マイトゴーレムの一撃を楯で防いだ。
「レイドさん」
「いけ」
アレンは見た。マイトゴーレムの後ろに佇む蒼い勇者を。
蒼い髪を逆立て、金の眼は光輝き、敵を見定めている。日焼けした肌を猫のようにしならせ、一歩歩むごとに足元からは水飛沫が出ている。
アシドの薙いだ槍はマイトゴーレムの顔に当たる。マイトゴーレムは踏鞴を踏み、アレン達から離れる。
勝った!
誰もがそう思った。次の瞬間、腕は正常に動きアシドの肋骨を折りながら吹き飛ばす。
遠距離攻撃をしたいが、アレンの弓矢は効かない。アストロはいない。
決定打がない。
アレンは思わず目を閉じる。
ドシャァァーーーー。
音を聞いてアレンは目を開ける。
マイトゴーレムの体が崩れていた。
マイトゴーレムに勝った。ナンデ?
疑問が浮かび上がる。
そこで、アレンの眼が飛び出さんばかりに開かれる。
マイトゴーレムの核にナイフが刺さっている。
アレンがバッとシキの方へ振り向くと、シキはエンドローゼにお礼を言っていた。
彼女は復活して、ノータイムで正確に核を撃ち抜いたのだ。
尊敬と礼が尽きない。
マイトゴーレムの殻を数枚剥がし、ギルドへ持っていく。核はナイフを抜くと砕けてしまったので断念した。
「ふむ。この状態ですとこのぐらいの額ですかね」
換金師に金額を提示され、アレンは驚く。しかし、顔には出さない。結構お金になるな、マイトゴーレム。
お金が入った布袋を手にする。
「お、よぉ、お前ら」
「え?…………ヴァイドギルド長」
金額に驚いているところに手を挙げながら、2メートル近い巨漢が軽快にアレン達に歩み寄ってくる。
「いやぁ、見つかってよかった」
もう嫌な予感しかしない。ヴァイドの笑みはそう思わざるを得なかった。もしかしたら、何かの楽しい酒宴のお誘いかもしれない。
「実はお前らに指名依頼が入ってな。ほら」
良い笑顔でヴァイドが依頼書を渡してくる。
「名前を見ろ」
「ヴァイド」
「やっぱテメェか」
「待て待て待て」
ヴァイドは焦って制止を呼びかける。
「それなりに報酬があるぞ。オレのポケットマネーだ」
金額を見ると2000リル。平均的な白瓏石が2個ぐらい買える。これまでの依頼の最高額がゴブリンパレードの時の1800リルだから、この金額は破格だろう。
とはいえ、これはあれだ。
予感は当たった。
面倒事だ。
10
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる