78 / 684
5.無縁塚
11.7人の侍
しおりを挟む
ぞろぞろと用心棒が出てくる。勝負を有耶無耶にせんとする男の指示に、用心棒たちは刀を解き放つ。全員が同じ東方の恰好をしている。しかし、模様はところどころ違う。制服なのか自前なのかは分からない。さほど重要でもない。
「あれは東方に伝わる着物って服だ。オレも実家にある」
「キモノ」
妙に東方の文化に詳しいコストイラの言葉を反芻する。アレンは想像上でコストイラに着物を着せてみるとあまり似合っているように見えない。まぁ、着物は目の前の7つしか知らないが。
「……返してもらおうか。それは私のものだ」
先程コストイラを殴った用心棒が右手を差し出す。何のことかとアレンがコストイラを見ると、どさくさに紛れて用心棒の腰から刀を奪い取っていたようだ。
「やなこった」
コストイラは舌を出して反発すると、素早い居合によって差し出されていた右手を切り落とす。用心棒たちは居合に反応こそすれど刀を抜くことも出来なかった。
「—――っ!!?」
用心棒は声を出すことも出来ず、蹲り悶絶する。
「こいつ!」
用心棒たちはいっせいに刀を抜き、コストイラに襲い掛かる。
「?」
「どうかしたか?」
シキ、レイドと共に市場を散策していたエンドローゼが何かに反応するように振り返った。
「な、な、何でもないです」
エンドローゼが首を振って答える。エンドローゼは気弱な人物であり、思っていることを口には出せない。その本質に気付きつつあるレイドはあえて言及することなく、そうか、と一言で済ます。しかし、反応したのはエンドローゼだけではなかったようだ。
「シキもか。何かあるのか?」
シキの見つめている方をレイドも見てみるが、何も特別なことはない。至って正常な市場の風景だ。
「魔物」
「何?」
「おそらく昨日のと同じ種」
レイドは自分一人だけ反応できなかったことに怒りを覚えながら、改めてエンドローゼの方を見る。
「エンドローゼもか?」
「う、う~ん?そ、そ、そんな気もす、す、するような、し、しし、しないような気も、う~~ん?」
おそらくエンドローゼは幽かに聞こえただけで、本当によく分かっていないのだろう。
「実際に魔物だったとしたら見過ごせんな。行こう」
女子2人も頷き返す。
「そ、そんな」
男がへたり込んだ。刀は珍しい武器だ。発祥の地である東方でさえも今は刀を持っている人は少ない。この地では余計に珍しい。
グリードの著した『刀の美学』と呼ばれる本で認知されている。刀は剣とだいぶ違う。
まず造られ方が違う。刀は折り返し鍛錬と呼ばれる鍛錬や、造込みという技法によって、折れず曲がらずよく斬れる刀が生み出される。一振り作刀するのに約10キログラムの材料から約850~900グラムの完成品ができる。
一方、剣は溶かした金属を型に流し込み成形する鋳造か、熱した金属を叩いて伸ばす鍛造、またはその両方の合わせ技の方法で作られる。10キログラムの材料から1キログラムの剣10本が作れる。
斬り方も異なる。
刀は叩き、刃を引くことで斬ることができる。剣はその重さを利用して叩き斬るのが主流だ。
この酒場は、中央にアシドが立ち、槍を振るうのがギリギリほどの広さだ。にもかかわらず、コストイラは用心棒たちと殺陣をしてみせた。6人もの用心棒を戦闘不能に追い込んでみせた。重さも重心も斬り方も、似ているようですべて違う武器でどうしてここまで戦える。
「まさか、貴様東方の出身か!?」
「大外れ」
男の予想に対し、普通の港町で生まれ育ったコストイラは返答する。コストイラの注意が男に向いている隙を狙い、斬りにかかる。コストイラは手にしていた刀を投げつけた。なぜ自らの生命線である武器を手放せるのか、と一瞬だけ判断が遅れた。その一瞬はコストイラには十分すぎるだけ時間があった。
用心棒が投げつけられた刀を躱す。コストイラは地面に落ちていた別の用心棒の刀を拾い、宙に中途半端な状態のままの刀を叩く。そして、折ってみせる。圧倒的な戦闘能力の差に、用心棒は戦意を失った。
「オレらの勝ちだぜ、スローシム」
教えてもいないはずの名を言われ、男――スローシムは肯定するしかなかった。
「たんまり稼げたし、良いことだらけだっ……た……な?」
コストイラの言葉が尻すぼみしていった。彼の目の前には
「そうか。そんなに稼げたのか。いったい何をして稼いだんだ?」
レイドの威圧に気圧され、分散させようとアシドとアストロを見るが、顔を背けられた。最後にアレンを見る。ごめんなさい。助けられません。
「え、え~と」
「ん?」
「ば、博打です」
次に何を言われるのか。コストイラは裁きの時を待つ被告人のような気持ちでレイドのことを待つ。
「なぜ、我々も誘わなかった」
「え?」
「ここに賭博場があるとどうして教えてくれなかった」
「え!?」
まさかの怒りにコストイラだけでなくエンドローゼやシキも驚く。
「賭博場ではどんないかさまがされているのか分からんだろう。どんな暴力があるのかも分からない。その結果、奴隷にされたり、娼館に売られたりしてしまうかもしれないんだぞ。とても危険な場所だということを理解しているのか!?」
「ずいぶんと詳しいな」
「…………話に聞いていただけだ」
コストイラがニヤニヤし始める。レイドは厳格さを維持しようとするが、もう手遅れだった。アストロは呆れたように溜め息を吐き、空を見上げた。今日もまた月が見ている。
「あれは東方に伝わる着物って服だ。オレも実家にある」
「キモノ」
妙に東方の文化に詳しいコストイラの言葉を反芻する。アレンは想像上でコストイラに着物を着せてみるとあまり似合っているように見えない。まぁ、着物は目の前の7つしか知らないが。
「……返してもらおうか。それは私のものだ」
先程コストイラを殴った用心棒が右手を差し出す。何のことかとアレンがコストイラを見ると、どさくさに紛れて用心棒の腰から刀を奪い取っていたようだ。
「やなこった」
コストイラは舌を出して反発すると、素早い居合によって差し出されていた右手を切り落とす。用心棒たちは居合に反応こそすれど刀を抜くことも出来なかった。
「—――っ!!?」
用心棒は声を出すことも出来ず、蹲り悶絶する。
「こいつ!」
用心棒たちはいっせいに刀を抜き、コストイラに襲い掛かる。
「?」
「どうかしたか?」
シキ、レイドと共に市場を散策していたエンドローゼが何かに反応するように振り返った。
「な、な、何でもないです」
エンドローゼが首を振って答える。エンドローゼは気弱な人物であり、思っていることを口には出せない。その本質に気付きつつあるレイドはあえて言及することなく、そうか、と一言で済ます。しかし、反応したのはエンドローゼだけではなかったようだ。
「シキもか。何かあるのか?」
シキの見つめている方をレイドも見てみるが、何も特別なことはない。至って正常な市場の風景だ。
「魔物」
「何?」
「おそらく昨日のと同じ種」
レイドは自分一人だけ反応できなかったことに怒りを覚えながら、改めてエンドローゼの方を見る。
「エンドローゼもか?」
「う、う~ん?そ、そ、そんな気もす、す、するような、し、しし、しないような気も、う~~ん?」
おそらくエンドローゼは幽かに聞こえただけで、本当によく分かっていないのだろう。
「実際に魔物だったとしたら見過ごせんな。行こう」
女子2人も頷き返す。
「そ、そんな」
男がへたり込んだ。刀は珍しい武器だ。発祥の地である東方でさえも今は刀を持っている人は少ない。この地では余計に珍しい。
グリードの著した『刀の美学』と呼ばれる本で認知されている。刀は剣とだいぶ違う。
まず造られ方が違う。刀は折り返し鍛錬と呼ばれる鍛錬や、造込みという技法によって、折れず曲がらずよく斬れる刀が生み出される。一振り作刀するのに約10キログラムの材料から約850~900グラムの完成品ができる。
一方、剣は溶かした金属を型に流し込み成形する鋳造か、熱した金属を叩いて伸ばす鍛造、またはその両方の合わせ技の方法で作られる。10キログラムの材料から1キログラムの剣10本が作れる。
斬り方も異なる。
刀は叩き、刃を引くことで斬ることができる。剣はその重さを利用して叩き斬るのが主流だ。
この酒場は、中央にアシドが立ち、槍を振るうのがギリギリほどの広さだ。にもかかわらず、コストイラは用心棒たちと殺陣をしてみせた。6人もの用心棒を戦闘不能に追い込んでみせた。重さも重心も斬り方も、似ているようですべて違う武器でどうしてここまで戦える。
「まさか、貴様東方の出身か!?」
「大外れ」
男の予想に対し、普通の港町で生まれ育ったコストイラは返答する。コストイラの注意が男に向いている隙を狙い、斬りにかかる。コストイラは手にしていた刀を投げつけた。なぜ自らの生命線である武器を手放せるのか、と一瞬だけ判断が遅れた。その一瞬はコストイラには十分すぎるだけ時間があった。
用心棒が投げつけられた刀を躱す。コストイラは地面に落ちていた別の用心棒の刀を拾い、宙に中途半端な状態のままの刀を叩く。そして、折ってみせる。圧倒的な戦闘能力の差に、用心棒は戦意を失った。
「オレらの勝ちだぜ、スローシム」
教えてもいないはずの名を言われ、男――スローシムは肯定するしかなかった。
「たんまり稼げたし、良いことだらけだっ……た……な?」
コストイラの言葉が尻すぼみしていった。彼の目の前には
「そうか。そんなに稼げたのか。いったい何をして稼いだんだ?」
レイドの威圧に気圧され、分散させようとアシドとアストロを見るが、顔を背けられた。最後にアレンを見る。ごめんなさい。助けられません。
「え、え~と」
「ん?」
「ば、博打です」
次に何を言われるのか。コストイラは裁きの時を待つ被告人のような気持ちでレイドのことを待つ。
「なぜ、我々も誘わなかった」
「え?」
「ここに賭博場があるとどうして教えてくれなかった」
「え!?」
まさかの怒りにコストイラだけでなくエンドローゼやシキも驚く。
「賭博場ではどんないかさまがされているのか分からんだろう。どんな暴力があるのかも分からない。その結果、奴隷にされたり、娼館に売られたりしてしまうかもしれないんだぞ。とても危険な場所だということを理解しているのか!?」
「ずいぶんと詳しいな」
「…………話に聞いていただけだ」
コストイラがニヤニヤし始める。レイドは厳格さを維持しようとするが、もう手遅れだった。アストロは呆れたように溜め息を吐き、空を見上げた。今日もまた月が見ている。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる