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5.無縁塚
29.禁術師の遺産を求めて
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水場は洞窟の出口の合図だった。洞窟を抜けると花弁が舞っていた。何とも美しい光景だろうか。きっとこの空間の中で好きな人に告白すれば受け入れてもらえるだろう。それほどのポテンシャルを感じた。
「サクラの花弁だな」
「これがサクラですか」
コストイラが舞う花弁を1枚摑んで見定める。アレン達は初めて見たサクラに感動する。
「で、絶対あれの中だよな」
アシドは現実逃避を辞め、目の前のボロ家屋を見る。かつて訪れたはぐれ魔術師の根城にも似た雰囲気の屋敷だ。おそらくこのサクラを育てている者がいるだろう。アレン達は警戒しながら屋敷内に入っていく。
アレン達は驚愕した。
全てが中途半端な状態で止まっていた。つきっぱなしの灯り、テーブルの上に置かれた食べかけの料理、半開きになったドア。
先程までそこにいたであろう住人はおそらくドアの向こうのどこかにいるのだろう。いつ戻ってくるのか分からない。勝手に入っている癖にそんなことを考えていた。誰も違和感を持っていなかった。
さらに警戒を強め、いつでも武器を振るえるように準備しておく。アレンはテーブルの上にある本を手に取る。
「サクラの品種名鑑。サクラってそんなに種類があるのか」
「その通りっ」
ぼんやりと呟いたアレンの言葉に反応する者がいた。淡い緑色のローブを着た、白い鬚を蓄えた男だ。このサクラへの異常な執着が感じ取れる心、間違いなくこの男がこの地に咲くサクラの育て親。
「サクラにはたくさんの種類が存在する。ヤマザクラ、オオヤマザクラ、カスミザクラ、オオシマザクラ、エドヒガン、チョウジザクラ、マメザクラ、タカネザクラ、ミヤマザクラ、クマノザクラまだまだあるが、さすがに自重しよう。一口にサクラといっても大きな品種や中木のものもあって、全部で数百種はある。そういえば、君達は誰だ?」
男が首を傾けたことでローブのフードからさらりと白髪が零れた。
どう説明したらいいものか。あなたが怪しいので調査に来ましたなどと正直に話せば不機嫌になるのは確実。最悪の場合、敵対だろう。むしろそっちの方が確率は高い気がする。
「サクラを、サクラを見に来たんだ」
コストイラの返答に男は顔を綻ばせる。
「そうかそうか。君もサクラが好きなのか」
「あぁ、親父が育てようとしていた。オレは長年見れていなかったから、久しぶりに見たかったんだ」
「ほう。君は東方の出身なのか?」
「いや、親父はそうだが、オレは違う」
「ふむ。どんな事情があろうとサクラ好きに悪いやつはいない。君達にサクラを見せてあげよう。こっちだ。さっきもサクラのことが気になって食事を途中にしてしまったが、君達の相手をしていたら食欲を抑え込むほどに興奮してしまった」
男はドアを全開にして誘い込む。アレンが行くかどうか悩もうとすると、コストイラは何の躊躇なしについていってしまう。追いかけようとついていくと、その中庭には立派なサクラの木があった。灰褐色の木の幹はエンドローゼのウエストの4倍はあろうかという太さだ。そこに淡い紅色の花がたくさん咲いていた。満開といってもいいだろう。
「す、凄い」
「これがサクラ」
エンドローゼとレイドが感動に声を漏らすと、男は気分を良くし、再び饒舌に語り始める。
「これは特にヤマザクラという品種だ。私の一番好きな品種だ。東方では一番代表的な品種なようだ。私は東方に住む河童という種族に譲り受けたのだ。古くから親しまれており、文学や歌の題材として取り上げられてきた由緒ある品種だ。だが、これはまだ完成していない」
男は拳を握り、わなわなと振るわせたかと思うと、フッと力を抜き、肩を落とす。
「こんなに綺麗なのにまだ完成じゃないのか」
「ああ。あそこだ。花がつぼんだままの状態だな」
レイドが眉根を寄せる中、コストイラはすぐに看破してみせる。
「さすがだ。そう、あと一歩なのだ。あと一歩で完成する。しかし、もう葉が増え始めた。もうこのサクラには時間がない」
急にテンションが下がりシリアスの雰囲気で話し始める。その似合わないオーラに包まれていく男を不審に思いつつ、その言動を見守る。
「だから、私はこのサクラを創った」
男が両腕を広げるとサクラの木は呼応するように根が地上に出てきた。
「サクラの花弁だな」
「これがサクラですか」
コストイラが舞う花弁を1枚摑んで見定める。アレン達は初めて見たサクラに感動する。
「で、絶対あれの中だよな」
アシドは現実逃避を辞め、目の前のボロ家屋を見る。かつて訪れたはぐれ魔術師の根城にも似た雰囲気の屋敷だ。おそらくこのサクラを育てている者がいるだろう。アレン達は警戒しながら屋敷内に入っていく。
アレン達は驚愕した。
全てが中途半端な状態で止まっていた。つきっぱなしの灯り、テーブルの上に置かれた食べかけの料理、半開きになったドア。
先程までそこにいたであろう住人はおそらくドアの向こうのどこかにいるのだろう。いつ戻ってくるのか分からない。勝手に入っている癖にそんなことを考えていた。誰も違和感を持っていなかった。
さらに警戒を強め、いつでも武器を振るえるように準備しておく。アレンはテーブルの上にある本を手に取る。
「サクラの品種名鑑。サクラってそんなに種類があるのか」
「その通りっ」
ぼんやりと呟いたアレンの言葉に反応する者がいた。淡い緑色のローブを着た、白い鬚を蓄えた男だ。このサクラへの異常な執着が感じ取れる心、間違いなくこの男がこの地に咲くサクラの育て親。
「サクラにはたくさんの種類が存在する。ヤマザクラ、オオヤマザクラ、カスミザクラ、オオシマザクラ、エドヒガン、チョウジザクラ、マメザクラ、タカネザクラ、ミヤマザクラ、クマノザクラまだまだあるが、さすがに自重しよう。一口にサクラといっても大きな品種や中木のものもあって、全部で数百種はある。そういえば、君達は誰だ?」
男が首を傾けたことでローブのフードからさらりと白髪が零れた。
どう説明したらいいものか。あなたが怪しいので調査に来ましたなどと正直に話せば不機嫌になるのは確実。最悪の場合、敵対だろう。むしろそっちの方が確率は高い気がする。
「サクラを、サクラを見に来たんだ」
コストイラの返答に男は顔を綻ばせる。
「そうかそうか。君もサクラが好きなのか」
「あぁ、親父が育てようとしていた。オレは長年見れていなかったから、久しぶりに見たかったんだ」
「ほう。君は東方の出身なのか?」
「いや、親父はそうだが、オレは違う」
「ふむ。どんな事情があろうとサクラ好きに悪いやつはいない。君達にサクラを見せてあげよう。こっちだ。さっきもサクラのことが気になって食事を途中にしてしまったが、君達の相手をしていたら食欲を抑え込むほどに興奮してしまった」
男はドアを全開にして誘い込む。アレンが行くかどうか悩もうとすると、コストイラは何の躊躇なしについていってしまう。追いかけようとついていくと、その中庭には立派なサクラの木があった。灰褐色の木の幹はエンドローゼのウエストの4倍はあろうかという太さだ。そこに淡い紅色の花がたくさん咲いていた。満開といってもいいだろう。
「す、凄い」
「これがサクラ」
エンドローゼとレイドが感動に声を漏らすと、男は気分を良くし、再び饒舌に語り始める。
「これは特にヤマザクラという品種だ。私の一番好きな品種だ。東方では一番代表的な品種なようだ。私は東方に住む河童という種族に譲り受けたのだ。古くから親しまれており、文学や歌の題材として取り上げられてきた由緒ある品種だ。だが、これはまだ完成していない」
男は拳を握り、わなわなと振るわせたかと思うと、フッと力を抜き、肩を落とす。
「こんなに綺麗なのにまだ完成じゃないのか」
「ああ。あそこだ。花がつぼんだままの状態だな」
レイドが眉根を寄せる中、コストイラはすぐに看破してみせる。
「さすがだ。そう、あと一歩なのだ。あと一歩で完成する。しかし、もう葉が増え始めた。もうこのサクラには時間がない」
急にテンションが下がりシリアスの雰囲気で話し始める。その似合わないオーラに包まれていく男を不審に思いつつ、その言動を見守る。
「だから、私はこのサクラを創った」
男が両腕を広げるとサクラの木は呼応するように根が地上に出てきた。
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