114 / 684
6.紅い館
16.寒い時ほど胸を張る
しおりを挟む
アレンはブルリと身を震わせた。別に何かを怖がったわけではない。ただ、寒かったのだ。白い息が出るほどではないが。
アレンよりも肌の露出が多いアシドを見る。ポケットに手を突っ込んだ状態ではあるが身震いは一つもない。
え?寒いのは僕だけ?
「へっぷち」
エンドローゼが可愛らしくくしゃみをした。やった。寒いのは僕だけじゃなかった。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。だ、だ、大丈夫なんですが、あの、その、え、さ、さ、寒くないですか?」
「確かに寒くなったな」
アシドが言った、寒いと。じゃあ、なんで短いズボンを履いているんですか?しばらく歩くと外への出口を見つけた。しかし、その前に竜がいた。ワイバーンのような翼竜ではなく、両手がしっかりと存在する、竜。もたもたと起き上がり、ゆるりゆるとこちらに走ってくる。どう見ても動きが鈍い。
レッドドラゴン。赤い鱗を持った3,4メートルほどの体長の竜。火属性。二足歩行もできるが四足歩行の方が多く見られる。滅茶苦茶美味しい。焼いても煮ても蒸しても燻しても美味しい。
ガレットの書にはその後も味についての感想が長々と記されていた。絶賛しすぎじゃないですか?苦笑が漏れる。竜はトカゲや蛇の仲間だ。つまりは変温動物だ。寒いここの地では血が鈍り、活動はほぼしない。暖かくなるのを待つだろう。それでもレッドドラゴンが動き出した。門番として護るべきものがあった?否、ただその姿が、目の前に現れたアレン達が眩しく見えたからだ。眩しくては寝ていられないのだ。
体が思うように動かない。しかし、真の幸福を求めるには偽物の光は邪魔にしかならない。レッドドラゴンは牙を剥く。
「動きが鈍ってんなら簡単だ。いくぜ」
そう宣言したコストイラは言葉通りに解体してみせた。
コンコン。
扉をノックする音。ちなみに、扉をノックしたのは開けた後だ。中にいた存在に見られた後に取り繕うようにノックしている。
中にいた存在――エヴァンズはその軽薄そうな笑みを浮かべる男をただ睨む。ノックに対して咎めるようなとか、用件を聞くようにとかそんな思いが一つもない、本当にただの睨みに男は口の端をヒクつかせる。
「何か言ってくれよ、エヴァンズさん」
「出てけ』
エヴァンズは荘厳な声で命令する。
「すげねぇなぁ。用件済んだら帰るよ」
軽薄そうな男は右手をひらひらとさせながら、扉に凭れさせていた体を起こす。
「実験が失敗してその結果生まれたっていう薬なんですけど、まだあります?ほら、この前パンタレストさんに愚痴ってたやつ」
「…………』
エヴァンズは何も言わず蔦を伸ばす。蔦は体の一部のように繊細に動きビンを5本絡めとると、要求してきた男――ロッドの前に差し出す。
「帰れ』
「何でそんな早く………」
「邪魔だからだ』
「あ、はい」
帰らせるんですかと続けようとしたが、先読みされたうえつっけんどんに突き放される。ロッドはビンを受け取ると、1本1本丁寧にフカフカで柔らかい素材で作られたカバンに入れていく。衝撃を与えて爆発されると困るからだ。
「じゃあ、宣言通り帰りますよ」
「さぁ、早くその体をテキパキと動かし出て行くがいい』
ロッドは素直におとなしく出て行く。
どうしてエヴァンズといいカンジャといい研究に情熱を注いでいる仲間は協調性がないのか。ロッドは自分のことを棚に上げハァと溜め息を吐いた。
「ん?」
ロッドの目の前からヴェスタが歩いてきた。ロッドはヴェスタが苦手だ。というか、この組織にはヴェスタと仲のいいものは誰一人としていない。ヴェスタはそうは感じていないらしいが。ロッドはヴェスタから意図的に距離を置いている。面倒臭いからだ。
「ロッドさんじゃないすか。何してるんです?つかそのでかめのバッグ、何?」
「あ、オレはお前に用ないから」
「へ?ちょ、え?」
止まることなく通り過ぎるロッドにヴェスタは頭を掻く。呼び止めるほどの用もないので後で会いに行くことにしようと考え、食堂に向かう。今日はこの前に提案した新しいメニューが完成したのだ。早速食べに行かなくては。
ロッドは予約しているので食堂に向かわずして新メニューを食べられるのだが、そんなことは関係なく、自身の部屋に引き篭もる。
アレン達は地下道を抜け、鬱蒼とした森に辿り着いた。アレン達は白い息を吐きながら森を眺める。先が見えない。アレン達はリックから貰った地図を広げてルートを考える。シキが地図上に指を置く。
「ここ、建物」
たおやかな指先にある建物はここから北へまっすぐに歩いたところにあるらしい。
「取り敢えず一旦の目標はその建物としておきましょう」
アレンは地図を畳むとカバンにしまう。森を眺めながらもう一度白い息を吐く。
「あら?」
一人の妙齢の女性が不思議そうに声を出す。
「どうしましたか?」
「これって誰用の料理だったかしら?」
「あぁ、それはロッド様ですよ。あの人が予約していったんです」
「あぁ、そうだったわね」
妙齢の女性は若い女性に言われて思い出す。そう言えばこのハンバーグという料理に興味を示していたな。
「これ、ロッド様のところに運んでもらえる?」
「良いですけど、今どちらに?」
「自身の塔じゃないかしら」
「げ、結構時間かかるから冷めちゃいますよ」
「カバー付けて」
若い女性に皿に被せるカバーを渡す。若い女性は小さく溜め息を吐いて皿を運ぶ準備をする。
「おばちゃん!新しいメニューのハンバーグある?」
「は~い。ちょっと待ってね~。今焼いてるから」
「やっぱいい匂いだね」
今メニューを注文したのはロッドと同じく新メニューに興味を示していたヴェスタだ。妙齢の女性はそっちに付きっ切りにになるだろう。ヴェスタはこれまでも料理を頼んだ時は常に料理している人に話しかけ続けていた。メイドたちにも不評な人物だ。しかし、無下にできない。幹部だから。
ヴェスタの相手をしなくていいことを安堵しながら、ロッドに対して料理を運ぶことにした。
アレンよりも肌の露出が多いアシドを見る。ポケットに手を突っ込んだ状態ではあるが身震いは一つもない。
え?寒いのは僕だけ?
「へっぷち」
エンドローゼが可愛らしくくしゃみをした。やった。寒いのは僕だけじゃなかった。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。だ、だ、大丈夫なんですが、あの、その、え、さ、さ、寒くないですか?」
「確かに寒くなったな」
アシドが言った、寒いと。じゃあ、なんで短いズボンを履いているんですか?しばらく歩くと外への出口を見つけた。しかし、その前に竜がいた。ワイバーンのような翼竜ではなく、両手がしっかりと存在する、竜。もたもたと起き上がり、ゆるりゆるとこちらに走ってくる。どう見ても動きが鈍い。
レッドドラゴン。赤い鱗を持った3,4メートルほどの体長の竜。火属性。二足歩行もできるが四足歩行の方が多く見られる。滅茶苦茶美味しい。焼いても煮ても蒸しても燻しても美味しい。
ガレットの書にはその後も味についての感想が長々と記されていた。絶賛しすぎじゃないですか?苦笑が漏れる。竜はトカゲや蛇の仲間だ。つまりは変温動物だ。寒いここの地では血が鈍り、活動はほぼしない。暖かくなるのを待つだろう。それでもレッドドラゴンが動き出した。門番として護るべきものがあった?否、ただその姿が、目の前に現れたアレン達が眩しく見えたからだ。眩しくては寝ていられないのだ。
体が思うように動かない。しかし、真の幸福を求めるには偽物の光は邪魔にしかならない。レッドドラゴンは牙を剥く。
「動きが鈍ってんなら簡単だ。いくぜ」
そう宣言したコストイラは言葉通りに解体してみせた。
コンコン。
扉をノックする音。ちなみに、扉をノックしたのは開けた後だ。中にいた存在に見られた後に取り繕うようにノックしている。
中にいた存在――エヴァンズはその軽薄そうな笑みを浮かべる男をただ睨む。ノックに対して咎めるようなとか、用件を聞くようにとかそんな思いが一つもない、本当にただの睨みに男は口の端をヒクつかせる。
「何か言ってくれよ、エヴァンズさん」
「出てけ』
エヴァンズは荘厳な声で命令する。
「すげねぇなぁ。用件済んだら帰るよ」
軽薄そうな男は右手をひらひらとさせながら、扉に凭れさせていた体を起こす。
「実験が失敗してその結果生まれたっていう薬なんですけど、まだあります?ほら、この前パンタレストさんに愚痴ってたやつ」
「…………』
エヴァンズは何も言わず蔦を伸ばす。蔦は体の一部のように繊細に動きビンを5本絡めとると、要求してきた男――ロッドの前に差し出す。
「帰れ』
「何でそんな早く………」
「邪魔だからだ』
「あ、はい」
帰らせるんですかと続けようとしたが、先読みされたうえつっけんどんに突き放される。ロッドはビンを受け取ると、1本1本丁寧にフカフカで柔らかい素材で作られたカバンに入れていく。衝撃を与えて爆発されると困るからだ。
「じゃあ、宣言通り帰りますよ」
「さぁ、早くその体をテキパキと動かし出て行くがいい』
ロッドは素直におとなしく出て行く。
どうしてエヴァンズといいカンジャといい研究に情熱を注いでいる仲間は協調性がないのか。ロッドは自分のことを棚に上げハァと溜め息を吐いた。
「ん?」
ロッドの目の前からヴェスタが歩いてきた。ロッドはヴェスタが苦手だ。というか、この組織にはヴェスタと仲のいいものは誰一人としていない。ヴェスタはそうは感じていないらしいが。ロッドはヴェスタから意図的に距離を置いている。面倒臭いからだ。
「ロッドさんじゃないすか。何してるんです?つかそのでかめのバッグ、何?」
「あ、オレはお前に用ないから」
「へ?ちょ、え?」
止まることなく通り過ぎるロッドにヴェスタは頭を掻く。呼び止めるほどの用もないので後で会いに行くことにしようと考え、食堂に向かう。今日はこの前に提案した新しいメニューが完成したのだ。早速食べに行かなくては。
ロッドは予約しているので食堂に向かわずして新メニューを食べられるのだが、そんなことは関係なく、自身の部屋に引き篭もる。
アレン達は地下道を抜け、鬱蒼とした森に辿り着いた。アレン達は白い息を吐きながら森を眺める。先が見えない。アレン達はリックから貰った地図を広げてルートを考える。シキが地図上に指を置く。
「ここ、建物」
たおやかな指先にある建物はここから北へまっすぐに歩いたところにあるらしい。
「取り敢えず一旦の目標はその建物としておきましょう」
アレンは地図を畳むとカバンにしまう。森を眺めながらもう一度白い息を吐く。
「あら?」
一人の妙齢の女性が不思議そうに声を出す。
「どうしましたか?」
「これって誰用の料理だったかしら?」
「あぁ、それはロッド様ですよ。あの人が予約していったんです」
「あぁ、そうだったわね」
妙齢の女性は若い女性に言われて思い出す。そう言えばこのハンバーグという料理に興味を示していたな。
「これ、ロッド様のところに運んでもらえる?」
「良いですけど、今どちらに?」
「自身の塔じゃないかしら」
「げ、結構時間かかるから冷めちゃいますよ」
「カバー付けて」
若い女性に皿に被せるカバーを渡す。若い女性は小さく溜め息を吐いて皿を運ぶ準備をする。
「おばちゃん!新しいメニューのハンバーグある?」
「は~い。ちょっと待ってね~。今焼いてるから」
「やっぱいい匂いだね」
今メニューを注文したのはロッドと同じく新メニューに興味を示していたヴェスタだ。妙齢の女性はそっちに付きっ切りにになるだろう。ヴェスタはこれまでも料理を頼んだ時は常に料理している人に話しかけ続けていた。メイドたちにも不評な人物だ。しかし、無下にできない。幹部だから。
ヴェスタの相手をしなくていいことを安堵しながら、ロッドに対して料理を運ぶことにした。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる