メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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8.魔王インサーニアを討て

8.ドラゴンの巣

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 峠を下り始めたあたりにやってきた。この峠にはグリフォンしかいなかった。ドラゴンがいると思ったが出てこなかった。緩やかな下り坂の両側は崖であり、天然の壁になっている。10メートルもある壁は一本道を演出しており、逃げ場がない。



 アレンは瞳に魔力を集めたまま、お上りさんの如くきょろきょろとしている。ふと上を見ると冷や汗が出た。あるじゃん。ドラゴンの巣。



 崖の上にドラゴンがいた。明らかにこちらを窺っている。無闇に襲ってはこないのだろうことは理解できた。機を狙っているのか、見極めしているのか分からないが、全然襲ってこない。幸運なことなのかどうかわからない。



「ドラゴンがいると思ったが、見えないな」



「いますよ、上に」



「うぇ?」



 アシドのぼやきにアレンが答えるとアシドは変な声が出た。全員が上を向く。



 ドラゴンと龍は違うものである。しかし、どちらも総じて能力が高い。アレン達だって戦いになれば勝つために頑張って戦う。戦闘に積極的なコストイラ、何を考えているのか分からないシキ、コストイラに追随しようとしているアシドしか戦おうとする者はいないだろう。戦闘はなるべく避けたいものだ。



 ドゴォン。上から重たいものが落ちてきた。何が、と思ったが、青かインディゴぐらい暗い感じのような気がする何か。一瞬だったのでよく見えなかった。今も土煙が邪魔でよく見えない。開きっぱなしの魔力の篭った瞳によれば名前はブルードラゴン。



「何か降って来たな。ドラゴンか?」



「そのようです。まだ上にもいるので油断できません」



「分かってる」



 コストイラは刀を抜き、煙が晴れるのを待つ。ブルードラゴンは煙を掻き分け、突進してきた。見えた姿は、昔図鑑で見たサンショウウオにそっくりだ。体長は鼻先から尾まで3メートルと少し、色はインディゴ。間抜けた顔からは想像できないほど凶悪な威力を秘めているのだろう。歯はレッドドラゴンと違い平らで、牙は見当たらない。牙は一点に集中した痛みだが、歯は全体を押しつぶしてくる。噛みつかれたくないのは歯の方だ。



 レイドが楯を構えて前に立つ。ブルードラゴンと衝突。楯が少しひしゃげた。レイドは血管を幾筋も浮かべながら張り合う。ブルードラゴンは首を振りレイドを飛ばす。左前脚をアシドが刺す。ターゲットがアシドに向いた時、逆側からコストイラが攻撃する。うまくターゲット変更を繰り返し翻弄する。



『ゴォオオオッッ!!』



 一瞬ブルードラゴンが啼いたかと思ったが、違った。声の出所が違う。上からだ。見上げると、レッドドラゴンが口内に炎を溜めているところだった。















 同胞を殺そうとする下衆を睥睨していたドラゴンの一体が動いた。彼は下で戦っているブルードラゴンとは幼馴染だ。いつも両頭は仲が良く、そしてよいライバルだった。



 互いが互いを理解しており、大人や親さえも気付かない変化に互いだけが気付けた。だからこそ、互いに良い競い相手として見ていた。互いに自分の方が強い、自分の方が優れていると主張してはそこがすごい、そこは勝てないと褒め合う。



 そんな相手。そんな相棒。そんな友が死にかけている。彼の体は自然と動いた。



 下衆たちに向けて炎を吐いた。無論、ただの威嚇だ。本気で撃ったならば友を巻き込みかねない。その炎をわざわざ浴びて宙へ舞った男が一人。赤い髪を逆立てた燃えるような瞳を持つ男は刀ごと回転し、炎を巻き込み空へと上る。



 まるで龍のように登る炎は、彼を巻き込む。彼は白眼を剥き、落ちていく。たかが木っ端ドラゴンが擬似とはいえ龍には勝てなかったのだ。



 落ちてくる同胞を見て、ブルードラゴンは思った。世界はなんて広いのだろう。仮にもこの巣のトップ2,3のドラゴンだ。なのにこのざま。これでは巣のもの達に顔向けできない。それにトップのダンナルミョウジンダイ様には何と告げればいいのだろうか。考えただけで嫌になる。



 ゆえにブルードラゴンは抵抗することにした。淡いオレンジに輝く目は一番近くにいるアシドを捉えた。叫べばバレる。本能的に分かっていた。だからこそ静かに、けれど威力を高めるように力を込める。今だ、と突進するが、アシドは槍を足場にしてブルードラゴンの背丈を越える。ブルードラゴンからすれば姿が消えたようにしか見えない。上から槍を突き刺す。



『グゴー―ッ!!』



 青い血がドクドクと流れ出す。先の戦いの分も含め、かなりの致命に近い量の血を失っている。意地だった。いまだに動き続けているのは意地でしかなかった。傷口からはオレンジと黒の混じったような煙が出ている。これが出なくなった時、自分は死ぬ。



 タイムリミットは約5分だろう。一人は道連れにしていこう。決意に満ちた眼差しにアシドが応える。コストイラもやったのだ。自分にできないハズがない。



 レッドドラゴンに乗り、首に刀を刺し止めを入れた状態でこちらを眺めていた。アシドは舌を打ち、一睨みするとブルードラゴンに視線を戻す。



 先に動いたのはアシドの方だった。ブルードラゴンは迎え撃つように大口を開け、噛みつこうとする。アシドは地面を割るほどに力を入れ、大きく跳ぶ。ブルードラゴンは上を向く。届かない。ブルードラゴンは機動力に欠ける、そこが弱点である。アシドは後ろに回ると、尾の攻撃を躱し、背に槍を刺し入れる。



 傷が増える。煙の発生速度が上がる。口から青い血が吐き出される。内臓が傷ついたのだろう。



 眼の光が消えた。



 ドラゴン達は襲ってこない。怖気づいたのか、指示されているのか分からないが、これ以上襲ってこないなら都合がいい。



 アレン達はドラゴンの巣、縄張りを抜けた。
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