メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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8.魔王インサーニアを討て

10.紅蓮の赤竜

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 地面が燃える。



 世界には地面が燃え続けている場所があると、近所に住むよく上裸になる若い見た目だが年のいっているおじさんから聞いたことがある。確か、燃えている理由は下からガスが漏れているからだったか。もっと詳しく聞いておけばよかった。



 しかし、ここにはそんな跡はない。炎は少しずつ消えていく。そんな時間を待たずにフレアドラゴンは炎を踏み潰した。そこでドラゴンの全体像がはっきりと見えた。体長は8メートルほど、レッドドラゴンの2倍なんてものじゃない。見下ろしてくるオレンジと黄色の混じった瞳は、今度は観察を優先していた。敵を倒すことのみ特化した観察眼は、フレアドラゴンの決意と共に打ち切られる。口内に爆発的に生じた炎は、これまでのドラゴンの息吹ブレス同様、火炎放射のように発射される。その瞬間、皆が一斉に動いた。レイドはエンドローゼを、アシドはアストロを、シキはアレンを摑んだ状態で。アレンは一時的に自分の限界速度より数値上100ほど速い速度での移動を体験した。そんな速度の経験のないアレンはもれなく酔った。凸凹の道を全速力で走る馬車の中にいる感覚だ。この例えの状況は体験したことないが。



 攻撃力の高いコストイラと特に足の速いアシドとシキがフレアドラゴンの近くで戦う。アストロとアレンは遠距離から攻撃し、攻撃が来た時の楯としてレイドが構える。アレンは酔いが止まらず矢が番えられない。エンドローゼは必要に応じて回復をする役目を担っているが、動きが速すぎて目を回してしまっていた。もし、正常だったとしても全員が速く動くので回復魔法を放てなかった。



 フレアドラゴンは巨体である。巨体は動くのに緩慢になりやすいが、フレアドラゴンは想定よりも速かった。普通であれば動きの遅いアレンやアストロを狙うべきなのだろうが、それができない。コストイラ達がそれを阻止している。狙うと肉を斬られる。フレアドラゴンはシキの振るうナイフを口で掴み取る。勢いそのままに投げ飛ばした。



 満足しているとコストイラが鱗を数枚一気に切り飛ばす。肌の傷から火傷になりそうなほど熱いオレンジと黒の混じった煙が噴き出す。炎のように熱い血が地面を焦がす。急激な暑さ上昇に汗がぶわりと噴き出す。エンドローゼは回していた目が正常に戻る。アストロがエンドローゼに水をぶっかける。子犬のように体を震わし、現状の把握に努める。



 フレアドラゴンの動きがぴたりと止まる。何が起こったのかは分からないがチャンスだ。フレアドラゴンはアシドを睨んでいるが、アシドの仕業だろうか。



「うぷっ」



 アシドは吐きそうになり口元を手で押さえる。フレアドラゴンはアシドを噛み殺そうと首を伸ばす。つらそうな顔をしながらアシドはニヤリと笑う。フレアドラゴンは他の今までのドラゴンとは違い、思慮深い。したがって、相手が笑みを浮かべる理由を探してしまった。その隙が命運を分けた。



 アシドは無理矢理地面を蹴飛ばし攻撃を躱す。ドラゴンの頭は地面に当たり、動きを止め、そこに刀が振り下ろされる。首からも熱気と熱血を垂れ流す。フラフラと首も体も揺らしながら、ドスドスと前に進む。オレンジの目はアシドを見つめ、細めていく。何も言わない。何を訴えているのか分からない。ドラゴンは、一人の男を見つめ、そしてズンと頭を地につけ、力を抜いた。察しがついた。死を覚悟したのだ。本能のままに暴れることなく、死を待つことにしたのだ。



「何でだよ」



 見つめられるアシドは口を開いた。



「何でそんなもう満足です、みてェな顔出来んだよ」



 アシドは苛つき、血管を浮かばせる。



「そんな貫禄出してねェで、もっと抗ったらどうなんだよっ!!」



 アシドを叫ぶ。伝わっているのか分からない。そもそも、このドラゴンが人の言葉を理解しているのかは不明だ。しかし、アシドは叫んだ。いつかの誰かさんを重ね合わせ、苛ついた感情を乗せて叫ぶ。



「何で死を受け入れる。まだ戦えるのに諦められる。どうしてプライドかなぐり捨てて生を全うしようとしねェんだ!ドラゴンだって地べた這い蹲ってでも汚くても生きようとするところを見せてくれよ!!」



 アシドが肩で息をしている。ここまで感情的に叫ぶアシドは中々見ない。コストイラとアストロでさえ珍しいと感じるほどだ。対するドラゴンは言葉をぶつけられてもなお澄まし顔だ。



「クソッ」



 お気に召さず吐き捨てると、背を向けた。



『これは全く。やっぱりこうなったか』



 暑いぐらいの空間のはずなのに、氷水をかけられたかのように冷えた。



『私もそこの蒼髪の君におおよそは賛成だね。どうしてダンナルミョウジンダイが暴れ出さないのか不思議だよ。相も変わらず分からないことだらけだよなぁ』



 フレアドラゴンが空けた穴から出てきた男はアシドのものより明るい青色の髪を待っていた。記憶にある姿と違い、遠目からでも分かるほどに眼の下に隈を形作っており、立った姿も猫背でフラフラとしている。しかし、記憶にある姿の多くは変わっておらず、周りのことなど気にせず自分本位に独り言を言う姿はむしろ磨きがかかっている。



 アレン達に初めての敗北を味わわせてきた男――カンジャがそこにはいた。















 カンジャは最初から見ていた。



 レッドドラゴンが壁の前で寝そべっているところから見ていた。カンジャはボーッと外を眺めていた。研究が行き詰まっていたのだ。新しい活路は関係のない瞬間に訪れるものだという持論を持つカンジャは、外の景色を見て打開できるヒントを探していた。



 研究にはどうしても犠牲がつきものだ。ヒトのことをまるで考えないカンジャでも命を湯水のごとく消費しようなどとは考えない。可哀想などとは違う感情であり、単に有限だからであるのだが、どう見繕うかと考えていた。



 レッドドラゴンを従えて研究の手伝いをさせるのもありかもな、などと考えていると、そこで傲慢な奴らが現れた。いつかに現れ、わざわざ会いにまで行ってやった勇者御一行だ。



『レッドドラゴンぐらい勝てるよなぁ』



 窓際に頬杖をつき眺める。データを下回るような裏切りはいらないぞと、心の中で思いながら観察する。あっさりと倒す。思わず口笛が出た。予想していた中ではいい方に傾いている。これなら期待できるかもしれないな。



 フレアドラゴンが壁を突き破る。



『あぁあ。ダンナルミョウジンダイの奴、破壊しやがって。まぁすぐに直せる範囲だからいいんだけどさ。私の苦労も考えて行動してほしいよね』



 苦戦している。しかし、苦戦している理由がダンナルミョウジンダイの体力が多いからだと気付いてからはあまり見ていて面白いものではない。



 大きな情報が手に入りはしたので殺すのはよしてやろう。



『ふぅん。あいつら、あの体力を一瞬で削り切る攻撃力はないのか』



 ひどくつまらなそうに言うが、これは重要なことだ。カンジャはそこで視線を切った。塔から出て行くためだ。再び見たとき、ダンナルミョウジンダイは伏せっていた。



 カンジャは途中から見ていなかったが、頭や体を見て、体感残りの体力は10分の1だと推測した。まだまだこれから、大いに粘り暴れるだろう。そんなことを思っていると、誰かが叫んだ。要約すると死ぬな、生きろ。



 カンジャも驚いた。予想外過ぎる事実が発覚した。ダンナルミョウジンダイはそんな感情を持ち合わせていたのか。これは新たな研究テーマになる。そのためにも貴重なサンプルである彼の竜に死なれては困る。



 だからこそ、カンジャは決着を待たずに乱入することにした。
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