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11.妖怪の山
5.豊穣の花畑に佇む限界村
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バルログとサラマンドラの大怪獣バトルを抜けると、そこには村がありました。
アレンは自分で言っていて意味が分からなくなった。
今は、たった一人しかいない、この村の長の家に向かっている。つまり、この老人の家だ。
「ふぅ着きました」
老いた村長はちょっとした散歩でも小さく息を切らしていた。
「年には勝てませんな。老いた足にはどんどん痛みを増します。ですが、老いるだけ生きて来られて幸運だったと思うべきだろう」
村長は椅子に座ると自らの足を撫でる。
「じゃあ何で外にいたんだ?」
「大きな音がしたからだ。あとは散歩も兼ねていてね。この村には頼れる者がもうおらんのだ。いつまでも健康でいなくてはね」
ふぅんと質問者コストイラは出されたお茶を口に含む。
「さっき向こうに行った、と言っていましたが、その向こうとは?」
「神社じゃよ」
アレンは首を傾げてしまう。アレン達は教会は知っていても神社は知らないのだ。
「あの神社はクロゴロ教のものじゃが、久しく参拝者は来ておらんなぁ」
ここで初めて7人は神社は神を祀る施設だと理解する。
「いつだったか瘴気で満ちるようになってから、我々の中でも勇敢だった者がかつてあの場で祈りを捧げたのだ。あの神社は安らぎを感じると言ってな」
老人はお茶を飲んだ。老人は自分の友や家族までもがいなくなっていった。それでもここに留まり続けている。追いかけるでも、別の村に行くでもなく、ここにいる。きっと思い出が詰まったこの地を捨てられないのだろう。
「おや、お茶がなくなってしまったな」
村長が椅子から立ち上がろうとするが、エンドローゼが止める。
「わ、わ、私が淹れてきます。お、お、おじ、おじいちゃんは座っていてください」
「ふむ。儂にも孫がいたらそう呼ばれていたのだろうな。しかし、茶の場所は分からんじゃろ」
「あっ」
指摘を受け、エンドローゼは恥ずかしそうに座る。
「提案してくれただけでも嬉しいさ」
フォローを入れると老人は席を立ち、戸を開ける。
「おや? 今夜は月が赤いな」
村長の言葉につられ外を見ると、紅い月が照っていた。
「何で紅いんだ。確かあの吸血鬼姉妹と出会った夜もそうだったよな」
「まさか、あの村長と戦う!?」
「いや、あの爺さん戦えんの?」
アストロはもじもじと何か話そうとしているエンドローゼを見つめる。不用意に話しかけない。
「と、ト、トッテム教では」
「ん??」
「そういえばエンドローゼはトッテム教で、月信仰だったな」
「は、はい。その、トッテム教ではつ、つ、月が赤くなるのは」
「赤くなるのは?」
「しゃ、しゅ、主神であるフォン様が怒ってらっしゃる時だと、い、言われています」
「怒り?」
「つ、つ、月はフォン様のか、か、かん、感情を表していると言われています」
一同が首を傾げる。
「何に怒ってんだ?」
「そ、そ、そこまでは」
きぃと戸が開く。
「待たせてしまったかね。ん? 首を傾げてどうした?」
「いえ、月が紅いのかな、と」
「さぁな、儂も知らん」
村長は椅子に座りながら、そういえばと継ぐ。
「前に紅い月が出た時は神社に魔物が出現したな」
「あぁ、いやそれ以前にもいたのかもしれないが、半年ほど前から竜を見かけるようになった。ここらでは見かけなかったんだがな」
村長は持ってきたお茶を口に含む。半年前の紅い月。半年前から出現し始めた竜。同じ時期。偶然とは思えない。アレンがアイコンタクトをする。
明日、神社に行こう。
ロンフォース・アーガイル・バンツウォレインは頭を抱えていた。現在、バンツウォレイン王国は逼迫しており、全く首が回っていないといっていい。大国の中心部でさえ、支援が行き届いていないのに辺境地まで回せるようになるはずがない。
もちろん、騎士団にも余裕はない。
王国周辺の近い地域を護るだけで手一杯になってしまっていて、これまた辺境地にまで派遣する余裕がない。
ロンフォースは一枚の嘆願書を手に取り、もう片方の手で額を覆った。紙に書かれた文字は書きなれていないものの文字で、非常に読みづらいものとなっている。解読できた単語を見ると、”助け”、”恐怖”、”騎士”、”ベート”。ベートは凶悪な獣を意味する単語だ。読み取れた単語から考えれば、凶悪な獣がいるから騎士を送ってほしいということだろう。普段ならば気にも留めなかっただろう。しかし、この嘆願書はもうこれで10枚目だ。ここで兵の派遣を行わなければ王の威信にかかわる。
「グロリウス・パタロリア」
「はい、何でございましょう」
ロンフォースは宰相を呼び寄せると、持っていた紙を渡す。
「兵の編成をしてくれ」
「送るのですか?」
「あぁ。これ以上無視はできん。反乱でも起こされたらたまらんからな」
「かしこまりました」
ロンフォースは髪を掻き上げながら窓を外を見る。その瞳はチェシバルか魔王領か、はたまたどこを見ているのか。
組まれた兵がチェシバルの地に着いた時、村民は大いに喜んだ。これで恐怖が終わると思うと自然と笑みが出る。
しかし、その笑顔は引き攣った。原因は兵士のたてた作戦だ。ベートがいると思われる巣を含む森を村民で囲み、少しずつ前に歩くことで中心に追い詰め、兵士達が仕留めるというもの。村民の命の危険は終わるどころか瞬間的に跳ね上がった。
結果として誰も死ななかった。ベートを倒したわけではなく、見つけられなかったのだ。森の中は平坦ではなく高低差が多く、そのたびに囲う人達の隙間が増えていった。そこから逃げたのか、そもそもいなかったのか、それは分からないが、ベートの討伐はなされなかった。
その後もいくつかの作戦を実施していった。どれもこれもが失敗に終わった。当たり前だ。彼らは戦士であって、狩人ではないのだ。森は敵の土壌なのだ。被害は増えるばかりだ。
兵士は次の作戦に躍り出る。
被害は女子供しかいない。兵士は女装することにした。筋肉のもりもりついた女性など、ベートは襲おうとはしないだろう。
村民は兵士達を馬鹿にした。
国は、ベートに対して懸賞金をかけた。
まだ絶望は続く。
アレンは自分で言っていて意味が分からなくなった。
今は、たった一人しかいない、この村の長の家に向かっている。つまり、この老人の家だ。
「ふぅ着きました」
老いた村長はちょっとした散歩でも小さく息を切らしていた。
「年には勝てませんな。老いた足にはどんどん痛みを増します。ですが、老いるだけ生きて来られて幸運だったと思うべきだろう」
村長は椅子に座ると自らの足を撫でる。
「じゃあ何で外にいたんだ?」
「大きな音がしたからだ。あとは散歩も兼ねていてね。この村には頼れる者がもうおらんのだ。いつまでも健康でいなくてはね」
ふぅんと質問者コストイラは出されたお茶を口に含む。
「さっき向こうに行った、と言っていましたが、その向こうとは?」
「神社じゃよ」
アレンは首を傾げてしまう。アレン達は教会は知っていても神社は知らないのだ。
「あの神社はクロゴロ教のものじゃが、久しく参拝者は来ておらんなぁ」
ここで初めて7人は神社は神を祀る施設だと理解する。
「いつだったか瘴気で満ちるようになってから、我々の中でも勇敢だった者がかつてあの場で祈りを捧げたのだ。あの神社は安らぎを感じると言ってな」
老人はお茶を飲んだ。老人は自分の友や家族までもがいなくなっていった。それでもここに留まり続けている。追いかけるでも、別の村に行くでもなく、ここにいる。きっと思い出が詰まったこの地を捨てられないのだろう。
「おや、お茶がなくなってしまったな」
村長が椅子から立ち上がろうとするが、エンドローゼが止める。
「わ、わ、私が淹れてきます。お、お、おじ、おじいちゃんは座っていてください」
「ふむ。儂にも孫がいたらそう呼ばれていたのだろうな。しかし、茶の場所は分からんじゃろ」
「あっ」
指摘を受け、エンドローゼは恥ずかしそうに座る。
「提案してくれただけでも嬉しいさ」
フォローを入れると老人は席を立ち、戸を開ける。
「おや? 今夜は月が赤いな」
村長の言葉につられ外を見ると、紅い月が照っていた。
「何で紅いんだ。確かあの吸血鬼姉妹と出会った夜もそうだったよな」
「まさか、あの村長と戦う!?」
「いや、あの爺さん戦えんの?」
アストロはもじもじと何か話そうとしているエンドローゼを見つめる。不用意に話しかけない。
「と、ト、トッテム教では」
「ん??」
「そういえばエンドローゼはトッテム教で、月信仰だったな」
「は、はい。その、トッテム教ではつ、つ、月が赤くなるのは」
「赤くなるのは?」
「しゃ、しゅ、主神であるフォン様が怒ってらっしゃる時だと、い、言われています」
「怒り?」
「つ、つ、月はフォン様のか、か、かん、感情を表していると言われています」
一同が首を傾げる。
「何に怒ってんだ?」
「そ、そ、そこまでは」
きぃと戸が開く。
「待たせてしまったかね。ん? 首を傾げてどうした?」
「いえ、月が紅いのかな、と」
「さぁな、儂も知らん」
村長は椅子に座りながら、そういえばと継ぐ。
「前に紅い月が出た時は神社に魔物が出現したな」
「あぁ、いやそれ以前にもいたのかもしれないが、半年ほど前から竜を見かけるようになった。ここらでは見かけなかったんだがな」
村長は持ってきたお茶を口に含む。半年前の紅い月。半年前から出現し始めた竜。同じ時期。偶然とは思えない。アレンがアイコンタクトをする。
明日、神社に行こう。
ロンフォース・アーガイル・バンツウォレインは頭を抱えていた。現在、バンツウォレイン王国は逼迫しており、全く首が回っていないといっていい。大国の中心部でさえ、支援が行き届いていないのに辺境地まで回せるようになるはずがない。
もちろん、騎士団にも余裕はない。
王国周辺の近い地域を護るだけで手一杯になってしまっていて、これまた辺境地にまで派遣する余裕がない。
ロンフォースは一枚の嘆願書を手に取り、もう片方の手で額を覆った。紙に書かれた文字は書きなれていないものの文字で、非常に読みづらいものとなっている。解読できた単語を見ると、”助け”、”恐怖”、”騎士”、”ベート”。ベートは凶悪な獣を意味する単語だ。読み取れた単語から考えれば、凶悪な獣がいるから騎士を送ってほしいということだろう。普段ならば気にも留めなかっただろう。しかし、この嘆願書はもうこれで10枚目だ。ここで兵の派遣を行わなければ王の威信にかかわる。
「グロリウス・パタロリア」
「はい、何でございましょう」
ロンフォースは宰相を呼び寄せると、持っていた紙を渡す。
「兵の編成をしてくれ」
「送るのですか?」
「あぁ。これ以上無視はできん。反乱でも起こされたらたまらんからな」
「かしこまりました」
ロンフォースは髪を掻き上げながら窓を外を見る。その瞳はチェシバルか魔王領か、はたまたどこを見ているのか。
組まれた兵がチェシバルの地に着いた時、村民は大いに喜んだ。これで恐怖が終わると思うと自然と笑みが出る。
しかし、その笑顔は引き攣った。原因は兵士のたてた作戦だ。ベートがいると思われる巣を含む森を村民で囲み、少しずつ前に歩くことで中心に追い詰め、兵士達が仕留めるというもの。村民の命の危険は終わるどころか瞬間的に跳ね上がった。
結果として誰も死ななかった。ベートを倒したわけではなく、見つけられなかったのだ。森の中は平坦ではなく高低差が多く、そのたびに囲う人達の隙間が増えていった。そこから逃げたのか、そもそもいなかったのか、それは分からないが、ベートの討伐はなされなかった。
その後もいくつかの作戦を実施していった。どれもこれもが失敗に終わった。当たり前だ。彼らは戦士であって、狩人ではないのだ。森は敵の土壌なのだ。被害は増えるばかりだ。
兵士は次の作戦に躍り出る。
被害は女子供しかいない。兵士は女装することにした。筋肉のもりもりついた女性など、ベートは襲おうとはしないだろう。
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