メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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11.妖怪の山

8.天狗の隠れ里

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 へっぷし」

 コストイラが盛大にくしゃみをする。寒期に近づく季節だというのに湖に入ったせいだろう。服が水を吸い、コストイラの体温を急激に奪っていった。

 忌々しげに舌を打つ。

「何でお前らは無事なんだよ」

 コストイラは自身の体を抱きながら、アシドとシキを見る。両者もコストイラ同様びしょ濡れになっているが、くしゃみ一つしていない。

「着衣泳は慣れてるからな」
「ん」

 アシドはこの程度何でもないというように髪を掻き上げ、コストイラを見下ろす。シキは無表情すぎて何を思っているのかを窺えない。

「だぁーもうこれで服が乾かねェかなァ!!」

 やけくそになったコストイラは刀を抜き、炎を纏わせる。一瞬で焚火を作り、当たる。アシドとシキも当たっていた。

「お前らも当たんのかよ」
「慣れてるだけで大丈夫ってわけじゃねェからな」
「ん」

 アシドが両手を火に見せつけるように当たりながら答えると、シキも力強く頷いた。

「さっきまでひどく感動的な場面だったはずなのだがな」
「そうね」

 レイドとアストロは並んで、晴天となった空を見上げている。

「で、この後どこ行くの?」

 アストロはアレンの方に向き直り、聞いてくる。

「神社を離れて、先ほどの村とは反対側に歩きます」
「目的地は?」
「ありません。ただ、レイドさんの楯がひしゃげてしまったので直したいですね」
「む」

 言われ、レイドは自身の楯を見つめる。黄龍の突きの跡を撫で、下唇を噛む。楯まで守れなかった。自分はまだまだ未熟だ。

「ほら、焚火組、早く行くわよ」
「くそ、しょうがねェ。ここで時間を使いすぎるわけにゃいかねェもんな」

 コストイラは火を消し、刀を収める。7人は最後、本殿にお辞儀をして石段を下りる。鳥居の外に出ると、もう一度お辞儀した。

「さっきの村は?」
「右です」
「じゃあ向かうのは」
「左ですね」
「おし、じゃあ行こうか。腰の落ち着けることのできるとこで服を乾かす」

 元気よくコストイラが歩き始める。

「不安ね」
「空回りしなきゃいいですね」
「ハァ、そうね」

 アストロは向かう先が森であることを確認し、嫌そうに溜息を吐いた。




 森には危険がたくさんある。

 テスロメルの著『世界の歩き方』に書いてあった文言だ。

 アストロはまさしくそうだと思う。アストロの知る危険の多くは魔物のことだが、誰よりも実感を込めて話すことができる自信があった。森に入って魔物に出会わなかったことなどないのだ。きっと今回もそうなのだろうと、予感していた。

 その予感は当たった。

「何? あの魔物」
「ハーピーですね」

 イメージと違う。人間の上半身に鳥の下半身。両腕の代わりに両翼がある。イメージの中のハーピーは女体だし、乳房だってある。

 しかし、どうだろう。目の前のハーピーたちはいったい残らず中性的な体つきだ。女性のAカップともいえるし、男性の鳩胸とも言い張れる。それどころか首元まで黄色い羽毛で飾られている。どう見ても鳥だ。首下から全部、人間サイズにした鳥にしか見えない。半人半鳥ではなく、人面鳥というのが正しいだろう。

『チェイル』

 ハーピーは一鳴きして羽を広げる。木々に止まっていたハーピーたちは一斉に空に飛び立った。

『チェィルイ―――!』

 リーダーらしきハーピーが鳴くと、他のハーピーも鳴き、突撃してくる。ハーピーの鋭い爪はエンドローゼに向かう。エンドローゼの前にレイドが立ち塞がり、カウンター気味に拳を叩き込む。最初の個体に巻き込まれた後ろの個体は謝って前の個体に爪を立ててしまう。コストイラとアシドは先頭に立ち、ハーピーを処理していく。

「ねぇアレン」
「はい?」
「ハーピーって妖怪だっけ」
「妖怪は東方特有の言い方なので、ハーピーは違いますね」

 アストロはじっとアレンを見つめる。アストロの方が20㎝ほど高いので自然と見下ろされている。アレンは背の低さを気にしているので何かイラっとする。

「何ですか?」
「アンタってそんなに知識あったっけ?」
「旅の途中もそうですけど、みなさんと別れた2週間で僕も成長したんですよ」
「ふぅん」

 そんな会話をしているとコストイラが最後に残ったリーダー格を倒した。

「何か鶏肉食いてェな」
「ハーピーって食べれんの?」

 アレンは久しぶりにガレットの書を開く。

「ハーピー、ハーピーっと」

 ハーピー。人面鳥。然属性。伝承にあるものとは別物。声も汚いし中性的だ。きっと空に憧れたのだろう。肉は美味い。とにかく美味い。普通の鶏肉より美味い。煮ても焼いても美味い。おススメはシンプルに塩を塗して焼く。

「美味しいらしいですよ」
「何匹か持ってくか」

 コストイラは3体を無造作に掴む。運ぶ道具がないので仕方ないが、何の病気を持っているのか分からないものを素手で触る勇気はアレンにはない。

「さすがに森ン中で食事するってなると、それ相応の場所が必要だしな」
「ガレットがこんだけ推してるものだし、落ち着いて食べたいよな」
「あそこなんていいんじゃねェの?」

 コントのように3人が会話をする様はそれだけの仲の良さを窺えた。アシドの示したところは、ちょうど良い感じの広さがあり、料理も休憩もできそうな空間だ。

「お、良いね」

 そのスペースに入ると、もっとふさわしい場所が見えた。アレンはそれを驚愕の眼差しで見つめる。

「あれ、建物?」
「ん?」

 アレンの呟きに反応したレイドも同じ方向を見る。

「確かに建物だな」
「どうした?」

 コストイラが焚火の準備をする中、アシドがこちらに寄ってくる。

「建物?」
「そうです。あれなんですけど」
「んあ~~~。確かに建物だな、あれ」

 アシドは顎を撫でながら、少し逡巡する。すぐに振り向いた。

「お前ら、建物があんぞ」
「え?」

 コストイラ達の動きが止まった。
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