221 / 684
12.世界樹
14.朽ちた世界樹
しおりを挟む
河童の里長の話では、この湿原を抜けると世界樹があるという。
現在、アレン達は湿原を突破し、件の森に着いていた。彼らは森に入ることはなく、その前で一夜を明かすことにした。里長の話ではこの森は非常に大きく、魔物も強いため万全の状態で挑むべきなのだとか。
翌日。目を覚ますと絶望的な光景が広がっていた。恐ろしいほど濃い霧に包まれていたのだ。これはもはや霧ではなく煙の域だ。伸ばした自分の指先さえギリギリだ。コストイラは自身の指が見えるが、エンドローゼには見えない。見える見えないにも個人差がある。
「1m先が限界か?」
「い、い、1mもみ、み、見えないです」
他の人たちも同じように手を伸ばす。アストロ、シキは見えるが、アシド、レイドは見えない。
「おい、アレンはどうだ?」
「僕は見えますね」
「どんくらい?」
「皆さんと同じくらいじゃないですかね。3m先がギリギリです」
「3m!? ”勇者の眼”ヤベェな」
一同はアレンの視力に驚愕する。全員が見える状態のアレンは明らかに常人以上の視力を有していた。
「また先導してくれ」
「魔力にも限りがありますが、頑張ります」
アレンは魔力を集中させ、盤面を展開する。今度は半径10mにする。視界が効かない分、早めに感知する必要がある。
「何か? オレの肌濡れてね?」
コストイラは両腕を広げ、そして、自身の腕を撫でる。アストロは溜息を吐いた。
「当たり前でしょ? 霧って水分なんだから」
「へぇ~~」
コストイラはアストロの方を向き、感嘆の声を漏らすが、アレンにはそうは見えない。コストイラはアストロを視認できていないので顔が完全にエンドローゼを向いている。この状況はアレンにしか見えていない。
………自分だけってなんか優越感あるな。
アレンが鼻高々にしていたからか、反応が遅れた。
「シキさん。後ろからえっと、左斜め後ろから魔物が接近。直線で5mほど」
「ん?」
シキが小さく声を出す。アレンの声が聞こえなかったのではなく、アレンの言った距離と今足首に巻き付いた蔦の攻撃速度があっていないのだ。アレンは魔物は5m先だと言った。シキは瞬間的にアレンの探知の弱点が分かった。アレンは体が見えているのではなく、その体の中核が見えているのだ。つまりはそこから伸びる手足や、武器までは見えていない。感知範囲外からの超遠距離攻撃は見えないのだ。
僅か0.1秒の思考で察したシキはあっという間に蔦を切る。
「敵の攻撃はここまで届く」
「マジで?」
コストイラは居合の体勢を解き、刀を抜く。
「シキ、もう攻撃はきたのか?」
隣にいたレイドが楯を構えながら聞くが、返ってこない。
「ん? シキ? おい、シキ? いないのか」
「あれ? シキさんが凄いスピードで敵に向かっていますね」
「マジかよ。こんな中走るとか化け物、いや、勇者だわ」
コストイラはシキを、その職業に絡めて感動する。言っている側から後を追おうとしたアシドが木の枝に頭を打った。こういう視界不明瞭な時はあまり動かない方がいいのに。
目の前に突如として現れる木の枝を背面飛びで躱す。シキはアレンのように遥か先が見えているわけではなく、僅か1m前に出現する障害物を脅威の動体視力で、見てから回避しているのだ。シキは一瞬のうちに5mの距離を消すと、目の前にダークトレントを捕捉する。
「さよなら」
ダークトレントが何かの反応を残す前に仕留める。シキはナイフを突き刺したまま、ダークトレントの死体をまじまじと見る。アレン達が合流してくる。
「やっと追いついた」
「5mって嘘だろ。長く感じたぜ」
「ど、ど、どっどど、どどうど、どうしたんですか?そ、そ、そんなまじまじと」
シキが死体の腕を持ち上げる。
「世界樹?」
「なわけ。ダークトレントだろ」
即答で突っ込まれシキの肩が落ちた気がする。無表情すぎて分からない。その行動の意図は何だ?
「何だこの壁は? いや、丸太か?」
レイドは一人、薄汚れた白い壁を撫でていた。そこにアシドが近づく。
「確かに何だろうな。どっちにしろ白いのは珍しい。つか、どっかで見たことあんな」
「どうした?」
ゾロゾロと全員が集まる。そこで、ポツリとコストイラが正解を呟く。
「これ魔物だろ。ほら、これ鱗だろ」
アレンはコストイラに言われ、気になった。なので瞳に魔力を集めていく。見れる盤面が縮小する。今は7mほどか。見える情報は見たことあるものだった。そう、龍使いの塔で見たものだ。
「龍使いの塔で見たあの」
「あのドラゴンかっ!」
アシドは思い出し、傷を撫でる。しかし、すぐに手を離した。
「つか、これ眠ってんのか? めっちゃ触ったけど怒らせてないよな、な?」
「いや、もう遅いだろ」
アシドは焦っている。コストイラはもう諦めている。
「いや、でも、これ」
「はい、もう死んでます」
アストロがアレンに目線を送ると、アレンは意図を汲み、肯定する。霧に隠れて見えない部分は喰われて欠けている。傷つき、体力が尽きていたとはいえ、ホーリードラゴンが喰われている。強い敵がこの森にいるのだろう。辺りを見渡したところでいるとは思えない。ふと、ある樹木が目に入った。直径が20mはあろうか巨木だ。そういえば世界樹は巨木だと聞いたことがある。頂点がギリギリ見える。もしかして、この枯れ木が世界樹なのだろうか。
そこでアレンの眼にはまた魔力が集まっているのも思い出した。盤面にも青い点で表示されている。この樹木は魔物なのか。
蔦が動いているのが見えた。
「コストイラさんッ!!」
叫びを聞いたコストイラはアレンに何かを訊く前に刀を抜き、蔦に当てる。蔦を切りながらもホーリードラゴンの死体に突っ込む。
『ゴォアアアア!!』
目の前にいた枯れ木の巨木、ディケイドスが雄たけびを上げる。霧で視界が不明瞭な中、不利を背負った戦いが始まる。
現在、アレン達は湿原を突破し、件の森に着いていた。彼らは森に入ることはなく、その前で一夜を明かすことにした。里長の話ではこの森は非常に大きく、魔物も強いため万全の状態で挑むべきなのだとか。
翌日。目を覚ますと絶望的な光景が広がっていた。恐ろしいほど濃い霧に包まれていたのだ。これはもはや霧ではなく煙の域だ。伸ばした自分の指先さえギリギリだ。コストイラは自身の指が見えるが、エンドローゼには見えない。見える見えないにも個人差がある。
「1m先が限界か?」
「い、い、1mもみ、み、見えないです」
他の人たちも同じように手を伸ばす。アストロ、シキは見えるが、アシド、レイドは見えない。
「おい、アレンはどうだ?」
「僕は見えますね」
「どんくらい?」
「皆さんと同じくらいじゃないですかね。3m先がギリギリです」
「3m!? ”勇者の眼”ヤベェな」
一同はアレンの視力に驚愕する。全員が見える状態のアレンは明らかに常人以上の視力を有していた。
「また先導してくれ」
「魔力にも限りがありますが、頑張ります」
アレンは魔力を集中させ、盤面を展開する。今度は半径10mにする。視界が効かない分、早めに感知する必要がある。
「何か? オレの肌濡れてね?」
コストイラは両腕を広げ、そして、自身の腕を撫でる。アストロは溜息を吐いた。
「当たり前でしょ? 霧って水分なんだから」
「へぇ~~」
コストイラはアストロの方を向き、感嘆の声を漏らすが、アレンにはそうは見えない。コストイラはアストロを視認できていないので顔が完全にエンドローゼを向いている。この状況はアレンにしか見えていない。
………自分だけってなんか優越感あるな。
アレンが鼻高々にしていたからか、反応が遅れた。
「シキさん。後ろからえっと、左斜め後ろから魔物が接近。直線で5mほど」
「ん?」
シキが小さく声を出す。アレンの声が聞こえなかったのではなく、アレンの言った距離と今足首に巻き付いた蔦の攻撃速度があっていないのだ。アレンは魔物は5m先だと言った。シキは瞬間的にアレンの探知の弱点が分かった。アレンは体が見えているのではなく、その体の中核が見えているのだ。つまりはそこから伸びる手足や、武器までは見えていない。感知範囲外からの超遠距離攻撃は見えないのだ。
僅か0.1秒の思考で察したシキはあっという間に蔦を切る。
「敵の攻撃はここまで届く」
「マジで?」
コストイラは居合の体勢を解き、刀を抜く。
「シキ、もう攻撃はきたのか?」
隣にいたレイドが楯を構えながら聞くが、返ってこない。
「ん? シキ? おい、シキ? いないのか」
「あれ? シキさんが凄いスピードで敵に向かっていますね」
「マジかよ。こんな中走るとか化け物、いや、勇者だわ」
コストイラはシキを、その職業に絡めて感動する。言っている側から後を追おうとしたアシドが木の枝に頭を打った。こういう視界不明瞭な時はあまり動かない方がいいのに。
目の前に突如として現れる木の枝を背面飛びで躱す。シキはアレンのように遥か先が見えているわけではなく、僅か1m前に出現する障害物を脅威の動体視力で、見てから回避しているのだ。シキは一瞬のうちに5mの距離を消すと、目の前にダークトレントを捕捉する。
「さよなら」
ダークトレントが何かの反応を残す前に仕留める。シキはナイフを突き刺したまま、ダークトレントの死体をまじまじと見る。アレン達が合流してくる。
「やっと追いついた」
「5mって嘘だろ。長く感じたぜ」
「ど、ど、どっどど、どどうど、どうしたんですか?そ、そ、そんなまじまじと」
シキが死体の腕を持ち上げる。
「世界樹?」
「なわけ。ダークトレントだろ」
即答で突っ込まれシキの肩が落ちた気がする。無表情すぎて分からない。その行動の意図は何だ?
「何だこの壁は? いや、丸太か?」
レイドは一人、薄汚れた白い壁を撫でていた。そこにアシドが近づく。
「確かに何だろうな。どっちにしろ白いのは珍しい。つか、どっかで見たことあんな」
「どうした?」
ゾロゾロと全員が集まる。そこで、ポツリとコストイラが正解を呟く。
「これ魔物だろ。ほら、これ鱗だろ」
アレンはコストイラに言われ、気になった。なので瞳に魔力を集めていく。見れる盤面が縮小する。今は7mほどか。見える情報は見たことあるものだった。そう、龍使いの塔で見たものだ。
「龍使いの塔で見たあの」
「あのドラゴンかっ!」
アシドは思い出し、傷を撫でる。しかし、すぐに手を離した。
「つか、これ眠ってんのか? めっちゃ触ったけど怒らせてないよな、な?」
「いや、もう遅いだろ」
アシドは焦っている。コストイラはもう諦めている。
「いや、でも、これ」
「はい、もう死んでます」
アストロがアレンに目線を送ると、アレンは意図を汲み、肯定する。霧に隠れて見えない部分は喰われて欠けている。傷つき、体力が尽きていたとはいえ、ホーリードラゴンが喰われている。強い敵がこの森にいるのだろう。辺りを見渡したところでいるとは思えない。ふと、ある樹木が目に入った。直径が20mはあろうか巨木だ。そういえば世界樹は巨木だと聞いたことがある。頂点がギリギリ見える。もしかして、この枯れ木が世界樹なのだろうか。
そこでアレンの眼にはまた魔力が集まっているのも思い出した。盤面にも青い点で表示されている。この樹木は魔物なのか。
蔦が動いているのが見えた。
「コストイラさんッ!!」
叫びを聞いたコストイラはアレンに何かを訊く前に刀を抜き、蔦に当てる。蔦を切りながらもホーリードラゴンの死体に突っ込む。
『ゴォアアアア!!』
目の前にいた枯れ木の巨木、ディケイドスが雄たけびを上げる。霧で視界が不明瞭な中、不利を背負った戦いが始まる。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる