メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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13.魔界

6.No rain, No rainbow!

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 腹に衝撃が来たと思ったら、次には背中から衝撃が来た。肺からは自然と空気が出ていった。急いで空気を吸おうとすると胃からも中身が出てきた。アレンはじんじんと熱を孕む腹を押さえ、蹲る。周りに気を配る余裕もなく、空気を求め喘ぐ。

「アレン!」

 アレンの元にレイドとエンドローゼが駆け寄る。スライムの鞭が動いた時、レイドも動いていたが間に合わなかった。レイドの方がスピードが速かったにもかかわらず、守ることができなかった。レイドは悔しくて下唇を噛んだ。

 コストイラが切り、アシドが突くがアイリススライムはびくともしない。攻撃をした側である2人には手応えがない。当たり前だ。結局のところ固まっていない水飴を切ったり突いたりしているようなものだ。すぐにくっつき元に戻ってしまう。

「ちっ! なんだこいつ!?」
「すぐに元通りかよ」

 思わず悪態を吐く。シキが爆発するナイフを投げるが、内部に取り込まれ爆発しない。シキが無表情のまま見届けると、スライムの鞭がしなっているのに気付く。シキはナイフで合わせ受け止めるが、鞭が切れずそのまま飛ばされる。体をくるくると回し、木の幹に足を付け、蹴りつけ回転を増させて着地する。この身体能力は明確なアレンとシキの差である。羨ましい。

「燃やしてみるわ。効くかはわからないけど」
「いけいけ!」

 アストロがポンデスライムの要領で燃やし固めようとする。放火魔と違わぬほどの炎を扱うコストイラがノリノリでゴーサインを出す。ゴォアと豪快な音を立ててアイリススライムが燃える。アイリススライムは炎を嫌がりボコボコと泡立つ。泡が割れた時、中から粘液がブリュリと飛び出す。粘液は炎に触れ蒸発するが、蒸発までには時間がかかり、その分炎が消されていく。

「チッ! 押されているわ!」
「任せろ!」

 アストロは片目を閉じ、眉間に皴を寄せていく。コストイラは炎を纏いアイリススライムに突進していく。噴出される粘液を刀と槍が打ち払っていくが、キリがない。コストイラとアストロが炎を、アシドが水を叩き込むが、効いている気配がない。

「くそ! これでも駄目か」
「弱点はなんだよ」

 底の見えない相手に、ひたすら苛立ちが募る。

「シキさん」

 まだ熱を孕む腹を押さえつつアレンがシキを呼ぶ。たまたま近くに飛ばされていたシキはアレンと目線を合わせるために膝をつく。

「これを見てください」
「ん」

 ガレットの書を見せられ、シキはよくわからないままに内容を黙読する。

「ガレットはスライムを食べる」
「それは僕も思いますけど、今はそこではありません。もう少し下です」
「下。弱点?」
「はい。僕はこの状態ですし、攻撃性能もありません。大声で指示もできないので皆さんへ。お願いします」
「ん」

 直後、アレンの眼にはシキが消えたように見えた。移動は頑張れば見えたので初速が異常だったのだろう。

「まだお腹が熱いんですけど、これ大丈夫なんですかね」
「な、な、あ、内臓がいくつか、は、はれ、は、破裂していましたが、もう、だ、大丈夫ですよ」
「え? 破裂?」

 アレンが目を剥き、服をたくし上げ、腹を見る。にこやかに首肯され、もう一度腹を撫でる。破裂しても助かったのか。凄いな。回復魔法ってそこまで治せるんだ。キラキラした目でエンドローゼを見るが、言葉にしていないので伝わらず、不思議そうな眼で返させる。コストイラが蒼いオーラを纏う。蒼はオレの専売特許だろとアシドが抗議するが、コストイラは聞き入れない。集中力が欠けた瞬間、倒れてしまいそうだ。その状態のコストイラがアイリススライムに向かって走り出す。しかし、コストイラが何もないところで躓く。同時に蒼いオーラが消えた。コストイラはすでに白い眼を向いている。

「は? 嘘だろ!? 何だよ!」

 アシドがトップスピードで駆け抜け、コストイラを回収する。雑に木に立てかけると、アシドは胸ぐらを掴み頬を叩く。起きない。

「くそ!」

 アシドはコストイラを放置することにした。






「核」

 レイドが険しい顔をする。当然だ。通常2,30㎝程のサイズのスライムが、今目の前にいるのは10mである。通常サイズであれば雑に戦っても核を壊せる。しかし、今は10mである。先ほどから何度も攻撃しているのに仲間で攻撃が通らないのだ。核云々の話ではない。

「どうやって核を見つけるのだ」
「む」

 レイドの当然の指摘にシキは黙るしかできない。こちらの攻撃が通用しない時点で詰みの局面だ。火力の大半を担っているコストイラは気絶し、アストロは魔力酔いでダウン寸前だ。

「これは退くべきではないか?」
「む?」

 今まで他人に判断を任せてきたシキはまたしても自分で決められない。

『どいてっ!』

 高い声がした。言葉足らずでどこからどけばいいのか分からないが、本能的にアイリススライムから離れ、頭を抱え地面に伏せる。
 高密度かつ高威力の光線が通り過ぎた。顔を上げるとアイリススライムの体の半分以上がなくなっていた。キラリと隙間からは核が覗いていた。光線の発射元を見たい衝動に駆られるが、アシドは振り切る速さで走り、核を狙う。核はズブズブとスライムの体の中に沈んでいく。アシドの足でもっても間に合うか微妙だ。

 アシドよりも先にナイフが辿り着く。白瓏石の爆弾付きのナイフだ。カンと核にナイフが当たり爆発する。その威力により、粘液が剥がれ、再び核が露出する。先ほどよりも大きく姿を見せる。

「うらぁ!」

 力いっぱいに振るわれた槍は的確に核を叩き砕いた。粘液は自立性を失いドロドロと広がっていった。アシドはその粘液の上に着地する。脛を粘液で濡らしていく。密度が高く、足を取られそうになり、腰を低くする。

「この粘液は高く売れるらしいですよ」
「何に使うんだ?」

 レイドは粘液を手で掬い思案する。

「滑りでもよくするのか?」
「そこはよくわかりませんけど」

 シキも手で掬い、指の開閉でネバネバと糸を引かせる。マジマジと見つめ、匂いを嗅ぎ、少し口に含む。すぐに顔を歪め、舌を出した。

「生臭い。凄い苦い」
「それ絶対口に入れるものじゃないでしょ」

 アストロが口の端をひくつかせた。






「温泉とか境目果てを思い出すな。あそこの6人は元気だろうかね」
「そんな時間経ってないんだけどな」
「マジ?」
「二月くらいじゃないですかね。多分」

 タランネの街にも温泉があった。アイリススライムの死に際のせいで体を汚してしまったので、湯で流すことにした。人生で3回も入れるなんて、金持ちの証だ。誰かに自慢したくなる。アレンは粘液を流そうと桶のところまで歩いた時、ツルリと足を滑らした。咄嗟に頭を護ろうと手を後ろに回そうとした時、腕を掴まれる。

「大丈夫か?」

 さすがはレイドだ。こういう時にも役立ってくれる。

「あ、ありがとうございます」
「見てるこっちもビビったわ」
「焦らせんなよ、お前」

 アレンが礼を言うと、アシドとコストイラが文句を言いながら、湯をぶっかける。アレンはブルブルと頭を振り、顔についている水滴を飛ばす。

「何するんですか」
「粘液を取ってやってんだ。文句言うなよ」

 アレンが唇を尖らせるが、アシドは何も感じず鼻息を漏らす。

「とっとと洗い場で残りを落とすぞ」

 アシドが顎で指した先では、すでにコストイラが髪を洗っていた。アレンも文句を言うのを止め、頭から湯を被る。コストイラとアシドが並んで湯に浸かる。

「生き返るわ」
「あぁ、溶けちまうぜ」

 アシドとコストイラは肩どころか首まで浸かり、温泉を縁取る石に顎を乗せる。

「なぁ、コストイラ?」
「ん?」
「あの蒼いオーラなんだよ」
斬開者キリヒラクモノ
「あれが?」

 アシドはかつて見た、コストイラの練習していた技を思い出し、その違いに困惑する。

「紅いオーラじゃなかったっけ?」
「自分の形になってきたってことだろ。多分」
「その割に失敗してたけどな」
「言い返せねェな」

 コストイラはバツが悪そうに目を逸らした。

「いつか絶対完成させるさ」

 2人のはそれ以上言葉を交わさなかった。
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