メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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13.魔界

8.夜の魔女

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 500年以上前、人間は魔力を保有していなかったにもかかわらず、魔素を取り込む器官を手に入れた。もちろん、保有できる魔力の量には個人差があった。

 魔力さえあれば意図的に奇跡を起こせた。人々は神に近づいたという感覚を得た。その時、ガラエム教が生まれた。数年に一人、多量の魔力を保有できる者が現れた。ガラエム教は選民と呼び、崇めた。

 タランネの街にも選民が生まれた。彼女はあらゆる大人に褒められた。何をしても怒られることはなかったし、欲しいものは何でも与えてもらえた。

 最初は嬉しかった。自分の言う通りに大人たちが動くのが楽しかった。しかし、気付いてしまった。大人たちは媚を売っていたのだ。自分の近くにいれば何かしらの恩恵を受けられると思ったのだろう。大人たちは自分を恐れていたのだ。この力を使えばこの場にいる大人全員を殺せるのだ。
 それに気付いた時、彼女は自分を恥じた。大人から貰ったお金を捨て、与えられた玩具を壊し、囲っていた男を手放した。彼女は自身が昔に建てさせた家に引き篭った。

 その家には不思議と一般人が寄らなかった。代わりに選民が集まった。彼女を師匠だと慕う者。彼女が師匠だと慕う者。彼女が先生だと慕う者。様々な選民が集まり、研究施設を造った。研究内容は彼女達憧れの選民、ジョコンドだ。いつしか研究内容は変わっていき、いつの間にか彼女達は彼ではなく、彼の伝説を調べるようになっていた。きっとその先に迫害のない世界があると信じて。







 アストロは城内に入ると、ノブをなぞり、壁を撫でた。

「何してんだ?」
「埃が溜まってないわ。掃除されている証拠よ。さっきのマインドフレアとかかしら」



 不審な動きをする彼女を不思議そうな目で見つめるコストイラが質問すると、アストロは行為を中断させずに答えた。細かく掃除をするだけの知性を持ち合わせているということか。
 アレンは脅威に感じつつ、とある事柄を思った。今までも知性を持ち合わせた魔物と戦ってこなかっただろうか? あれ? 珍しくない? 脅威ではない?

「埃もそうだけどこの城、高さがあるな。外観は3階くらいに考えていたけど、2階くらいしかないな、これは」

「さっきのマインドフレアが5mくらいとしても天井が高すぎませんかね」

 全員が上を見る。目算でも1階だけでも10mはあるだろうか。

「確かに高いな。8,9mの奴がいそうだな」

 コストイラが刀の柄を叩く。戦いたくてうずうずしているのだろう。

『何の用ですか?』

 2階から見下ろしてくる女が一人。予想していた通り8mはあろう身長、腰まで伸びた金髪、凹凸のハッキリとしたスタイル。服も着ておらず、もはや露出狂もかくやという姿だが、局部の存在が確認できなかった。そりゃ見るよ。男の子だもん。

 シキに後頭部を叩かれた。コストイラとアシドはアストロに叩かれ、エンドローゼはレイドの頭を叩けないので、服を引っ張り注意を逸らそうとしている。

『ん? あぁ、あ? そうね。ごめんなさい。服を着ないとね。着れるのあったかしら』



 声が相当眠たげであり、きっとさっきまで寝ていたのだろう。

『ナゾール様! 何をなさっているのですか!? 侵入者ですよ。何呑気になさっているのですか? 早く排除しましょう』
『え? お客様じゃないの?』
『違います!』

 2階から不穏な会話が聞こえてくる。これは逃げるべきか? アレンが全員の様子を見ると、エンドローゼ以外動く気配がない。

『じゃあ、見ていてください』

 そんな声が聞こえると、同時に上からマインドフレアが落ちてきた。

『その本性を暴いてやる』

 着地の際に屈めていた体を起こしながら、魔物は魔力を放つ。正確で精錬された見事な魔力だ。これに対し、コストイラは刀でボレーショットのように側面に当て、綺麗に返す。

『く!?』

 マインドフレアは魔力を放った方とは反対の手から魔力を出して、相殺させる。その際生じた煙に紛れ、シキが後ろを取る。シキの動きが気付かれる前にアストロが魔力を発射する。アストロの姿は、マインドフレアにもナゾールにも見えた。魔力を発射したことに目を張った。

 マインドフレアは反応が遅れた。魔力の塊は彼女の顔に当たり、彼女は背を反らした。シキの踵落としがギロチンの如く襲い掛かる。ギロチンの刃はマインドフレアの首に当たり、地面に叩きつけられる。首に一気に負担がかかり、折れはしなかったが、気絶へと追いやった。

 パチパチと2階から拍手が落とされる。マインドフレアにナゾールと呼ばれていた女だ。

『わざと殺さなかったでしょ。凄いね。そういう気配りまでできるのね』

 フワリとナゾールが降り立つ。

『ごめんね。この子は思い込みが激しいの。その思い込みが役立つ時があるんですけどね』

 ナゾールはマインドフレアを抱え上げる。

『ところで、何の用ですか?』

 ナゾールは小首を傾げた。アレン達はそこで初めて気付いた。そういえば、ここに来た理由って何となくじゃないか。どう答えていいのか分からず、周りに助けを求める。

「何の用? 決まってるぜ、何となくだ」

 自信満々に答えるコストイラにアストロは頭を抱える。ナゾールはポカンとした後、失笑する。

『あなた方の職業は何ですか? 私は研究者。何かの参考にさせて?』
「……オレ達は冒険者だ」
『いろんなところを冒険しているのですね。城内はいくら冒険しても構いませんよ。私とフイソレ以外にも住んでいる人がいますので、その方々には注意してくださいね。戦いを挑まれるかもしれませんので』

 そう言うとナゾールは翼を広げ、2階の自室に飛び去った。

「許可は取れたが、さて」
「よくあんな真正面から何となく侵入しましたって言えるわね。下手すれば極刑で打ち首よ」
「げ。確かに」

 自分のしでかしたことに気付き、コストイラが後頭部を掻く。

「み、み、皆さんは、あ、あぁいう感じの女性が好きなんですか?」

 エンドローゼが爆弾を放ってきた。攻撃力がほとんどない彼女はコストイラでも出せない威力の攻撃を放ってきた。アストロもシキも止める気はなさそうだ。

「好きか嫌いかで言えば好きな方ではあるな」
「まァ、オレもかな」
「私は魔物に欲情する趣味はない」
「あっ! ズリィぞ!」
「オレ達が魔物じゃねェと興奮しねぇ変態みてェじゃねェか!」

 コストイラとアシドが馬鹿正直に答えると、レイドが根底を変える答えをする。噛ませのような扱いを受けたことを猛抗議するが、レイドは豪胆にも無視する。自然と視線がアレンに集まった12の目が早く答えろと急かしてくる。イアン・ソープ並みに目が泳ぐ。アレンの好みのタイプはシキだ。なんて答えられるわけない。

「僕はあまりタイプではないですね」

 目が泳ぎまくったせいか、アストロとエンドローゼの目が冷たい。シキは目線が下を向いている。アレンは地味にショックを受けた。

「きょ、許可も取ったし、冒険に行こうぜ」

 コストイラが見かねて、強引に話題を変える。話題を変えたかったアシドが乗っかり、アレンいじりを勘弁してやろうとしていたアストロも乗っかる。冒険はしたくないが、その冒険に助かったので目を瞑っておこう。
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