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13.魔界
10.怒りと憎しみと喜びと
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アレンは血生臭い部屋でハンマーを振っていた。隣ではアシドが鋸で切り分けている。
今、勇者一行はまさしく助けていた。相手は人ではなく魔物なのだが。内容は修繕。壊してしまった部屋を直していたのだ。
コストイラが突き破った部屋はチェチッシャという者の部屋で私室兼書斎となっている場所だそうだ。コストイラとキュイはその部屋の壁を本棚ごとぶち破ってしまったようで、今はチェチッシャの説教を受けている。その間にアレン達は仲間の尻拭いだ。
アレンはアシドが切った木の板を受け取り、棚に打ち付けていく。棚を造るってこんなに難しかったのか。アレンはすでに疲れている。
「被害に遭った本棚が一つで良かったですね」
「まだ、な」
アシドも一緒に本棚を支えて立たせる。2人で本棚を固定していく。
「大きさがぴったり合ってよかったぜ。寸法間違ってたら大惨事だったな」
「色が違うのは許してほしいですね」
「これしかなかったんだし、これ渡されたんだから、いや確かに怒られるのは面倒だな。っと、本の順番が分かんねェ」
アシドは両手の本を見比べながら眉根を寄せる。アレンも覗き込んで見るが、読めない。慌てて周りの本のタイトルを見てみる。読めるものと読めないものがある。読めない方が明らかに多い。
「あれ? 僕も分からない」
「棚よりもこっちのほうが怒られそうだぞ」
アレンは瓦礫の清掃をしていたアストロ達を呼び寄せる。中断させられたアストロは苛ついて箒でアレンの頭を叩く。
「いて」
「何?」
「えっと、この本達のタイトル分かりますか?」
アレンはアストロ達に自身の読めなかった本の束を押し出す。アストロが一番上の本を手に取る。アストロの眉根が寄った。この様子、アストロも読めないな。レイドが高身長を活かし、アストロの背後から覗き込む。レイドも読めなさそうだ。
「私の実家にも書斎はあるが、こんな本は一度も見たことないな」
「わ、わ、わ、私にも」
エンドローゼは背伸びをしたりピョンピョン飛び跳ねているが全く見えない。アストロの腕にしがみつくと、アストロは抵抗なく腕を下げていく。
「じょ、じょ、ジョ、ジョコンドの槍伝説」
「ジョか。ならこの位置か……な……? ん?」
アシドが文字順で並べようとして気付く。え? エンドローゼ読めるの?
「アンタ読めんの?」
「む、昔、か、か、かか様が読み聞かせてくださって。そ、そ、それで覚えました。どー、どこの言葉かはわー、わ、分かりません」
「読めるだけで凄いわよ」
小さくなっていくエンドローゼの頭をポンポンと手を置く。出会った頃と比べて、アストロの精神的な成長がえげつない。アレンが羨ましそうに見つめる。
「アンタにはやらんよ」
アストロに睨まれてしまった。やってほしかったわけではない。やってほしかったわけではないが、やられてはみたかった。
「ジョコンドの槍伝説に興味があっただけですよ。僕達の知らない伝説でも書かれているのか気になったんですよ」
「確かにそれは気になるわね。読んで」
「え! あ、は、はい」
言い訳がましく言うアレンに言及せず、アストロは本を渡す。エンドローゼが1枚ページをめくると、目次が書いてあった。
「も、目次があります」
「うん」
「い、い、一。は、は、はじめに」
「ジョコンドが誰なのか書いてありそうね」
「に、二。いー、異教徒の王の病の治療」
「かの独裁者ファーレルン・ヴォルフストレイヤ・バンツウォレインの眼と脚の不治性の呪いを解き、回復させた逸話ですね」
「詳し」
アレンの詳細な説明に引き気味だ。アシドは自国の20代ほど前の王の名など覚えていない。病気になった箇所も含めて、だ。
「さ、さー、三。戦の神としての、や、槍」
「フム。かの小国トレイニーがバンツウォレインに攻められた際、土を掘り起こすとジョコンドの槍が発掘され、兵力10倍の差をひっくり返したという逸話ですね」
「トレイニーってどこだっけ」
「霧に消えたって言われていますね。もうなくなっちゃいましたけど」
アシドがアストロを見ると、それぐらいなら学舎で習ったわと返された。オレに学がないだけってことか? と、レイドを見ると、レイドも眉を顰めていた。やった、仲間だ。
「よ、よ、四。魔物封印の要」
「かの大魔物イーラを槍を触媒に、岩に封印した逸話ですね」
「お、終わりです」
アストロとアシドが肩を竦めた。知らないことがなかった。全員が中断していた作業を再開させようとした時、エンドローゼが気になることを言った。
「そ、創作」
「は?」
「え、え、えっと、終わりのところに、そーー、創作であり、一つとして真実がないって、か、か、書いてあります」
『何ッ!!?』
こちらを除く女性がいた。エンドローゼと同じ淡い紫色の女性だ。一部ではなく全身だが。煙のような体であり浮いているが、湯気のように湿っているわけではにない。不思議な体をしている。そしてキュイとコストイラを怒っていたチェチッシャ本人である。
『君はそれが読めるのかい!?』
「え、あ、えっと、は、はい」
『もうこの二人のことなんてどォでもいい。これとこれとこれと、読んでほしいものがたくさんあるッ』
「そんなに読んでたら何泊するか分からないわ。2,3冊にしてちょうだい」
『ぐっ。も、最もだ。げ、ン~~。厳選しておくから待っててくれ!』
煙が奥に引っ込む。入れ替わる形でキュイとコストイラが出てくる。自身の肩を揉んだり、首を鳴らしたりしている。相当疲れたのだろう。歩みは千鳥足だ。
「今から外に行くんですか?」
「萎えた」
『同じく』
アレンが茶化すように聞くと、コストイラもキュイも目線を逸らした。
今日は死ぬにはいい日だ。
かつてアメリカンインディアンが使ったことわざだ。プエブロ・インディアンと生活するナンシー・ウッドの詩の中に出てきた言葉だ。
詩なので、どうとでも受け取れるが、この言葉はだから死んでしまおうというものではない。ここで使われている「死」とはいかにして「生きる」かということだ。
この日常の小さな幸せの中で穏やかな平和を感じる瞬間に、最高の生き方をしていると自覚ができたからこそ、今日は死ぬにはいい日になるのだ。
コウガイは妹が寝ている時は不安だった。このまま起きないのではないか。コウガイは心中を考えたこともあった。しかし、重度のシスコンであるコウガイにはそんなことできなかった。
今は妹が目を覚ました。ささやかな日々さえも幸せだった。コウガイはその幸せを守るためなら命を張れた。
コウガイの拳を見て、ナギの剣が半ばまで抜かれている。まさに一触即発の雰囲気だ。後ろで隠れている者も、息を呑み見守る。
グリードがナギの肩を掴もうとすると、それより速くナギが地を蹴る。ナギは走りながら剣を抜く。コウガイはそれを目で追い、居合で迫る刃に対し、拳を合わせるように繰り出す。
剣が半ばまで拳に食い込む。しかし、そこまで言った段階で剣の侵入が止まる。剣がナギの方へ押し込まれていく。剣ではこれ以上攻められないことを察し、コウガイの腹を力いっぱいに蹴飛ばす。ドゴンと鉱山の開拓をする際に使うダイナマイトのような音を出し、物干し竿に突っ込む。
「コウガイッ!?」
物陰に隠れていたカレトワがコウガイに近づく。コウガイは顔を覗き込んでくるカレトワの肩を掴み、この場から引き摺り剥がす。
「ロッドに伝えろ。アスミン達を連れて早く逃げろってな」
「コウガイはどうすんのさ。ここで死ぬ気なの!?」
自身の肩を掴む手を握り、コウガイの眼を見る。真意を掴むためにしっかりと。
「死ぬ、か。今日は死ぬにはいい日だ。だからオレは死なねェ」
「何言って」
コウガイは視線を逸らさずはっきりと告げる。真正面から訳の分からないことを言われ、カレトワは困惑する。その瞬間、力が弱まったことを逃さずコウガイは片膝を立てた状態からカレトワを屋敷の方へ投げ飛ばす。
コウガイがナギの方へ視線を向けると、ナギはグリードに抱き着かれ、背を擦られていた。こちらへの殺意が消え失せ、顔を蕩けさせていた。グリードが離れるとナギは再び殺意を膨らませこちらを見ている。
「君にはそこまでして守りたい者がいるのかい」
聞き方的には疑問というよりは確認に近いだろう。そんなもの悩むまでもない。
「当たり前だ。むしろお前にはいないのか?」
「いるさ。一人。ここに」
グリードがナギの肩に手を回す。ナギから殺気が消えしおらしくなっていた。忙しい奴だな。
「行こう、ナギ」
「え? 良いの?」
目的を終えず立ち去ろうとするグリードにナギが上目遣いに聞く。
「構わないよ。彼らは自身を理解している。放置していても大丈夫だろう。もし何かあって犯人を君達だと確認がとれたとき、今度は止めないよ」
「あぁ、見逃してくれてありがとうよ」
コウガイは口元を拭いながら立ち上がる。グリードとナギは立ち去って行った。カレトワは緊張が解け、腰を地につける。腰が抜けてしまった。
「あれ確実に格上だな」
「そうだな。蹴られた腹が痛ェ」
「変色してない?」
コウガイが撫でる腹は少し藍色になっており、内出血していることが分かった。拳闘士の中でも強く、特に腹筋は日緋色金で作られた武器よりも硬いと言われている。その腹筋を貫くほどの威力。
「オレも修行が足りねェな」
「え? 拳もヤバない?」
「ロッドに回復薬貰ってくるか?」
拳から血を流しながら、妹とともにいるだろうロッドの元に向かう。そこでコウガイが頭を抱えた。
「もう一回洗濯しなきゃ」
「こっちはアタシがやっとくよ」
「本当か?」
「うん」
「ありがとよ」
コウガイが立ち去るのを見送るとカレトワは洗濯物を手元に集める。未だに腰が抜けており、大きく動けない。
「はぁ、アタシも強くならないとなぁ。今日は死ぬにはいい日、か。後で意味聞いてみよう」
何とか立ち上がれるようになったカレトワは汚れてしまった洗濯物を持って洗い場に向かった。
今、勇者一行はまさしく助けていた。相手は人ではなく魔物なのだが。内容は修繕。壊してしまった部屋を直していたのだ。
コストイラが突き破った部屋はチェチッシャという者の部屋で私室兼書斎となっている場所だそうだ。コストイラとキュイはその部屋の壁を本棚ごとぶち破ってしまったようで、今はチェチッシャの説教を受けている。その間にアレン達は仲間の尻拭いだ。
アレンはアシドが切った木の板を受け取り、棚に打ち付けていく。棚を造るってこんなに難しかったのか。アレンはすでに疲れている。
「被害に遭った本棚が一つで良かったですね」
「まだ、な」
アシドも一緒に本棚を支えて立たせる。2人で本棚を固定していく。
「大きさがぴったり合ってよかったぜ。寸法間違ってたら大惨事だったな」
「色が違うのは許してほしいですね」
「これしかなかったんだし、これ渡されたんだから、いや確かに怒られるのは面倒だな。っと、本の順番が分かんねェ」
アシドは両手の本を見比べながら眉根を寄せる。アレンも覗き込んで見るが、読めない。慌てて周りの本のタイトルを見てみる。読めるものと読めないものがある。読めない方が明らかに多い。
「あれ? 僕も分からない」
「棚よりもこっちのほうが怒られそうだぞ」
アレンは瓦礫の清掃をしていたアストロ達を呼び寄せる。中断させられたアストロは苛ついて箒でアレンの頭を叩く。
「いて」
「何?」
「えっと、この本達のタイトル分かりますか?」
アレンはアストロ達に自身の読めなかった本の束を押し出す。アストロが一番上の本を手に取る。アストロの眉根が寄った。この様子、アストロも読めないな。レイドが高身長を活かし、アストロの背後から覗き込む。レイドも読めなさそうだ。
「私の実家にも書斎はあるが、こんな本は一度も見たことないな」
「わ、わ、わ、私にも」
エンドローゼは背伸びをしたりピョンピョン飛び跳ねているが全く見えない。アストロの腕にしがみつくと、アストロは抵抗なく腕を下げていく。
「じょ、じょ、ジョ、ジョコンドの槍伝説」
「ジョか。ならこの位置か……な……? ん?」
アシドが文字順で並べようとして気付く。え? エンドローゼ読めるの?
「アンタ読めんの?」
「む、昔、か、か、かか様が読み聞かせてくださって。そ、そ、それで覚えました。どー、どこの言葉かはわー、わ、分かりません」
「読めるだけで凄いわよ」
小さくなっていくエンドローゼの頭をポンポンと手を置く。出会った頃と比べて、アストロの精神的な成長がえげつない。アレンが羨ましそうに見つめる。
「アンタにはやらんよ」
アストロに睨まれてしまった。やってほしかったわけではない。やってほしかったわけではないが、やられてはみたかった。
「ジョコンドの槍伝説に興味があっただけですよ。僕達の知らない伝説でも書かれているのか気になったんですよ」
「確かにそれは気になるわね。読んで」
「え! あ、は、はい」
言い訳がましく言うアレンに言及せず、アストロは本を渡す。エンドローゼが1枚ページをめくると、目次が書いてあった。
「も、目次があります」
「うん」
「い、い、一。は、は、はじめに」
「ジョコンドが誰なのか書いてありそうね」
「に、二。いー、異教徒の王の病の治療」
「かの独裁者ファーレルン・ヴォルフストレイヤ・バンツウォレインの眼と脚の不治性の呪いを解き、回復させた逸話ですね」
「詳し」
アレンの詳細な説明に引き気味だ。アシドは自国の20代ほど前の王の名など覚えていない。病気になった箇所も含めて、だ。
「さ、さー、三。戦の神としての、や、槍」
「フム。かの小国トレイニーがバンツウォレインに攻められた際、土を掘り起こすとジョコンドの槍が発掘され、兵力10倍の差をひっくり返したという逸話ですね」
「トレイニーってどこだっけ」
「霧に消えたって言われていますね。もうなくなっちゃいましたけど」
アシドがアストロを見ると、それぐらいなら学舎で習ったわと返された。オレに学がないだけってことか? と、レイドを見ると、レイドも眉を顰めていた。やった、仲間だ。
「よ、よ、四。魔物封印の要」
「かの大魔物イーラを槍を触媒に、岩に封印した逸話ですね」
「お、終わりです」
アストロとアシドが肩を竦めた。知らないことがなかった。全員が中断していた作業を再開させようとした時、エンドローゼが気になることを言った。
「そ、創作」
「は?」
「え、え、えっと、終わりのところに、そーー、創作であり、一つとして真実がないって、か、か、書いてあります」
『何ッ!!?』
こちらを除く女性がいた。エンドローゼと同じ淡い紫色の女性だ。一部ではなく全身だが。煙のような体であり浮いているが、湯気のように湿っているわけではにない。不思議な体をしている。そしてキュイとコストイラを怒っていたチェチッシャ本人である。
『君はそれが読めるのかい!?』
「え、あ、えっと、は、はい」
『もうこの二人のことなんてどォでもいい。これとこれとこれと、読んでほしいものがたくさんあるッ』
「そんなに読んでたら何泊するか分からないわ。2,3冊にしてちょうだい」
『ぐっ。も、最もだ。げ、ン~~。厳選しておくから待っててくれ!』
煙が奥に引っ込む。入れ替わる形でキュイとコストイラが出てくる。自身の肩を揉んだり、首を鳴らしたりしている。相当疲れたのだろう。歩みは千鳥足だ。
「今から外に行くんですか?」
「萎えた」
『同じく』
アレンが茶化すように聞くと、コストイラもキュイも目線を逸らした。
今日は死ぬにはいい日だ。
かつてアメリカンインディアンが使ったことわざだ。プエブロ・インディアンと生活するナンシー・ウッドの詩の中に出てきた言葉だ。
詩なので、どうとでも受け取れるが、この言葉はだから死んでしまおうというものではない。ここで使われている「死」とはいかにして「生きる」かということだ。
この日常の小さな幸せの中で穏やかな平和を感じる瞬間に、最高の生き方をしていると自覚ができたからこそ、今日は死ぬにはいい日になるのだ。
コウガイは妹が寝ている時は不安だった。このまま起きないのではないか。コウガイは心中を考えたこともあった。しかし、重度のシスコンであるコウガイにはそんなことできなかった。
今は妹が目を覚ました。ささやかな日々さえも幸せだった。コウガイはその幸せを守るためなら命を張れた。
コウガイの拳を見て、ナギの剣が半ばまで抜かれている。まさに一触即発の雰囲気だ。後ろで隠れている者も、息を呑み見守る。
グリードがナギの肩を掴もうとすると、それより速くナギが地を蹴る。ナギは走りながら剣を抜く。コウガイはそれを目で追い、居合で迫る刃に対し、拳を合わせるように繰り出す。
剣が半ばまで拳に食い込む。しかし、そこまで言った段階で剣の侵入が止まる。剣がナギの方へ押し込まれていく。剣ではこれ以上攻められないことを察し、コウガイの腹を力いっぱいに蹴飛ばす。ドゴンと鉱山の開拓をする際に使うダイナマイトのような音を出し、物干し竿に突っ込む。
「コウガイッ!?」
物陰に隠れていたカレトワがコウガイに近づく。コウガイは顔を覗き込んでくるカレトワの肩を掴み、この場から引き摺り剥がす。
「ロッドに伝えろ。アスミン達を連れて早く逃げろってな」
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自身の肩を掴む手を握り、コウガイの眼を見る。真意を掴むためにしっかりと。
「死ぬ、か。今日は死ぬにはいい日だ。だからオレは死なねェ」
「何言って」
コウガイは視線を逸らさずはっきりと告げる。真正面から訳の分からないことを言われ、カレトワは困惑する。その瞬間、力が弱まったことを逃さずコウガイは片膝を立てた状態からカレトワを屋敷の方へ投げ飛ばす。
コウガイがナギの方へ視線を向けると、ナギはグリードに抱き着かれ、背を擦られていた。こちらへの殺意が消え失せ、顔を蕩けさせていた。グリードが離れるとナギは再び殺意を膨らませこちらを見ている。
「君にはそこまでして守りたい者がいるのかい」
聞き方的には疑問というよりは確認に近いだろう。そんなもの悩むまでもない。
「当たり前だ。むしろお前にはいないのか?」
「いるさ。一人。ここに」
グリードがナギの肩に手を回す。ナギから殺気が消えしおらしくなっていた。忙しい奴だな。
「行こう、ナギ」
「え? 良いの?」
目的を終えず立ち去ろうとするグリードにナギが上目遣いに聞く。
「構わないよ。彼らは自身を理解している。放置していても大丈夫だろう。もし何かあって犯人を君達だと確認がとれたとき、今度は止めないよ」
「あぁ、見逃してくれてありがとうよ」
コウガイは口元を拭いながら立ち上がる。グリードとナギは立ち去って行った。カレトワは緊張が解け、腰を地につける。腰が抜けてしまった。
「あれ確実に格上だな」
「そうだな。蹴られた腹が痛ェ」
「変色してない?」
コウガイが撫でる腹は少し藍色になっており、内出血していることが分かった。拳闘士の中でも強く、特に腹筋は日緋色金で作られた武器よりも硬いと言われている。その腹筋を貫くほどの威力。
「オレも修行が足りねェな」
「え? 拳もヤバない?」
「ロッドに回復薬貰ってくるか?」
拳から血を流しながら、妹とともにいるだろうロッドの元に向かう。そこでコウガイが頭を抱えた。
「もう一回洗濯しなきゃ」
「こっちはアタシがやっとくよ」
「本当か?」
「うん」
「ありがとよ」
コウガイが立ち去るのを見送るとカレトワは洗濯物を手元に集める。未だに腰が抜けており、大きく動けない。
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