メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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13.魔界

14.冥界の女王

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 アシドが扉から少し顔を出し、周囲を確認する。敵がいないのを見て、アシドだけ外に出て、向こう壁まで歩き、左右を確認する。シキは壁に耳を当て、音で距離を測る。両者の確認で安全を判断し、アレン達も部屋から出る。

「とりあえずコストイラさんと合流しましょう」
「そうだな」

 アレン達がやることを確認した時、下から衝撃が来た。その衝撃は大きく、アレン達の体は床に敷き詰められた草とともに浮いた。アレンやエンドローゼは尻餅をついたり膝を着いたりしてしまう。互いの視線が絡み合う。

「急ごう。コストイラが心配だ」
「シキ。先に行け。すぐに追いつく」
「分かった」

 草の上での走り方を知っているのか、シキは滑る様子なく走り去る。

「草の上じゃ、あっちの方が速ェ。よし、オレ達も行くぞ」

 アレン達は転ばないように小走りで追いかける。先ほどのような大きな衝撃はこないが、小さく細かい衝撃は来ている。いくら戦闘センスのあるコストイラでも心配なものは心配だ。

 そして、下へと続く階段を見つけた。踊り場にはナイフの跡が見える。矢印を刻んでいるのでこっちに来いというメッセージなのだろう。

 アレン達は躊躇いなく下りて行った。






 8mもある魔物――ヘラを前に、コストイラは考えを捨てた。脳の要領をすべて戦闘につぎ込まなければこの場を生き残れない。

 昔までは命を惜しまず戦えたが、今は無理だ。仲間を残しては逝けない。コストイラは気炎を吐く。ヘラは戦う気など毛頭ない。この場にいたのも上階に住むドゥームビートルに餌を与えてやろうと思ったからだ。それだけなのに現在目の前には、刀を半身抜いている赤い男がいる。
 ヘラは困った。どうすればいい。突然話し始めて斬られたりはしないだろうか。女の面を見せた方がいいか? それともペンダントか? そもそもこいつはここで何をやっているんだ。

 膠着状態が続く。

 そこでコストイラが気付き出す。相手から殺気を感じない。敵意もない。それに懐かしい感じもする。

「アンタ、何も」

 ドンとセリフの途中に大きな衝撃が走った。コストイラの体が少し浮く。ヘラは踵が少し浮いただけで体全体は浮かない。

『バルロイ』

 ヘラが口に出した名前を聞き、コストイラが硬直する。後ろにいる魔物は言葉を話せ、知性のある存在だと分かるし、前にいるカブトムシは個別名が存在している。

 ドゴドゴと走ってくるカブトムシにコストイラが炎を纏う。敵対したのなら敵対で返す。ヘラが床から蔦を出し、コストイラの動きを止めようとする。蔦が燃えながらコストイラに巻き付く。
 コストイラに角が刺さる。コストイラは気合で蔦を引きちぎりドゥームビートルの角に刀を当てる。しかし、パワーで敵うはずもなく、打ち上げられ、ヘラを飛び越え、天井に当たり、床に叩きつけられる。階段から落ちたダメージも蓄積され、体の発する痛みが限界を超えていた。

 この場にはコストイラ一人しかいない。血を口から垂らしながら気炎を吐く。刀を持つ手が震えている。それをカバーするように炎を螺旋状に纏う。

 ドゥームビートルもヘラもどこか動揺している。ヘラとドゥームビートルが何かお話ししている。何だ? どう戦うかの相談か?
 ヘラが何かを取り出そうとした瞬間、奥で爆発が起きた。

『ムゥア!?』

 ドゥームビートルが顔を上げ、階段の方を見ている。カブトムシとヘラが階段に向かう。両者が同時に止まる。その頭上をシキが飛び越える。コストイラの姿を見ると少し目を張る。

「大丈夫?」
「これが大丈夫のように見えるか?見えるなら医者に掛かった方がいい。アイツらを追い払うぞ、いけるか」
「無論」

 脂汗を浮かべながら軽口を叩くコストイラの言葉に、シキは首肯する。かなりの時間が経過する。

爆発のせいか少し顔に煤をつけたヘラがこちらに右手を突き出してくる。何かの攻撃かと思ったが、違った。ドゥームビートルが叫び声を上げ、注意を引き付ける。
 コストイラとシキがそっちに目を向けると、ヘラが少し離れる。ドゥームビートルが何かをしようとする前に側面から攻撃を受ける。アシド達が追いついたのだ。

「こ、こ、コストイラさん!?」

 エンドローゼがコストイラに駆け寄る。

 コストイラの手を握る可愛らしい少女を見て、ヘラがその巨体を一歩後ろに下げる。そのまま二歩三歩と歩数は増えていく。そしてこちらに背を向けて走り出した。ドゥームビートルは溜息を吐くように角を下げた。






 冥府の塔の中を少女が歩く。廊下の真ん中を歩く彼女を注意する者はいない。擦れ違う者は皆が壁に寄り、頭を下げる。少女は軽く胸の前で手を振り、止めさせる。少女は足音を鳴らさずに塔内を歩く。塔の1階、塔の主の部屋、いや、この国の主の部屋に向かう。
 前から半透明な白色の霊が頭を下げてくる。確かこの霊は料理人だった気がする。少女は1冊のメモ帳を取り出し、霊に渡す。

『これの再現ってできる?』

 霊はメモ帳を受け取り、パラパラと数枚のメモに目を通す。

『可能な限り叶えてみせましょう』

 霊は腰を折り、足早に去っていく。メモをくれたのは、こちらのペースを見事に崩してくるやりづらい相手だが、実力は本物だ。本物の周りには同じく本物が集まってくれる。彼女にお菓子を作っている職人はもはや匠だろう。うちの職人が作れるだろうか。

 給湯室では女の霊2人と魔物の女がお菓子を摘まみながらお茶を飲んで談笑している。少女がひっそりと参加する。

『ねぇ、聞いた? 今冥界でクラーケンが暴れているらしいよ』
『クラーケンってあれ? 昔、女王様が奈落に追いやったっていう?』
『そう、なんでも滝を上ってきているらしいわよ。ほら、冥界から奈落を繋いであるあの滝』
『マジ? ここまで来ちゃうのかなぁ』

 霊が2人で盛り上がっているところに、魔物の女が口を挟む。

『クラーケンって水棲の魔物でしょ? しかも私達と同じ背くらいの。何とかなるでしょ』

 確かにクラーケンなら自衛隊の一小隊くらいで終わるだろう。そこまで恐がる必要もない。

『違う違う。でっかい奴だよ。20mくらいある。そんな奴だよ』
『……キングクラーケン?』
『そうそうそう。そんな名前だったわ』

 それなら大変だ。下手したら自衛隊だけでは対処できない。

『でも結局水棲でしょ?』
『それが、今、冥界には八岐大蛇も出ているらしんだよね。中央は必死に隠してるらしいからどうしてバレたのかは知らないけど。女王様が帰ってくる前に解決したいらしんだけど無理っぽそうみたいなんだけどね』
『貴重な情報ありがとね』

 少女が席を立つ。そこで初めて、三人娘は少女を見た。そして固まった。

『え? 女王様?』

 少女は3人の反応を見ることなく、自分の執務室に向かった。
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