メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

文字の大きさ
239 / 684
13.魔界

16.審判

しおりを挟む
 冥界とは亡くなった者が訪れる地である。ここにいる霊のほとんどが地獄か天国かの審判を待っている。その例に漏れる者は管理する側の霊のみだ。
 冥界は待機場であり、審判を行う裁判所の一面を持っている。冥界に裁判所は一箇所しかなく、それがあるのが冥府の塔だ。

 行われる裁判には弁護人も検事もいない。ただ、裁く者がいて、一つ一つ罪を確認され、判決が下される。罪の数を大幅に超過する善行を積むと判決が軽くなるという噂を信じた霊達は、冥界で善行を積もうとする。やっていることは間違っていないが、それは現世での話であり、冥界でいくら積んでも判決に影響しない。

 そんなこともあってか裁判官は実は暇なのだ。だから裁判所に誰か来ると張り切ってしまうのだ。つまり、これも張り切った結果なのだ。

 裁判官であるアンホーリーテラーは暇で溶けていたところにやって来た7人を一瞬にして見通そうとした。その姿はまさしく魔物だった。それを見たアシドやレイドが武器を抜いた。アンホーリーテラーはそれを恐怖による行動ではなく、敵対行動として受け取ってしまった。

 半径がアレンの身長ほどもある黒い球に、その周りを覆う禍々しいオーラ。見た目だけなら立派な悪い魔物。冷静な思考を持っていたのなら、そう恐れられていることなど簡単に分かっただろう。
 アンホーリーテラーはビームを発射する。先に攻撃してきたアンホーリーテラーに6人も完全に敵対する。アシドがビームを弾くと、シキが走り寄る。バチンとオーラに衝突する。このオーラには質量があるのか。

 情報を手に入れたアシドは、トップスピードのまま足の裏をオーラにつけ、一気に駆け上がる。黒い球が地上5mの位置にあり、辿り着く頃にはアシドの勢いも失速していた。黒い球に槍を突き刺そうとするが、オーラに阻まれ弾き飛ばされてしまう。くるくると体を回転させて威力を逃し、静かに着地する。
 アストロは魔術を発射し、オーラを破壊しようとする。オーラが揺らめいているが壊れる気配がない。アレンが矢を番えるが、どうにかなるビジョンが見えない。

 黒い球の中にペンダントが見えているコストイラは最初から戦う気がない。コストイラは服にペンダントを付けながらレイドに近づく。

「おい、レイド。オレを打ち上げてくれ」
「どこまでだ?」
「とりあえず、あの黒い球のところまで」
「分かった」

 何か考えがあるのだろうと考えたレイドは、大剣をバットのようにしてコストイラを打ち出す。黒い球よりも高く跳んだコストイラはレイドを尊敬した。ここまで一気に打ち出せるなんて凄いパワーを持っている。そこだけはどうしても勝てない。

 コストイラは手が荒れるのも気にせず、オーラを手で掴む。ヂリッと手の皮が焼けた。顔が少し歪む。

「よォ、暴れ終わったか?」

 脂汗を流しながら問う青年に意識が向かう。そして思考が真っ白になる。
 え? ペンダントしてるじゃん。もしかして女王様の関係者? もしかして今ヤバいことしでかした?

 見えないが大量に汗が噴き出ている。

 コストイラは手を放し、7m下にある床に着地する。エンドローゼが走り寄り、掌を回復させていく。
 アンホーリーテラーがするりと後ろに下がっていく。

「何があったんだ?」
「へい、コストイラ。何したんだ」

 後ろに下がっていくアンホーリーテラーに、レイドの頭の上にはてなを浮かべ、アシドがコストイラに説明を求める。コストイラは掌の皮を剥がしながらペンダントを指す。

「あれもシラスタ教なのね」

 アストロは自身の顎を触りながら首を傾げる。コストイラは首を振ってペンダントを見せる。

「シラスタ教じゃなくても、教祖様に関わった者が持っていることもある」
「じゃあ、そっち側の線もあるか」
「教祖様って何者だよ」

 アシドがツッコミを入れる。ここにまで関わった者がいるなんて、実は相当偉い人なんじゃないか? シラスタ教だったとしてもそうだな。

「さぁな。けど、どんな正体だったとしても、俺にとっては大事な教祖様だよ」

 コストイラは、刀の柄を指で叩きながら答える。どこか嬉しそうな声音だった。

 ぴくりとアンホーリーテラーのオーラが揺れた。何かの音を聞いたのか、音の出所を探すように球体をキョロキョロさせる。アレン達は気付いていない。球体が止まると、アレン達のことを眺め出した。それに気付いたコストイラも見つめ返す。アンホーリーテラーは喋れそうにないのでどうしたらいいのか分からない。

「オイ、どうかしたのか」

 話しかけてみるが、反応は返ってこない。コストイラは不思議そうな顔をしたまま、後頭部を掻く。反応に困ったコストイラは肩を竦め、アレン達の方を向く。

「駄目だな。反応がねェや」
「どうしたんでしょうね」
「さァな。それよりも今後はどうすんだ?奈落に向かってんだよな」
「そうね。奈落への地図が欲しいわね」
「そうですね。とりあえず出口を探して歩きましょうか」

 アレンの言葉に皆も従い、部屋を出ようとする。その時、アンホーリーテラーが鳴いた。鳴いたというより音が鳴ったという表現の方が正しいだろう。オーラが重なり合いギチギチと鳴っていた。何かの前兆かと思い、身構える。結果を知っていると、この対応が悪かった。さっさと部屋から出て行くべきだった。

 最初に扉が閉められた。魔術によるものであり、いくらか力を込めても、扉はビクともしない。タックルしても武器で叩いても開かない。
 アシドはアンホーリーテラーを倒せば解除されると考え、槍を回転させながら突進する。しかし、オーラで防がれてしまう。アシドは黒い球を睨みつけながら着地する。

 その瞬間、アシドが消えた。

「あ?」

 コストイラが間抜けな声を発する。

「アシド?」

 アストロがアシドの消えた地点に近寄る。その時、オーラが揺らめき、アストロが消えた。

「なっ!? アストロさんまで。どこかに飛ばされたんですか!? それとも消されたんですか!?」

「知るかよ。同じ場所に行きたきゃオレ達も食らうしかねェな」

 焦るアレンに、冷静なコストイラは刀から手を放し、アンホーリーテラーに近づいていく。レイドが止めようと手を伸ばすが、掴む前にコストイラの姿が消えた。そのままレイドの姿も消えた。
 残ったのはアレンとエンドローゼ、そしてシキの3人。エンドローゼは恐怖に瞳を潤ませ、シキの腕にしがみついている。強くしがみついているのか、シキが鬱陶しそうな顔をしている。

「3人しか残っていません。どうしますか?」
「送ってもらう」
「え?」

 アレンが止めようとするのも聞かず、シキはエンドローゼを抱えたまま消えていった。
 アレンは覚悟を決めると、アレンも消えてく。

「どうなっても知りませんよ!?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...