メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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14.冥界

13.西方をも飲み込む大渦

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 赤く燃える髪を靡かせて、コストイラは島から島へ跳んでいた。平静を装っているが、その内心は足に出ていた。周りを置いていくように走るコストイラは、腕の中にいるアストロとともにキョロキョロとしていた。
 探しているのはアシドだ。レイクミミックに捕まったまま西の方へ泳いでしまった。西の方とは何も大雑把なものだろうか。詳しい方角が分からず、距離も分からない。
 先ほど、レイクミミックとアシドの雄叫びが聞こえた。距離は大体2㎞だと踏んでいたが、すでに2,3m地点で見つかっていない。

「もう少し先だ」
「お前、分かんのか?」
「魔力視の応用だ。強大な魔力なら遠くからでもぼんやり見える」
「ぼ、僕には分かりません」
「錬度の違いさ」

 追いついたホキトタシタは目を緑に光らせ距離を測るが、アレンが茶色に目を光らせても分からない。シキに担がれ運ばれていたアレンは酔っており、魔力を使ったことでさらに気分が悪くなった。

「もう少しってどれくらいだ」
「あと、そうだな……」

 ホキトタシタがもう少しを具体的にしようと目を凝らすと、小島が揺れた。大波がコストイラ達を襲う。身を屈めて何とか耐える。

「あっちか!」

 コストイラがフライング気味に走り出す。

「私達も行くぞ」

 レイド達が後を追う。






 200m進んだ地点でレイクミミックが見えた。水面から跳び上がったレイクミミックが水中に潜っていく。衝撃でできた波に濡らされながらアストロを下ろす。

「いたわね」
「弱っている。あと少しだ。行くぞ」

 コストイラは鯉口から刃を完全に解き放ち、無鉄砲にも突撃する。水面から顔を出したレイクミミックに対して刀を振る。タイミングが噛み合ったのか、宝箱の付いた触手を切り落とす。レイクミミックは痛みに耐えながらも頭突きをしてくる。刀を振り抜いた体勢、しかも空中とあってはいくらコストイラと言えど対処しきれない。刀を立てようとしては折れてしまう可能性があるので、横にして受け入れる。強く押し出され、骨を痛めながらアストロのいる小島に着弾する。

「先走んな。一緒に行くぞ」

 ホキトタシタが合流し、コストイラに加えホキトタシタ、ぺデストリ、アンデッキ、シキ、レイドが前線へ行く。いつもであればレイドは後衛の護衛をするのだが、今回はアシドの命というタイムリミットがある。早々に撃破するために火力が必要だ。

 レイクミミックは人の多さにビビり、西方へ逃げ出した。

「何!? さらに逃走だと!?」
「ぺデストリ、アンデッキ、レディーメードは後衛3人を。私達はあれを追う」
「はい!?」

 返事をすると、3人が後衛に近づいてくる。コストイラ、シキ、ホキトタシタはレイクミミックを追った。






 見失わないように全速力で追いながら、攻撃のタイミングを図る。レイクミミックはランダムで浮き沈みしており、攻撃を放てない。それに、島から島への移動が厳しくなってきた。水嵩が増していたのだ。

「水面が上昇して来てやがんぞ。オレ達は原因を倒したんじゃねェのかよ」
「八岐大蛇は唯一個体ではなかったということかな」
「島が消えるかもしんねェぞ」
「三途の川が広がりそうだな」

 三途の川を知らないのでスルーしつつ、レイクミミックを睨む。先ほどよりも泳ぎ易くなっているのだろう。徐々に速くなっている。
 次の瞬間、目の前に波が現れた。コストイラが走ったまま突き破ろうとすると、高質量なのか跳ね返された。その原因が水の壁を突き破る。

 ドラゴンだった。全身に棘を生やし、両目をオレンジに輝かせたスパイクドラゴンだった。
 このタイミングでは戦いたくない敵だ。このままではレイクミミックを見失ってしまう。にらみつけるようにスパイクドラゴンを見ると、こちらも傷だらけだ。先ほどまで何かと戦っていたのだろうか。
 コストイラが炎を纏おうとしたところ、横をホキトタシタが通り過ぎる。スパイクドラゴンが大口を近づけるが、そんなこと関係なく懐に入っていく。流れるような動きで、スパイクドラゴンの足を付け根から切り飛ばす。ドラゴンのバランスが崩れ、側頭を地面に擦りつける。

「「「うぉおおおおおお!!!!」」」

 ホキトタシタが尾を切ろうとした時、雄叫びとともに槍が飛んできてスパイクドラゴンに当たっていく。当たるだけで刺さっていない。ドラゴンの皮膚は硬いのだ。

 声のした方を見ると、そこには幽霊がいた。コストイラは思い出した。冥界には意味がないのに慈善活動している幽霊がいると。このドラゴン退治も、その一環なのだ。

「邪魔だ!」
「どけどけ!」
「手柄たてんのは俺だ!」

 慈善活動には見えてこない。きっと生前でも似たようなことをしていたのだろう。ホキトタシタは呆れてドラゴンから離れた。普段ならば喧嘩必死の場面だが、今回はありがたい。

「任せよう。行くぞ」

 見失うかと思ったが、水には血の線ができていた。

「いた!」

 レイクミミックが浮いたタイミングで、ホキトタシタが横から攻撃を加える。レイクミミックの体が陸に乗り上げる。しかし、レイクミミックの生存本能は強かった。レイクミミックは水に戻ろうとバタバタと鰭を動かし、地面を揺らす。近づこうとするホキトタシタやコストイラに向かって水弾を吐いてくる。乱反射してきており、下手に近づけない。少しずつ近づいているが、まだ距離はある。

「どっちかが囮になって、一気に片を付けよう」
「いや、その必要はなさそうだ」

 コストイラの提案を、目を緑に輝かせたホキトタシタが口角を上げる。その言葉に怪訝な表情を浮かばせるが、答えはすぐさま示されていた。

 頭上を水が通り過ぎる。槍状になった水がレイクミミックの右目を潰した。水弾が止む。

 アンデッキに背負われているアストロに感謝しつつ、止めを刺しに行く。コストイラはオレンジと黒の混じった煙の中に入っていき、レイクミミックの下顎を切り落とす。
 ホキトタシタはシキを打ち上げ、シキは脳天から侵入していく。シキは脳を切断していき、置き土産に爆弾を残していく。

 レイクミミックは頭が爆発し、完全に生を終えた。

「アシドはどこだ!?」
「腹だ。腹を捌け!」

 倒せた喜びなどないまま、コストイラがホキトタシタに叫ぶ。隊長は腹を指さし、叫び返す。コストイラは転げるように腹に辿り着き、腹を掻っ捌く。出てきたのは血や胃液だ。手が爛れ、エンドローゼが驚いているが気にしない。
 覗きこむように細まる視界に映る中の世界は、赤黒い内臓と一人の人物だった。それは、爛れて黒ずんだ蒼い髪で。

「アシド!」

 回復しきっていない骨が震動し、はっきりと相手の名前を言う。

「しっかりしなさい! アシド!」

 アストロも叫び、反応を見せる。

 アシドがピクリと動き、唇が細かく震える。アシドの眼を虚ろでどうやら意識がはっきりせず、混濁しているらしい。アシドはあの時と同じ言葉を発した。

「遅ェよ。馬鹿」

 アシドはそのまま気絶した。コストイラがアシドの体を引っこ抜き、エンドローゼを呼び寄せる。エンドローゼはアシドの回復を始めた。

 コストイラは安心したように息を吐き、その場を後にしようとするが、何かに阻まれた。視線を向けると、そこにはエンドローゼの手があった。コストイラの服を掴んでいる。
 エンドローゼの眼が訴えている。コストイラもここに残れ、と。周りの者に視線を飛ばすが、目を逸らしたり、肩を竦めたり。コストイラは諦めて残ることにした。
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