メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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15.奈落

4.研究者の森

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 アレン達が絶望的な状況なのは変わらない。いくら凶暴な雷獣の脅威を避けようが、いくらアレンの耳が手で無造作に破ったルーズリーフのようにボロボロのようになろうと、灯りが自分たちの周りにないのは変わらない。

「次進む道を勘ででもいいから決めるか。もしくはあの巨大な金仮面を追うかのどっちかだ」

 コストイラは究極の2択でも出題するかのように提案する。その金仮面を見ていないアストロとシキは首を傾げる。シンクロ率200%である。

「何その金仮面って」
「さっきの男と遭う前にいたんだよ。2,3体の死体を持ってどっか行っちまってな。正体はオレ達も分かんねェ」
「けど、それしかヒントがないんでしょ? 行くしかないんじゃない?」

 アストロはどっちに金仮面がいなくなったのか分からないので、キョロキョロと周辺を見渡す。コストイラがいなくなった方を指さす。

「いなくなったのはあっちだ。途中で道を変えたって構わねェだろ」

 コストイラは頭をガリガリと掻いて、鼻息を荒くしている。アレンは追いかければ碌な目に遭わないだろうことは想像できた。しかし、だからといって別の案が出せるわけではないので、素直に従っておくことにする。

 アストロの爪に火が灯ったまま、先ほどコストイラが指さした方へ移動していく。本当に光源がない。頼りの炎が頼りないので、いつも先頭を行くアシドとコストイラでさえ、前に出ようとしない。

「何かいる」
「金仮面か?」
「いや、違う。オレ等より小せェ」

 暗闇で感覚が極限まで研ぎ澄まされているのか、誰より早く、敵を捕捉する。

「火は消すべき?」
「いや、むしろ囮に使おう。ゆっくりと飛ばせるか?」
「了解」

 ゆっくりと炎が爪から離れ、ゆらゆらと揺れながら前に進む。

「敵は?」
「動かねェ。ただ、多分炎を見てる」

 しかし、すぐさまコストイラ自身が否定する。

「やっぱりこっち見てんな」
「炎に惑わされていない?」
「もしかしたら、視覚でものを見ていないのかもな」

 影に潜む何かは杖を振るう。唯一見えているコストイラが刀を抜き、何かを弾く。刀と当たり、何かが砕け、アレン達の頬に当たる。

「水、いや、氷?」

 濡れた頬を指で拭い、何かを類推する。水が飛んできたということは、これは攻撃を受けたということだろうか。

「逃げて行ったぞ」
「何だったんだ?」

 コストイラが敵の状況を確認すると、アシドが疑問を呈する。それに対する答えは誰も持ち合わせておらず、沈黙が返ってくる。アレンにはそれ以上の疑問があった。

「何でこの暗闇でそんなに見えるんですか?」
「……オレは闇に愛されているからな」

 これはあれか? イタイ発言か?






 再び火を着けて歩いていると、森が見えてきた。いや、これは森と呼ぶにはあまりにも冷たく、無機質なものだ。加工された10m大の石柱だらけの場所だ。ところどころにランタンが灯っている。明らかに人工的な森だ。

 アストロは爪の先に灯していた炎を消し、石森に足を踏み入れる。

『誰だお前等』

 しばらく歩いた先で声をかけられた。瞼をまつり縫いにしたハイウィザードだ。しかし、しっかりとこちらを向いている。この状態でも見えているのだろうか。

『ん? 待て、お前等は目が開いているのか?』
「え? そりゃもちろん」

 アレンは自分の発言を悔いた。相手は最初から目が見えていなかったわけではなく、わざわざ自分から目を縫っているのだ。訳がない、はずがない。しかも、そんな相手が、視覚ある者を誘うように火を焚いているのだ。もっと周囲に気を張っておくべきだった。
 超人的速度で手が伸ばされ、アレンの頭が掴まれる。

「え?」

 間抜けた声が出たせいで、アレンは自分の愚かさに気付いたが、もう遅い。ハイウィザードの手から魔力が飛び出す。その直前、経路が途切れる。真上からシキがナイフを突き立てたのだ。ハイウィザードの腕が派手に折れ、肘が爆発し、オレンジと黒の混じった煙が吐き出される。

 ハイウィザードが拳を握る。振ってきた少女もろとも殴り飛ばそうというのだ。

 グリッとナイフが捻じられ、ハイウィザードの体勢が崩れる。シキは脛を首の裏に当て、ハイウィザードを地に伏せさせる。
 アレンがようやく脱出する。掴まれた時に痛めたのか、頬を押さえている。

『食らっ』

 ハイウィザードが何かする前に首にナイフを入れ、一気に切り開く。易々とハイウィザードは絶命した。

「自分から目を縫うなんて正気を疑うぜ。何でこんなことを」
「何か怪しい宗教の匂いがすんな」

 コストイラが向いた先には、肌色が90%を占めるゾンビのような奴がいた。

『ヴァア』

 急に走り出したかと思えば膝が崩れ、その姿勢のまま腕を振るう。アシドは槍を振るい、腕を弾く。腕は何回も回転し、千切れ飛んだ。槍をそのまま一回転させるようにして、ゾンビの顎を弾いた。顎は砕け、歯がバラバラと宙を舞い、地面に落ちる。
 ゾンビがギギギと動きだす。その動きを不審に思い、アシドが少し距離を置く。ゾンビがガクガクと震えだし、そして爆発した。

 ビチャリと肉片を頬につけ、アシドが固まる。え? 自爆? 何で?

 ヌゥと7m大の巨体が現れる。それは肉の海で見かけた金仮面だ。

『爆発したか。実験は失敗だ。何がいけなかったのだ』

 金仮面の大きな手がグズグズの肉塊になったゾンビを掴む。その間もぶつぶつと何かを言っている。金仮面は唐突にアレン達の方を向いた。

『そうか。邪魔が入ったからか』

 アレン達の背筋が凍った。

 本能が言っている。この金仮面は危険だと。







『ヴァア』

 焦点の合わぬ目をした少女は意味もなく声を出した。



「フゥ」

 白髪を風になびかせる少女は左目の眼帯を掻きながら声を出した。




「ハァ」

 手入れのされていない髪の男は瓢箪から口を離し声を出した。



「ホゥ」

 赤く太い腕を掻く男は温泉の気持ちよさに自然と声を出した。
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