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15.奈落

8.混沌の海

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 光さえ反射しない地では、陸と海の区別がつかない。どちらであっても目には暗闇としてでしか反映されないのだ。火で照らせるアストロやコストイラ、最近真の暗闇での感覚を手に入れたシキには問題ないのだが、唯の冒険者でしかないアレン、アシド、エンドローゼ、レイドには何も見えず進行が神経をゴリゴリ削っている。

 今もエンドローゼは足を踏み外し、湖に膝下くらいまで浸かった。

「本当に何も見えないですね」
「火があっても5m先さえ見えないわね」

 信じられないだろうが、これでも朝なのだ。おそらくこの先、昼になってもこの暗さは変わらないのだ。

「先ほどのお宅で松明か何かいただければよかったですね」
「松明あってもほぼ変わらねぇだろ」

 コストイラは持ち前の感覚で敵が近くにいないか探知しながら溜息を吐いた。アレンも無いものねだりを止め、肩を竦めた。

「さて、取れる手が限られるわけだが、どうする?」
「どうするもこうするも進むしかねェんだろ」

 レイドの問いに対し、すでに諦めの境地にいるアシドは面倒臭げに頭を掻いた。暗闇だったためか、注意が向いていなかったためか、そこに存在する魔物に気付かなかった。

 まず、アシドとレイドが武器を抜いた。休憩の際の見張りをするためだ。魔物はそれを自身に向けられた敵対行動だと受け取ってしまった。
 半径がアレンの身長ほどある黒い球に、その周りを覆う禍々しいオーラ。間違いなくアンホーリーテラーだ。アレン達を冥界へと飛ばした魔物。それはゆっくりと湖上を移動して、アレン達に近づいてくる。

 アンホーリーテラーがビームを発射する。先に攻撃をする瞬間、少しの光が漏れたことでアシド達も反応する。

 アシドは咄嗟に槍を振るい、ビームを弾くと、シキが疾走して肉薄する。振るうナイフがバチンとオーラに衝突する。アシドは駆けだし、トップスピードを維持したまま、足の裏にオーラを付け、一気に駆け上がる。黒い球が地上5mの位置にあり、辿り着く頃にはアシドの勢いも失速していた。
 黒い球に槍を突き刺そうとするが、オーラに阻まれ弾き飛ばされてしまう。クルクルと体を回転させて威力を逃がし、静かに着地する。

 アストロは魔術を発射して、オーラを破壊しようとする。オーラに当たり、ゆらゆらと揺らめいているが、壊れる気配がない。

 あの時と、冥府の塔の時と同じ展開だ。しかし、違う点がある。炎を纏い、完全に敵対しているコストイラの存在だ。ビームを軽々と刀で弾き、炎とともに宙へと昇っていく。大きく炎を纏う刀で黒い球を叩く。アンホーリーテラーの体が大きく動き、地面に激突する。

 アンホーリーテラーは体勢を立て直そうとするが、その上から断頭台のギロチンの如き大剣が降ってくる。オーラを切り分け、黒い球を叩き割る。罅からオレンジと黒の混じった煙が勢いよく噴き出し、2m越え150㎏近い体型のレイドさえも吹き飛ばす。20mも飛ばされ、受け身を取ろうとするが、哀しいかな、下は湖だった。
 レイドが水に落ちるのを尻目に、アシドが黒い球の罅を叩くが、未だに絶命に至らない。

 その瞬間、アンホーリーテラーがビームを発射する。直線的な光線にアシドは咄嗟に反応するが、躱しきれず、右肩を掠める。骨までは見えておらず、ただ筋肉は露出していた。
 コストイラは超人的な反応速度で刀を振り、ビームを弾く。シキも同様に弾く。その後ろにいる後衛3人は頭を低くしてやり過ごす。
 ブスブスと罅からオレンジと黒の混じった煙を上げながら、地上5mまで浮き上がる。オーラがボコボコと激しく泡立つ。

 これは分かる。誰だってわかる。怒りだ。

 今ここに、勇者一行のリベンジ戦が始まる。
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