メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

文字の大きさ
266 / 684
15.奈落

11.原初の魔龍

しおりを挟む
 その者はただのそりと首を擡げた。
 その視線の先には泉があった。
 その泉には奈落の様子が映っていた。
 その者は泉を覗いた。
 その泉を通して奈落を見た。
 その泉からは闘技場で盛り上がる観客と、そこで闘う者の声が聞こえてきた。
 その者の視線は退屈そうに外へとズレた。
 その者の興味は別にあった。
 その泉はその者の興味に呼応するように映す場所が変わった。
 その映る場所が森、腐界と変わり、その先で止まった。
 その者の一つ眼が僅かに見開いた。
 その場にいたのは一人のメスとその仲間。
 その場にいたのは一体のメスとその従者。
 その両陣営のぶつかり合い。
 その者が僅かに口を開いた。

『ここまで勇者が来たのか』

 その者はたった一つしかない目を瞬かせ、開戦の宣言を聞き届けた。






 いくら世界広しと言えど、原初と呼ばれるのは一人と一匹しかいない。魔王と魔龍だ。両者はすべての魔王、すべての龍の祖と言われている。

 原初の魔王グレイソレアはいつから存在しているのか分かっていない。しかし、月に住まう魔王フォンが、一番最初の魔王はグレイソレアだという証言を残している。
 原初の魔龍はカオスドラゴンであるとされている。そこに異を唱える者は少ない。しかし、問題はその伝説にあった。すべての龍の祖だとするのなら、カオスドラゴンと龍神は同一視されるドラゴンなのかどうかにかかわる。

 しかし、そんな醜い争いなど知る由もないカオスドラゴンは今日も元気に奈落で暮らしている。






 開戦の合図がなされた。その瞬間、今までの静観が嘘のようにブラックドラゴン達が動きだす。黒い波に一瞬気圧されるが、コストイラは至極冷静に刀を構えた。

「天之五閃を目指しているのに、こんなんでビビッてどうすんだ。正面からぶっちぎる」

 覚悟の決まった侍がドラゴンの頭を斬る。覚悟など決めなくても戦うシキは丁寧に目を刳り抜き首を刈る。他の者達も戦いを強いられる。強力な断裂をぶつけ、剛力は横薙ぎを当て、暴力的な魔術を浴びせる。

 多くの竜が次々と死していく。それでもなお数が減っているように見えない。間違いない。これはパレードだ。原因はおそらく闇に同化しかけている竜のパレードだ。

「コストイラ、シキ。道は開けてあげる。早く終わらせて」
「よっしゃ!」
「ん」

 アストロの言葉に2人が反応する。大質量の水が大量のドラゴンを押し流す。その瞬間開いた道に無理矢理コストイラが体をねじ込む。

 走り寄ってくるコストイラに気付いたカオスドラゴンは、家の柱ほどもありそうな前足を踏み鳴らす。地面が震動して、コストイラの視線がガクンと下がった。

 最初、先ほどのアストロの水で地面がぬかるんだのかと思った。しかし、違った。水が飛来しなかった部分までぬかるんでいる。これはカオスドラゴン側の攻撃だ。
 灯りの少ない空間に光源が発生する。場所はカオスドラゴンの口の中。間違いない。ブレスだ。判断した時にはもう遅い。カオスドラゴンの口からブレスが吐き出されていた。たかだか刀1本でブレスが弾けるはずがなく、コストイラはブレスに巻き込まれた。射線上にいたブラックドラゴンごとブレスが放たれた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...