メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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15.奈落

27.守銭奴

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 お金というのは使えないものである。こういっては反感を買うだろうが、奈落においてお金を使うことはまず少ない。

 物を買うときは買い手の強さによってすべてが決められる。各種チャンピオンであれば、無料で品物を貰うことだってできる。無敗のチャンピオンであるアリスならば、チャンピオンとして君臨している現在までの約20年間、お金を使ったことがない。

 つまり、奈落では力が強ければ強いほど、お金が必要ではなくなる。

 そんな中、闇のチャンピオンであるアキハはお金に執着していた。別に使うために集めているわけではなければ、配るために蓄えているわけでもない。

 ただただ、金の美しさに魅了されているだけなのだ。だからこそ闘技場の賞金を欲した。そのために試合の密度が、他のチャンピオンとは比べ物にならないほどであった。それこそアリスに迫る勢いだ。

 さて今日も試合だ。

 アキハは今日いくら稼げるかしか考えず、下卑た笑みを浮かべて闘技場へと入っていった。






 アキハはグローブを弄りながら挑戦者を見る。手首のあたりを親指で押しながら、舐めるように全身を見る。性的な目ではなく、請的な目なのだが、アストロには伝わらない。

 アストロは前戦に続き、パンツルックのスタイルだ。こちらは指輪をチェックしている。開始前の調整にしか見えない光景だが、すでに開始合図が終わっている。

 紫の三白眼を向ける男と、紫の瞳で睨みつける女。両者は同色の視線を絡め合わせ、すでに戦いを始めていた。

 観客は未だ始まらない戦いに苛立ち始め、野次が飛び始める。

 観客には両者の体内で多量の魔力で奔流し、渦巻いていることが分からない。この場で分かるのはシキとエンドローゼ、コストイラ、さらに道具越しに見ている二名の魔王と各チャンピオンだけだ。

 両者の濁流は体内での冒険だけでは終わらない。どこと明確に境があったわけではない。しかし、その瞬間と皆が表現する時点で、両者が同時に動いた。

 アキハは掴む部分をなくしたレイピアの先端のような杖をアストロに向け、アストロは右の人差し指をアキハに向ける。
 杖の先端から炎と闇の混じった魔力がアストロの鼻の先を掠る。指の先端から出た光の魔力が、アキハの鼻の先を削る。アストロの鼻先から煙が出ている。アキハの鼻先からは血が出ている。これは魔力のコントロールの差がもたらした差だ。

「あ?」

 アキハはアストロから視線を切ることなく、何も手にしていない右手を持ち上げ、鼻先に触れる。痛みとぬるりとした感触が指先を襲う。

「オイオイオイオイ、オレの顔に傷付けたなァ、オイ!この慰謝料は高けェぞ、テメェ」

 アキハはお金をぶん取れる口実を手に入れ、口角が緩む。賞金と合わせて慰謝料も手に入り、ウハウハになれる。

 一気に地面を蹴り、距離を詰める。アキハは体全体を闇で包み、速度を上げる。レイピアのような杖を本物のレイピアのように振るう。

 アストロは背を反らしながら躱す。頬に一本に赤い線ができるが、気にせずにバク転するように両手をつき、その勢いで蹴り上げようとする。闇に包まれたアキハは何も助走なく上に飛んだ。その様はコストイラには見覚えがあった。翼のない只人が空を飛ぶ。かつて先代勇者のグリードが成した偉業。それを闇のチャンピオンは体現したのだ。
 空は戦士にとって攻撃できない空間だ。しかし、アストロは戦士ではない。戦士ではなく、魔法使いだ。

 それは奈落からは見ることのできない空からの力。天からの怒り。只人の分際で天へと至ろうとする者への天罰が昇った。

 雷が下から昇り、闇に包まれたチャンピオンを直撃した。

「ガッ!?」

 体を包んでいた闇が霧散し、翼をなくした只人は地へと墜落した。アキハは心臓辺りを押さえている。手元に落ちたはずの杖を探す。
 カランとアストロが杖を蹴飛ばした。そして人差し指をアキハの額に当てる。アキハは観念したように体から力を抜いた。これ以上抵抗は赤字だ。コストが悪すぎる。




「勝者、アストロ!」
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