メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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15.奈落

29.月は見ている

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 理属性の魔術の一つに”サイレントセレナ”というものがある。元々はサイレントセレネだったらしいが、どこかで訛ったらしい。

 もう一つ、”真実の月”というものもある。

 この二つは月という共通点があり、それが発動条件でもある。この二つの技を習得するには、月信仰であることが絶対条件だ。つまりはトッテム教であることだ。
 そして、その威力はトッテム教の主神であフォンに、どれだけ気に入られて愛されているかで決まる。

 スキンヘッドに服を盛り上げパツパツにしている筋肉が特徴的な、威圧感ありまくりな理のチャンピオンは嫉妬していた。大真面目に、対戦相手の情報を得ようと試合を観戦していたのだ。その時放たれた、エンドローゼという者のサイレントセレナ。その威力は歴史上最もフォンに愛されたと言われるトッテムやレイヴェニアを超えると思われる。

 理のチャンピオン、トゥーヤのサイレントセレナや真実の月の威力は平凡よりも強い程度だ。エンドローゼの半分も出せないだろう。
 その嫉妬が表に出ているのか、目の前のエンドローゼはビクビクしている。別に怖がらせようとしているわけではないが、分かりやすく怯えられ震えていると少々凹む。エンドローゼがビクビクしているのは昔、孤児院時代のいじめっ子に似ているからである。トゥーヤは関係ない。

 堂々と立つトゥーヤが少し力を入れると、服は筋肉を押さえつけらえれず、バチンと胸元が開いた。エンドローゼはポカンとしている。観客はまたかという雰囲気を出している。トゥーヤは微動だにしていない。

 エンドローゼの震えが止まった。

 トゥーヤが両手をエンドローゼに向ける。サイレントセレナを出そうとするが、技自体が出ない。
 トゥーヤの思考が止まる。何故出ない? 私の信仰心は尽きていない。私のフォン様を慕う心は本物だ。

 目の前で覚悟を決めたエンドローゼがサイレントセレナを繰り出す。先の戦いと同じ、柔らかい光の珠に見える。

 フォン様の声が聞こえた気がした。動くなよ、と。成る程。これは接待しろと言うことか。フォン様は数百年に一度、ご執心となる信者がいるという噂がある。今回はこの子ということか。傷つくのを見るのが嫌だから、私に技を打たせなかったということか。
 何という八百長。何という理不尽。
 だが、これこそがフォン様だ。だからこそ信仰しようと考えたのだ。

「あぁ、流石はフォン様」
『ごめんねぇ』

 ちょっと気の抜けた声が聞こえた。初めて聞こえた声だが、確信があった。これはフォン様からのお告げだ。

 サイレントセレナが当たる。見た目ほどの威力はない。神の優しさを感じ取れる。

 トゥーヤは満足そうに眼を閉じた。




「勝者、エンドローゼ!」
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