メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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20.シン・ジゴク

10.地獄温泉街食道楽B

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 エンドローゼは口元を押さえて体を丸めた。見る人の10人に8人が吐くのかと思うだろう。しかし、今回はそうではない。
 エンドローゼの前には今も湯気を出しているスープ料理がある。聞いた事があるが見た事はない東方料理10年連続1位を記録しているミソ汁だ。
 出された際にお、お、美味しそうです~~などと、テンションが上がって危機管理能力が下がってしまったのか、油断して冷まさずに口に運んだ結果、冒頭の状態になった。

 今はアストロが背を擦っている。

「ん」
「ありがと、シキ。ほら、冷たいお水よ。飲んで」
「んぐんぐ」

 シキが持ってきた水を飲んで、少し落ち着かせると、舌を出して手で扇ぎ始めた。

 現在姦し3人娘で食事をしているのだが、かなり美味である。おかずだけでなく、白米とミソ汁が付いてくる定食は、アストロ達の住む西方にはない文化だ。故郷に帰った時に真似てみたいと思えるほどに好印象だ。






 ダンと木の机にジョッキが叩きつけられる。それと同時に店内では拍手が鳴り響いた。万雷の拍手を一身に受けるレイドが、力こぶを作り、力を見せつける。

 ここは荒々しい冒険者が集まる酒場。一緒に来ていたアシドはすでに酒に潰された。
 相手はこの街で伝説の酒豪トマソミカガイ。大ジョッキ23杯目に突入していた。
 レイドはチラリと12杯目でダウンしたアシドを見る。その時、ダンとジョッキが叩きつけられた。レイドの前で熊のような男が服を破り、フロントダブルバイセップスを披露した。レイドは己の前に出されたジョッキを掴み、24杯目を口に流し込む。一気に飲み干し、服を脱いで筋肉を見せつけた。

 触発されたトマソミカガイはジョッキを手に持ち、一気に呷る。顔を真っ赤にしたままニカッと笑ってみせた。

 やるな。

 無言なまま流れる戦いに周囲は熱狂する。決闘者達の視線が合わさり、バチバチと火花を散らす。
 レイドが次のジョッキに手を伸ばした瞬間、トマソミカガイの口から酒が逆流してきた。

「ンンンンンンンンン!!」

 レイドは椅子を弾くように立ち上がり、机に突っ伏してダウンした対戦者に向け、ポージングを取る。観戦者達は口笛を吹いたり、指笛を鳴らしたり、机を叩いたり、足踏みをしたり、興奮状態だ。

「ヒュー! 新チャンピョンの誕生だ!!」

 次の日、アシドが2日酔いになったのは言うまでもない。






『この世には裸の付き合いという言葉がある』

 ヲルクィトゥは苦笑いした。この先の展開が読めたからだ。とっととこの場から逃げたい。隣にいるグレイソレアのことなど何も考えずに走り去ってしまいたい。
 ヲルクィトゥの目の前には、身長よりも長い髪を丁寧に床に敷いた少女がいる。白い生地に端が青色となっている清潔感のあるキモノだ。少女の見た目にも合っていて、可憐に見える。見た目だけ。少女のように見えているが、実際は違う。種族が幽霊であるため、年を取らない。幼い頃に亡くなり、それっきりと言うだけだ。実際はこの世界に300年程顕現している。年齢など見た目で判断できない。ヲルクィトゥも人のことを言えないが。

『そのような言葉が?』
『あぁ、東方に伝わる名言だ』

 この街は目の前にいる少女メチマインの統治下にある。勇者ゴートが亡くなって以来、約260年間ずっと彼女が治めている。

「で、入りたいわけですか?」
『分かっているじゃないか』

 ヲルクィトゥは知っている。少女にヲルクィトゥとのエッチな願望はない。ただ、温泉に入りたいだけだ。そして、ヲルクィトゥが少女を襲わないことを知っているからこその提案だ。どうせ断ったら話し合いに応じないのだろう。

『温泉、いいですね』
「どこのに入るのかね?」
『お、2人とも乗り気だねェ。決まっているさ。”異界の湯”だよ!』

 少女は立ち上がり、キモノの裾も袖もを翻しながら、異界の湯の方向を指さした。

 異界の湯という名前をした湯に浸かりながら、ホゥと息を吐く。異界の湯などという入りづらい名前をしているが、その実、半透明なキツネ色をした綺麗な温泉だ。
 名前の由来は”異世界人”ゴートが好んで入っていた湯だからだそうだ。ゴートはかなりの風呂狂いだったそうで、毎日必ず風呂に入ることを心掛けていたらしい。遠征中は風呂に入れず、異常に不機嫌だったのだとか。首脳会議を打ち切ってまで風呂に入りに行ったのは有名な話だ。しかもそれが事実であることを、目の前の少女メチマインが証言している。

『ゴート様はお風呂場で、それ以外のことをすることを嫌っていてね』
「では、このような談笑も?」
『私はそれで怒られたことがあるよ。あそこまで怒られたことは、あの時が最初で最後だったよ』
『三大悲劇の時よりもですか?』
『ドラゴンマスターを取り逃がした時は取り乱していたけど、怒ってはいなかったね。謎言語事件は、目を丸くしてぶつぶつ何かを呟きながら、首を傾げた程度だったよ。転移事件は、呆然としていたなァ。怒ったことはないよ』
「魔大陸探索は?」
『自分にもっと力があればって悔やんでいたよ。計画を沢山書いていた気がする』

 ヲルクィトゥが顎を撫でる。

「ゴートはどこまで魔大陸を知っているのだろうな?」
『さぁ? どっかの資料に残しているかもね』

 少女は温泉のお湯を持ち上げると、すぐに手の隙間から流した。そのまま少女は仰向けで湯に浮いた。

『あ~、地獄からの月が綺麗。他の土地を知らないけど』
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