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26.『黄昏の箱庭』
9.戦乙女の休息
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淡い光のもとにコストイラ達が向かう。アレンの居場所を知るヒントがあればいいのだが、あまり期待ができない。
コストイラが腕を横にい広げ、進行を止める。
「何かいる」
「私にも何とかなく分かるわ」
コストイラが短く止めた理由を話す。それにアストロが乗っかった。そして、2人の視線はシキに向かう。
「ん?」
それに気付いたシキが、理由まで分からず小首を傾げる。何の用でしょう? という文字が顔いっぱいに見えてくる。
アストロがシキの肩を掴む。
「見て、報告」
「承知」
アストロの命令を聞き届け、シキは実行に移す。
静かに移動を開始する。叢に入っているにもかかわらず、音がしない。なぜこんなに音をさせないのだろうか。
そこでアストロは一つ思いついた。この無音状態、何か使えないのか? 日常生活のどこかで。
「よし」
アストロは小さく拳を握った。無事にアレンを助け出せたら、何でもない時にも、無音状態のシキを仕向けてやろう。
「アストロ」
「んっ!? 何?」
アストロは自分が企てていた計画を無意識のうちに実行され、心臓が飛び跳ねた。極力表に驚愕を出さないようにしつつ、シキに報告を促す。シキはアストロの反応を見て、何も思わずに報告する。
「何かヴァルキリーがいた。さっき戦ったヴァルキリーと似ている個体」
「敵である可能性がかなり高いな」
「だが、情報が得られる可能性はある」
シキの報告を聞き、コストイラが推察する。レイドも推察して、自身が得た結論を出す。コストイラ達は互いに顔を見合わせて、頷き合った。
話だけは聞きに行こう。
コストイラやシキがいつでも攻撃できるように刃を半分抜いておく。
叢をわざとらしく音を鳴らしながら、抜けていく。相手にも警戒してもらうためだ。
誰かがそこにいる。しかし、姿を隠すような素振りがない、と思わせられたら僥倖だ。侮ってくれれば、開いても口を開きやすい。
光の空間は、小さな泉を中心とした狭い空間だ。上空から降ってくる光が水面に反射され、淡い光の空間を作り出していた。
その岸辺で小さな切り株に座るヴァルキリーがいた。ヴァルキリーは湯気が上がる小さなカップを口から外し、切り株の上に置く。
『何者だ?』
ヴァルキリーはおしとやかに質問してきた。隙があるように見えて、隙が一切ない。戦闘に一瞬で入っていけるように手を動かしている。
「オレ達は旅の者だ。たまたま通りかかったんだが、アンタは何をしているんだ?」
『……私はここで休憩している。あまり私に構うな。私はお前達と関わりを持ちたくない』
「ム」
突き放すような言い方に、少し面食らってしまう。この態度からアレンの情報を得られるとは思えない。
「これで最初で最後の質問だ。アレンって男を探しているんだが、知らないか?」
『知らないと思って聞いているだろう。まぁいい。知らないのは事実だ。アレンだったか。どこでいなくなったのだ?』
親切な人物だったらしく、自分なりの考えを話そうとしてくれている。
『どうした。アレンとかいうのが心配ではないのか?』
「あ、いや、存外親切にしてくれるんだな、と思ってな」
『……困っている奴がいれば手を貸す。当然の事だろ』
コストイラが再度面喰いながら、素直に答えるべく口を開いた。
「オレ達は転移の魔法陣を踏んできたんだが、ここに飛ばされた時にはぐれちまってな。踏み時にはいたんだ。目を覚ましたらいなかった。こんな感じだ」
『ほぉ』
ヴァルキリーが自身のほっそりとした顎に手を添え、じっくりと考える。
『フーム。私の考えのどこまでがあっているのか分からない。だから話半分で聞いてくれ』
「分かった」
コストイラが力強く頷くと、ヴァルキリーがある一点を指差した。その指の先にあるのは、コストイラ達が目指していた山だった。
『あの山の頂上には魔王が住んでいる。その魔王はある魔道具を有している可能性が高い』
「魔道具?」
『あぁ、内容は知らないが、魔王の持つ物だぞ。何かあるだろ、きっと』
「そんなものが」
ヴァルキリーが差していた指を戻す。
『行くなら山の上だ。しかし、魔王がいる。その探し人が見捨てていいのなら、見捨てた方がいい』
「行く」
ヴァルキリーがほとんど諦めろと言う風に告げると、シキが即答した。コストイラもアストロも他の一行も目を丸くした。
まさかシキが即答すると思わなかった。もしシキが言わなくとも、コストイラやアストロが行くと言っていただろう。
アストロがシキの頭を撫で、ヴァルキリーに礼を言う。
「ありがとう。教えてくれて」
『いや、貴方方が辿り着けることを願っているよ。さぁ、そっちの要求は満たした。次はこっちの要求だ。もう私に関わるな』
十分に関わってくれたヴァルキリーに感謝しつつ、コストイラ達は泉を後にした。
本当は休んでおきたかったが、即答した手前、すぐに出発しておこう。
コストイラが腕を横にい広げ、進行を止める。
「何かいる」
「私にも何とかなく分かるわ」
コストイラが短く止めた理由を話す。それにアストロが乗っかった。そして、2人の視線はシキに向かう。
「ん?」
それに気付いたシキが、理由まで分からず小首を傾げる。何の用でしょう? という文字が顔いっぱいに見えてくる。
アストロがシキの肩を掴む。
「見て、報告」
「承知」
アストロの命令を聞き届け、シキは実行に移す。
静かに移動を開始する。叢に入っているにもかかわらず、音がしない。なぜこんなに音をさせないのだろうか。
そこでアストロは一つ思いついた。この無音状態、何か使えないのか? 日常生活のどこかで。
「よし」
アストロは小さく拳を握った。無事にアレンを助け出せたら、何でもない時にも、無音状態のシキを仕向けてやろう。
「アストロ」
「んっ!? 何?」
アストロは自分が企てていた計画を無意識のうちに実行され、心臓が飛び跳ねた。極力表に驚愕を出さないようにしつつ、シキに報告を促す。シキはアストロの反応を見て、何も思わずに報告する。
「何かヴァルキリーがいた。さっき戦ったヴァルキリーと似ている個体」
「敵である可能性がかなり高いな」
「だが、情報が得られる可能性はある」
シキの報告を聞き、コストイラが推察する。レイドも推察して、自身が得た結論を出す。コストイラ達は互いに顔を見合わせて、頷き合った。
話だけは聞きに行こう。
コストイラやシキがいつでも攻撃できるように刃を半分抜いておく。
叢をわざとらしく音を鳴らしながら、抜けていく。相手にも警戒してもらうためだ。
誰かがそこにいる。しかし、姿を隠すような素振りがない、と思わせられたら僥倖だ。侮ってくれれば、開いても口を開きやすい。
光の空間は、小さな泉を中心とした狭い空間だ。上空から降ってくる光が水面に反射され、淡い光の空間を作り出していた。
その岸辺で小さな切り株に座るヴァルキリーがいた。ヴァルキリーは湯気が上がる小さなカップを口から外し、切り株の上に置く。
『何者だ?』
ヴァルキリーはおしとやかに質問してきた。隙があるように見えて、隙が一切ない。戦闘に一瞬で入っていけるように手を動かしている。
「オレ達は旅の者だ。たまたま通りかかったんだが、アンタは何をしているんだ?」
『……私はここで休憩している。あまり私に構うな。私はお前達と関わりを持ちたくない』
「ム」
突き放すような言い方に、少し面食らってしまう。この態度からアレンの情報を得られるとは思えない。
「これで最初で最後の質問だ。アレンって男を探しているんだが、知らないか?」
『知らないと思って聞いているだろう。まぁいい。知らないのは事実だ。アレンだったか。どこでいなくなったのだ?』
親切な人物だったらしく、自分なりの考えを話そうとしてくれている。
『どうした。アレンとかいうのが心配ではないのか?』
「あ、いや、存外親切にしてくれるんだな、と思ってな」
『……困っている奴がいれば手を貸す。当然の事だろ』
コストイラが再度面喰いながら、素直に答えるべく口を開いた。
「オレ達は転移の魔法陣を踏んできたんだが、ここに飛ばされた時にはぐれちまってな。踏み時にはいたんだ。目を覚ましたらいなかった。こんな感じだ」
『ほぉ』
ヴァルキリーが自身のほっそりとした顎に手を添え、じっくりと考える。
『フーム。私の考えのどこまでがあっているのか分からない。だから話半分で聞いてくれ』
「分かった」
コストイラが力強く頷くと、ヴァルキリーがある一点を指差した。その指の先にあるのは、コストイラ達が目指していた山だった。
『あの山の頂上には魔王が住んでいる。その魔王はある魔道具を有している可能性が高い』
「魔道具?」
『あぁ、内容は知らないが、魔王の持つ物だぞ。何かあるだろ、きっと』
「そんなものが」
ヴァルキリーが差していた指を戻す。
『行くなら山の上だ。しかし、魔王がいる。その探し人が見捨てていいのなら、見捨てた方がいい』
「行く」
ヴァルキリーがほとんど諦めろと言う風に告げると、シキが即答した。コストイラもアストロも他の一行も目を丸くした。
まさかシキが即答すると思わなかった。もしシキが言わなくとも、コストイラやアストロが行くと言っていただろう。
アストロがシキの頭を撫で、ヴァルキリーに礼を言う。
「ありがとう。教えてくれて」
『いや、貴方方が辿り着けることを願っているよ。さぁ、そっちの要求は満たした。次はこっちの要求だ。もう私に関わるな』
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