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26.『黄昏の箱庭』
16.××の子
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ゴイアレが瞑想しながら細く長く息を吐いた。
これから自分のやろうとしていることを考えると、まったく落ち着くことができない。
ちらと白い箱を見る。それは間違いなくゴイアレの切り札だ。しかし、まだ切り札として完成していない。不十分。
部下達の報告で、完成させられる目途は立っている。
それまでにペテロシウス達からの攻撃を受けても意味がない。
時間。そう、時間が足らないのだ。
『ンッナンシリス。俺は権力には、暴力には屈しないぞ』
フカフカの椅子に背を預け、目の前に飾ってある絵を眺める。絵はズタズタに引き裂かれており、描かれていた天使の顔は見えそうで見えなくなっていた。
『”天界の使徒”をぶっ殺す』
ゴイアレはもう一度白い箱を見つめる。
『そのために、切り札として完成させてくれよ』
凡人アレンは諦めかけていた。あまりにもヒントがなさすぎる。
そもそも、アレンはここで何をすればいいのだ。何をすれば脱出できる? 何をすればいい? 何を要求されている?
いや、そもそも。そもそもの話だ。
そもそも、ここはどこなのだ?
ヒントを求めて歩きすぎて足が疲れている。さらに、魔眼を発動させすぎたせいで魔力酔いを起こしている。
「ウ、え」
アレンが吐き気を押さえきれず、口元を押さえて岩の陰に隠れる。ついに耐え切れず、胃の内容物を吐き出してしまった。
「ハァー、ハァー」
アレンは水を口に含み、口内に残っていたものも吐き出す。
身体が寒い。すでに体の熱がいくらか奪われているようだ。
怪我でも病気でも、この場では治せない。エンドローゼがいないし、薬もない。
ここには何もない。
どうすればいい?
ヒントを探しているのに、一切見つかっていない。もう心が折れてしまっている。これ以上何をすればいいのだ?
四つん這いの状態の体をゆっくりと動かし、岩に凭れた。大きく息を吸って深呼吸を、分かりやすくし続ける。
体は生きようとしている。しかし、心が死のうとしている。僕はどうすればいいのだ?
「ん?」
アレンが木々の隙間に人型を見た気がする。
「……何だ?」
嫌な脂汗を拭きながら、目を凝らす。アレンは魔眼を持っているが、眼がいいわけではない。凡人の視力にプラスして魔眼の性能があるだけだ。
つまり、見えないのならば、取れる行動は二つ。一つはなかったことにして、ここに留まる。一つは確認するために近づく。
アレンが取ったのは後者。ビビりなアレンだが、こういう時は安心を確定させたいので、近づくことにした。
「だ、誰か、いるんですか~~?」
恐怖で声が震える中、アレンが木々の隙間に入っていく。
何もいない。ホッとしていいのかどうか、困惑する。敵でもいいから。
「誰かいてほしいなぁ」
『何をしておるのじゃ?』
九割九分返ってこないと諦めつつ放った一言に、返答が来る。会話になっているわけではない。冷や汗をかきながら、急いで振り返った。
第一印象は白。髪も肌も服も、どこもかしこも白色だ。光を反射しすぎて若干発光しているように見える。
『どうしたのじゃ?』
「あ、いえ。自分でも何と答えたらいいのか分からず、固まってしまったのです」
『ほぉ、そうか』
「あの、貴方は? あ、僕はアレンで……」
『フッ』
真っ白な者が高速で突きを繰り出してきた。アレンは一歩踏み出した途端に足を滑らせたことで、なぜか奇跡的に躱すことができた。髪が少し切れて宙を舞った。
『ほぉ』
真っ白な女の胸元に顔がぶつかる。クッションが小さく、顔に痛みが走った。女がそのままアレンの顔を抱きかかえた。女の胸にこんなに触れることなどなかったので異常に緊張してしまう。
『フム。アレンじゃったか。私はポラリス。ここに住んでいると言っていいじゃろう。私のこの攻撃を避けたのは貴君が初めてじゃ。仲良うしよう』
まさかここに住民がいたなんて、これだけ探しても見つからなかったことを考えると、ここはかなりの広さだということだろう。
『成る程。フムフム。貴君が贄ということじゃな』
「……贄?」
『フム? そうか。貴君は何も知らないのだな。ウ~~ム。私が話してもよいのじゃろうけ?』
「僕としては話してほしいですね」
ポラリスは自身の顎を撫でながら考える。
果たして、アレンは何とかあるのだろうか?
これから自分のやろうとしていることを考えると、まったく落ち着くことができない。
ちらと白い箱を見る。それは間違いなくゴイアレの切り札だ。しかし、まだ切り札として完成していない。不十分。
部下達の報告で、完成させられる目途は立っている。
それまでにペテロシウス達からの攻撃を受けても意味がない。
時間。そう、時間が足らないのだ。
『ンッナンシリス。俺は権力には、暴力には屈しないぞ』
フカフカの椅子に背を預け、目の前に飾ってある絵を眺める。絵はズタズタに引き裂かれており、描かれていた天使の顔は見えそうで見えなくなっていた。
『”天界の使徒”をぶっ殺す』
ゴイアレはもう一度白い箱を見つめる。
『そのために、切り札として完成させてくれよ』
凡人アレンは諦めかけていた。あまりにもヒントがなさすぎる。
そもそも、アレンはここで何をすればいいのだ。何をすれば脱出できる? 何をすればいい? 何を要求されている?
いや、そもそも。そもそもの話だ。
そもそも、ここはどこなのだ?
ヒントを求めて歩きすぎて足が疲れている。さらに、魔眼を発動させすぎたせいで魔力酔いを起こしている。
「ウ、え」
アレンが吐き気を押さえきれず、口元を押さえて岩の陰に隠れる。ついに耐え切れず、胃の内容物を吐き出してしまった。
「ハァー、ハァー」
アレンは水を口に含み、口内に残っていたものも吐き出す。
身体が寒い。すでに体の熱がいくらか奪われているようだ。
怪我でも病気でも、この場では治せない。エンドローゼがいないし、薬もない。
ここには何もない。
どうすればいい?
ヒントを探しているのに、一切見つかっていない。もう心が折れてしまっている。これ以上何をすればいいのだ?
四つん這いの状態の体をゆっくりと動かし、岩に凭れた。大きく息を吸って深呼吸を、分かりやすくし続ける。
体は生きようとしている。しかし、心が死のうとしている。僕はどうすればいいのだ?
「ん?」
アレンが木々の隙間に人型を見た気がする。
「……何だ?」
嫌な脂汗を拭きながら、目を凝らす。アレンは魔眼を持っているが、眼がいいわけではない。凡人の視力にプラスして魔眼の性能があるだけだ。
つまり、見えないのならば、取れる行動は二つ。一つはなかったことにして、ここに留まる。一つは確認するために近づく。
アレンが取ったのは後者。ビビりなアレンだが、こういう時は安心を確定させたいので、近づくことにした。
「だ、誰か、いるんですか~~?」
恐怖で声が震える中、アレンが木々の隙間に入っていく。
何もいない。ホッとしていいのかどうか、困惑する。敵でもいいから。
「誰かいてほしいなぁ」
『何をしておるのじゃ?』
九割九分返ってこないと諦めつつ放った一言に、返答が来る。会話になっているわけではない。冷や汗をかきながら、急いで振り返った。
第一印象は白。髪も肌も服も、どこもかしこも白色だ。光を反射しすぎて若干発光しているように見える。
『どうしたのじゃ?』
「あ、いえ。自分でも何と答えたらいいのか分からず、固まってしまったのです」
『ほぉ、そうか』
「あの、貴方は? あ、僕はアレンで……」
『フッ』
真っ白な者が高速で突きを繰り出してきた。アレンは一歩踏み出した途端に足を滑らせたことで、なぜか奇跡的に躱すことができた。髪が少し切れて宙を舞った。
『ほぉ』
真っ白な女の胸元に顔がぶつかる。クッションが小さく、顔に痛みが走った。女がそのままアレンの顔を抱きかかえた。女の胸にこんなに触れることなどなかったので異常に緊張してしまう。
『フム。アレンじゃったか。私はポラリス。ここに住んでいると言っていいじゃろう。私のこの攻撃を避けたのは貴君が初めてじゃ。仲良うしよう』
まさかここに住民がいたなんて、これだけ探しても見つからなかったことを考えると、ここはかなりの広さだということだろう。
『成る程。フムフム。貴君が贄ということじゃな』
「……贄?」
『フム? そうか。貴君は何も知らないのだな。ウ~~ム。私が話してもよいのじゃろうけ?』
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果たして、アレンは何とかあるのだろうか?
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