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29.暴霊の傷跡
6.荒れ狂う暴風
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増子・ダライア・英子。それが前世での名前だ。齢37である彼女は動物が好きで、動物園の飼育員として働いていた。
動物好きの彼女にとってはまさに天職だった。トカゲやカナヘビを約十年間担当し、同時に鳥類も八年間担当していた。
アフリカ系日本人の彼女は、その要旨を原因にイジメられていた。悲しいことに、と言うべきか、やはり、と言うべきか、未だに日本は肌の色の違いを理由にするいじめがなくなっていなかった。
そんな英子が心を許せたのが、動物だった。動物園内にさえイジメが存在している。それでも続けてこれたのは動物達と触れ合えていたからだろう。
そんな彼女は死んだ。上から高重量の物が落ちてきたことで、頭が潰されて死んだ。素人目にも分かる即死だった。
英子がそうなったのは、イジメが原因ではない。そこにいた猫を救うためだ。しかし、目撃者は一様に言う。そこに猫などいなかった、と。防犯カメラをいくら調べても、確かにいなかった。
英子が見た者の名は観測者。いわば神の使い。またの名を天使。
英子の死は完全に想定外だった。神の手違いによるものだった。
非業な死を遂げた英子は、神とやり取りをして、異世界に転生されることになった。
その際渡されたチート能力は、スキル的鑑定、次元収納、言語理解、そして動物・魔物に好かれる加護だ。
アストロは己の無知と、世界の未知性を呪った。
濃紫の魔女は目の前の少女を召喚士だと思ってしまった。しかし、違う。アレンの魔眼を通して伝えられた少女の職は動物・魔物と心を通わせ、操る者。いわばテイマー。
アストロは一度テイマーを頭に浮かべながら、その可能性を自ら消した。それは仕方のないことである。
テイマーは幻の職業だと言われているほど、希少な職なのだ。自然に排除してもしょうがないことだ。
まず魔物と心を通わせることが不可能に近い。その過程で凶刃に沈むことになる。
それどころではない。
マスコンディレートが棒を振るった際に吹いた風は烏のものではない。羽ばたきのような強弱のついた突風ではない。切れ目のない突風だ。
壁の穴、道の外側にピンク髪に茶のビキニを着た少女が飛んでいた。何かが直感で分からない。しかし、コストイラはピンときた。
あれは精霊だ。
精霊がこの少女のことを好いている。相当な力を貸しているのだろうことが想像できた。
コストイラが鋭く刀を繰り出した。バチンと刀がマスコンディレートの表層に弾かれる。精霊の加護があり、竜巻のようなものが鎧となっているということが分かる。
コストイラが弾かれた勢いを利用して、二撃目を与える。バチンと音が響く。しかし、今度は弾かれることなく、鎧を砕いた。
とはいえ、鎧の厚みが刀の軌道を変えてしまった。刀が下に向かっていく。その攻撃が早すぎてマスコンディレートには分からなかった。攻撃が当たったにもかかわらず、数秒経つまで気付かなかった。
マスコンディレートの体が傾いていた。
『愛するなら墓参り、か』
誰へ、でもない、ただ空に向かっていた。イライザの目がここにない。どこか、ここからかなり離れた遠い地に向かっていた。おそらく魔王インサーニアの住んでいた城。
『私が行けるかしら』
イライザがとても弱気な発言をした。ヲヌネはただ静かに横に座っている。少し高めの縁側で足をパタパタとしながら、結論を待っている。
『やっぱり……』
イライザの気持ちが沈んでいる。夫の墓参りに行けそうにない。
「貴女の夫への愛はその程度だったのですか?」
『そんなわけ!』
ヲヌネの軽い侮辱にも耐えきれず、怒りを前面に出した。ヲヌネは、今も鼻息荒く肩を上下させている元魔王妃を見て、微笑む。
「愛があるなら、それは一貫しなきゃ。それさえ一貫していれば、誰にも何も言わせないことができるんだから」
『何も……』
「だから頼らなきゃ。そこに倒れている子達でも、元敵である私でも、ね」
『頼んだらついてきてくれるの?』
「フフ。報奨金次第かなぁ」
イライザもつられて笑う。
『友達価格で』
「……っ! じゃあ、カゴメの特選アップルパイで手を打とうじゃないか」
「え!? カゴメの特選アップルパイ!?」
黄色の髪を振り乱し、ガバリと起き上がった。カレトワ、寝たふりだったのかい?
動物好きの彼女にとってはまさに天職だった。トカゲやカナヘビを約十年間担当し、同時に鳥類も八年間担当していた。
アフリカ系日本人の彼女は、その要旨を原因にイジメられていた。悲しいことに、と言うべきか、やはり、と言うべきか、未だに日本は肌の色の違いを理由にするいじめがなくなっていなかった。
そんな英子が心を許せたのが、動物だった。動物園内にさえイジメが存在している。それでも続けてこれたのは動物達と触れ合えていたからだろう。
そんな彼女は死んだ。上から高重量の物が落ちてきたことで、頭が潰されて死んだ。素人目にも分かる即死だった。
英子がそうなったのは、イジメが原因ではない。そこにいた猫を救うためだ。しかし、目撃者は一様に言う。そこに猫などいなかった、と。防犯カメラをいくら調べても、確かにいなかった。
英子が見た者の名は観測者。いわば神の使い。またの名を天使。
英子の死は完全に想定外だった。神の手違いによるものだった。
非業な死を遂げた英子は、神とやり取りをして、異世界に転生されることになった。
その際渡されたチート能力は、スキル的鑑定、次元収納、言語理解、そして動物・魔物に好かれる加護だ。
アストロは己の無知と、世界の未知性を呪った。
濃紫の魔女は目の前の少女を召喚士だと思ってしまった。しかし、違う。アレンの魔眼を通して伝えられた少女の職は動物・魔物と心を通わせ、操る者。いわばテイマー。
アストロは一度テイマーを頭に浮かべながら、その可能性を自ら消した。それは仕方のないことである。
テイマーは幻の職業だと言われているほど、希少な職なのだ。自然に排除してもしょうがないことだ。
まず魔物と心を通わせることが不可能に近い。その過程で凶刃に沈むことになる。
それどころではない。
マスコンディレートが棒を振るった際に吹いた風は烏のものではない。羽ばたきのような強弱のついた突風ではない。切れ目のない突風だ。
壁の穴、道の外側にピンク髪に茶のビキニを着た少女が飛んでいた。何かが直感で分からない。しかし、コストイラはピンときた。
あれは精霊だ。
精霊がこの少女のことを好いている。相当な力を貸しているのだろうことが想像できた。
コストイラが鋭く刀を繰り出した。バチンと刀がマスコンディレートの表層に弾かれる。精霊の加護があり、竜巻のようなものが鎧となっているということが分かる。
コストイラが弾かれた勢いを利用して、二撃目を与える。バチンと音が響く。しかし、今度は弾かれることなく、鎧を砕いた。
とはいえ、鎧の厚みが刀の軌道を変えてしまった。刀が下に向かっていく。その攻撃が早すぎてマスコンディレートには分からなかった。攻撃が当たったにもかかわらず、数秒経つまで気付かなかった。
マスコンディレートの体が傾いていた。
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誰へ、でもない、ただ空に向かっていた。イライザの目がここにない。どこか、ここからかなり離れた遠い地に向かっていた。おそらく魔王インサーニアの住んでいた城。
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『やっぱり……』
イライザの気持ちが沈んでいる。夫の墓参りに行けそうにない。
「貴女の夫への愛はその程度だったのですか?」
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「愛があるなら、それは一貫しなきゃ。それさえ一貫していれば、誰にも何も言わせないことができるんだから」
『何も……』
「だから頼らなきゃ。そこに倒れている子達でも、元敵である私でも、ね」
『頼んだらついてきてくれるの?』
「フフ。報奨金次第かなぁ」
イライザもつられて笑う。
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「……っ! じゃあ、カゴメの特選アップルパイで手を打とうじゃないか」
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