メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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29.暴霊の傷跡

15.毒蛇の大穴

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 マスコンディレートは勘違いをしている。そもそも、この戦いはする必要がない。勇者一行は通り過ぎるのを待てばよかったのだ。
 だというのに、マスコンディレートはちょっかいを出した。踏んではいけない虎の尾を踏み潰してしまったのだ。
 そんなことにさえ気づけず、マスコンディレートが焦る。

 そこで次元収納から禍々しい笛を取り出した。

 あれはマズイ。アシドの本能が止めろと訴えている。槍を振るって笛を弾こうとするが、フレアドラゴンの尻尾がそれを止める。
 火炎巨竜の尾が折れ、千切れ飛んだ。痛みが激しく走るが、槍の軌道がズレて主人に向かう凶刃が当たらずに済んだ。

 禍々しい笛を吹いた。しかし、音が聞こえてこない。可聴音を超えたか。

 地面が僅かに揺れている。アシドやコストイラ、シキが足裏に集中する。
 何か来ている。かなり大きい。感覚的に言うのであれば、その体長は100mを超えているだろう。

 その巨体がこちらに近づいてきている。地面を掘り進むスピードが速く、それどころか威力が半端ではない。

 コストイラやシキなど、近くにいた者達がかなりの距離をとった。

 ドガンと地面が爆ぜ、巨顔が現れた。その頭の幅ほどない体と一緒に水が出てくる。地下からの海水が瓦礫に満ちた陸上を洗い流した。
 顔しか出てきていないが、それだけでハイオーガやラーヴァゴーレムを超える威圧を放っている。纏う雰囲気や魔力だけを見たなら、魔神ブサウや蛇神ナーガと言っても過言ではない威容を持つ。個体によっては腕や角や髭を持っており、龍と言っても不自然ではない。
 この個体は白っぽい角が鰓部分から生えており、顔の端から角は灰っぽい。

『ハァ』

 鼻根にマスコンディレートが乗っているため、下顎を動かして息を吐いた。その息に色がついている。向こう側が見える透き通った、濃い紫色だ。察しの悪いアレンにも分かる。これは毒だ。

「行け! ヨルムンガンド!」

 叫ぶ主人を呼応するように世界毒蛇ヨルムンガンドも雄叫びを上げ、毒を吹いた。

 アストロが毒を燃やすように炎を放つ。毒を伝って炎が世界毒蛇のところまで辿り着くが、一切動じていない。それどころか、今、何かしましたか? みたいな顔がむかつく。

 鼻根に立つマスコンディレートは恐怖のあまり、頭を抱えて蹲っている。

 絶対に調教師自体は弱い。しかし、先に倒してしまうと、この巨大な蛇が制御不能となってしまい、暴れる可能性があるのだ。そのため、迂闊に手を出せない。

 アシドが毒を警戒してなかなか走り出せない中、コストイラがスタートダッシュを切った。自らの全身を炎で包み込むという諸刃の剣で毒問題を解決させる。無論、すべての毒を何とかできたわけではない。コストイラが仕掛けるのは、短期決戦だ。

 マスコンディレートはそれを無茶無謀の蛮行だと断じ、鼻で笑った。ヨルムンガンドは自身の保有する調教済み魔物の中でも最強の魔物だ。そう簡単にやられるはずがない。
 確かにコストイラ一人ならば、毒の巡りの方が早いだろう。そこに、不等号の向きを変える存在が現れた。

 シキである。硬く拳を握る調教師の後ろ、世界毒蛇の眉間部分に立っていた。
 たった40㎏の重さでは、数千~数万の巨躯を誇るヨルムンガンドは気付かない。それこそ、人の頭の上に埃が乗った程度の感覚だ。

 何かあったわけではない。ただ、本能が後ろを向けと言ったのだ。マスコンディレートが後ろを見る。

 無表情、しかし、そこには感情が多く込められている。脳で鳴らされる警鐘がうるさい。

 フレアドラゴンはここにいない。それ以外の仲間はもういない。この場で守ってくれる者はいない。自分で何とかするしかない。

 マスコンディレートが完全に腰が引けている状態の構えを披露している。シキは常に本気を出す勇者だ。どんな状況でも手は抜かない。
 その恐怖がちょろちょろと世界毒蛇にも伝わる。主が恐怖している。その恐怖を取り除かなければなるまい。

『ジャァアアア!』

 大きな雄叫びに、アレンやアシドが恐怖してしまう。
 鼻根の上にいるマスコンディレートはその振動に体を浮かせ、尻餅をついた。シキは倒れていない。

 あまり考えることが得意ではないシキでも分かる。先にこの調教師を倒すのは良くない。

 シキがナイフを振るい、ヨルムンガンドの頭部分が斬っていく。その瞬間に世界毒蛇も気付いた。

 シキが鱗を蹴飛ばす。亜音速を超える速度で迫る鱗に、調教師が反応できない。バゴンと顔面に当たり、マスコンディレートが血を噴き出しながら、体を浮かせた。

 宙を舞う。どこにも接していない状態のせいで、内臓が浮く感覚を得た。
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