メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば

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30.月の船

15.満月が見ている

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「ふ、ん、あ?」

 眉がぴくぴくと動き、口から珍妙な声が出た。この声、誰かに聞かれちゃったかな? とうっすらと目を開けていくと、ドアップのレイドの顔が映った。

「ぺぁッ!?」
「ゴァ!?」

 びくっとエンドローゼの体が起き上がり、レイドと額がぶつかった。レイドが背を反らして額を覆い、エンドローゼはおでこを両手で押さえてもう一度寝転がった。ゴンと後頭部をぶつけ、体を横にして悶える。

「何してんのよ」
「……油断した」

 アストロに半眼を送られ、レイドが萎縮した。

「あれ?」

 エンドローゼが左半身に違和感を覚えた。ゆっくりと左の口端に触れる。

「つっ!」

 エンドローゼが痛みで身を固める。
 エンドローゼの最後に残っている記憶は、火の壁。そこから察するに、自分は火に包まれたのだ。
 ゆっくりと左手を上げていき、左の目の端に触れる。
 再び痛みが走り、身を固めた。

「ごめんなさい、エンドローゼ。貴女以外では、その傷を治せなかったわ」
「え、えへへ」
「何で笑っているのよ」

 しおらしく謝るアストロに、エンドローゼがはにかみながら後頭部を掻いた。

「だ、だ、だってわ、私のことをこーんなにか、考えて下さるなーんて、アイテッ!」

 アストロが恥ずかしくなったのか、エンドローゼの頭頂部に拳を落とした。

「と、と、ところで、し、シキさん、とか、あ、あ、アレンさん、とか、皆、さんどこに?」
「アレンはシキを呼びに行ったわ。コストイラを連れて」
「そ、そうなんですね」

 エンドローゼが森の方を見て、少し微笑んだ。





「ハァ、ハァ、ハァ」

 アレンが木の陰で肩で息をしていた。

 木の向こうでは眠ったままのシキが戦っていた。何と? 知らねぇよ。
 戦っていたと思われる男や雌蟷螂エンプーサが散らばっている。壮絶な戦闘が行われた、とは思えない。シキが無傷なままなのだ。

「コストイラさん。どうしましょう」
「どうするったってお前。止めるしかねぇだろ」
「どうやって止めるんですか? 僕はシキさんの速さに追いつけない、というか、見えていないです」
「視えねぇなら、何もしねぇ方がいいだろうな。気を引くことはできるか?」
「勝てますか?」
「一度負けているとはいえ、次も負けるとは限らねェからな」

 コストイラが集中していく。刀を半分だけ抜き、シキの様子を窺う。
 まだ動いていない。コストイラがゆったりとした足取りでシキに近づく。いつでも反応できるように集中力はどんどん増していく。

 シキの腕が動く。コストイラの腕も動く。アレンには見えない剣戟の嵐、音さえ遅れてくる。この中で気を引く? 死ぬだろ、普通。

 レイドは一撃に力を込めるタイプだ。対してシキは速さを重視している。コストイラは速さがありつつ、力の方を重点的に見ている。

 シキの方が速い。明白だ。そのため、徐々にコストイラが押されていく。コストイラに細かい傷が創られていく。
 アレンが凡人なりに勇気を振り絞った。左手も右手もまともに動かないが、一本の矢を射るくらいならは我慢できる。
 アレンはシキの足元を狙った。シキには分かりやすい反応がない。気付いていないはずはない。

 シキが屈んで躱し、コストイラの腹を蹴飛ばした。一般人が喰らえば内臓破裂どころか、外側も爆散するだろう。硬い腹筋に守られたコストイラは無事だった。
 その直後にシキが矢を掴んだ。バキと折れるのではなく、バシャと粉砕された。

「な」

 アレンが発声したころには、シキがスタートを切っていた。

 シキが止まったことで、巻き込まれていた風が、アレンの体を叩く。アレンの体は後ろに押され、木に背をぶつけた。
 シキがナイフを振りかぶる。

「ぴ」

 アレンが怯え、両腕で顔を覆うように守り、目を瞑って顔を逸らした。
 ゴゥと空気の悲鳴が聞こえる。

 死。

 明確にそれを意識したが、いつまで経っても攻撃が当たらない。不思議に思い、うっすらと目を開けると、シキの顔がキスのできそうなほど近くにあった。
 何か反応をしようとした途端、シキの体から黒い靄が溢れ出した。

うわ・・

 アレンが再び目を瞑り、座り込んでしまった。

 しかし、それが功を奏し、髪の毛の幾本かが斬られたが、躱すことができた。メキメキと木が倒れていく。
 頭が真っ白になってしまう。これはどうしたらいいのだ。

「え?」
「アレン! 上だ!」

 コストイラの叫びに、顔を跳ね上げる。

 空から、船が落ちてきていた。
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