552 / 684
30.月の船
15.満月が見ている
しおりを挟む
「ふ、ん、あ?」
眉がぴくぴくと動き、口から珍妙な声が出た。この声、誰かに聞かれちゃったかな? とうっすらと目を開けていくと、ドアップのレイドの顔が映った。
「ぺぁッ!?」
「ゴァ!?」
びくっとエンドローゼの体が起き上がり、レイドと額がぶつかった。レイドが背を反らして額を覆い、エンドローゼはおでこを両手で押さえてもう一度寝転がった。ゴンと後頭部をぶつけ、体を横にして悶える。
「何してんのよ」
「……油断した」
アストロに半眼を送られ、レイドが萎縮した。
「あれ?」
エンドローゼが左半身に違和感を覚えた。ゆっくりと左の口端に触れる。
「つっ!」
エンドローゼが痛みで身を固める。
エンドローゼの最後に残っている記憶は、火の壁。そこから察するに、自分は火に包まれたのだ。
ゆっくりと左手を上げていき、左の目の端に触れる。
再び痛みが走り、身を固めた。
「ごめんなさい、エンドローゼ。貴女以外では、その傷を治せなかったわ」
「え、えへへ」
「何で笑っているのよ」
しおらしく謝るアストロに、エンドローゼがはにかみながら後頭部を掻いた。
「だ、だ、だってわ、私のことをこーんなにか、考えて下さるなーんて、アイテッ!」
アストロが恥ずかしくなったのか、エンドローゼの頭頂部に拳を落とした。
「と、と、ところで、し、シキさん、とか、あ、あ、アレンさん、とか、皆、さんどこに?」
「アレンはシキを呼びに行ったわ。コストイラを連れて」
「そ、そうなんですね」
エンドローゼが森の方を見て、少し微笑んだ。
「ハァ、ハァ、ハァ」
アレンが木の陰で肩で息をしていた。
木の向こうでは眠ったままのシキが戦っていた。何と? 知らねぇよ。
戦っていたと思われる男や雌蟷螂が散らばっている。壮絶な戦闘が行われた、とは思えない。シキが無傷なままなのだ。
「コストイラさん。どうしましょう」
「どうするったってお前。止めるしかねぇだろ」
「どうやって止めるんですか? 僕はシキさんの速さに追いつけない、というか、見えていないです」
「視えねぇなら、何もしねぇ方がいいだろうな。気を引くことはできるか?」
「勝てますか?」
「一度負けているとはいえ、次も負けるとは限らねェからな」
コストイラが集中していく。刀を半分だけ抜き、シキの様子を窺う。
まだ動いていない。コストイラがゆったりとした足取りでシキに近づく。いつでも反応できるように集中力はどんどん増していく。
シキの腕が動く。コストイラの腕も動く。アレンには見えない剣戟の嵐、音さえ遅れてくる。この中で気を引く? 死ぬだろ、普通。
レイドは一撃に力を込めるタイプだ。対してシキは速さを重視している。コストイラは速さがありつつ、力の方を重点的に見ている。
シキの方が速い。明白だ。そのため、徐々にコストイラが押されていく。コストイラに細かい傷が創られていく。
アレンが凡人なりに勇気を振り絞った。左手も右手もまともに動かないが、一本の矢を射るくらいならは我慢できる。
アレンはシキの足元を狙った。シキには分かりやすい反応がない。気付いていないはずはない。
シキが屈んで躱し、コストイラの腹を蹴飛ばした。一般人が喰らえば内臓破裂どころか、外側も爆散するだろう。硬い腹筋に守られたコストイラは無事だった。
その直後にシキが矢を掴んだ。バキと折れるのではなく、バシャと粉砕された。
「な」
アレンが発声したころには、シキがスタートを切っていた。
シキが止まったことで、巻き込まれていた風が、アレンの体を叩く。アレンの体は後ろに押され、木に背をぶつけた。
シキがナイフを振りかぶる。
「ぴ」
アレンが怯え、両腕で顔を覆うように守り、目を瞑って顔を逸らした。
ゴゥと空気の悲鳴が聞こえる。
死。
明確にそれを意識したが、いつまで経っても攻撃が当たらない。不思議に思い、うっすらと目を開けると、シキの顔がキスのできそうなほど近くにあった。
何か反応をしようとした途端、シキの体から黒い靄が溢れ出した。
「うわ」
アレンが再び目を瞑り、座り込んでしまった。
しかし、それが功を奏し、髪の毛の幾本かが斬られたが、躱すことができた。メキメキと木が倒れていく。
頭が真っ白になってしまう。これはどうしたらいいのだ。
「え?」
「アレン! 上だ!」
コストイラの叫びに、顔を跳ね上げる。
空から、船が落ちてきていた。
眉がぴくぴくと動き、口から珍妙な声が出た。この声、誰かに聞かれちゃったかな? とうっすらと目を開けていくと、ドアップのレイドの顔が映った。
「ぺぁッ!?」
「ゴァ!?」
びくっとエンドローゼの体が起き上がり、レイドと額がぶつかった。レイドが背を反らして額を覆い、エンドローゼはおでこを両手で押さえてもう一度寝転がった。ゴンと後頭部をぶつけ、体を横にして悶える。
「何してんのよ」
「……油断した」
アストロに半眼を送られ、レイドが萎縮した。
「あれ?」
エンドローゼが左半身に違和感を覚えた。ゆっくりと左の口端に触れる。
「つっ!」
エンドローゼが痛みで身を固める。
エンドローゼの最後に残っている記憶は、火の壁。そこから察するに、自分は火に包まれたのだ。
ゆっくりと左手を上げていき、左の目の端に触れる。
再び痛みが走り、身を固めた。
「ごめんなさい、エンドローゼ。貴女以外では、その傷を治せなかったわ」
「え、えへへ」
「何で笑っているのよ」
しおらしく謝るアストロに、エンドローゼがはにかみながら後頭部を掻いた。
「だ、だ、だってわ、私のことをこーんなにか、考えて下さるなーんて、アイテッ!」
アストロが恥ずかしくなったのか、エンドローゼの頭頂部に拳を落とした。
「と、と、ところで、し、シキさん、とか、あ、あ、アレンさん、とか、皆、さんどこに?」
「アレンはシキを呼びに行ったわ。コストイラを連れて」
「そ、そうなんですね」
エンドローゼが森の方を見て、少し微笑んだ。
「ハァ、ハァ、ハァ」
アレンが木の陰で肩で息をしていた。
木の向こうでは眠ったままのシキが戦っていた。何と? 知らねぇよ。
戦っていたと思われる男や雌蟷螂が散らばっている。壮絶な戦闘が行われた、とは思えない。シキが無傷なままなのだ。
「コストイラさん。どうしましょう」
「どうするったってお前。止めるしかねぇだろ」
「どうやって止めるんですか? 僕はシキさんの速さに追いつけない、というか、見えていないです」
「視えねぇなら、何もしねぇ方がいいだろうな。気を引くことはできるか?」
「勝てますか?」
「一度負けているとはいえ、次も負けるとは限らねェからな」
コストイラが集中していく。刀を半分だけ抜き、シキの様子を窺う。
まだ動いていない。コストイラがゆったりとした足取りでシキに近づく。いつでも反応できるように集中力はどんどん増していく。
シキの腕が動く。コストイラの腕も動く。アレンには見えない剣戟の嵐、音さえ遅れてくる。この中で気を引く? 死ぬだろ、普通。
レイドは一撃に力を込めるタイプだ。対してシキは速さを重視している。コストイラは速さがありつつ、力の方を重点的に見ている。
シキの方が速い。明白だ。そのため、徐々にコストイラが押されていく。コストイラに細かい傷が創られていく。
アレンが凡人なりに勇気を振り絞った。左手も右手もまともに動かないが、一本の矢を射るくらいならは我慢できる。
アレンはシキの足元を狙った。シキには分かりやすい反応がない。気付いていないはずはない。
シキが屈んで躱し、コストイラの腹を蹴飛ばした。一般人が喰らえば内臓破裂どころか、外側も爆散するだろう。硬い腹筋に守られたコストイラは無事だった。
その直後にシキが矢を掴んだ。バキと折れるのではなく、バシャと粉砕された。
「な」
アレンが発声したころには、シキがスタートを切っていた。
シキが止まったことで、巻き込まれていた風が、アレンの体を叩く。アレンの体は後ろに押され、木に背をぶつけた。
シキがナイフを振りかぶる。
「ぴ」
アレンが怯え、両腕で顔を覆うように守り、目を瞑って顔を逸らした。
ゴゥと空気の悲鳴が聞こえる。
死。
明確にそれを意識したが、いつまで経っても攻撃が当たらない。不思議に思い、うっすらと目を開けると、シキの顔がキスのできそうなほど近くにあった。
何か反応をしようとした途端、シキの体から黒い靄が溢れ出した。
「うわ」
アレンが再び目を瞑り、座り込んでしまった。
しかし、それが功を奏し、髪の毛の幾本かが斬られたが、躱すことができた。メキメキと木が倒れていく。
頭が真っ白になってしまう。これはどうしたらいいのだ。
「え?」
「アレン! 上だ!」
コストイラの叫びに、顔を跳ね上げる。
空から、船が落ちてきていた。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる