月が嗤う夜、魔女はワルツを踊る

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黒銀の魔女

黒銀の魔女 5

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 魔女がリヒトに嫁を貰わないのかと質問した日から十年、リヒトを拾ってから二十年が経っていた。出会った頃より更に距離が物理的に近くなった二人。その日もまた、二人の距離は親子のそれではなく恋人のそれで、しかし魔女は二人の距離に違和感を感じることもその距離の近さを疑問に思うこともなく過ごしていた。
 ラグに直接座り込み両手で魔力操作を行い魔石を加工する魔女。魔石は加えられる魔力によってまるで柔らかな粘土のようにぐねぐねとその形を変える。魔女は魔石を弄りながら一瞬思案し、魔石の形を今にも羽ばたいていきそうな蝶々の形に変えた。薄い羽は光を受けて七色に輝き見る者を魅了する。リヒトは魔女が一息吐いたのを確認すると、魔女を背中から抱き込み自分の足の間に座らせその手を取り細い指を撫でた。


「母さん、爪が伸びてきたね。母さんってば自分の事は適当に済ませちゃうんだから俺がやっても良いよね?」


 リヒトは魔女の耳元で甘く囁く。魔女はリヒトに抱え込まれたまま、ん、とされるがままになる。そのままリヒトに爪の手入れをされながら、そう言えばと魔女は言葉を紡いだ。


「リト。リトはまだ嫁貰わないの?こんなに面倒見が良くて料理上手な良い子に嫁が出来ない、なんて母は君が心配だよ」


 しかしリヒトはそんな魔女の言葉を笑顔で否定し、魔女は残念そうに肩を落としてリヒトの体に更に体重を預ける。


「俺はまだ子供なので嫁なんてものは不要ですよ」


「そっかぁ……」


 それを見たリヒトは、こんなに簡単に騙されてこの人やっぱり馬鹿なのでは、と魔女を騙しておきながら魔女のお人好し加減が心配になったのであった。



 更にその十年後のこと。魔女がリヒトを拾ってから三十年が経っていた。相も変わらず二人の距離は恋人のそれで、魔女は未だにその距離の近さに違和感を覚えない。暖かな日差しの中、魔女はソファーに腰掛けたリヒトの膝枕で寛ぎながら、再びリヒトに嫁を貰わないのかと問い掛けた。


「リトー。そろそろ嫁貰えるくらいの大人になったー?」


 リヒトは魔女の髪を手で漉きながら遠回しに探すつもりはないと答えるが、魔女には伝わらない。


「そうですねぇ……そろそろ考えても良いような気がしなくもないです」


「!!!嫁探さなきゃ!!!」


 跳ね起きようとする魔女をぐっと押し留め、リヒトは魔女に膝枕をしたまま魔女に釘を刺した。


「自分で探すので何もしないで下さいね」


「そっかぁ……」


 自分の可愛い養い子に釘を刺され、先程まで大喜びしていた魔女は肩を落としてしまった。リヒトはそんな魔女を優しく見つめ、やっぱりこの人はお人好し過ぎる、と絶対に魔女を一人にしちゃいけないとしっかり心に刻んでいた。
 魔女は未だにリヒトが本当に人間であるのかすら疑問に思わない。



 更にその十年後、魔女がリヒトを拾ってから四十年が経った。流石に鈍い魔女も養い子の姿に違和感を覚えたらしいが、二人の距離は以前と変わらず恋人のそれで、魔女はリヒトの膝の上で魔法書を読みながらリヒトの問い掛けた。


「リトー。お前三十年前と姿変わってない気がするんだけど気のせい?お前ホントに人間のオスか?後嫁まだ?別に人間でも人間じゃなくても良いんだけど嫁は大事だと思うの」


「今更過ぎません?俺魔族なのでこれ以上は老けませんよ、貴女と一緒ですね。そして俺は貴女以外要らないので貴女が俺の嫁になってくれれば嫁問題は解決ですよ」



「ふぁっ!?」


 リヒトはようやく魔女に真実を告げた。魔女がリヒトを拾ってから四十年、リヒトの外見年齢が変わらなくなって三十年目のことである。決して短くはないこの年月の間、魔女は今までリヒトが人間ではないなどと考えたこともなくリヒトの告白に固まった。目を開けたまま固まった魔女に、リヒトは口付けを一つ落とす。


「これから覚悟してくださいね、***」


 耳元で魔女の名を囁いた。



 ある日の魔女集会でのことである。黒銀の魔女がまだ到着していない少しの時間にその会話は行われていた。


「黒銀の魔女は一体いつになったら養い子が人間じゃないって気付くと思う?」


「当分無理じゃ無いかしら?」


「そのまま流されて食べられちゃったりするんじゃない?」


「「「有り得るわー」」」


 他の魔女達の予想は大当たりで、黒銀の魔女は養い子に美味しく頂かれました★
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