天崎まゆはどこかおかしい

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「ユキ。顔色悪いよ。大丈夫?」

 食事を囲んだ家族団欒の席。母にそう言われ、曖昧な笑みを浮かべる。箸を持つ手に力が入らず、筋肉が震えた。緊張のせいで、一気に全身に汗が滲む。
 視界に入る全てが敵に見え、ゆっくりと息を吐き出した。
 父、母、弟、祖母。皆が皆、貼り付けた仮面のような笑顔で食事を楽しんでいる。
 ──それでね、今日ケンタが。あぁ、この前の日曜、家に連れてきてた子? そうそうアイツがさ。今日、宿題忘れて先生にこっぴどく叱られてさ。でも、あいつ宿題をやってたんだ。それを家に忘れてきただけなんだ。なのに、先生は聞く耳を持たなくて。そりゃそうよ、持ってこなきゃ意味ないじゃない。全くだな。あはははは──。
 流れる呪文のような、なんの面白みもない言葉がゆらゆら宙を舞う。私は料理に下ろしていた視線をゆっくりと家族へ投げた。みんな、口角を上げ微笑んでいる。忙しなく動く箸先と口。咀嚼された食事が喉を通る音。まるで全てが幻に見えた。泥濘の中にいるような感覚は居心地が悪く、眩暈さえ覚える。

『あなたは私から、もう目が離せない♪』

 特徴的な甘い声が鼓膜を弾いた瞬間、食べていたものを吐き出しそうになり、慌ててそれを手で押さえる。額から流れた汗が頬を伝った。全身に鳥肌が立ち、震えが止まらなくなる。
 隣に座っていた祖母が柔らかな声をあげた。

「あまゆゥちゃんが出てるよ。本当、いつでもこの子は可愛いねぇ」
「あまゆゥちゃんだ! コレ、新曲だよ。前の曲も良かったけど、これもいいなぁ。ねぇ、お母さん。初回限定版、買ってよ」
「まぁた、この子は。前も買ってあげたでしょう。今度はお小遣いで買いなさい」
「えぇ。お小遣いは他のあまゆゥちゃんグッズに消えちゃったよ。ねぇ、お願い。今度のテストで良い点数取るからさ」
「なぁ、ママ。良いじゃないか。今回はあまゆゥちゃんに免じて、買ってあげなさい」
「パパが言うならしょうがないわね。買ってあげる」
「わぁい」

 私は勢いよく席を立ち、二階の部屋まで駆ける。母の心配する声が聞こえた。しかし、気にしていられない。まだ、リビングではあまゆゥの歌声が流れている。まるで弓矢のように背中に刺さり続けるその声を、自室の扉で遮断する。ベッドへ駆け込み、布団を頭から被った。
 薄暗い部屋の中、私は後悔の念に襲われていた。
 なんで──なんで私は事実に気づいてしまったのだろうか。どうして彼女の知られざる一面を知ってしまったのだろうか、と。
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