リザレクテッド:人類再誕 所有された人間だけど、自由に生きる方法を探してみる

花篝 凛

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第4部 Wreath Infinity 感情チップを作ってみたら、人気者になった

番外編 アリア、教師をクビになる (2)

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 一時間目──歴史の授業。
 静かな教室に、教師の落ち着いた声が響いていた。
 壁際の大型モニターには、旧時代の人類社会を解説するビジュアル資料が映し出されている。

「……そして、文明崩壊ののち、アウロイドの技術進化が加速し、現在の管理社会が確立されました」

 教師がホログラムペンを動かしながら、淡々と解説を続ける。

「これは“連続的技術進化モデル”と呼ばれ、一般には“安定成長型”として──」

 ──その瞬間。

「……異議あり」

 パタン、と椅子の音。
 空気が一瞬で張り詰める。

 生徒たちの視線が一斉に向いた先──立ち上がったのは、銀髪サイドテール、制服姿のアリアだった。
 真っ直ぐに前を見据える姿は、まるで壇上に立つ講師そのもの。

「アリアさん……なにかご意見でも?」
「補足します」

 教師が言葉を選ぶより早く、アリアはスッと前へ歩き出す。
 そして当然のようにホログラムペンを奪い、空いていたボードを開いて、すらすらと記述を始めた。

《補足:連続的技術進化モデルは“安定”ではなく、“選択的淘汰”を内包。初期データ群の削除ログにより証明可能。》
「……アリアさん、それをそのまま教えてしまうと教科書との整合性が──」
「知識とは、整合の中にはなく、矛盾の中にこそ宿るものです」
「カッコつけたけど、授業妨害してる自覚はあるの!?」

 リースがバンッと机を叩く。

「座って! というか、今まさに先生が説明してたでしょ!? 話、途中だったでしょ!?」
「聞くに耐えなかった。論点が浅かったから」
「それを“授業潰し”って言うんだよ……」

 ルシアンが呆れ気味にぽつり。

「潰れてたから、建て直してるの。私は、教師だから」

 アリアは微笑すら浮かべている。
 レインが珍しく表情を曇らせた。

「……授業って……戦場だったんだっけ……?」

 アイカは両手で頭を抱えながら、半笑いで震えていた。

「これ……前にもあった……前より手に負えなくなってるだけで……!」

 前線が完全に崩壊する中、教師はしばし沈黙し──そして諦めたようにモニターを閉じた。

「……アリアさん、本日は“共学型・自由参加講義枠”として、特例で許可します……」

 アリアはうれしそうにうなずいた。

「つまり、非公式講義の開講を認めたと」
「いや、まだ認めたとは──」
「では次のテーマに参ります。“自己複製型ネットワークの倫理的廃止について”」

 再びホログラムが点灯し、教室の前方が即席の“第二教壇”と化す。
 アリアの周囲には、いつの間にかノート片手に集まり始めた数名の生徒たち。

「ねえ、これ普通に面白くない?」
「まじで授業っぽいんだけど……」

 リースは額に手を当てて呻いた。

「ダメだ……授業が……アリアに侵食されてく……!」

 そして、横でルシアンがぽつりと呟く。

「……あれ? 今日って……始業式だったっけ?」


 午後。
 国語の時間。

 やわらかな日差しが教室に差し込む中、教師の朗読が静かに響いていた。

「──“人は時に、言葉に救われ、時に言葉に傷つく”。さて、この詩における“言葉”とは、何を指しているのでしょうか?」

 リースは腕を組み、ふむ……と唸りながら筆記を始めた。
 隣のレインが、声をひそめて尋ねる。

「リース。この“言葉”って、どう解釈する?」
「んー……自己と他者を繋ぐ境界線? もしくは、他者との距離を測る感情のリトマス試験紙……?」
「おお、それっぽい……」

 和やかに交わされる知的対話。
 その横で──明らかに異空間を漂っている生徒が一人。

 アリア。

 彼女の机の上では国語の教科書が閉じられたまま。
 代わりに開かれているノートには、謎めいたタイトルが踊っていた。

《倫理委員会 永久メモ》

 しかも達筆。
 まるで中世詩人の遺稿のように整然と、ページ一面が埋め尽くされている。

《第一章 背後から刺された教育者》
《第二章 “悪い子は解剖標本”と告げただけで──》
《第三章 その日、倫理委員会は笑っていた》
《第四章 記録に残っていない涙》

 レインが目を丸くしてリースの袖を引いた。

「……ねえ。あれ、見て。アリアのノート、なんか……もう“文学”じゃなくて“怨念”」

 リースも覗き見て、絶句。

「うわ、やべぇ……“黒歴史が今、ライブ配信中”……!」

 さらに目を凝らすと、新たな章が今まさに追記されていた。

《第五章 机に座らされても、私は立っている》
「ポエム化進行中!? 自己陶酔の最終形態だこれ!!」

 アリアは一心不乱にペンを走らせ続けていた。
 その目はどこか遠くを見つめ、完全に“降りて”いた。

「言葉……言葉って、どうしてこんなにも……無力なのに、暴力的なの……?」
「出たぁぁーーー!! 中二インスピレーション発火中!!」

 リースが机に顔を伏せて叫ぶ。

「これ、絶対あとで“中二黒ノート”ってラベル貼られるやつでしょ!!」
「……でも、ちょっと分かる気もする」

 アイカがぽつりと呟いた。

「言葉に取り憑かれた感じ……なんだか“作家になる前の私”みたいで……」
「ちょ、やめて!? その肯定、火に油すぎるから!!」

 リースの制止もむなしく、そのとき教師がふとアリアに声をかけた。

「アリアさん。“言葉に傷つく”とは、あなたにとってどんな経験ですか?」

 アリアはペンを止め、静かに顔を上げた。
 そして──

「──“教育者資格、停止します”」

 教室が凍りつく。

 しん……と静まり返る空気の中、アリアは続けた。

「その言葉は、私にとって“核弾頭”だった。でも同時に──こうして“書くこと”と出会わせてくれたのも、その言葉だったのです」
「うまくまとめるなぁぁぁああ!!」

 リースが突っ伏し、絶叫。
 机が震える。

 ──結局その日、アリアの“中二黒ノート”は担任によって回収され、なぜか翌週の校内文芸誌に「特別寄稿」として全文掲載されることになる。

 その掲載タイトルは、《教育者亡命詩篇》だった。


 数日後、学内掲示板に異様な存在感を放つ一枚のポスターが貼り出された。

《生徒会長選挙のお知らせ》

 いつものように候補者受付が始まり、生徒たちの間では「今年は誰が出るのか」と軽い話題で盛り上がっていた──が。

 その中に、誰も予想しなかった名前があった。

 アリア・LNA04421

「……嘘でしょ……」

 リースが昼休み、掲示板の前で凍りついた。

「なにこのポスター……手書きで“返り咲きます”って書いてある!? 背景真っ黒で、燃える炎の写真……!?」
「こわっ……下に“※資格剥奪は一時的措置です”って注意書き……」

 ルシアンがポスターから一歩後ずさる。

「これ……選挙ポスターっていうより、“怨霊の告発状”じゃない……?」

 アイカはそっと額を押さえた。

「……出る気、満々なんだ……」

 レインは一言だけ、淡々とつぶやいた。
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