リザレクテッド:人類再誕 所有された人間だけど、自由に生きる方法を探してみる

花篝 凛

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第1部 所有された人間だけど、自由に生きる方法を探してみる

第6章 『監視する眼』 (1)

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【登場人物紹介】
この物語には、“再生された人間”と、“彼らを所有する機械”が登場します。
●リース
生殖能力を持つリザレクテッド少女。怠惰でやる気はないが、心は繊細。爆破事件の容疑を着せられるが、アリアのおかげで容疑は晴れる。
●ユノ
リースの所有者。女性型アウロイド。優しいが現実主義。
●アリア
電脳化しているリザレクテッド少女。生徒から教師になった。ハッキングされ失踪する。リースによって復活する。
●ルシアン
セフィラに所有されているリザレクテッド少年。リースにとっては弟のような存在。


 数日後の朝。
 校舎をつなぐ渡り廊下に、乾いた足音がゆっくりと響いた。

 規則正しく、ためらいのないその足取りに、すれ違う生徒たちが次々と足を止める。
 ざわめきは起きなかった。
 ただ、その姿を見た者すべてが、息を飲んだ。
 目を見開く者。
 視線を逸らす者。
 あるいは、硬直したようにその場で立ち尽くす者もいた。
 誰一人として、声をかけることはできなかった。
 それほどまでに、その存在は“日常”の中では異質だったのだ。

 ──銀の髪。
 白いジャケット。
 歩みの先にあるのは、いつかの教室。
 そして彼女が、教師であった場所。

「……アリア先生?」

 小さく漏れた誰かの声が、静けさを引き裂いた。
 次の瞬間、教室の扉が音もなく開いた。

 姿を現したのは、まぎれもないその人だった。
 銀髪のボブカット。
 目元の陰りすら隠さずに、しかし毅然とした歩調で教卓へと進む。
 無駄のない動きで端末を起動し、静かな声が響いた。

「今日から授業を再開する。休講が続いてしまって、迷惑をかけたね。……理由は各自、察してくれると助かる。詮索は、不要」

 教室の空気が凍りつくように止まり、その沈黙に、時だけがゆっくりと流れた。
 やがて、教室の隅からぽつりと声が落ちた。

「……ほんとに、戻ってきたんだね」

 リースだった。
 制服の襟を指でいじりながら、視線をそらさずにアリアを見つめている。

「ええ。ちょっと長めのおやすみをいただいてただけ」
「寝てただけにしては、ずいぶんニュースになってたけど?」

 リースの皮肉交じりの返しに、教室に一瞬、呼吸が戻る。
 アリアは端末を閉じ、ふっと口元をほころばせた。

「次は君が話題をさらう番かな。成績不振? 遅刻? それとも……拘束歴?」
「うっ……それ、本人の前で言う?」
「大丈夫。今はもう“悪い子は解剖”なんて言わない」

 その言葉に、数人の生徒が小さく笑い声を漏らす。
 緊張の糸が、わずかにほどけていく。

 誰もがまだ警戒していた。
 けれど、それでも確かに“彼女”はここに戻ってきた。
 この教室に、“教師”として立っている。
 それが揺るがぬ事実だった。


 その光景を、廊下の窓から見つめている者がいた。
 ユノだった。

 手には端末。
 そこには、アリア・LNA04421の「教職復帰」が正式に承認された通知が表示されていた。

 光が差し込む窓の外を一瞥し、彼女は静かに目を閉じる。

「……これで、ようやく始められる。真犯人探しも、アリアと一緒に」

 小さく呟いた声は誰にも届かない。
 だが、その声に込められた決意は、確かに前へと向いていた。
 ユノはそのまま、軽やかな足取りで踵を返し、渡り廊下を歩き去っていった。

 春の空気が、その背を優しく押していた。


 昼休み。
 校内のカフェテリアには、軽食を取りながら談笑するリザレクテッドたちの声が響いていた。
 人工的に調整された陽光、スピーカーから流れる穏やかなBGM。
 いつもと変わらないはずの時間──その均衡は、ひとつの速報によって唐突に破られた。

《速報です。倫理委員会より正式な発表がありました。本日午前、新たに“生殖機能を持つ男性型リザレクテッド”が第一段階の認証を通過し、社会登録されたとのことです》

 カフェテリア中の視線が、壁面のホログラムディスプレイに吸い寄せられる。
 映し出されたのは、中性的な顔立ちの少年。
 やや長い黒髪、伏し目がちのまなざし、表情は無機質なまでに静かだった。
 それでも、彼の存在が放つ「異物感」は、誰の目にも明らかだった。

《外見年齢はおよそ15歳。全身の生体組織に加え、生殖機能においても完全な再現が確認されております》

 その一文が読み上げられた瞬間、カフェテリアから音が消えた。
 喋っていた者も、笑っていた者も、手を止めて息を呑む。

 カフェの一角でジュースを飲んでいたリースが、ストローを止めたまま小さくつぶやいた。

「……ついに、出たんだね」
「リース、知ってたの?」

 隣の席で、ルシアンが声を潜めて尋ねた。

「なんとなく、そんな予感はあった。でも……本当に“男”で、それも、生殖できるなんて……現実になると、ちょっと息が詰まるよね」

 ホログラムの中では、倫理委員会の広報担当が淡々と説明を続けている。

《なお、該当リザレクテッドの所有者については、今後審査と抽選により決定される予定です。制度の透明性確保のため、詳細は逐次公開されるとのことです》

 画面が切り替わり、倫理委員会ビル前で行われている抗議デモの様子が映し出された。

 掲げられたプラカードの文字が浮かび上がる。
 「人類の再生を止めろ」「生殖機能は一線を越えた」「所有の正当性を問う」──感情が、テクノロジーの成果に牙をむいていた。

「……始まるね」

 誰ともなく、ひとつの声が漏れる。
 そのひとことに応じるように、周囲の空気がわずかに冷たくなるのが分かった。
 社会はまた、一線を越えた。
 この日、何かが確かに動き出していた。
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