リザレクテッド:人類再誕 所有された人間だけど、自由に生きる方法を探してみる

花篝 凛

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第2部 SF転生したけど、チートなし。人工子宮で未来を創ってみた

第10章 『命は続く場所へ』 (2)

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【市民合同フォーラム・文化交流ホール】

 大型スクリーンの前に立つ少女の姿があった。

 清潔感のある制服、落ち着いたトーンの声、そして何より──その目は、遠くを見ていた。

「私は、かつて巨大AIを目覚めさせ、都市を危機に陥れました」

 会場に一瞬、緊張が走る。

「……でも、それは憎しみからではなかった。“人間らしさ”って何だろう、“生きる意味”って何だろう。そう問い続けていた結果でした」

 エルシア・KRS03680──。
 彼女は今、リザレクテッドの歴史のなかで最も有名な名前となっていた。

 だが、彼女は英雄でも反逆者でもなく、“答えのなかった問いの中で生きた存在”として、壇上に立っている。

「所有されることが“当たり前”とされたリザレクテッドたちが、どうやって“選べる存在”になるか。その途中に、私はいただけ」

 彼女の言葉は、特別な演出や情熱ではない。

 ただまっすぐで、ゆるがない。

 「……でも、もしあなたたちが、誰かの手で生まれてきたのだとしても。
 そこから何を“選ぶか”は、あなた自身の意思で決められる。
 それが、私たちが得た“最初の自由”です」

 会場には、リザレクテッドの若者たち。
 その後ろには、アウロイドの保護者たち。
 遠巻きには、厳しい視線を向ける保守派の顔もある。
 だが、そのどれもが、耳を傾けていた。

 講堂を出て、夕焼けに染まる中庭を歩いていたエルシアの前に、三つの影が現れた。
 リース、アリア、そしてアイカ。
 制服の上に軽いジャケットを羽織ったリースが、真っ先に声をかける。

「……あんなに人前で話すなんて、やるじゃない。少しは見直したかも」

 リースはそう言って肩をすくめるが、その目にはわずかな敬意が宿っていた。

「私は……まだ、自分が“自由”だなんて思えないけど。あんたの言葉は、確かに“ゆらした”と思う」
「それが伝われば、十分だよ」

 エルシアは柔らかく微笑む。
 その顔は、かつてのどこか挑みかかるような鋭さではなく、今は少しだけ穏やかな風を帯びていた。

「……ふん。まあまあのスピーチだったね」

 続いて口を開いたのは、アリアだった。
 相変わらず腕を組んでふてぶてしい態度だが、彼女なりの褒め言葉であることは、誰もが分かっていた。

「ただの感情論に流れなかったのは、さすがといったところかな。でも一つ間違えば、あれでまたAIが起動しかねないってのは覚えておいてよね」
「今は、“問い”を怖がらなくてもいい。……たぶんね」

 エルシアの返答に、アリアはふっと鼻で笑った。
 そして最後に、アイカが軽やかに笑いながら言った。

「さすが転生者ってとこ? 前世の記憶は使ってないって言ってたけど、あれ、どこかで演説家でもやってた?」
「やってないってば。……でも、あれくらいは言わなきゃと思っただけ」

 エルシアが照れたように肩をすくめると、アイカは笑いながら軽く拳で彼女の肩を叩いた。

「冗談だよ。でも、よかったよ。私たち、あんたの背中をちゃんと見てたから」

 その言葉に、エルシアは一瞬だけ言葉を詰まらせ、それからゆっくりとうなずいた。

「ありがとう。……でも、終わったわけじゃない。これからが始まりだよ。私たちが、未来を選び取っていく時間」

 夕陽の下で、四人の影がゆっくりと並んだ。
 もう誰も、他人の人生を生きてはいない。
 彼女たちはそれぞれの意志で、次の一歩を踏み出そうとしていた。


【別日・学校講堂】

 教壇に立つエルシアは、机の上に一体の教育用ロボットを置いていた。
 それは、彼女が一時期使っていたAI学習ユニットの旧型だった。

「……これは、かつて私が教育されたユニットです。当時の私は“正解を出すこと”ばかりに縛られていました。でも今は、“問いを持ち続けること”のほうが、ずっと価値があると知ってる」

 教室の片隅で、リースが静かにそれを見ていた。
 エルシアはちらりと目を向け、声を少しだけ和らげた。

「だから私は、正しい答えを教えるつもりはありません。皆さんが、自分で“選ぶ”ための材料を渡したいだけです」

 こうしてエルシアは、「融和の象徴」であると同時に、“問い続けること”の象徴として、かつて人工子宮で育てられた子どもたちへ、今を生きるリザレクテッドやアウロイドたちへ、そして──未来の“まだ名もなき存在”たちへ、静かに、しかし確かに、言葉を伝えていった。


【リセル・ネット配信スタジオ】

 陽光が差し込む午後、リセルの配信スタジオにいつもの軽快なBGMが流れ始めた。
 スクリーンには、彼女特製のポップなUIとともに、笑顔のリセルが元気よく映し出される。

「はいはーい! お待たせしました、今日も世界の隅っこから全体像をお届けする、リセルのおしゃべりタイムです☆」

 おどけたポーズに、視聴者のコメントがいっせいに流れ出す。
 戦火の爪痕が癒えぬ世界に、ようやく訪れた穏やかな空気が漂っていた。

「さて、みんな気になってるでしょ? あの“AI大暴走事件”の続報! おかげさまで現在、都市全域の防衛AIは完全沈黙。全ユニットの戦闘プロトコルが解除されたって! つまり──」

 リセルは、手のひらをひらひらと振りながらウィンクした。

「平和、戻ってきました♡ よかったね、ほんと。爆風の音より、今日のランチの話題がトレンドになるほうが、やっぱ幸せだよね!」

 一瞬、トーンが和らぐ。
 だが、すぐにいつもの調子に戻った。

「で! 気になるのが、あの沈黙の裏に“誰の手柄”があったのかって話。いや~これがまた、情報錯綜してて……リースちゃん説、エルシア説、アリア先生の裏介入説……いろいろ出てるんだけどさ」

 リセルはカメラに顔を近づけて、茶目っ気たっぷりにささやく。

「──結論、分かってません☆ だってそれが“歴史の裏側”ってもんでしょ?」

 そして、話題は自然とあの少女へと戻る。

「でもね。今回の事件、そしてその終幕でひときわ目立った名前といえば……そう、我らがエルシア・KRS03680嬢! もともと無所属、経歴不詳、そして謎多き“再起動された転生者”というキャッチーすぎる属性の持ち主。演説まで決めちゃうとか、まじで物語のラスボス兼ヒロイン枠じゃんって思いません?」

 画面には、文化ホールでの演説の一瞬を切り取った写真が浮かび上がる。
 真剣な眼差しで未来を語るエルシア。
 その背に、かすかな光が差していた。

「いや~……これはね、目が離せない。あの人の“次の選択”が、この世界のかたちをまたちょっと変えちゃう気がするんだよね。リザの未来を描く、ちょっと不器用で、でも不思議なカリスマ。その名は、エルシア!」

 音楽がフェードインし、エンディングに入る。

「というわけで、平和が戻った今こそ、未来をどう選ぶかが問われるとき! 今日の配信はここまで! じゃあまた次回、リセルの“ちょっと未来を斜め読み”でお会いしましょ~☆ ばいばーい!」

 画面がフェードアウトし、配信は終了する。
 だがその余韻は、画面の向こうの誰かの胸に、ほんの少しの勇気として残った。


【学校・屋上庭園】

 夕暮れの空がゆっくりと赤に染まっていく。
 風にゆれる樹木の葉が、柔らかな影を地面に落としていた。

 静かな庭園。
 その一角に、三人の姿があった。
 アリアは白衣を羽織ったままベンチに腰を下ろし、ユノは手すりにもたれ、リースは芝の上にしゃがみ込んでいた。
 誰も喋らなかったが、それは心地よい沈黙だった。

「……結局、“AI”が止まったのは、あなたたちのおかげね」

 アリアがぽつりと言うと、リースは曖昧に笑ってみせた。

「私たちじゃないよ。……止まってくれたんだよ、AIが。ちゃんと、“人間”ってやつを見てくれた」

 それに、ユノがちらりと目を向ける。

「でもさ、見てるのはAIだけじゃない。社会だって見てる。問題は──“次”でしょ」

 その言葉に、アリアがわずかに顎を上げて、視線を空に向けた。

「そうだね。リザレクテッドの子ども。“自然繁殖”によって生まれる命。制度上、存在が想定されていない存在……」
「……誰が親になるかすら、議論されてないよね」

 リースが芝に手を伸ばし、根元の土を指でなぞるようにしてつぶやく。

「私が産んでも、その子は“所有物”になるの? それとも……私の所有者の持ち物ってことになる?」

 その声に、ユノの手が強く手すりを握る。

「違う。私は、そんなふうにはさせない。君の子どもは、“君の子ども”だよ」
「それを、社会が認めてくれるかは別の話だ」

 アリアの言葉は冷静だったが、そこには怒りに近いものがあった。

「倫理委員会が今後どう動くか……彼らが“次世代の命”をどう定義するかで、この世界の未来は変わる。でも」

 そこで一呼吸置いて、アリアは立ち上がる。
 樹木の葉が風でゆれ、彼女の髪がほつれる。

「その子が笑って生きられる社会にする。それが、私の役目。リザレクテッドとして、そして……教育者として」
「ずいぶんとやる気だね」
「当然だよ。私が見届けたいもの。“未来の医療”じゃない。“未来の人間”だよ」

 その声を聞きながら、リースは空を見上げる。
 そこには、戦火もAIも存在しない、ただ静かな空が広がっていた。

 そのとき、樹木の影が、ゆっくりと伸びて三人を包み込んだ。
 小さな未来の兆しは、静かにこの世界に根を下ろそうとしていた。
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