リザレクテッド:人類再誕 所有された人間だけど、自由に生きる方法を探してみる

花篝 凛

文字の大きさ
95 / 162
第4部 Wreath Infinity 感情チップを作ってみたら、人気者になった

第2章 『崇拝と供物』 (3)

しおりを挟む
 《配信開始──Risel_Channel_∞:視聴者数:123,000》

 軽やかな電子音が鳴り、リセルが仮想スタジオに姿を現す。
 背後の空間には、W∞の象徴マークがゆらゆらと浮かんでいた。
 いつも通りの笑顔──ただし、今日はどこか鋭さを帯びていた。

「ねぇみんな、聞いた? ついに出たよ、“あの子”が」

 画面には、粗い監視映像と速報ニュースの見出しが映し出される。

 【速報】人格“WRX-99(憎悪リース)”、教育用アウロイドに構造的損傷を与える
 【倫理委員会】W∞に対する緊急審査を通告

 「はい、注目~!」とリセルが両手を広げる。
 目元には愉快さと一抹の狂気が混ざっていた。

「ついに来たよ。“感情の象徴”こと我らがリース。その心のバックアップから生まれた《憎悪リース》ちゃんが──やってくれました!」

 コメント欄が炎上のように賑わい始める。

《草生える》
《どんな攻撃したんだよw》
《ダウンロード候補だったのに……》
《これはリース本人の責任でしょ》
《むしろ一番欲しいんだけど。闇リース》

 リセルは笑いながら手を叩き、わざとらしいSEが流れる。

「いやぁ、“私の心に闇がある”とかって言うの、あれギャグじゃなかったんだね! 実在しました、闇!」

 視線をカメラへ向けたまま、彼女の声が少しトーンを落とす。

「でさ? 一番ゾッとしたのはね……そのポッドの持ち主、教育用アウロイドだったんだって。“憎悪を学ぼう”って教材としてインストールしたら──“学ばせてやるよ”って返されたらしい」

 効果音:パチパチパチ。

「いやもう、皮肉効きすぎて拍手しちゃったわ」

 と、リセルが指を一本立て、ぐっと視聴者に顔を近づける。
 カメラが寄る。

「──でも、怖いのはそこじゃないの」

 しんと静まる配信空間。

「“誰かの感情”を欲しがって、ダウンロードして、それが暴れたら──それって、誰の責任?」

 口元が、ひとりでに吊り上がる。

「リース? 倫理委員会? それとも──欲しがった“あなた”?」

 画面が切り替わる。
 W∞のアクセスログ。
 そこには、WRX-99 憎悪リースのDL数が、赤いバーとなって跳ね上がっていく。

「……うん、やっぱり人気出てる。みんな、毒が好きなのよね。綺麗で整った“共感”より、尖ってて痛い“憎しみ”のほうが、人の心に届くの、早いんだもの」

 リセルはウィンクし、カメラに顔を寄せて、囁くように言う。

「感情ってさ、“正しさ”より“刺激”のほうが、先に届くんだよ」

 《配信終了──アーカイブ保存中》


 それは、突然ではなかった。
 けれど、心のどこかで──「いつか来る」と知っていた通告だった。

 リースの端末に届いた通知は、感情のかけらすら感じさせない、乾いた行政文。

【通達】
人格構造群〈W∞〉は、制御不能な感情派生体の外部流出および
人格破壊事件を引き起こした責任により、危険人格集合体と見なす。
よって、即時の運用停止および閉鎖を命ずる。
なお、運用主リース・JCF02621はこの決定に従い、速やかな
隔離処理を実行すること。

ポータルの画面では、憎悪リースのノードが真紅に点滅していた。
“喜びリース”のログは停止し、
“怒りリース”はノイズ混じりの声で、なお何かを叫び続けていた。
“悲しみリース”は、何も言わず、ただ膝を抱えて座っていた。

「……閉鎖、しろって」

 リースはそれだけを呟いた。
 吐き出すように。

 その背後で、ユノが静かに立っていた。

「リース……これは、もう仕方ない。社会が……あなたの感情に、追いついてないんだよ」

 だがリースは、そっと首を横に振った。

「違う。……“私たち”が、社会に合わなかっただけ。合わせたつもりだったのに、どこかでずっと……違ってたんだ」

 指先が、ポータルの最上部にある“中枢ノード”に触れる。
 そこは、リース自身の全感情が収束する場所だった。

 ホログラムが静かに開かれ、そこに──無数の“私”が、佇んでいた。
 声も、動きもない。
 ただ、見つめていた。
 彼女を。

「……ごめん。しばらく、眠ってて」

 その言葉に呼応するように、リースの指が、“確認”に触れる。

 ──W∞ シャットダウン開始──

 仮想空間の空が、静かに暗転していく。
 “怒りリース”が振り上げた拳は、止まったまま凍りつき、“喜びリース”は笑顔のまま、光の粒に変わって散っていく。

 最後に、中央で立っていた“慰めリース”が、リースに向かって、口だけを動かした。

「また……会えるよ。きっと」

 ──だが、その声は、届かなかった。
 音声も、視線も、感情も──一つずつ、静かに切れていった。

 そして、W∞は閉じられた。

 残された部屋は、ひどく静かだった。
 端末も、ポッドも、ただの空っぽな機械になっていた。
 リースはその場に立ち尽くし、何も言わなかった。

「……終わったの?」

 ユノの声が、遠く感じられた。

 リースは、ゆっくりとうなずいた。

「うん……終わった。“私たち”の、遊び場はもうないんだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

処理中です...